百四十三話「体育祭競技決め ジャンケン勝負1」
連日更新四日目!
二学期初めての授業がやっと全て終わり放課後。
一年二組の生徒一同はHRが終わった後も残り、体育祭の競技決めをする事になった。
「というわけで今から体育祭の競技決めを行うが、その前に斉明高校の体育祭について説明を一通り行いたいと思う」
仕切り役は学級委員長の彰。畑谷に渡されたプリントを片手に話していく。
彰の説明を要約するとこうだ。
斉明高校の体育祭は一年から三年の縦割りで、紅軍・青軍・白軍に分かれる。競技ごと、順位ごとに点数が決められており、総合点の高かった軍が優勝である。
開催は九月の第四日曜日。雨天の場合は延期である。
「特に変わったところは無いようですね」
「オーソドックスだと思うな」
説明を聞いた恵梨と由菜の反応。
「というわけだから、さっさと競技決めるぞ。……まずは百メートル走に出たいやつは挙手」
積極的なクラス性のおかげか、誰がやるかと押しつけにならずどんどん手が上がる。そのまま二百メートル走、千五百メートル走とトントン決まっていく。
「あれ、そんな呆けてどうしたの風野さん?」
そんな中、ぼうっとしていた彩香はクラスメイトの女子に指摘されていた。
「……あっ、その……彰がこう人をまとめている姿を見て、普段とは違うなって改めて思ったのよ」
「確かに委員長いつもはふざけているのに、ここぞというときはちゃんと決めてくれるね。……昨日だって風野さんが来る前のことだけど、うるさかったクラスの前に立って一喝してたもの」
「それは見てみたかったわね」
「……そういえば風野さんって、委員長の真面目な部分の方を好きになったの?」
彰を好きになったあの試合のときは、真面目な方だったと思うけど……。
「きっかけはそうだけど、今ではどちらの彰も彰ってことで素敵だと思っているわ」
「ふうん………………ごちそうさま」
「なっ、そんな言い方は無いんじゃないの!?」
あわてるかと思えばのろけ始めた彩香が面白くなかったクラスメイトだった。
「じゃあ次、組対抗リレーに出たいやつ挙手。………………他にいないか? それなら男子は古賀、女子は田中っと」
そして順調に最後の種目である組対抗リレーまで出場選手が決まった。
彰が教室に備え付けられている時計を見る。
「結構早く決まったな……。せっかくだし男子は騎馬戦、女子は五色綱引きのチーム決めをするぞ」
「五色綱引きですか……どういう種目何ですか?」
「あっ、恵梨の中学校では無かったんだ」
「私も聞いたこと無いわね」
体育祭の競技内容は学校によってかなり異なる。由菜、美佳の通っていた中学校では五色綱引きはあったようだが、恵梨、彩香は無かったようだった。
「五色綱引きっていうのは、普通の綱引き同様に対抗戦なんだけど、違う点は最初綱は両チームの中間地点に五本の綱が置かれているのよ。それで開始の合図とともに走り出して、自分の陣地に綱を多く引き入れた方が勝ちってわけ」
「面白そうですね」
「普通の綱引きと違って、足の速い選手は有利なのね。……それに三本取れば勝ちってことは、どの綱を取りに行くかをあらかじめ偏らせて人数配分したりとか、いろいろ考えられそうね」
ルールを聞いただけでそこまで読みとる彩香。
「そういえば彩香さんって足は速い方?」
「これでも鍛えているから、平均以上だとは思うけれど」
「じゃあ一つ目の綱に当たるチームは彩香さんを中心にして、先行逃げきりにしましょうか。……他に足早いって人は彩香さんの周りに集まって」
いつも通り女子は美佳がまとめて、五つのチームを作り上げていく。もう慣れた光景であり、美佳の指示に無駄に反発する者はいない。
対して男子。
騎馬戦では騎馬役が三人、騎手役が一人の四人一組を作らないといけない。騎馬役の身長が違うと乗りにくいから、身長順に分かれるところまでは良かったのだが……。
「だから俺が騎手になるって言ってるだろ! ……それに彰に乗られるなんてまっぴらだ!!」
「あのなあ、騎手には相手のハチマキを奪うスキルが必要なんだぞ。だったらこの中で一番器用な俺が騎手になるべきに決まっているだろうか!! ……それに仁志に乗られるなんてあり得ないだろ!」
分かれてからは荒れ放題だった。それぞれのチームで誰が上に乗るかで言い争っている。
本来制止役となるべき彰が率先として場を乱しているので、騒動は止まるところを知らない。
結局、言い争いに決着が付くわけが無く、ジャンケンで決めることになった。
「ここで会ったが百年目。……因縁の対決、決着つけようじゃねえか」
「いや、会ってからまだ五年も経ってないからな」
不遜に言う仁志に対し、彰は至って冷静だ。
「いいじゃねえか、こういうのは気分だ、気分」
「気分で勝てるんだったら、この世はあまりにも楽勝すぎるだろ」
騎手決めジャンケン。
彰が負けたら仁志が騎手になる。……そう、仁志の意のままに動かないといけないということだ。
それが競技中だけのこととはいえ、彰にとって身の毛のよだつ出来事だ。
つまり、彰はこの勝負負けるわけにはいかないのである。
だが、この勝負もらった……!
しかし、彰は勝負の前から勝ちを確信していた。
というのも、仁志のある癖を知っていたからである。
やつはここ大一番の勝負のジャンケンのときは、必ず最初にチョキを出す。……これを知っていて今までどれだけ役に立ったことか。
中学の頃、給食の余りのプリンを勝ち取ったときのことや、掃除当番を押しつけたときのこと、ジュースを買いに行かしたことなどが脳裏をよぎる。
これらの思い出に騎馬戦の騎手になったことも追加される。それで確定だ。
「それでは両者ともに拳を出して」
一年二組において彰と仁志の争いはもはや恒例行事だ。そのためまたか、と呆れる人もいるが、今度はどちらが勝つのかとハラハラしている人も…………居るには居る。
が、いつも仁志が負けているから、いつになったら仁志が勝つのかとか、今回もどういう負けっぷりを晒すのか、という見方をしている人が大半である。
彰と仁志の間にレフェリーがつき、周りをクラスメイトたちが囲みと一種のイベントのように盛り上がっていた。
「また、彰さんと仁志さんはしょうもないことで……」
「もうしょうがないって。諦めるしかないよ」
その中の一団、恵梨と由菜は呆れながらも見ていた。女子の五色綱引きのチーム分けは、男子が言い争っている間に終わっている。
「ビーチバレーの時もチームワークがグダグダでしたものね。……犬猿の仲といったところかしら」
彩香も夏休みのことを思い出す。
「けど、ジャンケンなら仁志さんが勝つ可能性もあるんじゃないのかしら? だって運勝負よね?」
「本来そうなるべきなんですけど……」
「何故か彰、ここ一番で仁志とジャンケンするといつも勝つのよね」
彩香のもっともな疑問は、恵梨と由菜も思っていたようだ。裏に必勝法があるとは思ってもいないようだが。
「それでは今回も彰の勝ちってことね。……まあ、彰には騎馬で誰かを支えるよりも、騎手で相手のハチマキを取っては取りの無双してもらった方がかっこいいし似合っているから、ちょうど良かったわ」
「……彩香よくそんなこと平然と言えますね」
「えっ、いやちょっと思ったことが口に出ただけで」
彩香にはどうやらのろける癖でもあるみたいだ。
「私ならそんな思っても口には出せないよ」
「へえ、じゃあ思ってたってことね」
「い、い、今のは言葉の綾よ! 言葉の綾! 本当はそんなこと全く……いやほんの少し……ちょっとくらいしか思っていないわ!」
「はいはい」
「…………って、美佳今までどこ行ってたの?」
自然に会話に入ってきた美佳に、今さらな問いかけ。
「ちょっと……ね」
それに含み笑いを返す美佳だった。
「みなさん静粛に」
レフェリーの呼びかけに、観客は固唾をのんで見守る。
にらみつけてくる仁志を彰は涼しい顔で見返す。
あたりに充満する緊張感。
その場にいる全員の視線が二人に注目する。
「最初はグー」
そしてレフェリーのかけ声と共に彰と仁志が拳を振り上げ、
「ジャン・ケン・ポン!!」
かけ声にそって振りおろす!
結果。
彰の出した手はグー。
そして仁志が出した手は……パーだった。
「……え?」
「うそ…………!」
「仁志が勝った……!?」
「マジか……やりやがったあいつ……!?」
ジャンケンは運勝負、だと分かっている観客もどうせ今回も彰が勝つだろと決め付けていた。1+1が2であることのように常識だと思っていた。
それだけに場は驚きに包まれるのだった。




