十二話「決意」
「私が能力者だから……!?」
衝撃的な事実に頭がくらくらしてきた恵梨。
「ええ、そうですよ。少し能力者の検体が多く欲しくてですね。……心配しなくていいですよ。死んでてもちゃんと検体として使えますから」
「っ……!」
「しかし何で目撃者だから、という理由で殺されると思ったんでしょうか? ……ああそうか。機密が漏らせないということで、組織の部外者である追っ手達にはそう言った覚えも……」
鹿野田がぶつぶつとつぶやくが、恵梨はそれを聞いてなかった。
ええと。
恵梨は混乱した頭の中を制御しきれず、思いが溢れる。
つまり、あいつが言っているのは両親が能力者だったから殺して。
私はそれを目撃したって理由じゃなくて、同じく能力者だからという理由で殺される……ということらしい。
能力者。そういえば、何で私は能力者なんだろう?
両親は何故この能力を私に遺伝させたのだろう?
そういえば何か理由を言っていたかもしれないが……思い出せない。
けれど、何だって関係ない。
私はこの能力のせいで命を狙われているんだから。
今までは能力を持っていても関係なかった。
能力によって悪いことも無ければ、良いことも無かった。
プラスマイナスで0(ゼロ)だった。
けど今は、はっきりこの能力のせいで私は追われている。
これではマイナスだ。
私が能力者だったから、彰さんは巻き込まれた。
私を家族として迎え入れてくれた優しい人なのに……。
ごめんなさい。
謝っても謝りきれないけど、ごめんなさい。
私に巻き込まれて、あんな場面を見たから……。
「……ん!?」
つらつらと流れる思考の中で、一つ恵梨は発見する。
そういえば彰さんが殺される理由は、私が追っ手と対峙しているのを見たからだった。
つまり、目撃者は殺すという理由が無くなった今、能力者でない彰が殺される必要は無いはずだと。
「良かった……!」
それは恵梨にとって救いだ。
もし私がここで死んでしまっても、彰さんは生きていられる。
彰さんは生きてあの家に帰ることができる。
そして恵梨は覚悟を決める。
私はもうあの家には帰れない。
あの家に居たら、能力者である私が居たら、またこんな奴らに狙われる。
そしたらいつか、あの場所は壊れてしまう。
そんなの嫌だ。
だから。
私は迷惑をかけるだけだから……あの家を守るために、私はもうあの家には帰らない。
恵梨はそう決意して、声をあげる。
「それなら!」
「うおっ! 何ですかいきなり話し始めて」
「彰さんは殺される必要が無いんですよね!?」
そうだ。そのはずだ。
恵梨が思うなか、鹿野田は首をひねる。
そして質問で返された。
「彰? あ、き、ら? ……ああ、あなたの協力者のことですか? そういえば彼はどこにいるんです?」
その言葉を理解することを、恵梨の頭は拒む。
「……何で?」
どうして、彰さんの行方を気にするの?
あなたには関係の無いことだろう?
彰さんは能力者じゃないのに?
「そういえば、彼は近くに居ませんね。……はぁ、また探さないといけないのですか」
くたびれたように言う鹿野田。
「どうして! 彰を探すの!」
「それは彼が」
「彰さんは能力者じゃないのよ! 殺すなら私だけにしなさい!」
恵梨の訴えに、鹿野田は面倒くさそうにして、
「そんなことは無いはずですが……。まぁ、彼は殺しませんが実験に付き合ってもらいます。……しかしなんで、私があなたにそれをやめるよう命令されないといけないんですか? 私の勝手でしょう?」
手を上に向け肩まで上げて、やれやれというジェスチャーをする鹿野田に。
彰に危害を加える発言を聞いた恵梨は、もう我慢ができなかった。
「もういいわ」
恵梨は持っていたペットボトルのふたを開けひっくり返す。
水は空中にとどまり、剣の形に変わり、そして金属化。
刃渡り五十センチほど、装飾も何も無い青色の剣が空中に浮かんだ。
恵梨の能力、水の錬金術だ。
「何だあれ?」
「手品か?」
「水が……浮いた?」
さっきから剣呑な雰囲気だったり、叫んだりで、恵梨と鹿野田は公園内の人の注目を集めていた。
野次馬から恵梨の能力に対してそんな声が流れる。
しかし恵梨はそんなこと眼中に無かった。
「死になさい!」
空中に浮いていた剣は、恵梨のその合図で加速を始める。
剣の切っ先は四、五メートルほど離れて対峙していた、鹿野田に向けられている。
恵梨の半径二メートルほどの領域内で加速して、そのまま飛んでいく。
しかし、鹿野田は何故か余裕の表情だ。
残り三メートル、二メートル、一メートルと剣は鹿野田との距離を縮めて。
恵梨が勝ったと確信して。
そして、鹿野田の五十センチメートルほど前で剣は阻まれる。
「え!?」
恵梨は驚く。
青色の剣が弾かれて、飛ぶ様が目に映る。そこには何かがあった。
そこには緑色をした金属の壁が浮いていた。
ありえないことにその壁が突如、剣の進路上に現れたのだ。
そして恵梨の剣は壁に弾かれた。
壁が突然空中に現れる。
普通は不可能なことのように思える。
が、恵梨はそれができる方法を知っていた。
しかし、それでもありえないと判断する。
……だが、現に緑色をした壁はそこにある。
だから恵梨は認めるしかなかった。
「ふう、危なかったですね。よくやりましたよ」
鹿野田は、隣の顔を隠された少年の功績を称える。
恵梨は今まで存在を忘れていたその少年を指差す。
「その少年、風の錬金術者なの……!?」