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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
六章 体育祭、自覚する気持ち

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百五十一話「遠足2」

更新遅くなってすいません。

気づけば第六章も十六話目。ここまで全くシリアスパートのないだらだら進行ですいません。……これもジャンケン勝負に五話もかかったせいに違いない。


シリアスパート好きは今しばらくお待ちください。

「それにしてもさっきから誰にも会わんな」

「彰さんの話した理屈からすれば、そろそろ一組の先頭集団と会ってもおかしくない頃ですが……」

「まだまだ先にいるってことかしらね?」

 山登り始まって一時間ほど。

 一組の遅い方の集団を抜いた後、ばったり人に会わなくなった現象に三人が首をかしげる。



「一組の誰かがペース考えずに飛ばしたんじゃないか? それに追随する形で周りの人も速くなってかなり先にいるとか」

「そうかもしれませんね」

「だったら追いつくまで走るか!」

「やめなさい」

 みんな納得してくれるが、自分から口にしておいて彰はその線は無いと思っていた。


 先頭集団には先生が付き添っているはずだ。暴走しようとする生徒がいたら注意するはずだろう。だからこの可能性は限りなく低い。


「………………」

 たぶんだがあの分かれ道が原因だろうな……。

 山に入ってから一回だけあった分かれ道のことを思い出す彰。

 張り紙がしてあったから右に進んだけど、山の頂上がある方向からしてどう見てもあれは左の道が正解だったと思う。

 つまり彰たちは道を間違えたのだ。それなら他の生徒に会わないこの状況も理解できる。



「…………けど」

 そうなるとなぜ張り紙は右を指していたのだろうか? 誰かがついやってしまったイタズラとは考えにくい。

 というのも、あの張り紙は文字と一緒に矢印が印刷してあった。もし張り紙と矢印が別だったなら、矢印をひっくり返すだけで彰たちを右に誘導できただろう。

 けど、あれでは張り紙をひっくり返して矢印を右向きにしようとすると『すでスーコ山登がちっこは生年一校高明斉』と左右反対にプラスして、上下も反対な文句になっていたはずだ。


 考えられる可能性として偽の張り紙をあらかじめ用意していたというのもあるが……あれは印刷されてたものだし、山登りの前から準備していたってことか? そんな手の込んだマネをする意味がどこにある?

 それに張り紙で誘導されたなら何故他の生徒は間違えなかった? 俺たちだけがこの道を進んでいるのはどう考えてもおかしい。

 それとも本当はこっちで道が合っていて、ただ先頭集団が速いだけなのだろうか?


「……分からん」

 考えても結論が出ない。が、こっちの道が間違いだったとしたらその内あの仕掛けが働くはずだ。それまで待つしかない。

「少し休憩しないか」

 その時間を稼ぐために彰は提案した。もしこっちの道が正しかったとしても、休んでいる間に後続が追いつくだろう。


「彰さん疲れたんですか?」

「私はまだ行けるけど……彰がそう言うなら」

「前に追いつきたいけど……まあ、ちょうどお菓子も食べたかったし賛成やな」

 三人とも了承してくれる。




 ちょうどいいところにあった段差に座る四人。

 ただ待っとくのも時間の無駄だし、あの話もしとくか。

「遠足中に悪いとは思うけど、昨日連絡が入ったしここには俺たち以外いなくてちょうどいいから聞いてくれるか」

「何の話かしら?」



「科学技術研究会についてだ」



「「「…………!」」」

 三人の顔が引き締まる。

 現在自分たちを狙っている組織。やっぱりみんなも気になっていたようだ。




「連絡って、異能力者隠蔽機関からなんか?」

「ああそうだ。ハミルが念話(テレパシー)を使って昨夜話してくれた」

 いきなり頭の中に声が響く能力だが、電話代わりに気軽に使われて彰はもうその感覚に慣れていた。


「それで研究会の動きはどうなんですか?」

「やっぱり俺たちに報復する動きは変わらないそうだ」

 彰たちは研究会兵器派と黄龍(ファンロン)の取引を邪魔したことになっているが、それは能力研究派のサーシャが騙したせいだ。


「……その対象って、私や恵梨も含まれているのかしら?」

「恐らくサーシャにあること無いこと吹き込まれて、兵器派は恵梨と彩香も報復対象にしているだろう。

 夏祭りの時会ったのは俺と火野と雷沢さんだけだが、鹿野田から話を聞いて恵梨のことについては知っているはず。それにあの情報収集能力からして彩香のことも知ってておかしくない」

「ふうん。……どうせ私も彰と恵梨の味方なんだし、まとめて敵認定されても変わったこと無いわね」

 頼もしい彩香のセリフ。自分には関係ない、と俺たちを見捨ててしょうがない状況なのに、端からそんなことを考えていないようだ。



「それでその報復ってやつはどんな形で行われるんや?」

「それは分からないけど……ハミルによると、研究会はその報復に向けて現在準備中らしいからまだ時間はあるはず」

「今すぐに襲われるってことは無いんですね」

「ああ」

 ハミルに伝えられた情報を話す彰。……しかし、異能力者隠蔽機関はこういう情報をどこからゲットするんだろうか? それとも能力者の痕跡を隠蔽する傍らで、自力で調べているのか?



「だとしたら待っている必要は無いわ。こちらから仕掛けましょう」

「それって……」

「こちらから研究会を襲うのよ。相手からの攻撃を怯えながら生活を送るのなんてバカらしいわ。それならこちらから研究会を叩き潰せばいいのよ」

「そんな過激なことを……ねえ、彰さん」

 物騒なことを言い出した彩香に、戸惑う恵梨だが。


「俺も同意見だな」

「彰さん!?」

「このまま待ち続けて研究会の奇襲を許すくらいなら、こっちから奇襲した方が戦術的にも理に叶っている」

「待つのは苦手やしな。俺もそっちの方がいいと思うで」

「ただ、問題なのは研究会の根城がどこにあるのか分からないということだ。……現在、異能力者隠蔽機関が調べているから、分かり次第襲撃の作戦を立てる」



「けど、そんな…………」

 他三人の言い分の一致に、恵梨は困惑する。

 そんな簡単に襲撃とか……確かに、それを可能にするだけの力を私たちは持っている。……とはいえ、やっぱり受け入れ難いのは変わらない。


「その、対話って方法は無いんですか? 私たちが狙われているのも、サーシャに騙されたからなんですし、その誤解を解けば」

「……恵梨が戸惑うのも分かる。襲撃とかどう考えても非日常なワードだしな。……けど、そんな俺たちの命まで狙っている研究会が、説得されるとは思えない」

「や、やる前からそう決めつけなくても」

「もし兵器派が説得に応じたとしよう。……けど、能力研究派との間には何も誤解は無いぞ。よく分からない実験のために、命を狙われているという事実しか存在しない」

「………………」

「既に研究会なんて組織に命を狙われている時点で、非日常なんだ。厳しいことを言うが、それを受け入れないと生きていけないぞ。それに…………」

 言葉を切って彰が髪の毛をガシガシとかく。苦虫を噛み潰したような表情は、これを言って良いのだろうかと考えているみたいだ。


「それに……なんですか?」

 私はそれに対して、何も考えず聞き返してしまう。



「恵梨は両親を殺した研究会を許せるのか?」



「……そうですね」

 彰さんの言うとおりだ。命を狙われている以上、対処しなければ殺されるだけ。

 それに研究会は私にとって命を狙われている対象なだけじゃない。親を殺された仇でもある。


 私は許すつもりは無い。両親を殺した研究会のことを。


「いつか潰すなら、今すぐ潰したところで変わりませんしね……。分かりました。私も襲撃作戦支持します」



「そ、そうか。……どうせ異能力者隠蔽機関が研究会の本拠地を見つけないと作戦も立てようないし、この話は終わりにしよう。……遠足だってのに物騒な話して悪かったな。

 それより本当に誰も後続が来ないな?」

 話をしている間も、結局誰もこの道を通らなかった。


「そうやな。……何かあったんやろうか?」

「私たちってそんなに歩くスピード速かったでしょうか?」

「一般から比べれば速いんじゃない?」


 そっちもそっちで問題だが……恵梨怖えよ。

 彰は先ほどの恵梨の反応を思い出す。

 直前まで対話だとか考えてたのに、両親のことを話した途端に方針転換とか。……それほどに両親のことを思っているということか。


 やっぱりこれからも恵梨の前で両親の話をするのはタブーだな。



「はあ………はあ………。……ん、やっぱりこの道を行ってたか。おーい、高野、大丈夫か?」



 と、そのとき彰たちがやってきた方向の登山道から声が聞こえた。


「あ、先生」

「どうしたんですか? 結構息切れてますし、走ったんですか?」

「スタミナ管理は重要やで」

「おまえが言うな。おまえが」

 彰は一度火野にツッコんでから先生の方を向く。


「……それで先生、そんなに走ってきたってことはやっぱりこの道は間違いだったんですね?」


「ああ、そうだけど。……何だ? 高野知っていたのか?」


「その可能性がある……くらいには考えてました」





「どういうことですか? 道を間違ったって?」

 初耳な情報を知っていたかのように反応する彰に、恵梨が聞いた。

「そのままの意味だ。登山道に入ってから一回だけ分かれ道があっただろう。あそこで間違ったってわけだ」

「でも、張り紙があったやろ?」

「そうよ。ご丁寧に斉明高校の生徒はこちら……って書いてたじゃない」

「……それは俺にも分からない。先生の意見はどうですか?」

 彰は畑谷に話を振る。


「張り紙なら先頭担当の先生が登りながら張るって聞いている。それは俺も見たんだが、張り紙は左の道を指していたぞ?」

「私たちが見たときは右を指していましたよ?」

「……そう言われても……どういうことだ?」


 やっぱり俺たち以外の生徒がこっちの道に来ていないと思ったら、そういうことだったのか……。

 四人が四人とも張り紙を見間違えたとは思えないし、俺たちが通った後で張り紙を張り直したんだろう。……けど、誰がそんな手の込んだことを……?


「それなら先生はどうしてこちらの道を……?」

「張り紙が左を指していたなら、こちらの道は通らないはずですよね」

「それは……ほら、これだ。誰か落としただろう?」

 畑谷がポケットから紙切れを取り出す。


「これは……遠足のしおりですか?」

「すいません、それは自分が落としました」

「高野か。……そう、これがこっちの道に落ちていたから、右に進んだ生徒がいるかもしれないって先生は来たんだ。運が良かったな」

「いえ。そう先生が考えると思って、自分がわざと落としておいたんです」

「わざと……ですか?」

 恵梨が聞き返してくる。


「そうだ。俺は山頂の方向からして、左の道を進むのが正解だと思っていた。けど、張り紙を無視するわけにもいかない。……だからこっちが間違った道だったときのために、分かれ道に入ったすぐのところにしおりを落としておいたんだ。本当に間違いだったら誰か気づいてくれると思ってな」


「そうなんですか……」

「それで先生がこっちの道に探しに来たって訳ね」

「なるほどやな」

「高野はよく頭が回るな」

 全員から賞賛される彰。


 だが、彰の表情は晴れない。

 結局あの張り紙は誰が用意したんだ? 俺たちだけをこの道に進ませたかったのは何故?

 誰かのイタズラなのか? ……それにしては労力がかかりすぎていると思うが。後続が来ないために張り紙をまた張り替えたということは、あの分かれ道付近に張り替えた人物は潜伏していたということだし……。

「駄目だな……全く分からん」

 こうやって先生が間違いを正しに来てくれたし、この企みは失敗に終わったということでいいんだろう。……何がしたいのか不明なイタズラだったな。


「今から頑張れば三組の最高尾には追いつけるだろう。というわけで戻るぞ」

 ここまで走ってきて一番疲れているはずの畑谷が激を飛ばす。


「せっかくここまで来たのに戻るんですね……」

「しょうがないわ」

「……はっ!? もしかしてあの張り紙って、この俺を先頭集団に追いつかせないためになんか!?」

「そこまでして先頭を取りたい奴がいるわけ…………」

 火野の言葉ということで脊髄反射で否定するが、そういう方面の可能性もあるかもしれない、と彰は考える。


 労力がかなりかかるのは置いとくとして、結局俺たちをこの道に進ませることで得られるのはそんなどうでもいい結果くらいでしかない。

 ……こういうどうでもいいことに一生懸命になる奴が俺たちの学年にいたか……?




「あの張り紙は君たちを他の生徒たちと分断するためのものだ」




「ん?」

 登山道を戻ろうとした彰たちの正面から声がかかる。

 声をかけたのは三十代くらいの男性だった。怜悧な目つき、そしてこちらを見下すような雰囲気が伝える印象は、一言で表すと切れ者そうだが嫌な奴だ。


 この山道は別に斉明高校が独占しているわけでもなく、一般の人も登って良いものだ。とはいえ、山登りの季節にはまだ早いし、そこまで人気のある場所でもないので、彰はこの山に入ってから学校外の人を初めて見た。


 こんな先生は学校にいないし、校外の人で間違いないはず。……だというのに、今この人は何て言った……?


「どういうことや?」

「君たちが見た張り紙はこれだろう?」

 

 その男が『斉明高校一年生はこっちが登山コースです』という文句と一緒に右の矢印が印刷されたものを見せる。


「……ああ、それやな」

「ということはあなたが私たちをこの道に進ませたのは……?」

「分断するためとか言っていたわけだし、間違いないわね」

 得体の知れない男性に、三人も警戒している。


 あのいたずらはこの男のせいだったということか。

 けど、その目的が俺たちを他の生徒と分断……? そんなの何のために?



「ちょっとどういうことだね。うちの生徒たちに何の理由があってこんなことをした?」

 畑谷が一歩前にでて質問する。年長者として、先生として彰たちをかばう行動。

「……何が理由かって? そんなの決まっている」

 その男はこちらを指さしながら宣言した。







「これは俺たちの取引を邪魔した報復だ!!」







「「「「…………っ!?」」」」

 その言葉に彰たち四人は警戒を最大限にまで引き上げる。


 まさか……まさか……!?

 どういうことだ!? まだ準備中だったんじゃないのか!?

 

「おいおい、そんなに驚くなよ。あんな舐めたマネされといて、俺たちが黙っているとでも思ったのか?」

 彰たちの警戒などどこ吹く風で話しかけるその男性。



「ああ、そういえば名乗って無かったな。俺は科学技術研究会、兵器派の兵藤(ひょうどう)だ。

 能力者の諸君、初めまして。そしてさようならだ」






シリアスパート開始!

前書き? いや、しばらく待たせたでしょう?(棒)

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