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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち
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百六十四話「死闘 能力VS能力4」

 もう、終わりですね。

 暴走状態の恵梨に残っていた冷静な心がそう告げていた。終わる対象は戦闘人形ドールではない。自分だ。

 私の用意した手札はさっきのブレスレットで最後。あれで終わらせるつもりだった。……ここからフル武装の戦闘人形ドールを倒す手立てはありません。


 残り0.9メートル。倒せないと分かっているのに勢いがついて止まれない。


 結局私はあの四月のときから成長していなかった。

 相手の武器を取り込んでの金属化。水をブレスレットにして持ち運ぶ方法。

 戦闘人形ドールの裏をかいたこれらの策はどちらも彰さんの受け売りだ。透過攻撃パーミエーションは私のオリジナルだが、そもそも近づけなければ使えなかった。

 感情がない戦闘人形ドールですら成長していたというのに……私はあの時から止まったままだ。これで彰さんと対等な存在になりたいなんてどの口が言えたのか。


 残り0.8メートル。


 けど……どうして私は対等な存在になりたいと思ったのでしょうか?

 こんな切羽詰まった状況だというのに、何故かそれが気になってしまう。

 私の一番の願い。これからもみんなと一緒に過ごしていきたい。

 それは今の状況、彰さんに一方的に守られている状況でも果たせるじゃないか?


(いや、それは違う)


 目の前にあるじゃないか。

 その願いが壊れかけている状況が。


 さっき私は一瞬彰さんが死んでしまったのじゃないか、という最悪な可能性を頭がよぎった。

 そのときに想像してしまったのだ。


 彰さんがいなくなった日常を。






 朝食当番の時は早起きして、違うときはゆっくり起きて彰さんと一緒にとる朝食。

 その日の予定によって変わるけど、大体は隣の由菜さんと合流して三人で登校。

 学校では美香さんたちと一緒にバカをやっている彰さんや仁志さんを呆れながら見て。

 昼食時間は最近転校してきた彩香や火野くんも加わってみんなで他愛もない話で盛り上がり。

 放課後は何も予定が無ければ、一緒にスーパーに行って夕食の食材を調達。

 夕食は由菜さんもやってきて三人で食べる。

 由菜さんが帰るころには彰さんは部屋にこもって勉強。

 よほど用がない限り彰さんの部屋を訪ねることは無かったけど。

 それでも家の中に家族がいるというのは安心できて。

 今日も楽しかったと思いながら寝るのだ。






 そんな日常が、無くなる。


 耐えられない。

 真っ先に思ったのはその一言だった。


 それほどまでに私の日常の中で彰さんという存在はかけがえのない物になっていた。


 失いたくない。それが私の正直な気持ち。


 だけど……こんな出来事が無くても、それはいつか失われる物だったんだ。


 例えば、一番近いところで三年後。私と彰さんが違う大学に入ったら一緒に暮らすのは現実的でなくなる。就職も同様。

 そして結婚。彰さんが結婚して新たな家庭を築くとなれば、そこに私が入る余地は無くなるだろう。


 彰さんは私を家族だと言ってくれた。

 だけど、やっぱりそれは口約束で……そんな簡単なことで崩れてしまう脆い物だ。


 だったらどうすればいい?


(変わるしかないんだ)


 変化が嫌だった。

 今の生活はとても楽しくて、宝物のようで、それが永遠に続いて欲しかった。


 けど、無意識の内に気付いていたのだろう。

 このままじゃ駄目だっていうことは。


 だから今の彰さんに守られている状況から脱して。


 対等に向き合える存在になったその時には。






 この気持ちを伝えよう、って。






(………………え?)

 自分で考えておいて、その結論に驚く恵梨。


 私の気持ちを伝える。

 伝える気持ちは、何だ?


(それは…………)


 あなたを見るだけで心がドキドキする。


 あなたがいると思うだけで世界が色鮮やかに見える。


 あなたのためなら何だってできそうな気がする。



 それらの気持ちに名前を付けるとしたら……。



(……………………)



 家族に向けるものじゃないと封印していたこの想い。


 認めよう、私は。






 彰さんのことが好きなんだ。






 胸の中のもやもやがストンと落ちる。

 ごまかしてばかりで認めなかった、自分の本当の気持ちを自覚した。


 そうだ、私は彰さんとこれからもずっと一緒にいれる関係……言うならば、本当の家族になりたい。


 家族とはお互いが支えあう関係。つまり対等な関係であり、だから私は彰さんとそうありたかったのだろう。



(ふふっ……どうして気づけなかったんでしょう?)

 自分の感情にも気づけないなんて。これほどまでに自分が面倒くさい人間だと思ったことは無い。


 それにしても、これはいろいろ謝らないといけないですね。

 美佳さんにはこの気持ちが恋じゃないって言ったばかりですし。由菜さん、彩香さんには恋を応援すると言ってたけど、それは出来なくなりましたし。





 残り0.7メートル。


 風切り音が聞こえてきた。

 その鋭い音に思考が中断する。

 目に入っているだけで解釈していなかった視界の映像に意識の焦点を合わせると、戦闘人形ドールが操る空中の八本の剣が迫っていた。


 そういえば今は戦闘の途中でしたっけ。


(ちょうどいいですね)


 私は彰さんと対等になりたい。

 だから、血を流して私を守ってくれた彰さんに応えるためにも。




 今度は私が血を流す番だ。










 残り0.6メートル。


 圧勝かと思っていた戦況が、予想外に二転三転したのをハラハラしながら見守っていたサーシャ。

 フル武装の戦闘人形ドールに剣一本の恵梨が突っ込んでいくのを見て今度こそ安心する。


(どう考えても無謀。今度こそやつに手はないはず)


 水の錬金術のさまざまな技には驚かされた。

 だが大前提として、水が無ければ何もできない。

 これ以上ブレスレットなどで隠し持っている様子も無い。


 この状況をどうにかする技があろうとも、水が無ければ始まらないのだ。




 念入りな思考は、不安の表れか。

 今まで何度も裏切られた恵梨に、またこの状況でも何かされるのではないかとサーシャは心配しているのだ。




(まあ、さすがに…………っ!?)


 そしてその不安は当たる。






 恵梨が自分の手首に剣を当てて切ったのだ。






「手首を切った……っ!?」

 思わず口に出るサーシャ。


 恵梨の手首から血がドロッと流れる。

 どうしてこのタイミングで自傷行為を……。


「自暴自棄になったのか……?」

 殺されるくらいなら先に死んでやろうという考えなのか。

 意味が全く分から…………。



 血=液体。



「……っ!?」

 愕然とする等式が頭に思い浮かぶ。


 まさかやつの狙いは……!




 残り0.5メートル。


 恵梨は血の滴る手首を前方に向けて振る。

 血しぶきが空中を漂い……そして水の錬金術によって浮かぶ。


 血の雫の数は八つ。


 戦闘人形ドールが操る剣の軌道上にぴったり置かれたそれは、剣が通過しようとした瞬間に金属化する。


 相手の武器を取り込んでの金属化。


 しかし、用意した液体の量が少なくすぐに破られる。


 けど、それで十分だった。


 その一瞬で勝敗は分かれるのだから。




 残り0.4メートル。


 戦闘人形ドールが負ける……?

 鹿野田様の作ったあの最高傑作が……?


「そんなの……ありえない……」


 ブルッ!!

 理解できない状況を前に、サーシャが快感に包まれる。


 ああこれは。


「予想外だ……」






 残り0.3メートル。

 八本の剣を置き去りにして進む恵梨。


「………………!」


 戦闘人形ドールもすぐに切り替えて逃げようとする。

 手に持った剣で応戦しないのは透過攻撃パーミエーションの前には無力だと分かっているからか。


 しかし。


 恵梨は一旦剣の金属化を解き、二つの水の塊に分けた。


 一つはナイフに形を変え金属化。


 もう一つは戦闘人形ドールの手元に向けて飛ばし金属化。


「…………!?」


 水流捕縛ウォーターバインド

 戦闘人形ドールは逃げの一手を封じられる。


 残り0.2メートル。


 動けなくなった戦闘人形ドールに恵梨はナイフを突き出す。

 避けられない攻撃。

 青の金属に封じられたのは戦闘人形ドールの左手。剣を持つ右手で無かったのは幸いで、ナイフを防ごうとするが。



 恵梨のナイフが戦闘人形ドールの剣をすり抜ける。



 透過攻撃パーミエーション

 ナイフになりさらに難しくなったこの技を難なく恵梨は成功させて。


 残り0.1メートル。


 戦闘人形ドールの胸元に向かって進む恵梨のナイフを止める物はもう無く。




「らあああああああああああああっ!!!!!!!」


「…………………………!!!!!???????」




 残り0メートル。




 直後、ナイフがささる感触が恵梨の手元に伝わった。






感想をもらえると嬉しいです。(切実)

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