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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
一章 水の錬金術者
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十一話「質問」

 鹿野田の視線にまだ殺気は無い。

 よって恵梨は、逃げるにしても戦うにしてもこいつから情報を得てからの方がいいと判断した。

 恵梨はなけなしの虚勢を張って声音を冷たくし、鹿野田の言葉通り質問をする。

「あなたの目的は何?」

「いきなり良い所をついてきますね。ええ。今の私の目的は、あなたを殺すこと、=(イコール)実験の成功という所でしょうかね」

「そう。じゃあ、あなたの組織の目的は何?」

「……すいませんが、それは言えませんね。はい」

「もうすぐ死ぬらしい私にも言えないんですか?」

 恵梨は挑発するが、鹿野田は乗らない。

「ええ、どこで聞かれているか分かりませんからね」

 そう言われて、何気なく恵梨は辺りを見回す。

 公園にはさっきまでの恵梨と同じように散歩している人がちらほらと居る。

 その人たちの居る場所と恵梨と鹿野田が対峙している場所は同じ公園のはずなのに、恵梨にはすごく遠い場所のように思えた。


「質問は終わりですか?」

 鹿野田は問いかけてくる。

「いえ、まだよ。……その隣の少年は誰?」

 鹿野田の隣に立っている少年を指差す。

 フルフェイスメットをかぶって、顔の見えない少年だ。

「それは、それは。こいつについて聞いてくれるとは嬉しいですね。はい。これは私の研究の成果です」

「研究?」

「ええ。ああそうだ、こいつの本格的な説明は(のち)の実験開始前の説明でしますから。他の質問をどうぞ」

 少年は自分のことが話題に上がっているというのに、ピクリとも反応しない。

 顔が見えないこともあって、恵梨には少年が何故か人間には見えないような気がしてきた。

 少し不気味に思った恵梨は、そういえば、と別の質問をする。

「今日は私を殺そうとしていた追っ手たちはどうしたの?」

「ん? あいつらのことですか。あいつらは研究会の者でなく、あなたを追うために雇われたに過ぎません。あなたの居場所が分かった以上、役目はありませんから今日報酬を渡してお役御免となりましたが」

「そう」

 恵梨は短く返答する。


 一見、二人は穏やかな対話が続いているようである。

 確かに表面上はそうだ。

 しかし、恵梨は話していて鹿野田に殺気が無い理由に気づいた。

 鹿野田はモルモットを見るような目で恵梨を見ている。


 鹿野田にとって、恵梨は殺すべき人間ではなく実験動物なのだ。


 実験動物に殺気を(いだ)く人間などいない。したがってその目にあるのは、殺人すらも実験と思える狂気(きょうき)(せい)のみだ。


 それに恵梨だって表面上は穏やかだが、内心はらわたが煮えくり返っている。

 当然だ。恵梨にとって鹿野田は、比喩でなく親の(かたき)だ。

 また、恵梨は警戒のため、散歩にも水入りペットボトルを持って来ていた。

 恵梨の能力「水の錬金術」を使って剣でも作れば、鹿野田を攻撃できるはずだ。

 すぐにそうしないのは、せっかくだから敵の情報を手に入れたほうがいいという理性が、鹿野田をどうにかしたいという本能を何とか上回っているからだ。

 

 そう、こいつは私の両親を殺したのよ。

 そこまで思ったときに気づいた。

 逃亡するのに精一杯だった一週間、幸せだった昨日まで、何故か気づかなかった疑問。


「何であなたたち組織は、私の両親を殺したの!?」


 いきなり恵梨は叫んだ。

 今まで何故か思い当たらなかった疑問を、問うべき相手にぶつける。

 鹿野田は叫び声に一瞬驚いたが、すぐに抜けた表情になる。

「あれ? 言ってませんでしたっけ?」

 とぼけたようにも思えるその声を聞いて、恵梨の不満、怒りが爆発する。

「言ってないわよ! 何で私の両親を殺したの! 私の両親は普通のどこにでも居るような人なのに、何故殺したのよ!」

「それは……」

「それに! 何で私も殺そうとするの! 確かに私は両親が殺されて悲しいし、あなたたちが憎いけど! 命を狙われてまで、あなたたちのことを言いふらすようなことはしないわ! だって、普通の学生だから! 平穏な状態を望むから! だから、口封じに私を殺すのはやめなさい!」

 途中、鹿野田が口を挟もうとしたが、恵梨は言い切る。

 日曜の昼下がり、大声で叫ぶ少女ということで公園に居た人の注目を集めてしまったが、恵梨にそれを気にする余裕は無い。

 鹿野田は注目を集まってしまったことに、参ったなという表情をするも恵梨に答える。

 

 恵梨の言葉に呆れながら。


「はぁ。あなたたちが普通ですか? そんなことはないでしょう? あなたたちは能力者なのだから」


 能力者。

 最近恵梨が忌み嫌っている言葉だ。

 能力を持っているせいで自分が物語の登場人物みたいだと思っている恵梨は、ここでその単語が出てきたことに苛立ちが起きる。


「能力者であることの何が関係があるのよ!」

「……そうでしたね。私の役職名を言ってませんでしたね。ええ、だからこんな思い違いが起きるんですか」

「役職名? それがどうしたのよ!」

「聞けば分かります」

 そして、告げる。


「私は、科学技術研究会の能力研究部門、室長の鹿野田です」


「……能力研究部門?」


「したがって、あなたとあなたの両親が殺される理由は一つ。……あなた達が能力者だからですよ」


 恵梨は自分の望まぬ能力を理由に、追われ殺されることを知った。

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