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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百二十五話「旅行二日目 夏祭り騒動4 囮作戦1」

「はあ、本当に火野君はアホですね」

「トイレに行くまでの間に落としたのかな?」

「そうでしょうね。トイレに行く前に財布を開いて残金を確認していたのを私は見たわ」

 彰から一斉にメールが届き、それを見た恵梨、由菜、彩香が火野を詰る。


 ただ、三人とも少し声に覇気がないわね。

 同じメールを受け取った西条美佳は分析する。

 たぶん原因は彰と一緒に夏祭りを回れないからかな。恵梨はちょっと分からないけど、後の二人は彰のこと好きだし。……はあ、せっかく三人とも気合い入れて浴衣を着ているのに、あの鈍感男ったらもったいないことをして。


「まあ、今に始まったことじゃないけど」

 彰が女の子の思いに気づかないのはいつものことだ。気にしていたらキリがない。

「それよりこのメールよね」

 美佳はスマートフォンに映された文面にもう一回目を落とす。




『スマン。火 野の馬鹿が財布を落とした。

 やつの落ち度だからはっきり言って一緒に探す義理も無いんだが「俺が、俺が焼きそばを食べられなくてもいいのかー!」とアホなテンションで頼んでくるから哀れみの情 で手伝うことにした。

 財布見つけ次第 合流するから、先に行っといてくれ。


 P.3.ほんとうに、周囲をパーフェクトに探すか』




「……何かおかしいのよね」

 あの世捨て人のように勉強ばっかりしている彰だが、それでも現代人らしく一応携帯電話も使いこなしていたはずだ。

 それなのに文面の意味の分からないところに空白があったり、追伸という意味の単語、POST SCRIPTの短縮系のp.s.がp.3.になっている。


「一個目の間違いはともかく、sと3を打ち間違えるってありえないでしょ……」

 書くときならともかく、携帯でメールを打つときに形が似ているからって間違うわけがない。

 それに何で追伸で財布を捜すのにやる気を出していることを書くのだろうか? 本文に書いてはいけなかったのだろうか?


 ここまで違和感があるのに気づいたのは美佳だけのようだ。

 恵梨と由菜と彩香さんは意気消沈してすぐに携帯を閉まっているし、仁志は馬鹿だから気づいてないし、光崎さんはそもそもメールが送られていない。彰がメルアドを知らなかったようだ。


「火野くんのアホさが彰にも感染したのかな」

 そんな非科学的なことを考える美佳。そのままメール画面を閉じようとして、

「……けど、よく考えるとあの彰がこんな馬鹿なミスをするかな」

 ふと思ってしまった。

 美佳の覚えている限り、彰からこんなミスの多いメールをもらったのは初めてだ。つまりさっきも思った通り彰は携帯を使いこなせているということだ。


 ならこのミスはわざとしたってこと?


 あんな性格でも一応、学年一位の頭脳を持つ男だ。無駄に意味のないことをするはずがない。

「ちょっと考えてみましょうか」

 美佳はもう一回詳しくメールを見直す。




『スマン。火 野の馬鹿が財布を落とした。

 やつの落ち度だからはっきり言って一緒に探す義理も無いんだが「俺が、俺が焼きそばを食べられなくてもいいのかー!」とアホなテンションで頼んでくるから哀れみの情 で手伝うことにした。

 財布見つけ次第 合流するから、先に行っといてくれ。


 P.3.ほんとうに、周囲をパーフェクトに探すか』




「まずは意味の分からない空白よね」

 空白がある箇所は三カ所。

 火と野の間、情とでの間、次第と合流の間だ。

「……やっぱりおかしいか」

 空白の内、後の二つは単語の切れ間にある。だから何らかの操作ミスという可能性もあるかもしれない。

 しかし火野という名前の間の空白はどう考えても変だ。名前なんて一気に打ち込むだろう。火と野を分けて打つはずがない。


「何らかの法則性があるのかな……。……漢字と漢字の間……ではないか。二つ目が違うし……。……空欄には何か文字が入っていたとか。……いや、ないか……。……空欄の前か後に関連性があるとか……。………………あれ?」

 空欄の前だけに焦点を当てて考えた美佳。

 一つ目は火、二つ目は情、三つ目は次第だけど、

「これって繋げると『ひじょうしだい』って」

 となる少し濁点の位置が違うが、ある単語が思い浮かぶ。


 非常事態、と。










「俺たちを迎撃するだと? ハッ! やってみろよ!」

 こちらに向かってくる黄龍ファンロンの見張り。背が高く肉体はきちんと鍛えられていて、そして日本語を話していたが顔は中華系だ。

 ケンカ慣れしている彰は腕に自信はあるが、それでも相手はその道のプロだ。学生の身では分が悪いだろう。

 それでも彰は冷静だった。

 火野が必要以上に挑発したことに腹を立てていたが、それはいったん思考の隅に置いて敵の挙動を観察している。


 ガキ、ガキ言っていたが相手も一応油断はしていない。それもそうだ。だって普通のガキが黄龍ファンロンの名前を知っていてここに現れるはずがないのだから。

 とはいえ負けるわけがないとも思っているようだった。通信しているもう一人も相方の独断専行を許している。二人でかからなくても、一人で制圧できると思っているのだろう。


 だから、その慢心を打ち砕く!


「……」

 スッ!

 走ってきたエネルギーを全て変換したような鋭い回し蹴り。見張りが選択したのはそれだった。 

 背が高いためか足も長く、つまりリーチが広い。彰からの反撃がどうやっても届かない位置から繰り出している。


(ほう……)

 見張りは感心する。目の前のガキ、彰が自分の蹴りに目がついていけてたからだ。普通なら目がついていくどころか、防御すらままならずに終わっているはずだ。

(大言壮語を吐く程度はあるってわけか)

 見張りは彰の対抗策を二つ考えている。屈んで避けるか、後ろに下がるかだ。


(まあ、どちらを取っても終わるがな!!)

 無難なのは後ろに下がる方だろう。しかし、それは逃げだ。そのままラッシュをかけて捉える自信がある。

 より攻撃的なのは屈んで避けることで相手の攻撃を空振りさせて、反撃を試みる方だろう。ガキの好戦的な性格から考えてもこっちを選択するはず。

 しかし、見張りにはその魂胆を破壊する技があった。回し蹴りを途中で止めてのかかと落としである。スピードの乗った回し蹴りを途中で止めるのは難しいことだが、見張りにはそれができた。

(ほらほら、さっさと屈むん…………なにっ!?)


 だから、


 彰が第三の選択肢であるノーガードで突っ込んできたとき、見張りは驚くしかなかった。


(死ぬ気なのか!?)

 技を繰り出したのはこちらが先。リーチもこちらが上。つまり彰の攻撃が先に届くわけがない。

(こいつ俺の蹴りを食らいながらでも突進して……相打ち狙いってことか!?)

 やっぱりガキか。結局相打ちを狙うのがやっとの実力だったってわけだな。

(……まあ、相打ちにもさせてやらんがな!)

 見張りは一撃で彰の意識を刈り取るために、蹴りの軌道を修正して頭を狙う。これで食らいながらの突進などできないはずだ。

(これで終わりだ!!)


 脳天に迫る蹴り。

 彰はそれに目もくれずに走る。

 その目が狙っているのは何だろうか?

 相打ち? いや、そんなはずがない。

 完勝である。


 ガツン!!

「なっ!?」

 見張りの蹴りが突然現れた緑の盾に止められる。


 それは簡単な話だった。

 勝ったと思いこんだ見張りは、彰が能力者であることを知らなかった。

 勝負の分かれ目はただそれだけだった。


 防御を全て能力に任せた彰は、ありったけの力で拳を振りかぶり見張りを殴りつけた。





「なっ、あのガキ能力者だったのか……!?」

 相方が吹っ飛ぶ姿を見て通信していた見張りは驚きの声を上げる。


 拳一発でKOさせた彰は、

「……警戒無しに突っ込んでくると思ったら、俺が能力者だと知らなかったのか」

 その声に納得するが、同時に疑問も沸いてきた。

 サーシャさんを助けるときに取り逃がしたあの三人組のブレインが、近くに能力者のガキがいると報告したと思っていたんだがそうではなかったのか。

 普通ならそうして警戒を促すはずだ。なのにしていないってことは通信手段が無かったてことか?


「ってよく考えたら、あいつが俺たちのことを報告していたら囮作戦は失敗していたよな……」

 こっちの人員が四人だとばれていたら、あとの二人はどこに行ったのかと勘ぐられることになる。

「雷沢さんはそこまで考えてたのか……?」

 雷沢がこの事態を予想していたのか、それとも彰たちが単に運が良かっただけなのか。

 それを考える余裕は無さそうだった。


「敵は能力者だ! 包囲してつぶすからおまえら全員出ろ!」

 見張りが通信機を片手に大声を出す。

 ほう、大勢でかかってくるのか。ありがたいな。

 彰は作戦が順調であることを確信する。多くの人員が彰たちにかかってくればそれだけ倉庫の守りは減るだろう。そうなれば雷沢たち侵入班も楽になるはずだ。


「おー、良い拳やったで。……それで雷沢さんの作戦って何なんや?」

 火野が労いながら近寄ってきた。

 そういえば迎撃が終わったら説明するって言ったか。

「作戦はバカでも分かる簡単なものだ。俺たちが囮になって敵を引きつけている間に、雷沢さんとサーシャさんが侵入。それだけだ、分かったな」

「うーん……何とか」

「何とか、っておまえ……」

 こんな簡単な作戦ですら火野には高尚だというのだろうか。……まあ見張りがいるのに正面突破を提案するぐらいだから、しょうがないかもしれない。


「じゃあ今の内にこの場を離れるぞ」

「ん、何でや?」

「なるべく敵を遠い場所まで引きつけないとあっちが侵入しにくいだろうが」

「そうか」

「囲まれにくいように、地形の複雑なさっき通った林の方に逃げるぞ」

「そうやな」

「おまえきちんと理解しているのか」

「そうやな」

 こいつ返事するだけで考えてないな。


「………………トム」

「ソーヤな」

「……アイスクリームといったら」

「爽やな」

「オゾン」

「層やな。……って何言わせてるんや!?」

「ようやく気づいたか。ほら、急いで逃げるぞ」

「あんたが遊んでいたんだよな!?」

 火野の叫びは軽く流して走り出す彰。

 ……まあ、バカの考え休むに似たり。俺が手綱を握れば済む話か。



 倉庫の中からぞろぞろと黄龍ファンロンの人員が出てくる。

「あのガキが能力者だ! 黄龍ファンロンのメンツにかけても叩き潰せ!」

「「「「うっす!!」」」」

「って、やつら逃走を始めてますけど?」

「はっ、これだけの人数に恐れをなしたか! だが、逃がすつもりはない! おまえら、追え!」

「「「「うっす!!」」」」

 通信していた見張りも合わせて八人が彰たちを追い始めた。

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