百七十二話「学級委員長選挙3」
連日投稿三日目!
過熱する学級委員長選挙。
投票前の演説で彰はすぐには語りださずに視線を一周させる。
その後に頭を下げた。
「まずは先に謝っておきたいと思う。クラス一丸としてやっていくべき体育祭のときに休んでいたことを」
彰の珍しい姿に、クラスメイトも引きつけられる。
「学級委員長として、一番休むべきでない時に休んでしまった。それは本当に後悔している。その間、彩香がリーダーとしてクラスをまとめていた、とも聞いている。……ならばこのまま後期も彩香を中心にしてやっていけばいいじゃないか、という風に考える者もいるだろう。
その方がいいのかもしれない、というのも分かっている。だからこれは俺のわがままだ。……後期も俺に委員長をさせてもらえないだろうか! 委員長としての素質は彩香の方が上かもしれない! だが、俺は一学期の間委員長として頑張って来たんだ! このクラスのことに関しては、彩香よりも知っている自信がある! ……それを生かしてこれからも精進していくから! どうか、どうか皆さんの一票を俺にください!」
またも頭を下げる彰。
パチ……パチ…………パチパチパチパチッッ!!!!
遅れてクラスメイトが彰に対して拍手を送る。
「へえ……………」
美佳も自然と拍手をしていた。
……私を他薦したりするから、ここでも何か仕掛けてくるかと思ってたのに直球勝負なのね。
まさか彰がここまで真面目に話してくるとは思ってなったから、普段とのギャップで聞き入ってしまった。
それも計算の内なんでしょう。……ホント、こういうところは上手いわよね。
「あの、美佳さん」
「……ん? どうしたの、彩香さん。次はあなたの番でしょ」
いつの間にか彩香が近づいてきていた。
「その前に少し相談したいことが……」
まだ彰に対する拍手は続いている。彩香が教壇に向かうまで、少しは時間があるはずだ。
「何?」
「この勝負って真剣勝負なのよね。……この時の真剣勝負って、自分の気持ちを偽ってでも勝ちに行くべきなのか、それとも自分の本当の気持ちで勝負するべきなのか……彰はどっちを求めていると思うかしら?」
「……そうね」
美佳は考える。
いつもなら彰が求めているのは前者なのであろう。なりふり構わず勝ちに行くことが多い彰は相手にもそれを求めているはず。
けど、今の演説は確かに計算はされたものだったけど、その中身は………………。
「自分の気持ちに正直になりなさい」
「……そうですか、分かりました」
ちょうど彰に対する拍手が鳴りやむ。教壇から降りる彰と入れ替わって、彩香は歩き出した。
「おい、何か彩香にアドバイスしてなかったか?」
席に戻り際、彰が小突いてきた。
「アドバイス……そうね、アドバイスかも。……彰が勝つための、ね」
「…………?」
理解できなかったようだが、長く立ち止まるのも不自然だと思ったのか彰が自分の席に戻る。
そして前に立つ彩香。
一呼吸おいてから、彩香の想いが語られ始めた。
「私は小学校、中学校、そして転校する前の高校でほとんどの間学級委員長としての役職に就いていました。自分の気質というのがそうなのか、その責任感だとか色々な雑務だとかが苦にならなかったです。
この学校で、委員長の彰が長期入院することになって、その間私は代理を務めていました。それはこれまでと同じように、委員長として過ごしてきた自分がそうさせたのだと思います。……ですが、代理をしている間いつもこれでは足りないと感じていました。転校してから一週間ほど、彰が入院するまでの間は、彰が委員長としてまとめていた風景を私は見ています。だからなのでしょう。その風景を私では作ることができない、といつも痛感していたのです。
つまり、何を言いたいのかというと……このクラスの委員長は彰にしか務められないのだと、私はそう思うのです」
「投票の結果、高野が後期も学級委員長を続けるということに決まりました。……こら、そこっ。そんな結果分かってたとか言わない。はい、みんな拍手で新委員長の就任を祝いましょう」
投票を開示した畑谷によって結果が伝えられる。
「つうわけで、後期も委員長をすることになった高野彰だ。よろしく頼むな」
まばらな拍手が鳴りやむと、彰が教壇に立って頭を下げた。
分かりきっていた結果発表だが、一応候補者は全員教室の前に出ている。
なので同じ候補者で隣に立っている斉藤が話しかけてきた。
「やはり彰くんの圧勝ですか」
「しょうがないでしょ、あんな話聞かされて彰以外に入れられる人がいたら、それこそその顔を見てみたいわ」
「それは良かったですね。目の前にその顔がありますよ」
「……あんたってやつは」
そこまで彰のことが嫌いか、と美佳は苦笑。
結局彩香の演説が決め手だったのだろう。蓋を開けてみれば、彰は八割以上の得票だった。
美佳自身も候補者でありながら、彰に票を入れている。
「それにしてもあれを聞いた男子たちが彰に入れたってのも珍しいわね。普通ならそこまで女の子に思われているなんて爆発しろ、とか言って意地でも彰に入れなさそうなのに」
「……推測ですが、その感情と美少女の頼みを聞くのとで心が揺れたんでしょう。まあ、僕は最初から彰くんに入れるつもりは一切ありませんでしたが」
「じゃあ、自分に入れたの?」
「いえ、風野さんに入れました」
「……ひねくれているわね」
そこまでするなら彰に入れても良かっただろうに。
「それで副委員長だが、選挙の結果二位の風野にやってもらおうと思っている。誰か反対の人はいるかー?」
「わ、私が副委員長ですかっ!?」
順当な流れだというのに、彩香が驚いている。
「嫌なのか?」
「いや、その、これは学級委員長選挙ってことでしたし、改めて副委員長の選挙をした方が……」
「係決めも控えているんだ、もう一回選挙をしている時間は無い。……大体、一言だっていうのに高野も風野も話しすぎなんだよ」
「うっ……」
自覚はあったのか、風野が身を縮こまらせる。
「それで反対の人はいないよな。……じゃあ、副委員長は風野だ。はい、みんな拍手」
パチパチパチパチパチ!!!
拍手の音が教室に響く。
「おいおい……俺の時よりも拍手大きいじゃねえか」
彰が自分との違いにやれやれと首を振る。そして彩香の方を向いた。
「後期の間よろしく頼むな、彩香」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」
こうして学級委員長選挙の幕は下りた。
係決めも終わって、放課後。
「というわけで、俺が勝ったわけだが……何か言うことがあるよな、火野?」
「あ、あの勝負は無効や!! 大体、風野は勝負を放棄していたようなもんやし……」
「結果が全て、じゃなかったのか?」
「くっ……!!」
「ほら、土下座だ、土下座。早くしろ」
彰と火野が賭けを清算している一方。
「私が副委員長……」
「良かったじゃない。これからは堂々と彰のことを支えることが出来るわよ」
「さ、支える……っ!?」
「女が男を支える……まるで、妻と夫みたいな関係じゃない」
「っ~~~~~~!!!!」
美佳の言葉に彩香の顔が真っ赤になる。
「……そう考えると、私も選挙出れば良かったかな」
「けど、由菜さん委員長とかそういう雑務系苦手そうですけど」
「あーそうね。……けど、あの関係は羨ましいし、そのためなら我慢が出来るか……? いや、けど……」
目の前にいる恵梨のことなど忘れたかのように、由菜がぶつぶつと呟きだす。
「はあ…………」
ここで私も羨ましい、と言えれば良いんですけど……。
そこまでの度胸が今の恵梨には無い。
けど、今週末には絶対に話そう。……じゃないと前に進めないんですから。




