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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
一章 水の錬金術者
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十五話「戦闘人形との戦闘2」

「どうして、彰さんが……!?」

「話は後だ。まずはこいつを!」

 彰は剣に体重を乗せて、受け止めていた戦闘人形の剣を、戦闘人形ごと押し退ける。

 たたらを踏んだ戦闘人形に、彰は斬りかかる。


「下がりなさい!」

 鹿野田が戦闘人形に命令してくる。

 彰の攻撃に合わせて反撃するそぶりを見せていた戦闘人形が、その声を聞いて一旦(いったん)引く。

 そして鹿野田の元まで戻り、彰たちとの距離が開いた。

 彰はそれを追撃せず、恵梨の方を振り向く。

「大丈夫か、恵梨」

「えと。だ、大丈夫です」

「なら良かった」

 恵梨の声がいつもの感じに戻っている。彰の登場に驚いているのだろう。


 でも、なんだろう?

 彰を見て、驚きと(とも)に違和感も感じる恵梨。

 彰の格好に変わりは無い。着ているのは普通の私服だし、髪を切ったわけでもないし、メガネをつけたわけでもない。

 つまり見た目には変わりは無い。

 変わったと思えるのは雰囲気だ。

 口調はやさしいのに、なんかとげとげしくて……。なんていうか、こう……怒っているみたいな。

 恵梨は自分の考えをまとめようとする。


 そこで彰の剣に目が行った。彰の姿を見たとき以上の驚きで考えが霧散(むさん)する

「彰さん! その剣、どうしたんですか!?」

 彰の持っている剣は戦闘人形が持っているのと同じ、緑色の金属でできた剣だ。

 それはつまり、

「彰さん、風の錬金術者(アルケミスト)だったんですか!?」

 彰が能力者だったということである。

 彰は自分が能力者だということを隠していたのか? そもそも、風の錬金術者の少年なんているわけが無いはずなのに?

 恵梨がそんな思いに(とら)われていると、彰は答えた。


「えーと……。そうだったみたいだ」

「みたいって……」

「仕方ないだろ! 俺が一番驚いているんだから!」

 恵梨の呆れた様子に彰が弁解する。

「……ということは彰さん自分が能力者だと知らなかったんですか? ……それなのによく能力が使えましたね」

「ああ。俺にも訳の分からない現象が起きてな」

「何ですか、それ?」

「それは……」

 ちらりと、鹿野田の方を見る彰。

「やはりあの少年は能力を……。ということは……」

 鹿野田はぶつぶつと何かをつぶやいている。

 戦闘人形は主人の命令が無いため待機状態だ。

「少し話をする余裕はありそうだな」

 そして、彰は恵梨に今日あった出来事を話し出した。






 彰は今日の昼ごろ買い物に出かけた。

 というのも、急に二人分に増えた食事の材料を買うためである。

 恵梨も一緒に行くかと思ったが、恵梨は幸せそうな表情でまだ寝ていたため……


「ちょっと待ってください」

「どうした? いきなり話をぶった切るなよ」

「えと……あ、彰さんは、私の寝顔を見、見たんですか?」

「そうだが。……それがどうかしたか?」

「最低です彰さん!」

「ちょっ! どうした!? いきなりキレて!?」

「うう……。寝顔を見られたなんて……。恥ずかしい……」

「? ……何も無いなら続きを話すぞ」


 スーパーでの買い物は無事に済んだ彰は、家に帰ることにする。

 彰が家に着くと、家の中に恵梨の姿が確認できなかった。

 そこで、何か不気味な胸のざわめきを感じた彰は、買ったものを冷蔵庫に入れてから家を出た。


 お金も持っていなかったはずだし、恵梨は散歩にでも出ているのかと家の近所を探す彰。

 捜索が公園に及んだとき、彰は人だかりを見つけた。

「何だこれは?」

 その人だかりは何かの野次馬のようだが、人に囲まれていて「何か」の詳細が分からない。

 彰が人の間を割って、中を見ると。


 そこでは恵梨と戦闘人形が戦闘中だった。


 最初、彰は理解ができなかった。

 しかし、だんだんと状況を理解していく。

「敵は、科学技術研究会か?」

 自問するも答えは出ない。

 そもそも、彰は昨日研究会に襲撃されていて、今日もまた自分たちを襲撃すると思っていなかった。そのため、最初は意表を突かれて状況を理解できなかった。

 しかし、研究会の追っ手が恵梨を追っていた理由は、どちらかというと殺すことより恵梨の居場所の探索だったため、研究会からしてみれば居場所が分かったら殺しに行くのは当然だった。



 彰は、戦闘人形(ドール)と戦闘中の恵梨を助けようと思ったが、

「くそ! 状況が悪い!」

 行動を起こせずにいた。

 というのも今、彰は手ぶらで武器となるものを何も持っていないからだ。今日は研究会が襲ってこないだろうと油断していた。

 それでも戦おうと思えば戦えるが、見ていると恵梨の戦っている相手は能力者らしい。さらに戦闘にも慣れている。

 ここで、素手の自分が出て行っても恵梨の足手まといになるだけだろう。

 戦うにしてもまず家に帰って武器となるものを取ってこないといけない。


 だが、それも難しい。

 見ていると、戦闘人形と戦っている恵梨はもう限界が近い。

 家に武器を取りに行っている間に殺されてしまうかもしれない。

 そして、恵梨が殺されるかもしれないと考えた瞬間、彰の頭に氷がぶち込まれたかのように寒気がした。


 ……恵梨が、殺される?

 そんなことあってはいけない。

 あいつは能力者かも知れないけど。

 ただ普通に生きる事を望む女の子じゃないか。

 それなのに、何でこんな理不尽な理由で殺されないといけないのか。



 しかし彰が(なげ)いても、恵梨と戦闘人形の戦況は変わらない。



 俺が助けないと。

 助けるって誓ったじゃないか。

 こんなときに、何もできないなら。

 俺はあのころに逆戻りなんだ!!!


 彰は心の中で叫ぶ。



 それが天に通じたのか、たまたまタイミングが良かったのか。



 そのとき声が聞こえた。



 え~、マイクテス、マイクテス。……すいません聞こえますか?



「!?」

 彰はいきなり聞こえたその声に反応し周りを見回すも、誰も彰に声をかけた様子はない。


「誰だ!」

 彰が叫ぶと、驚いた周りの野次馬に注目される。


 うわっ! ……えーとす、すいません。そ、その怒らないでもらえると嬉しいんですが。……め、命令しているわけじゃないんですけど……。


 かなり低い態度で声が返してきた。

 話している内容と同様に、声も自信がない感じの女性の声だ。

 そして、更に分かったことがこの声は彰の頭のなかに直接話されているということだ。テレパシーのような物なのだろう。

 テレパシーをしているような相手も周辺には見当たらないが、彰が叫んだことが分かっているあたり、相手にもこちらの声は聞こえているのだろう。


 さっきまで思い悩んでいたことを、テレパシーの驚きで忘れてしまっている彰。

 しかし、いきなりのテレパシーにも戸惑う気配がない。

 恵梨のような異能力者がいるならテレパシーを送る奴がいても不思議じゃないだろ、とすでに割り切っている。


 そして、いきなり叫んで悪いなと彰は反省し、姿を確認できない「誰か」に話しかけた。

「えーと、すまないな」


 いえ……こちらこそ、いきなり話しかけてすいません。……それと、頭で思っただけで会話できるので口に出さなくていいですよ。


 いきなり話し始めた彰に、(さら)に周りの野次馬が注目している。

 しかし気にせず彰は試しに頭のなかで、その声に返答してみた。


 それで、何でいきなり俺に話しかけてきたんだ?


 す、すいません。わ、私なんかに話しかけられて気分を悪くしたんですね。


 返事が来た。

 本当に、頭の中で思っただけで相手に伝わったのかと感心する。

 しかし、その声は彰の言葉を曲解して、自分を責めていて話が進まない。


 えーと、そうじゃなくて。何か用があるのか、ていう事。


 そ、そういうことですか。……けど本当は、いきなりなんだよこいつ、とか思っているんですよね。


 ……早く話を進めないと怒るぞ。


 ひぃ! す、すいません! すぐに言います! だ、だから怒らないで下さい!


 声の感じからして、大人の女性だと思うのに、この態度。

 ……大丈夫なのか? と彰は思った。

 そこに、声が返答してくる。



 え、えと。す、すいませんが、そこの能力者の少女を助けてもらえませんか?



 彰は一気に現実に引き戻された。

 ……何が大丈夫なのか、だ。能力者の少女、つまり恵梨はまだ戦闘中だ。俺こそ、それを忘れていて大丈夫か?

 自分に(いか)りが沸いてくるが、一応頭の中でその声に返事をしておく。


 言われなくてもそのつもりだ。……だけど。


 だけど、何ですか?


 武器がないんだ。素手じゃ俺が出て行っても、逆に足手まといになってしまう。


 ……何を言っているんですか?


 ……そっちこそ何を言いたいんだ?


 そしてその声がなんでもないことのように、その事実を告げた。



 えーと、あなたは能力者ですよね。……それも風使いのようですし、能力で武器を作ればいいじゃないですか。



「!!??」

 俺が能力者だって!?

 彰は、驚きを超えて戸惑う。


 どういう意味だ!

 

 その声を問い詰めるとき、口に出して言わなかったのは奇跡だろう。

 それぐらい彰は戸惑っている。


 そ、そう言われましても……。えーとですね、あなたは風使いの能力を使えるはずですが……。


 何で分かるんだ!?


 な、何で分かるんだって……。も、物は試しです。その、手を突き出してもらっていいですか。


 ここで反抗しても意味ないので、彰は言われたとおり前に右手を突き出す。


 これでいいのか?


 そ、そしてその手に風が集まって剣になるのを強くイメージしてください。


 彰は言われた通りイメージする。

「手に風が集まり、剣になる……」

 気づけば口からつぶやきが漏れていた。

 これで大丈夫なのかと不安になったころ。


 変化は突然現れた。


 突き出した右手に、少し風を感じるな、と思った彰。

 次の瞬間。


 彰の手には緑色の金属でできた剣が握られていた。


「うわっ!」

 いきなりの現象に、剣を作り出した本人の彰が一番驚く。

「なんだこれ?」

「どうなってんだこの辺りは?」

「はぁ。俺の目も疲れているのかもな。帰って早く寝よ」

 彰に注目していた野次馬も騒ぎ出す。


 どうですか?


 「誰か」がテレパシーで聞いてくる。


 ……確かに剣ができたよ。


 ほら! 私の行ったとおりでしょう!


 ………………。


 あ! ……す、すいません。私なんかが、調子に乗って!


 いや。……ありがとう。


 え! いや、その。……ど、どういたしまして。


「これで」

 武器さえあれば恵梨を助けにいける。

 そのことが本当に嬉しい。


 自分の手で、他の人を守れるのが本当に嬉しい。


 そこで恵梨に視線を移すと、戦闘人形(ドール)から剣を投げられたところだった。

 盾を構えている恵梨には見えていないが、戦闘人形が恵梨に走り迫っている。

「危ない!」

 彰は野次馬の群れから、恵梨を守るため飛び出した。

 走りながらもう一度頭の中で、その声にお礼を言う。


 ありがとな! おまえのおかげだ!


 え! その私なんかが……。!! えーと、すいません。……はい、ラティス様。急用ですか? 分かりました。


「?」

 声は途中から彰とは違う人に向かって何かを言っているようだ。


 どうかしたか?


 すいません。ちょっと雑用が……。もうこのテレパシーは切りますね。


 分かった。ありがとな。


 そんな! こちらこそです! ……はい、ラティス様。念を押しておく? 分かりました。……すいませんが本当にその能力者の少女をお願いします。


 俺に任せておけ!


 そして、かかってきたと同じくテレパシーは唐突に切れた。

「誰かは知らんが……恩に切る!」


 そして彰は、恵梨に向かって斬りかかっていた戦闘人形(ドール)の剣を受け止めた。

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