百七十三話「生徒会再選」
連日投稿四日目!
「そういえば正式に生徒会に入ったんですね、墓谷さん」
「中谷です!! ほとんどあっているのに、どうしてそこを間違えるんですか!!」
恒例のやりとりを繰り広げる二人。
放課後、彰が用事で生徒会を訪れた際の一幕である。
「今回の再当選で生徒会メンバーも再編したからな。……今までは役員に三年生がいて、やりにくいところもあった」
学年が上の者を使うというのも、いろいろと遠慮するところがあるのだよ、としみじみ言うのは生徒会長の毬谷千鶴。
彰が入院している間に行われた生徒会長選挙で、他を寄せ付けない得票率で生徒会長に再当選している。
「今の社会は年功序列社会から変わってきている。毬谷なら社会に出てもそういう機会はあると思うから慣れるべき」
ぼそぼそと毬谷に言うのは同じく生徒会副会長に就いている古月香苗。
斉明高校の生徒会のシステムは会長を選挙で決めた後その会長がメンバーを選ぶ形なので、毬谷が生徒会長になった時点でこの人事は予想してしかるべきだった。
「それにしても花先輩が会計で大丈夫なんですか? 絶対計算ミスとかやらかしそうですけど」
「そんなことないですって……たぶん」
再編に当たって、新たに中谷花も生徒会会計に選ばれている。
「最終的には私もチェックするから大丈夫だ。……だからといって、ミスが少ない方がいいのは当たり前だからな」
「わ、分かってますよぉ!」
明らかにホッと息をついた花に対して、毬谷が注意を飛ばす。
そして毬谷は手元の紙に目を落とす。
「それで君が持ってきたこの書類だが……何だ、また学級委員長になったのか君は」
「ついムシャクシャしてやりました。反省はしています」
棒読みの彰。
ちなみに彰が持ってきたのは一年二組の誰が何の係になったのか、というのが書かれたものだ。
「ムシャクシャ……何があったんだ……? まあ、それで副委員長は風野彩香……前期とは違うな?」
「二学期になって転校してきた生徒のはず」
「……よく知ってますね、古月さんは」
この情報網の広さ……美佳と同じような人種なのだろう。
「あ、その人見たことがありますよ。結構きれいな人ですよね」
「そう言われてみれば君が入院している間、一年二組の委員長代理をしていた子か。……体育祭期間中関わることがあったが、確かに美人であったな」
「噂によると、花にとっては敵なのかも」
「敵……ですか?」
「どういう意味だ、香苗」
「ん」
彰の方に視線をやる古月。
「……ああ、そういうことか。美人で副委員長ともなると、これまた手強いライバルだな」
「だから、そういうのじゃないんですよ!」
「どういうのじゃないの?」
「口に出して説明してもらおうか?」
わずかに口角が上がっている古月に、あからさまにニヤニヤしている毬谷。
「うー…………! うー………!!」
花は顔を赤くしながらうなることしかできない。
(……何の話だ、これは?)
話題の中心であるはずの彰は、置いてきぼりだった。
「ところで、今日は倉津はどうしたんですか? 書記として生徒会継続したんですよね?」
仕切り直したところで、彰が質問する。
「彼女は今日は休みだ。用事があると言っていた。……倉津のことと言えば、ここ最近ずいぶんと君に対する敵意が増していたようだが、何かしたのかね?」
「そんなことした覚えはありませんが」
感謝されこそすれ、恨まれるようなことをしたつもりはない。
「何か嵌められるところだったとか、斉藤さんのおかげで助かりましたとか、言ってたよ」
「嵌める? 斉藤?」
どういうことだろうか?
「この屈辱は期末試験で一位を取って晴らして見せますわ、とも」
「……それは無理だな、とでも言っといてくれ」
一位の座を譲るつもりはさらさらない彰。
「まあ、直前まで入院していた今回の中間試験でも負けたようだからな。期末試験も絶望的か?」
「……いやいや、逆ですよ。入院していた方が勉強はかどりましたから」
「そうなの?」
「学校の行き帰りする時間も、休み時間掃除時間も無いですし、食事だって自分で用意しなくても出てきましたからその分の時間も。結局、食事とトイレと風呂に入っている時間以外はずっと勉強していましたね」
「それは……やりすぎではないか?」
「修行僧みたい」
「私だったら一日もできないと思うよ」
反応こそ違うが、三人とも引いている。
「自分でもかなり無茶はしていると自覚はしてましたが、やれる内に勉強しておきたいと思ってましてね。……退院したらやりたいことがありましたから」
「……?」
「それって……」
「彰さーん、迎えに来ましたよ」
生徒会室の扉から顔をのぞかせる恵梨。
「お、恵梨か。……じゃあすいません、自分はこれで失礼します」
「あ、ああ」
「お疲れ様」
「言っておきますけど、私の名前は中谷花ですからね! 今度会うときは忘れないで下さいよ!!」
「はいはい、次までに新しい間違い方考えておきますって」
「だーかーらっ!!」
花が憤慨する様子を笑いながら彰が生徒会室を出て行く。
(無茶な勉強までして、彰くんがやりたいこと……?)
毬谷はその後もしばらくそのことが気になっていた。
その日の夜。
「いや、食べた食べた。やっぱり恵梨の料理はおいしいわね」
「お褒めに預かり光栄です」
今日も彰家で夕食をごちそうになった由菜がソファに座っている。恵梨は洗い物の最中のようだ。
「そういえば、明日って何する予定なの? 何か恵梨の発案で集まることになってるけど」
「それは……明日になってのお楽しみってことでいいですか?」
「焦らすなあ……ま、いいけど」
ドスン!
その時二階の方で何か落ちた音がした。
「……最近、彰どうかしたの? 何か、いつもドスン、ドスン音が鳴ってるよね?」
「さあ、私も分からなくて。聞いてもはぐらかすような答えしか返ってこないので」
「こんな音がする勉強法とか聞いたことが無いし……勉強以外のことをやってるのかな?」
「だと思いますけど、珍しいですよね」
「確かに」
授業の予習復習に余念がないはずの彰の最近の行動に首をかしげる二人。
「いてて……また失敗か」
自分の部屋の真ん中で彰がしりもちをついている。
「この二週間で藤一郎さんに教わった基礎は出来てきたが……雷沢さんに相談したこれは難しいな」
いったん作った金属を解除する彰。
入院中に先取り勉強したおかげで、とりあえず十一月くらいまでは予習も復習もしなくても大丈夫。毎日の宿題さえ終わらせれば、後は全部修行の時間に当てられる。
「けど、時間は思ったより無いな」
異能力者隠蔽機関に頼み事をしたときに聞いた話。
能力者ギルドが動いている、ということ。
次の非日常は思ったよりも早く近づいてきている……。
「……準備はした。今はやれることをするだけだな」
彰はまた風の錬金術を発動するのだった。




