十三話「能力説明2。そして、実験開始」
恵梨の問いかけとはいえない、驚きが口から出ただけといった物にも鹿野田は律儀に対応した。
「この能力、風の錬金術って言うのですか。ええ、いい名前ですね。……さて、あなたから攻撃してきたし、そろそろ実験開始と行きましょうか」
鹿野田は恵梨から攻撃されてもマイペースを貫く。
風の錬金術。
その言葉どおり、恵梨の水の錬金術と似た能力だ。
風を自由に金属化でき、それを自分の半径二メートルほどの範囲、領域内で自在に浮遊、加速、減速することができる。
しかし二つの能力は似た能力だからこそ、その違いが明確である。
水の錬金術は自分で水を用意しないといけないのに対して、風の錬金術は自分の魔力だけで風を起こすことができる。
つまり、水の能力者は能力使用のために水の用意が必要なのに対して、風の錬金術とは自分の魔力で風を起こして、それを金属化できるという自己完結的能力なのだ。また、自然な風でも金属化できる。
彰が聞いたら、「自分で材料を準備するなんて、それもう錬金術といえるのか?」と言いそうだ。
また他にも細々とした違いがある。
例えば、水の錬金術の方が元々水を用意しているだけあって金属化までの時間が早い。対して、風の錬金術は魔力で風を起こした場合、風の収束から金属化までで少し時間がかかる。
また水の錬金術は金属化を解除した後、金属が元の水に戻るため瞬時に再度の金属化ができる。対して、風の錬金術は金属化を解除したとき、風が散開するため再度の金属化ができないなどがある。
しかし、恵梨は思う。
確かに、恵梨は風の錬金術を知っている。
だが、目の前の少年が使ったことに驚いているのだ。
風の錬金術者の、少年、がいるはずがないことを恵梨は知っている。
ありえない物が目の前にいる。となればその詳細が気になる物。
「どうして、その少年が風の錬金術を使えるの!?」
よって、恵梨は目の前の鹿野田を問い詰める。
「ええ、例によってそれは機密です。はい、すいません。……ただこの少年の正体を実験の説明と一緒にしましょう」
「……正体?」
「はい。この少年は、わが科学技術研究会、能力研究部門の総力を結集した者。主の命令に従い、破壊行動、戦闘行動を何でもとります。
名前を戦闘人形と言います」
「戦闘人形……?」
確かに言われてみれば、自分の話がされているのに全く反応しないという、人間らしくない反応をする様は人形のようで、それが戦闘用なのだから戦闘人形だ。
フルフェイスメットで顔は見え無いが、立っている様子からも全く生気が感じられない。
不安になった恵梨は次の質問をする。
「それ、一応人間なのよね?」
「はい。ただ、人間らしい反応はしませんが」
恵梨は理解するも、納得できない。
何を持って人間は、人間であるのか?
霊長類ヒト目ヒト科なら、それは人間なのか?
動物と違って自分の意識や心があることこそが人間なのではないか?
そんなことを思ってしまうも、鹿野田は悠長に考えさせてくれない。
「実験というのは、こいつの調整後の稼動テストです。ちゃんと命令通り行動できるのか? 上手く戦闘できるのか? というのをあなたを殺すということで試させてもらいます。……なるべく長く生き残ってくださいね。はい。そうでないとテストになりませんので」
鹿野田は物騒な実験内容を、先生が化学の授業でする実験を説明するがごとく、説明する。
当然、恵梨には逃げるという選択肢もあるはずだ。
しかし恵梨は、その選択肢を取る気はさらさら無い。
彰の身で実験すると言われている以上、ここで逃げたら鹿野田は彰を探しにいくかもしれない。
恵梨は、自分の身から出た錆で彰が傷つくことを許せない。
ゆえに残る選択肢、ここで鹿野田と戦闘人形を倒して彰のことを諦めさせること。
それしかない。
恵梨はペットボトルを逆さにして、落ちた水を金属化。さっきは刃渡り五十センチほどで少し長いナイフのような、投擲用の剣だったが、今度は手に握って使うため刃渡り一メートルほどの、装飾も何も無い剣を作り出して右手に握る。
戦闘人形は横に右手を突き出す。その手に風が収束。金属化すると、その手には一瞬で剣が現れたように見える。恵梨と同じように刃渡り一メートルほどの剣だ。
「何だあれ?」
「目の錯覚じゃないよな?」
「いきなり剣が現れた?」
表面上には冷静な対話に見えて興味を失ったので、さっきよりは野次馬が減ってはいるが、それでもまだ何人かが三人の周りにいる。
それが騒ぎ立てるも恵梨、鹿野田、戦闘人形は、関係がないと言わんばかりに無視する。
「はい、いいですよ。戦ってくれるんですね。ありがとうございます。……ただ負けるのは目に見えていますが」
「そんなのやってみなきゃ分からないわよ」
恵梨は剣を構える。
戦闘人形も同様に剣を構える。
「戦闘人形! その女を殺してしまいなさい!」
その合図とともに、戦闘人形が前に踏み込む。
「それでは、実験開始です」