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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百二十九話「旅行二日目 夏祭り騒動8 黄龍幹部、李本俊との戦闘2」

 行く先に人がいる。雷沢は背後から慎重に忍び寄って能力を発動した。

 バチッ!!

「……これで三人目か」

 雷沢は気絶させて倒れた人を見てつぶやく。

 彰くんと火野くんが囮となったとはいえ、拠点内にはもともと結構な人がいたのだろう。気絶させずにやり過ごした人間も合わせればもう五人目だ。


 雷沢は現在サーシャの案内の元、黄龍ファンロンの拠点を進んでいる。目指すは取引物資を納めている部屋なのだが、もう十分ほど歩いているがまだ着かない。敵が現れないか警戒しながら進んでいるのだから、必然スピードが遅くなるのはしょうがないことだった。


「……着きました、この部屋デス」

 と、思ってたらちょうど到着したようだ。

「このドアは……」

 サーシャと雷沢の目の前あるドアは、これまでに見てきたドアとは少し違った。

 このドアだけは厳重な電子ロックがかけられているのだ。専用のカードキーがないと開かない仕組みらしい。


「さすがに重要なものが入っているだけ警戒が強いってわけか」

「そうみたいデスね。……しかしこれでは拠点内にあるでしょうカードキーを探さないといけまセンね」

「いや、その必要はない」

 雷沢は電子ロック部分に手を触れて、能力『電気エレクトリック』を発動。

 数秒後。

 ピー、ガチャ、と電子音が鳴って扉のロックが解除された。


「……エッ!?」

「僕の能力は電気を扱う能力だ。その応用としてこういうこともできるんだ」

 雷沢は能力『電気エレクトリック』をスタンガンのように使っていたが、どちらかというとこういう使い方の方が真骨頂だ。電気やネットの世界では向かうところ敵無しである。


「わざわざ電子ロックとは、僕からすれば開けてくださいといっているようなものだ。……警戒しすぎたのが仇となったな」

 雷沢はドアノブを回す。


 二人は取引物資が納められている部屋に侵入した。








 空中の二本の剣で同時に本俊ベンシュンを斬りかからせる。


 右から左からと迫る剣を本俊ベンシュンはスライディングをするように体勢を低くすることで避けた。


 それを読んでいた彰は、本俊ベンシュンの頭上に新たにナイフ生成して落とす。


 窮屈な体勢だというのに、本俊ベンシュンはそれを身をよじりながら立ち上がってかわす。


 自らの間合いに入った本俊ベンシュンを彰は手に持った剣で斬りかかる。


 本俊ベンシュンは紙一重でそれをやり過ごし、彰の足下を狙い鋭い蹴りを放つ。


 機動力を削がれては厄介だと、彰は盾を作り出してそれを受け止めようとする。


 しかし、蹴りは盾に当たらず空を切る。


(しまった、フェイントか!!)

 蹴りを放つためにひねった体を、勢いそのまま一回転させて本俊ベンシュンは彰を殴りつける。


「っ……!」

 肩に食らった彰は、殴打された勢いを殺さずそのままバックステップ。本俊ベンシュンと距離を取る。



 痛ってえな。……まあ、腹とか臑とか人体の弱点にもらわなかっただけ、まだマシだが。

 さっきから何度もこんな攻防が繰り返されていた。

 まるで俺が繰り出す攻撃の軌道が分かっているかのように本俊ベンシュンが前進しながら避け、ガードはフェイントを織り交ぜることで突破して殴られたり蹴られたりする。何とか致命的な部分へ攻撃されないようには気をつけているが、それがいつまで続くだろうか。


「いや……」

 俺のダメージはどうでもいい。問題なのは、相手の能力が皆目検討つかないことだ。

 彰が一方的にやられているのもたぶんその能力が原因なのだろう。しかし、どんな能力だったら今のこの状況を引き起こせるのかが分からない。

 目に見えない空気を操る能力だとか? ……いや、だったら何か違和感を感じるはずだ。

 これまでの攻防を経て彰の直感は、どうもそういう能力発動による常識外の出来事が起きているとは思えなかった。本俊ベンシュンと戦っていて抱く感想が、反射神経が良すぎる普通の人である。


「待てよ。その線はあるな……」

「ダメージも溜まってきたところだろ。そろそろ諦めたらどうだ!」

 しかしそのとき、本俊ベンシュンがまたも地面を蹴った。地面に落ちていた木の葉が巻き込まれて舞う。

「くそっ!」

 彰はそれを受ける体勢を取りながら思考をまとめる。


 本俊ベンシュンにこれまで幾多もの攻撃を浴びせてきた彰だが、一撃たりとも当たっていない。ガードすらされずに全て避けられているのだ。

 しかし、冷静に考えるとそれはおかしいのだ。

 あのモーリスやルークでさえ彰の剣を完璧に避けきったことはほとんどなく、ガードするのが常だった。


 それもそのはずだ。

 達人は相手の挙動を見てどのような攻撃がくるか推測できる、というのは聞いたことがある話だ。それはつまり体の向き、関節の挙動、重心の位置などからどんな攻撃がくるかを予測するのである。

 しかし、能力で空中に浮いている剣にそれを行うことはできない。彰の意志だけに反応して動く剣なのだから当然だ。

 彰自身が斬りかかるときは予測できるかもしれないが、基本的に彰は空中の剣で先に攻撃して、体勢を崩した後に自身が攻撃するので完璧に避けきるのは難しい。


 が、本俊ベンシュンはそれをやってのけている。

 予測ができない以上、普通に剣がやってくるのを見てから避けている、そう考えるしかない。

 それを成し遂げるためには何が必要か?

 答えは常人以上の反射神経だ。

 つまり、本俊ベンシュンの能力は反射神経を強化する能力ではないだろうか?




 本俊ベンシュンにまたも同じように全ての攻撃を避けられて、フェイントでガードを無力化されて足を攻撃される彰。

 思えばこのフェイントも、本当はフェイントではないのだろう。恐らく並外れた反射神経によって、相手がガードするのを見てから攻撃の軌道を変えているに違いない。

「ぐっ……」

 吹き飛ばされた彰はそのまま距離を取ろうとするが、

「ちまちま逃げやがって。面倒なガキだな!」

 一息つかせる間も与えまい、と本俊ベンシュンが追ってくる。


(この野郎、さっきから休み無く攻撃してきやがって。……だがそれもここまでだ。反射神経が強化されていると分かれば対処方法はあるんだよ!)

 これまでと同じように二本の剣で牽制。当たり前のように避けて前進してくる本俊ベンシュンに対して、ナイフを作り出して足下に向けて投射する。


 そう、圧縮金属化で作ったナイフを。


(見てから反応するのであるなら、見えたときには手遅れな攻撃を行えばいい……!)

 暴風で作られたナイフは解除された瞬間にそれを外部に解放する。これまで圧縮金属化を取っておいたので事前に予測するのは不可能だし、見えたときには風に巻き込まれているので反射神経も役立つわけが無い。体勢を崩した本俊ベンシュンを一撃の下に終わらせれば彰の勝ちだ。


 ナイフが本俊ベンシュンの足下に近づく。

「解――」


「……!? ちっ!!」

 

 暴風に戻そうと彰がナイフとの魔力的繋がりを切ろうとした瞬間、これまで前進しかしてこなかった本俊ベンシュンが初めて後退した。


「――除!!」

 とはいえ本俊ベンシュンが吹き飛ばされることには変わりない。が、先に後退していたためその方向は彰から遠ざかる方向だ。

「くっ……!」

 自分で斬りかかろうとしていた彰は、彼我の距離が開いてることからそれを断念。やむなく持っていた剣を本俊ベンシュンに向かって投げる。


「このガキが……!」

 よけようとする本俊ベンシュンだが、暴風にさらされたため足下がおぼつかない。

 スカッ!

 結果、本俊ベンシュンは剣を避けきれず初めて攻撃を食らうことになった。……といっても服が少し切れただけだったが。


 本俊ベンシュンは切れた服を見て笑った。

「…………はっ! 面白えやつじゃねえか。カス当たりとはいえ、この俺に攻撃を当てるとは久しぶりのことだぞ!」

 この男、どうやら戦闘狂バトルホリックな一面もあるようだ。

「魔力を切った瞬間に発動するとは不意を打たれたな。……察するにおまえの能力は風を媒介に金属物を作る能力ってところか。生成物に込める風の量は調節可能で、だから魔力の繋がりを切った瞬間、暴風に戻ったってことか」

 起こった現象から、彰の能力を完璧に看破してみせる本俊ベンシュン



 だが、彰はそのことに構う余裕がなかった。 

「何故、本俊ベンシュンは今の攻撃を避けることができたんだ……?」

 見てから反応したのでは間に合うはずがない攻撃。しかし、本俊ベンシュンはナイフが解除される前に後退していた。

 このことから導き出される結論は一つ。


 やつの能力は反射神経を強化するものではない……ってことか。

「落ち着いて考えてみると、それもそのはずだな」

 最初の攻防、本俊ベンシュンは背後から迫っていた彰のナイフを見ずに避けた。しかし、どんなに反射神経が良くても見えないものに対処ができるはずがない。

 それに彼の部下が言っていた頭文字が『み』である能力に関わっているだろう何かも思いつかない。

 戦闘しながら考えてたから……ダメージが溜まって来ているから早めに決着をつけようと、ずさんな推理を行ってしまった。


「だが、今度こそやつの能力の正体が判明した……」

 彰の頭の中は、今の本俊ベンシュンが圧縮金属化を避けたのを見たことによってすっかり整理されていた。

 前提として、本俊ベンシュンはやっぱり能力で俺の攻撃を避けるサポートをしている。ルークにもモーリスにもできなかったことをやっている以上、これは間違いないはずだ。

 しかし、それは反射神経の強化ではない何かだ。俺の攻撃を見切ることができるだけでなく、背後から迫っているナイフや、前兆のない圧縮金属化さえ避けることのできる能力。 


 彰はモーリスの事件の時に聞いたルークの言葉を思い出していた。


『能力という常識を越える力が振るわれる世界で、常識的に物事を考えたらいけない』


「……そうだな、その通りだよ」

 常識を取っ払ってみれば、彰はすでに答えを思いついていたのだ。 


『まるで俺が繰り出す攻撃の軌道が分かっているかのように本俊ベンシュンが前進しながら避け……』


『まるで』?

 違う。

 本俊ベンシュンは実際に彰の攻撃の軌道が見えているのだ。頭文字の『み』の説明も突くし、これで合っているはず。


 つまり、やつの能力は――



「おまえの能力は未来が見える能力じゃないのか?」



「当たりだ。……で、それがどうした?」

 再度の接近。

 本俊ベンシュンは自身の能力が見破られたというのに全く変わらない。


「せっかく見抜いたんだぞ。驚きぐらいしてくれたっていいのに……!」

 だが、本俊ベンシュンのその反応もうなずけるところはある。

 未来を見ることのできる能力。それは強力な能力だ。

 圧縮金属化に反応したタイミングから考えると、おそらく0.5秒くらい先の未来しか見えないのだろう。そんなの生活ではほとんど役に立たないだろうが、戦いの中での効果はこれまで彰が苦戦したとおり絶大である。

 そしてさらに厄介なのが、未来を見ていると分かったところで対処方法がほとんどないことだ。だからこそ本俊ベンシュンも余裕の態度なのだろう。


 事前に察知するという意味では、驚異的な第六感を持つモーリスと戦ったことのある彰。あのときは人間の学習能力を使って不意を突いたが、今回それは成功しない。

 本俊ベンシュンにはどんなに不意を突いたところで、攻撃が届く未来を見られてしまえば対処されてしまうからだ。



 本俊ベンシュンの能力、未来を見る能力に死角は無い。

 それゆえに、今の彰に本俊ベンシュンを倒す術は無い。

 だが彰は本俊ベンシュンを倒すことを諦める気は無い。



(俺自身だけじゃ倒す術が無いのなら、そこは策を立ててカバーだ)

 未来が見える能力だと判明したところで、彰は二つの策を思い付いていた。どちらも上手く決まれば本俊ベンシュンを倒せるはず。だが、そのために必要な物がここにはない。

 なので彰は戦いながら移動して、本俊ベンシュンをある地点にまで移動させるつもりだった。

 その間に未来を見る能力によって彰のガードは突破されて、またダメージは溜まるだろう。


 そんなことは承知済みだ。


 俺が音を上げるか、あの地点に着くか、どちらが早いかの勝負。

「負けるつもりは無い!!」

 彰は接近してくる本俊ベンシュンに牽制のため剣を繰り出した。

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