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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百二十八話「旅行二日目 夏祭り騒動7 黄龍幹部、李本俊との戦闘1」

 能力者同士の戦いにおいて、相手の能力を理解しているかどうかが勝敗を分けるといっても過言ではない。


 火野と一戦目のときは奥の手である念動力サイコキネシスを知らなかったため彰は負けた。それを知ったからこそ、二戦目のときは自らを囮にして恵梨に攻撃させることで勝った。


 モーリスのときは風の錬金術によるナイフの空中制御だとか圧縮金属化で裏をかいて隙を作った。最終的にはルークの奥義『身体二倍ボディダブル』でモーリスを取り押さえた。

 どちらもモーリスが知っていたら隙など作れなかっただろうし、逃げられていただろう。


 今回の敵、黄龍ファンロンの幹部、本俊ベンシュンの能力を彰たちは知らない。使われるうちに相手の能力を理解できるかもしれないが、少なくとも一番最初は不意を突かれるだろう。

 そしてそれは相手、本俊ベンシュンには適用されない。

「……空中にいきなり剣が現れて、それが自由自在に宙を動き回って…………」

 彰と火野は今まで彼の部下と戦っていた。今、その部下から俺たちの能力がどんなものなのか本俊ベンシュンは聞いている。



 彰は剣を持つ手を強く握りしめる。

 くそっ、相手の能力が分からないって本当に恐ろしいな……。今まで俺が戦ってきた敵もこういう気持ちだったのだろうか。

 とりあえず最初は防御を重視していかないと。一番怖いのが初めて能力を使うときだからな。

 そして攻撃の面では、ナイフの空中制御はバレたから彰の持っている手札はあと一枚。風の圧縮金属化だ。そろそろ使おうと思ってたが、使う前に本俊ベンシュンが現れて良かった。



 彰は本俊ベンシュンの方を見る。

「……生成と作った物体の操作か。……相手の身体能力はどうだったか?」

「普通のガキと変わらないレベルです」

 本俊ベンシュンが話を聞き終わるまで少し時間があるようだ。……駄目元で良いから少し探ってみるか。

 彰は一芝居打つことにした。


「ま、まさかこの極東で恐れられている能力者、本俊ベンシュンに会うなんて!? くっそー、あいつの能力……えっと、……えっとなんだっけ? あれはどうやって対策すればいいんだ!?」

 敵に聞こえるように少し大きめな声で、大げさに話す彰。


 案の定、頭の足りない部下の一人が反応した。

「ははは! 組長の能力は対策不可能だぞ!! 何せ、み――」

「黙れ。敵の芝居だってことが分からないのか?」

「……す、すいません」

 本俊ベンシュンが口を滑らせかけた部下に冷たい声で言い放つ。

「……ちっ! あともう少しで分かるところだったのにな」

 彰が舌打ちをするが、それでも少しは情報が入った。

 相手の能力が対策不可能ということ。頭文字が『み』である何かが関わっていること。

「……」

 何も分かってないに等しいな。


「油断のならないガキだな」

 本俊ベンシュンが彰をそう評価する。

「バカな部下を持つと苦労するだろ?」

「おまえみたいな頭の回る部下が欲しいところだが敵だからな。……さて、もういい。おまえら全員拠点に戻っていろ」

 本俊ベンシュンが部下たちに帰還命令を出す。

「助太刀しなくていいんですか?」

「……ほう? 俺一人ではあのガキどもに勝てないと、そう思っているのか?」

「め、滅相もございません! ただちに帰還します!」

 部下があわてて返事する。

「それと帰ったら拠点内部を全体捜索しろ。こいつらが囮で仲間が進入している可能性がある」


「…………」

 彰はその言葉に危惧を抱く。

 やっぱりその可能性は疑うよな。このままじゃ雷沢さんたちが危ないかもしれない。

 だが、本俊ベンシュンに囮作戦が見破られているまでは行ってないはずだ。あくまでその可能性があると思っているくらいだろう。

 確定していないなら捜索も緩むかもしれない。ここはポーカーフェイスを保って


「な、何で囮作戦がバレてるんや!?」


 このバカが!

「どうやらこいつらが囮で確定のようだ。内部をくまなく探せ」

「はっ!!」

「火野! 何で反応したんだよ!?」

「え? だってバレたと思ったから……」

 本俊ベンシュンも鎌をかけるつもりはなかったはずなのに、わざわざ引っかかりやがって。……だから火野と行動するのは嫌だったんだよ!


 部下たちが拠点のある方向に戻っていく。それを見送りなど当然せずに、本俊ベンシュンは口を開いた。

「バカな仲間を持つと大変だろ?」

「本当にそうだな……。敵だけど同意するぜ」

「同意するなや!!」

 火野が吠えるが、だったらもう少し賢くなれ。




「……さて、言葉はこれぐらいにして、さっさと戦いを始めるとするか」


 本俊ベンシュンがそう言った瞬間、周りの空気が引き締まった。

 彰と火野も剣を握り、体を緊張させてすぐに戦闘態勢に入る。

「……と、思ったが一つだけ言っておこう。簡単に勝ってもつまらないからな。ハンデをやる」

「ハンデ……?」


「ああ。俺は能力を使わないでおまえら二人を倒す」


「……何?」

「それではスタートだ」

 言葉が終わるとともに本俊ベンシュンが走り出して死闘が開幕した。




 どういうことだ? 能力を使わないんだったら、こいつの部下と戦ったときと同じだろ……?

 戦闘が始まったが、彰は本俊ベンシュンの言葉の真意を考えていた。

 本俊ベンシュンは本当に普通にこちらに向かって走ってきていた。身体強化されたようでもないし、何か変わった現象も起こしていない。


「舐めているんか? おまえなんて返り討ちにしてやるわ!」

 威勢良く言って火野が前進し迎撃に向かう。

「気をつけろよ、火野!」

 思考に気を取られて出遅れた彰。

 一応火野に注意をして、この攻防では彰はサポートに徹することにする。


 その傍らで思考は続ける。

 こちらは相手の能力を知らない。それは大きなアドバンテージだってのにわざわざ捨てるってどういうことだ?

 ……まさか火野の言葉通り、本当に舐めているのか?

 大人であり、プロである本俊ベンシュンがそんなことをするのだろうか?

「………………」

 彰は首を振る。

 ……考えても仕方ない。今は火野のサポートだ!


 彰は風の錬金術を発動。風を起こし収束させ金属化。ナイフを二本作る。

 圧縮金属化で体勢を崩して一気に勝負を決める選択肢もある。が、相手の能力も分かっていない今はまだ早いと普通のナイフだ。


 ある程度は取っていたはずの距離をあっという間に詰めあって、火野と本俊ベンシュンが早くも接触。

 まず火野は空中に二本浮かべている剣で斬りかかる。時間差をつけた繰り出したその攻撃を、本俊ベンシュンは一瞬スピードを落とすことによって一本目を空振らせ、二本目は身をこなして紙一重で避ける。


 しかし、まだ終わりではない。

 火野は手に持っていた三本目の剣で横凪ぐ。

 タイミング的に完璧に当たる形。横、後ろどちらに逃げることもできないし、しゃがんで間に合うタイミングではない。


 だから、本俊ベンシュンは剣がやってくる方向と逆の前方に飛んだ。


「何やて!?」

 火野が驚いている間に、本俊ベンシュンは着地。これで火野と本俊ベンシュンはすれ違った形だが、前進しか考えてなかった火野に対して、本俊ベンシュンは着地にグリップを利かせてすでに振り返っている。狙うは火野の背中だ。


「させるか!!」

 そうはさせじと、彰はナイフ二本を魔力で速度をブーストさせて投げる。

 位置関係が代わったので、ナイフは本俊ベンシュンの背中に向かって飛ぶ。


 しかし、奇襲になったその攻撃を本俊ベンシュンは振り返りもせずに細かいサイドステップを二回踏むことでかわした。


 何だと!? あいつ背中に目でもあるのか……!?

「いや、もしかして……」

 彰が何かに気をかける間に、本俊ベンシュンは火野の間合いに踏み込む。サイドステップをさせて稼いだコンマ何秒のおかげで、体勢が整わないにしろ何とか振り向く事には成功している火野は宙にある剣を繰り出す。


 迫る二本の剣。

 本俊ベンシュンは避ける、避ける!


 振りかぶられる剣。

 本俊ベンシュンは避ける!!


 不意打ちで宙に作られたナイフが飛ぶ。

 それすらも本俊ベンシュンは避ける!!!


「くっそ、何やこいつは!!」

 全段打ち尽くした火野。最初の攻防から彰のナイフも合わせて九連撃全てかわして、ようやく攻撃のターンが回った本俊ベンシュンは拳を突き出す。

 剣を振り切ったためどうやっても火野は避けることはできない。しかし、本俊ベンシュンの拳が向かう先に赤の盾が出現する。

 火野が何とか間に合わせた防御がそれを受け止め



 ピタッ。

 る前に、本俊ベンシュンは拳を止めて回し蹴りを放った。



 ズガッ!!

 クリーンヒットした火野が冗談のように吹き飛ぶ。

「ぐあっ……!!」

「火野!!」

 思わず彰が声を上げる。


「おうおう、いいところに入ったな。……それで、おまえは友達のことを心配してる暇があるのか?」

 火野はもう動けないだろうという手ごたえを感じた本俊ベンシュンは火野から彰に攻撃対象を変え、こちらに向かってきている。


「切り替えが早えな……」

 空中に剣を二本生成して近接戦の用意をする彰。

 開幕してからわずかだってのに、火野がやられるなんて。

 これで唯一こちらが勝っていた数の有利が無くなった。

 が、今の攻防。何も収穫が無かったわけではない。

 本俊ベンシュンが迫るわずかな間に、彰は先ほど気づいたことを口にした。


「おまえはすでに能力を使っている。そうだろ!!」


 本俊ベンシュンは未だに見た目は何も変わらない。肉体強化されたスピードを出しているわけでもない。

 それでも彰の能力者としての感覚が告げていた。本俊ベンシュンの魔力が常時消費されていることを。


「それがどうした。遊びじゃないんだ。ブラフぐらい使って当然だろ」

 本俊ベンシュンはバレたことを気にも止めず、足も止めずあっさりとしている。



 能力を使わない宣言。あれはこっちを油断させるためのものだったのか……。

 彰は今さらながら気づく。

 舐めていたのは相手じゃなくて、こちらだったというわけか。……警戒はしていたけど、見た目には何も変わらなかったから騙された。


 これで彰と本俊ベンシュンの一対一。

 魔力が常時消費されていること、見た目には何も変わらないことが分かったとはいえ、それだけでは相手の能力が何か見当もつかない。


 相手の能力が分からないということが、これほど大変なことだったなんて……!

 彰が悔やむも敵は待ってくれない。本俊ベンシュンはすぐそこにまで迫っている。

 やつの能力は何なのか。今の火野との攻防に何かヒントはあるはずだ。考えろ、限界まで考えろ。それが分からない内は戦いにならない!




 ただでさえ火野を速攻で攻略したほどの腕前の敵なのに、それに加えて彰は敵の能力の謎解きをしないといけない。

 苦しい戦いはまだ始まったばかりだ。

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