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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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エピローグ

「高野彰……?」

 サーシャから風の錬金術者の名前を聞いた鹿野田は、その名前を復唱する。

 どうして自分はこの名前が気になるのでしょうか、はい。名字だけじゃなくて、名前全体が気になるのは何故……


「あ」


 そして鹿野田は記憶を全て思い出した。


「ああああああ!! はい、そういうことだったんですか! 何か忘れている気がすると思ったら……! これが噂の異能力者隠蔽機関の『記憶メモリー』ですか! 実にすばらしい!」

「……すまない、私にも分かるように説明してもらえないか?」

 いきなりテンションを上げられた鹿野田についていけないサーシャが説明を要求する。


「いいでしょう! いいでしょう! 存分に説明しますしょう!」

 そのテンションを維持したまま、鹿野田は四月に戦闘人形ドールと戦ったのが彰であること、そのことを異能力者隠蔽機関によって思い出せなくさせられていたことを語る。


「そうか。……私が回収する直前にそんなことがあったのだな」

 四月の実験の時、サーシャはモーリスに事件を起こさせるための仕込みで忙しかったため、鹿野田の実験には移動手段としてしか関わってなかった。

 ……そういえば実験が終わって回収する際、異能力者隠蔽機関がいたな。あのときすでに鹿野田は『記憶メモリー』をかけられていたのか。



「それでどうするんだ、高野は」

 記憶の戻った鹿野田にサーシャは聞く。


「最初は戦闘人形ドールのために彼で実験するつもりでしたが、はい、戦闘人形ドール完成目前の今、殺してかまわないでしょう」

 鹿野田はためらいなく言った。

 それを予想していたサーシャは提案する。


「それなら良い舞台を用意しているが、話してもよいだろうか」











 黄龍ファンロン日本拠点にて。


「くそっ、ほとんど焼けてしまったな……」

 本俊ベンシュンは煙のにおい残るその部屋に佇んでいた。 

 その部屋には本来、科学技術研究会兵器部門との取引に使う武器が納められていた。が、雷沢の手によって燃やされて、きちんと使えそうな武器は片手で数えられるくらいしか残っていない。

 本俊ベンシュンは彰との再戦を蹴ってまで消火活動に励んだが、無駄だったというわけだった。

「ちっ、また武器を集め直すにしても時間はねえし。……どうしたもんか」


 途方に暮れる本俊ベンシュンに、やってきた部下が声をかけた。

「すいません、組長。姐さんから電話です」

「サーシャから?」

 あの野郎、俺がどれだけ怒っているのか分かっていて電話をかけているのか? 取引を駄目にしたのは、ほとんどあいつのせいだぞ。

「あ、姐さんから伝言でして、怒鳴り声を聞くのは面倒だから怒りを冷ましてから出ろ……」

「はあ?! あいつ、自分がどんなことをしたのか分かって言っているのか」

「分かっているからこんなことをしている。おまえが得する話を持ってきたから、まあ聞いて見ろ……っとここまでが姐さんの伝言です」

「………………」

 本俊ベンシュンがキレて言い返すタイミングまで読み切ってのサーシャからの伝言。手の平の上で転がされて本俊ベンシュンは腹ただしかったが、それでも疑問に思った。


 俺が得する話って何だろうか?













 科学技術研究会、兵器部門にて。


「どういうことだ! 金を払えば何でもするんじゃなかったのか!?」

 とある男は憤るが、その相手は画面の向こう側にいる。当然、聞こえてるわけがない。

 それでもそんなことをしてしまったのには、こんなメールのやりとりが黄龍ファンロンとの間にあったからだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 取引中止だ。


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 いきなりどうした? 冗談にしても笑えないぞ?


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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 冗談じゃない。本気だ。おまえらに渡す予定だった武器が燃えてしまって使い物にならなくなった。


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 それはおまえらの管理が甘かったということか? まあ、どんな理由にしろおまえらが悪いんだろ。こっちはその武器で研究するスケジュールまできちんと決まってるんだ。その損害どうするつもりだ?


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ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 損害請求? それはこっちのセリフだ。

 おまえらに因縁がある高野彰だとかいうやつの仲間によって、武器を燃やされたんだぞ。つまり取引中止になったのもおまえらのせいだ。……ちっ、拠点は燃やされるし、こんなところと取引しようとするんじゃなかったぜ。

 じゃあな。もう二度とメールするな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 その後いくら男がメールしても、黄龍ファンロンの方は応えてくれなかった。

 こんな取引を任されているが、男は組織の中での役割は中間管理職みたいなものだ。取引中止になったと言ったら上から何を言われるか分からない。


 歯ぎしりしながら、その男は怨嗟の声を呪いのように唱え始めた。


「くそ、くそ……! 金さえ払えば何でもするんじゃなかったのかよ……! どうしてこうなった…………?

 そうか全部、全部この高野彰とかいう奴が悪いんだ! 誰なんだよ、こいつは! ……ああ、殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる………………」













 再び、黄龍ファンロン臨時日本拠点にて。


「それで取引中止を言ったが、これで良かったのか、サーシャ」

「ああ、完璧な仕事だ」

 本俊ベンシュンは、仕事を確認しに来たサーシャに対して聞いた。


 本俊ベンシュンが、金になるはずの取引を武器が燃えたからといって簡単に諦めたのは、サーシャからある話を持ちかけられたからだった。


「しかし、兵器派のやつらにあのガキを恨ませるだけで、今回の取引分の代金を代わりに払うとは、ずいぶん太っ腹な話じゃねえか」


「元々の予定だった。……これで兵器派のやつらは近い将来、高野を襲うだろう。……頭に血の上ったやつらは、誰かに操られているのではないかと疑うことを忘れてな」

 そう、雷沢が取引に使う武器が入った部屋を燃やすのをサーシャが見過ごしたのは、この時を見越してのことだった。


 こいつは何手先まで読んでいるんだろうか、と本俊ベンシュンは少々畏怖をサーシャに覚えたが、それはおくびにも出さない。

「それにしても何だ、あのガキに執着しすぎじゃないか?」

戦闘人形ドールと同じ能力で、データが取りやすいからな。それに次の計画は一石二鳥の計画であるから、そう高野にこだわっているというわけではない」

「……まあ、金がちゃんともらえるならどうでも良いけどよ。ただ、あのガキどもと再戦できないのは残念だな」


 兵器派に狙われた以上、彰の命はもう無いものだと思っていいだろう。そのことを本俊ベンシュンは分かっていたから、勝ち逃げされることだけがこの話を受けたくない理由だった。

 しかし、彼も黄龍ファンロンに所属しているだけあって、金の前には戦闘狂の血も収まるのであった。


「それで金はどうやって払うんだ? 現ナマか? それとも振り込みか?」

「その話だが……少し待ってくれないか。あいにく手元にそれだけの額がない。近い内に金が入る予定だから、それからということで」

 借金を払えない人の常套文句のようなサーシャの物言い。だが、先の展開まで掌握しているサーシャのことだ。彼女が近い将来金が入ると言っているのだから、本当に入るのだろう。


「分かった。まあ、こんな破格の条件の話だから、少しくらいは待ってやる。……しかし、分室のおまえらがよくそんな金を用意できるよな?」

 科学技術研究会の分室である能力研究部門の予算は、兵器部門の予算に比べると雀の涙ほどの額だ。兵器派が平気で支払える額でも、能力研究部門にはかなりの出費となるはず。


「くくく。まあ、実際に金が入ったらどうやったかは教えてやろう。……それではな」


 その言葉を最後に、サーシャは消えた。


 『交換リプレイス』で入れ替わったボールペンを、本俊ベンシュンは拾う。

「ははっ、あのサーシャの立てた計画に限ってないとは思うが……生き残れよ、ガキども。……そしてまた再戦しようじゃねえか!」

 そして彼なりの歪んだエールを彰たちに対して送った。












 そして科学技術研究会、能力研究部門に戻る。


「というわけで、兵器派のやつらが高野彰を殺してくれるでしょう。そしてやつらが高野たちを殺せても、殺せなくても……」


 サーシャは鹿野田に次なる計画の全貌を語る。


 全てを聞いた鹿野田は感心した。

「ふむ、サーシャはよく考えてますね。はい、すばらしいです。そのまま計画を遂行してください」

「承知した」

 鹿野田に誉められたことに胸を高鳴らせながら、サーシャは返事する。


 ああ、同じ誉め言葉なのに、何故鹿野田に誉められると嬉しいのだろうか?

 その美貌、頭の良さから賛辞を受けることが度々あったサーシャだが、今ほどの喜びを感じたことはない。

 この理解できない感情……これこそが恋。何たる喜びだろうか。


 ピピピ。ピピピ。

 と、その陶酔を打ち破るように、着信音が鳴ってメールが入ったことを知らせる。

「……はあ、そろそろだと思った」

 文面を見るなり、落胆するサーシャ。


 そのメールの送り主は兵器派の一人で、内容は高野彰という人物を知らないか? とのことだった。

 恐らく本俊ベンシュンからのメールを受けて、高野たちとの因縁に調べたがそんなもの存在せず、それなら同じ組織の別部署が持ち込んだ因縁ではないかと思い至ったのだろう。

 全く持って予想通りの動きでしかない。


 サーシャは自分たちが因縁を持っていること、高野たちが能力者であることを教えてやった。これで兵器派は高野たちを殺しにかかるだろう。

 彼らにとって能力者とは、殺しても良い人間という認識だから。



「全く次の計画も順調に行きそうだな。……順調すぎるが」

 サーシャにとって予定通りとは、つまらないものでしかない。

 そういう意味では今回の計画は良かった。雷沢が私の正体を見破るというイレギュラーがあったからな。あれは本当に予定外過ぎて良かった。

「……次の計画もあれくらい予想外なことが起きるといいのだが」

 鹿野田の命令のため、次の計画も失敗するわけには行かないのだが、サーシャはそんなことを思うのだった。






 <五章 夏祭り、後の祭り 完>








 偽りの安寧は破られ、再び研究会に追われる身となった高野彰と水谷恵梨。

 これにて0th season『異能力者のいる日常』は閉幕。


 そして――


「そのデータの時の俺と、今の俺を一緒だと思うなよ」「科学技術研究会、兵器派所属、外部研究員の――」「第二ラウンドを始めるとするか、ガキどもよお!!」「殺す、殺す、殺す、殺す、戦闘人形ドール!!!」「あの家族を壊した罪、償ってもらいます!!」「駄目だね~。あの子に『記憶メモリー』を使うわけにはいかない」「認めよう、私は――」「能力者の能力とはどこに宿ると思いますか、はい」「最後にもう一つ質問…………どうしてそんな嘘をつくの?」「あのころの俺は、自分のしてることが周りにどういう影響を与えてるか、分からないガキだったんだよ」



戦闘人形ドールの正体。それはですね――――――――」





 1st season『科学技術研究会』の幕が開ける。




















 恒例の次章予告!


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 長かった夏休みとそれに付随する宿題も終わり、二学期が始まった。

 斉明高校一年二組は二人の転校生を迎えて、十月にある体育祭の準備を進める。

 平和な日常。


 だがしかし、それを壊す者は近づいてきていた。


「考えろ、でないと生き残れないぞ」

 科学技術研究会、兵器派の報復、そしてサーシャの策略を前に彰たちは生き残れるのか……!



 1st season『科学技術研究会』一章目、第六章『体育祭、自覚する気持ち』開幕!!



「私の情報だと、何か今日転校生が来るみたい」

 転校生は誰だ!?


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