百七十四話「第一回乙女会議」
連日更新五日目!
「それではこれより、第一回乙女会議を始めたいと思います!」
「いえーいですっ!」
「えっと……?」
「どういうことかしら……?」
テンションの高い美佳、に付いて行っている恵梨。戸惑っている由菜と彩香。
今日は土曜日で学校は休み。
いつものメンバーの女性陣だけがファミレスに集まっていた。
「……と、まあ当然の疑問よね」
一転、落ち着いた美佳が由菜と彩香の疑問に答える。
「乙女会議とは、普段学校では何かと女性だけで集まることが無いから、その機会を設けてトークしようという……まあ言えば女子会みたいなものね」
「だったら女子会でいいんじゃないの?」
「それは私も思ったんだけど、思ったより恵梨が重そうな話をするみたいだからノリで名付けたわ」
「発案者は恵梨なのね」
「そうです」
恵梨はうなずく。
体育祭で美佳に相談してからかなり時間が経っているが、自分以外の三人の部活関係で四人ともが空いている時間が今日までなかったのだ。
「それで、恵梨。今日は何の話をするの?」
「それなんですが…………まずは飲み物取りに行きませんか?」
自分たちがいるのはドリンクバー付きのファミレスだ。ともなれば飲まなけば損というもの。
「そうね。とりあえず取ってきましょうか」
四人は座席から立ち上がる。
再び座席に戻ってきて。
「彩香さんブラックでも行ける人なんだ」
「勉強するときとかは良く飲むわね。そうでなくとも、あまり糖分は取りたくないもの」
彩香が取って来た飲み物はブラックコーヒー。
「うっ……それを言われると何か自分が管理できてないようで嫌だなあ」
由菜はオレンジジュース。
「こんなときくらい好きに飲み物選んでいいと思うけど」
美佳のコップには紅茶のティーパックが入っている。
「そうですよ、彩香が特殊なだけですって」
「……いや、恵梨も十分特殊だと思うけど」
「えっと……何それ?」
恵梨のコップは色合いが黒と白で混ざっている。
「コーラとカ○ピスです」
「……よくそんなの混ぜようと思ったわね」
あんまり飲み欲をそそる色ではない。
「慣れるとおいしいんですけど」
「だとしても初っ端からよくそんなのを……」
「あとで美佳さんも試してくださいって! 絶対おいしいですから!」
「えー、嘘でしょー」
そこから飲み物の話が盛り上がっていく。
「メロンソーダにリンゴジュースでまろやかさを加えたあれこそが最強よ!」
「いいえ、その組み合わせならオレンジジュースで割った方が……!」
「……で、私たち何の話をするために集まったのかしら?」
結局話がずれていることに気付いたのは、力説する由菜と美佳に彩香が冷ややかな反応を返してだった。
「……そういえば、恵梨の話を聞くためだったっけ」
「すっかり忘れていたわね」
「……わ、私は覚えてましたよ! 本当ですよ!」
「本人がそれって……」
きょどきょどしている恵梨に呆れる彩香。
「それじゃ早速恵梨の話を聞きましょ」
「分かりました。……ちょっと待ってくださいね」
深呼吸をする恵梨。
一気にテンションを変えていく。
これから話すことの前置き、けじめに、まず話さないといけないこと。
「まず、私の両親が殺されて……そして、その後彰さんの家に居候していることについて話したいと思います」
「……あ、そうよ! 恵梨の両親が殺されたってどういうことよ!」
「……何故今まで忘れていたのかしら。彰の家に居候していること、たっぷり聞かせてもらうわよ」
恵梨の話を聞いて、堰を切ったように反応する由菜と彩香。
それもそのはず。夏祭りの夜、ラティスの能力『記憶』によって今のいままで思い出せなくされていたのだから。
「ですから、それをこれからお話します」
そこから、恵梨は語った。
彰と出会うまで、そして居候する契機となった話を。……ただ、能力関連のことはぼかして、普通の事故などに置き換えて。
「……そんなことになっていたのね」
「私が助けていれば……」
「……ふうん…………」
由菜は同情、彩香は後悔、美佳は読めない表情。反応は三者三様だ。
「それで彰の家に……」
「はい。彰さんの好意に甘えているようで悪いとは思っているのですが、それしか方法が無かったのも事実です」
「そういうことなら……分かったわ」
しぶしぶと認める彩香。
「それでこれが恵梨の話したかったことなの?」
「あ、いえ。これは前置きでして……」
恵梨はもう一回深呼吸する。
今の話はこれまでを清算しただけ。けど、清算したからこそ次のこれからの関係に関わってくる話をできる。
言ってしまったら後戻りができないそれを恵梨は一思いに宣言した。
「私は彰さんのことが好きです」
「「「………………」」」
「まずは美佳さんに謝っておきます。あの時は否定しましたけど、やっぱり私は彰さんが好きです。……そして彩香、由菜さん。そういうことですから、私はもう二人の恋を応援することはできません」
……言ってしまった。
恵梨は話したことにより心の重荷が晴れるとともに、不安も同時に感じていた。
色恋沙汰が原因で友情が壊れるなんて話はざらだ。……もしかしたら私たちの友情もこれまでなのかもしれない。
そう、重く考えていたのに。
「えっと……それだけ?」
「深刻そうな顔して話すから、さっきよりも重いことかと思ったわ」
「……恵梨が彰のことを好きなことくらい分かってたのだけど?」
そんな反応を返される。
「え? …………え?」
かなりの覚悟で話したのにその反応は何なんですか?
「あ、恵梨隠してるつもりだったんだ」
「ようやく認めたのね。ほんと、うじうじ悩んでたのに、何があったのかしら」
「話はそれだけ?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私結構すごいこと言いましたよ!」
どういうことなんですか? ……え、分かってたって……え?
「まあ、さっきの話を聞いて納得ね。そんな風に彰に助けられたら好きになってもおかしくないって」
「そういう意味じゃ由菜と同じね」
「あ、私飲み物切れたから取りに行っていい?」
「駄目です! 私の話を聞いてください!」
席を立とうとする彩香に、半ばキレてる恵梨。
「どうしてよ、話は終わったわよね?」
「終わってません! ……大体、どうして今の宣言を聞いてそんな呑気になんですか! 私と彩香はライバルになるっていうのに……」
「まあ、そうね」
「場合によってはこの友情さえ壊れるかもしれない……壊れてでも私は彰さんのことが欲しいと思ったのに」
「……それとこれとは話が別だと思うわ」
「え……?」
彩香の顔が真剣さが宿る。
「確かにね、私と恵梨は恋のライバル。……だけど、それと私と恵梨が親友であることに関係は無いわ」
「………………」
「私と由菜を見てごらんなさいよ。お互い恋のライバルだけど、普通にやっていけてるでしょ。」
「そうですが……」
「私は恵梨ともそういう関係を築けて行けると思ってたのだけど……幻想だったかしら?」
「……けど、私は彰さんがもし彩香とくっついたとして、祝福できる気がしません」
「それでいいのよ。私だってそうなのだから」
彩香は同意する。
「そもそも彰が私以外と添い遂げる可能性を考えてないもの。だから、祝福する気はゼロよ」
「……言ってくれるわね」
自分なんて眼中にないと言われたようなものだ。由菜は彩香にガンを飛ばす。
そんなのじゃ納得できない恵梨。
「けど、もし彩香以外とくっついたら……」
「そんな仮定知らないわよ。先のことまで考えていられないわ」
「……ま、私も大体そうだけどね」
由菜も同じ考えのようだ。
「それは問題の先送りに過ぎません!」
「いいじゃない、先送りで今が解決するなら。問題になったらそのとき考えればいいわ」
「それで恋と友情が成り立つなら、安い物よね」
「それとも恵梨は未来のために、今の友情を捨ててもいいって思っているの?」
「…………その質問はずるいじゃないですか」
拗ねたように言う恵梨は、質問に答えているようなものだ。
全くこの二人は……。
ここまで考えていたとは驚きだ。
確かに私は彰さんとの未来が欲しくて、そのためには何だって捨てられるって思ってたけど…………でも、叶うならばこの仲間たちと過ごす今だって欲しいのだから。
「分かりました。………………よくよく考えてみれば、一緒に住んでいる私が負けるわけないんですから、恐れる必要なんて無かったんですね」
「……半年も一つ屋根の下で何をやってたのよ?」
「それを言うなら由菜こそ十年間隣に住んでて何してるのよ?」
「わ、私はこの気持ちに気付いたのがこの前だからいいんです!」
「私だってこの気持ちに気付いてから、まだ二年しか経ってないから!」
「……ま、無能な二人と違って、私は副委員長として彰の役に立てるもの。負けるわけがないわ」
「やはり私も委員長選挙に出ていれば……!」
「いいもん、私が一番彰に対する知識があるんだからね!」
「知識があったところで、実行できなければ意味が無いわ」
そのままああだこうだ言い争う三人。
「すっかり蚊帳の外ね……」
その様子を見て美佳はひとりごちる。
「ま、いいけど……さ」
私としてもこの三人と一緒にいるときは楽しいし、この関係が壊れなくてよかったとは思う。
「けど……」
今回は問題にならなかっただけで、心配事は他にもあって。
……第二回乙女会議が行われないことを祈っているわ。
明日は更新できるか分かりません。




