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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百二十一話「地図に無い島」

 ビニールボートで漂着した島。

 得体の知れない島だと思っているのは彰だけで、由菜は普通の島のように思っているようだった。


「こういう島に漂着したらまずは探索するのが基本よね。だから」

 由菜はよく漫画とかである『無人島編』というやつの展開を思い浮かべていた。まずは島を探索して状況を把握するのがセオリーだ。

 しかし、

「すまん由菜。探索は後にしてもう少しだけここで船が通りかからないか見ておこうぜ。俺たちの第一目標はここで生活することじゃないだろ。脱出できた方がいいに決まってる」

 それは普通の島であった場合の話。彰としてはこんな得体の知れない島、装備も整えずに探索するなど愚の骨頂である。

「……それもそうだけど、そう都合よく船が通りかかるとは思えないけど」

「今から一時間以内ぐらいには通りかかると思うさ」

「?」

 由菜がきょとんとした顔になるが、ボートにつけられていた発信機から異常を察知した恵梨たちがくるだろうという理由を説明するわけにはいかない。説明した時点で俺が命の危険など感じていなかったことが分かり、それで由菜を遊んでいたことがばれるからだった。

 なので上手くはぐらかしながらちょうど一時間ほど。

 水平線の向こうから恵梨の乗る船が見えたとき由菜は「こんな偶然信じられない」という顔になっていた。


 砂浜の近くにちょうど船を止められるような場所があったようで、そこに止めてから下りてきたのは二人。

「恵梨! ……もう二度と会えないかと思った!!」

 命が助かったこともあり感極まった由菜が下りてきた恵梨に抱きついた。。

「あはは……。由菜さん大げさですよ」

 ここまで本気で喜ばれると恵梨もドッキリだったとは言い出せず乾いた笑みを浮かべる。



「しかしこんなところに島があるたあ、昔からこの海には出でたのに知らなかったべ」

 船から下りてきたもう一人、恵梨をここまで運んでくれた地元の漁師らしい気さくなおじさんが島を珍しそうに眺める。


 その発言を彰は聞きとがめた。

 島の存在を知らなかったってどういうことだ?

 地元の漁師ともなればこの辺の海は自分の庭のようなものだろう。それなのに知らなかったって……。

「………………」

 得体のしれない島がいっそう不気味に思えてきた彰はそのおじさんに話しかけた。

「すいません。この島の存在は知らなかったってどういうことですか?」

「そのままの意味だべ。お嬢ちゃんからこの座標に島があるって言われたときはそんなはずはないと思っていだが、いざこうして目の前にしても……やっぱり不思議だべ」

「どうしてですか?」

「だってこの島は地図にも載ってねだし、船のソナーにも反応してなかったべ」

「………………」


「………………」

 地図に載っていなくて、そしてソナーにも反応しない島。

 昔ならともかく、人工衛星によって全地球をスキャン出来る現代、地図に無い島が存在することがおかしい。

 ソナーに反応しなかったということも考えればやっぱりこの島には……。


「あのー、彰さん」

 感動の対面がひとしきり終わったらしく、恵梨がこちらに近寄ってきた。

 このタイミングで助けに来たと言う事は、今までのボートが漂流したりとかの原因は俺の推測どおりだったということだろう。

「おまえが何故こんなドッキリをしかけたのか知らないが、現在それに構っている暇は無いから不問にしといてやる」

「…………やっぱりばれていますよね」

 彰はボートから取っておいた小型の発信機を恵梨に手渡して話を進めた。

「さっきそこのおじさんから聞いたが、どうやらこの島は地図にない島ってことらしいな」

「それは私も気になってたんですけど……彰さんはどう考えますか?」

 恵梨も半信半疑だったのだ。

 音声からは島に着いたらしいのに、ボートの反応は海の上。機械の故障か、幻覚を見ているのか、はたまた地図に無い島が存在するのかは分からないが異常事態ということだけは分かったので予定より早く彰たちを助けに来たのだ。

 漁師の人に船を出してもらう時も地図に載っていない島に向かってください、と客観的に見れば意味の分からない頼みになっていた。それでも出航してくれたのはおじさんが細かい事に気にしない豪胆な性格だったからだろう。


 彰は端的に結論を述べた。

「それを聞いて確信したが、この島に何らかの能力が働いていることは間違いないだろう」

 そして彰はボートで漂流中に感じた違和感について話す。

「それってつまり、実際に砂浜に乗り上げるまで知覚できなかった島ってことですよね」

「テンションがハイになっている由菜はそこまで気づいていないみたいだが……そういえばさっきそのおじさんに聞いたがこの島はソナーにも反応しなかったみたいだな」

「はい。なので私が指定したここの座標に向かって進んでもらいました」

「……たぶん何らかの認識阻害系の能力が働いているってことか」

「それだけじゃないと思いますよ。どうやったってこの座標に来れないように誘導するみたいな効果もたぶんあると思います」

「確かにそういうのがないと今までに俺たちみたいに偶然島に到着するやつがいたに違いないか」

「そう考えると何故彰さんと由菜さんが例外的にこの島に漂着できたのか、という疑問も生じますね」

「………………」

 この島が何故知覚できなかったのか。どんな能力を使えばこんな事が出来るのだろうか?

 それにどうやってしたのかハウダニットが何らかの能力だろうと仮定して、しかし何のためにしたのかホワイダニットは未だ一片の想像もつかない。

 こんな辺鄙な島一つ隠すのにどれだけ魔力がかかるだろうか? そこまでして隠しておきたかった理由とは何なのであろうか?


 

「……よし」

 彰が考えをまとめると恵梨が聞いてきた。

「どうするんですか、彰さん」


「この島から帰るぞ」


「…………帰るんですか?」

 拍子抜けした格好となった恵梨。

「ああ」

「こんな得体の知れない島を置いて、そのまま帰ると」

「確かに気になるけど俺たちが調べないといけない義務も無いからな」

「まあそうですけど」


「それにこの島を調べるなら相当な準備が必要だと思う」


 彰の言葉に恵梨は島を再び一瞥する。

「こんな小さな島ですよ? 三十分くらいで探索できそうですし、そんなに準備が必要だとは思いませんが……」

「わざわざ大掛かりな能力を使っているんだ。普通でないのは確かなんだしどれだけ準備してもし足りない」

「気にしすぎだと思いますけどね……」

 とはいえ彰の言葉から並々ならぬ警戒の強さが垣間見えたので、恵梨もそこまで抗弁しない。


「明日の朝には帰る予定だから……そうだな。来年。来年の夏休みに準備を万端にしてここに来ることにしよう」




 程なくして彰たち四人は船に乗って陸地に帰ることにした。

 その船上で漁師のおじさんと由菜に、この島のことを他の人に言いふらさないように取り付ける。

 漁師のおじさんには島の座標を記録してもらって、そして来年また来るときに船を出してもらえるように頼むと二つ返事で了承をもらえた。


 当然のことながら、一年後高校二年生になった彰たちが再びこの島を訪れた時。世にも不可思議な事態に巻き込まれる事はこのときの彰には想像もつかないことであった。











 彰たちの滞在する夏川市の某所。

「ようやく来たね」

「それで姐さん。今日はどんな用事なんですか?」

 能力者ギルドや異能力者隠蔽機関に『ささやき女』とよばれるその女性は、ガタイのいい男性三人を迎えた。


「姐さんの呼び出しはいつも突然だからなあ」

「すまないね。それでもちゃんと応じてくれるから本当に助かってるよ」

「まあ組長からもなるべく姐さんの申し出に応じるよう言われてますから。……こら、姐さんの前で生意気な口を聞くな」

「あっいえ、その文句ではなくてちょっとした愚痴みたいなもんで、すいやせん」

 ガタイのいい――といってもそれは健康的なのではなく、裏社会を生きていくうえで必然的にそうなったものである――男性三人は『ささやき女』を前にどこか尊敬したような、それでいて畏怖しているような態度だ。上下関係が完璧に定まっているのが端からみていても分かる。


「話を元に戻しますが、今日はどんな用事なんですか?」

 三人の内まとめ役である一人が話を進める。


「その前に報酬の話をしておいた方がいいんじゃないか。――『金こそ全て』主義の黄龍(ファンロン)に属するおまえらとしては大事な話だよな」


「……まあ、俺たちとしては姐さんを手伝うのに金なんか要求するのもおこがましいとは思っているんですが」

「組長がそこら辺のことはちゃんとしろって言ってますので助かります」

 自分たちからは切り出しにくい話を先にしてくれたことに、男たちは平身低頭だった。


 『ささやき女』は一枚の紙を取り出した。

「いつも通り前払いで半分。成功報酬で残り半分。……それで額はこれだ」


「これは……」

「この額なら組長も首を縦に振ってくれると思います」

「組長この忙しい時期に呼び出しがきてキレかけていたからな」

 書かれていた額に男たち三人もホッと息をつく。組長から『これ以下の金額だったら申し出を受ける必要も無い』と言われていた額より大きかったからだ。


 『ささやき女』はそのうちの一つの言葉に反応した。

「忙しい? ……ああ、そういえば研究会の兵器派と何か取引をするんだったか」

「よく知ってますね、姐さん。そのとおりです」

「いや、姐さんなら知ってて当然だろう。だって――」

「雑談はそこまでにしておけ。それより今は仕事の話だ」

「「うっす」」

 まとめ役が脱線しかけた話をまた戻す。他の二人が脳筋のためまとめるのにいつも苦労している。


「それでこの額って言う事は結構面倒くさいかやばい仕事ってことですよね?」

「ああ、安心しろ。今回の頼みは面倒くさい方だ」

「姐さんの頼むやばい仕事はいつも命の危険に晒されるからなあ……」

「俺たちよく今も生きていられるよなあ……」

 過去に頼まれたことを思い出して遠い目になる脳筋の二人。まとめ役の一人は話を脱線させないためにも無視する事にした。

「詳細を聞きたいのですが」

「とりあえずこの写真を見てくれ」


 そう言って『ささやき女』は懐から写真を取り出す。

 そこに写っていたのは――高野彰である。


「今回おまえたちに頼みたい事はとある能力者を襲う事だ」


「……ということはこの少年を襲うってことですか?」

「早合点するな。この少年は計画を行う上で必ず関わってくる少年だ。襲う相手は別にいる。それは――」


 そして『ささやき女』は計画の詳細を話し始めるのであった。

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