十四話「戦闘人形との戦闘1」
恵梨は正眼の構えで立っている。
そこに、戦闘人形は上段から斬りかかっていく。
「はっ!」
恵梨は戦闘人形の剣を受けるが、
「重い!?」
戦闘人形の太刀筋は重い。恵梨と戦闘人形、男女で力の差があるのは当然だが、それにしても重い。
つばぜり合いに持ち込んだら押し負けると、恵梨は受けた剣を流して、一旦戦闘人形との距離を開ける。
「ほう、なかなかに剣の使い方が上手いですね」
「どうも」
鹿野田の賞賛に、そっけなく返す恵梨。
恵梨は中学時代は剣道部に所属していて、そこで磨いた技だ。
それだけではないが……、
「さあ! かかりなさい、戦闘人形!」
と、鹿野田に命令された戦闘人形が向かってきて、恵梨は考える時間もない。
恵梨は、器用に避けたり剣で逸らしたりとで、戦闘人形の攻撃をかいくぐる。
そして実験開始から、少し時間が経ったころ。
こいつ、強い! と恵梨は思う。
戦闘人形と戦っていての恵梨の感想は、やりづらいといったところだ。
まず男性、女性で戦闘人形と力の差がある。
これは最初の一太刀を受けたときに分かっていたことだが、剣での攻防をかわすうちに更に厄介な事が分かってきた。
戦闘人形は、恵梨の攻撃をほとんど気にしていないのだ。
さすがに致命傷になりそうな攻撃は避けるのだが、軽傷で済みそうなときは恵梨の攻撃を気にせずに斬りかかってくる。
戦闘技術、それも攻撃にばかりに特化して相手の攻撃にも恐怖しない。それが戦闘人形の特徴であり強みだ。
牽制程度の攻撃は逆に隙を生むだけで、だからといって大振りの攻撃もまた隙が大きい。
恵梨は戦闘が続くにつれ、防御している時間が増えていった。
戦闘人形が右斜め上段から斬りかかってくる。
恵梨は避けられないので持っていた剣で受け流すも、すぐにその剣を振りかぶって今度は左斜め上段から斬りかかってくる。
それをまた受け流す。一撃くらっただけで致死級の攻撃から、どうにか生き延びる。
恵梨が受け流すも、戦闘人形はすぐに斬り返す。
その状態が続いて、とうとう恵梨の防御が追いつかなくなった。
やばい!
戦闘人形が逆袈裟に斬りかかろうとしたとき、直前の攻撃で剣が大きく左に振られていた恵梨は、防御が間に合わないことを悟った。
「解除!」
そのため、持っていた剣を解除、金属から水に戻す。
そして瞬時に水を薄く延ばし、盾状にして再度金属化。
盾で剣を受け止める。
「いけ!」
そして持っていた盾を魔力で飛ばすと、戦闘人形は巻き込まれて吹き飛ばされる。
しかし、盾と戦闘人形の距離が近かったため、スピードが乗り切らずダメージはそれほど無い。
だが時間と距離が稼げたので、恵梨は更に大きく距離を開ける。
「はぁ、はぁ」
激しい攻防に恵梨は肩で息をしている。
「解除」
戦闘人形が乱暴に投げ捨てた恵梨の盾を解除。恵梨から離れた地面で水に戻る。
そしてペットボトルをひっくり返し、錬金術で新しい剣を作っておく。
「いきなり盾に変わったりと、そちらも面白い能力ですね。……はい、研究しがいがありそうです」
鹿野田が今の攻防を見て感想を漏らす。
疲れている恵梨と対照的に、戦闘人形はまだ余裕がある。
相変わらず、人間らしさを感じさせずに立っている。
恵梨と戦闘人形の力量差は明白。
普通なら逃げるべきかも知れない。
だが、
「さぁ、かかってきなさい!」
恵梨は声を張り上げる。
ここで倒せないと、こいつらは彰をどうにかする。
誰にも頼れなかったどん底の逃亡生活一週間から助けてくれた彰を、恵梨は巻き込みたくない。
「この力の差でまだ抵抗しようとするその気概。ええ、いいですね」
「いつまでも負けなければ、いつかは勝てるのよ」
鹿野田に軽口で返す恵梨。
そして恵梨は油断しないように、と思考を引き締める。
だが、その思考こそが油断だった。
戦闘人形が剣を持った右手を振りかぶる。
何だ? と一瞬訝しむ恵梨に、
戦闘人形が剣を投げてきた。
「えっ!」
初めてのモーションに驚く恵梨。
投げられた剣は、戦闘人形の馬鹿力と魔力で加速されて、大きく距離を開けていた恵梨にものすごいスピードで迫ってきている。
不意を突かれた恵梨は回避に移れない。
「この!」
遅れながらも迎撃することを選択するが、超スピードで飛んでいる物を剣で対応するほどの技術は無いので、持っていた剣を盾に作り変える。
盾を構えた瞬間、もの凄い衝撃が恵梨を襲った。
「きゃっ!」
飛んできた剣から何とかガードに成功するも、衝撃に盾を跳ね飛ばされる恵梨。
そして盾の無くなって前の見えるようになった視界に、
すぐ近くまで迫っていた戦闘人形が映った。
剣を投げた後、そのまま走りこんできたのだろう。
またその右手には、恵梨に迫ってくる間に作っておいたと見られる新しい剣が握られている。
盾を弾き飛ばされた恵梨に防御手段は無い。
新しく盾を作ろうにも、おそらくペットボトルを取り出す前に斬られているだろう。
絶体絶命のピンチ。
その恵梨の脳裏に浮かんだのは、彰だった。
ごめんなさい……。最後にもう一度会いたかった。
ここで死ぬことをそんなに無念には思わないが、こいつらが恵梨を殺した後に彰を探しに行くだろうと思うと非常に残念に思う。
しかし剣が振るわれるまでの短い間に恵梨にできることはなく、諦めて目を閉じ、死を受け入れる恵梨。
そこに戦闘人形の剣が振られる音が聞こえて、
カキン、とそれが防がれる音がした。
「えっ……!?」
恐る恐る目を開けると、恵梨に向かって振られた緑色の剣が、同じく緑色の剣で受け止められていた。
その剣を持っているのは、
「もう、大丈夫だ。恵梨」
恵梨に向けて、戦場に合わない穏やかな笑顔をしている彰だった。