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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百七話「勉強会」

 斉明高校の期末試験は四日間に渡って行われる。

 期末試験は、科目が数学、英語、国語、理科、社会の主要五科目だけの中間試験と違って、音楽、保健体育、家庭科、美術の副教科四科目を加えた合計九科目だ。

 とはいえ、試験自体はそれぞれ数学Ⅰ、A。英語Ⅰ、Ⅱ。現代文に古・漢文。理科と社会はそれぞれ選択二科目。保険分野と体育分野。家庭分野と技術分野と分かれているため16も試験を受けなければならない。

 一つの試験にかかる時間は教科によって差があるがほとんど一時間なので、一日に四つ試験を行っても午前中には学校は終わる。

 だが、それが四日も続くので、知力とともに体力も問われる試験だった。



 その期末試験が差し迫った日曜日、朝の内から集まった彰たちは前から約束していたとおり勉強会を行うことにした。

 その会場は親がいないので気を使わなくてよい彰家が選ばれている。

 いつもは恵梨や由菜しか使わないリビング(彰は自分の部屋にこもっていることの方が多い)には、いつもの五人がそれぞれの勉強道具を広げていた。



 ということで始まった勉強会だが、

「なあ、彰?」

 開始早々、口を開いたのは仁志だった。

「……いきなりどうした?」

 彰が不満を隠さずに聞き返す。

 今回の勉強会では美佳との約束のため、彰は講師役という位置づけだった。もちろん自分の勉強もするのだが、分からないところがあれば積極的に質問をしていい、と彰は前もって言っていた。

 言っていたのだが、

(質問するにしても早すぎだろ)

 開始一分もたたない内に仁志に質問をされて、自分の勉強がままなるか心配になってくる。

「何が分からないんだ?」

 とはいえ約束は守る気質である彰は語調を柔らめて言い直した。


「数学のことなんだが」

 仁志は教科書を開く。

 分からないところを指さすのか? と思った彰はその教科書をのぞき込む。

 仁志は続けて言った。



「試験の範囲ってどこだっけ?」



「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 彰だけでなく、女子三人の空気も凍り付いた。

 これがまだ、仁志の発言が冗談だったなら「おまえなー、馬鹿なこと言ってるんじゃねーよー」みたいな和やかな雰囲気になっていただろう。

 しかし、タチの悪いことに仁志の声音は本気だった。試験が差し迫っている現在、本当に試験範囲を知らないのである。


「あれ? 彰も知らないのか?」

 答えが返ってこないことをそう解釈した仁志。……こいつの脳内にはきっと花畑でもあるのだろう、と彰は決めつける。

 彰は「そんなわけねーだろ」と言うのすら面倒くさかったので仁志を無視した。

「美佳、俺はこんなやつの講師もしないといけないのか?」

「うーん。……まあ、罰ゲームだと思って頑張って」

「……こんなやつでも課題試験の順位では下に後十人ぐらいはいたし、まだマシなのかなあ」

 ぼやきながらも、仁志に試験範囲から教えるのだった。



 そんな一幕もあったが勉強会は概ね順調だった。

 ちなみに四月に受けた課題試験の順位は、彰が一位、美佳が真ん中よりやや上、由菜はほとんど平均、仁志はワースト10ほどで、恵梨は四月の途中で転校してきたためにこの試験を受けていないが、彰の見立てからすると美佳と由菜の間ぐらいだと思われた。

 その順位通りに、質問が一番多いのは仁志で、その次が由菜、恵梨という並びだ。勉強会を開こうと言った美佳が一番質問が少ない。


 現在は質問させるだけでは埒があかないと判断した彰が付きっきりで仁志の勉強を見てるところだった。

「仁志、社会の復習だ。今から俺が質問するから答えろよ」

「どんとこい!」


「いい国作ろう?」

「がんばってください」


「鳴くよウグイス?」

「ホーーー、ホケキョ」


「何と立派な?」

「おれさまかな。……いやー、照れるな」



「……よし、殴るぞ。歯を食いしばれ」

「真顔で言うな。冗談だ、冗談。鎌倉幕府に平安京に平城京だろ」

 今度は冗談のようだった。さすがに仁志も小学生レベルの社会は覚えている。



「しかし、意外ですね」

 数学の応用問題を解いた恵梨は、一休みということで口を開いた。

「……うーん、何が?」

 英語の問題集とにらめっこしながらだったため、気もそぞろな由菜の返事。

「彰さんって結構面倒見いいんですね」

「…………これじゃないし……えーと」

「まあ、普段はそう見えないわね」

 由菜が思考の渦に落ちたため、代わりに美佳が返答した。

「さっきまでなんだかんだ文句言っていたのに、結局仁志さんに勉強教えてますし」

「逆にあそこまで馬鹿だと教えがいがあるのかもね。頭のいい人って教えるのも得意だし」

「……これとこれの何が違うのよ…………」

 由菜がうなる声を背景に二人は会話する。

「確かにそうですね。私も彰さんのおかげで苦手な英語も理解できましたし」

「そういえばさっき質問してたわね」

「……四択だし適当に書けば当たるか……」


 そのとき彰が由菜の手元にある問題集をひょいと見た。

「何だ? ここが分からないのか?」

「え? ……うん、そうだけど」

「そこはウの『I love you』だぞ。質問の時制が現在形だからな」

「………………」

 由菜が何故か硬直したが、それを彰が気に留める前に仁志が質問してきた。

「なあ、彰。これってどうするんだ?」

「どれだ? 見せてみろ」

 そのまま仁志の元に向かう彰。


「……あの、由菜さん?」

 恵梨が恐る恐る声をかける。

「彰が今言ったのは告白じゃなくてただの問題集の選択肢よ。それなのに固まってどうするのよ」

 美佳のからかいであることを隠さないセリフ。

「……う、うるさい! 言われなくても分かっているわよ!」

「つまり、分かっていても赤面してしまうと」

「恋する乙女っていうのは制御が効かないわねえ」

 これじゃあ本当に告白されたら気絶でもしかねないわね、と美佳はいらないことを考えた。




 勉強会開始から三時間が経過した。適度に会話しながらしているとはいえ勉強は勉強。

「……あー、疲れた」

 勉強嫌いの仁志が机に倒れ込んで音を上げた。

「でも、この中でおまえが一番勉強しないといけないんだぞ」

 つきっきりで教えるのは継続していて、今は理科を教えていた彰が呆れたように言う。

「疲れたもんはしょうがないだろ。つうか、彰はよくこんなにずっと机に向かっていて平気だよな」

「おまえとはデキが違うからな」

「ああもう、それでいいわ。……つうか、夏なんだしこんなに天気のいい日は海にでも行きたいぜ」

 仁志が顔を上げて窓の外を見る。確かに窓の向こうには青空が広がっていた。


 彰は仁志の言葉を反芻する。

「海に行きたいのか?」

「……何だ? 連れてってくれるのか? けど、結上市近辺には海なんて無いぜ」

 結上市は内陸に位置しているので、一番近い海水浴場でも行くのにはかなり時間がかかる。朝早い内に家を出なければ昼に十分に遊ぶ時間は取れないだろうし、そうなると夕方に帰ってくるころにはくたくたになっているだろう。


 しかし彰はこの前届いたメールを思い出しながら言った。

「……今日ではないけど、海になら連れてってやれるかもしれない」

「本当なのか!?」

 仁志が彰に詰め寄る。

「ちょっとそういう話があってな」

「マジか! ……いやー冗談でも言ってみるもんだな。こういうのえーと、……ああそう、棚からぼた餅っていうんだっけ」

「嘘から出た真……というより、冗談からでた真か?」

「どっちでもいいわ。……やっぱり持つべきものは友達だな」

 彰と肩を組んで笑う仁志。こういうときだけ友達面するとは図々しいやつだ。


 そのとき彰は背中に視線を感じた。

 振り向くと由菜と美佳が興味津々でこっちを見ている。

「海……って、どういうことなの、彰?」

「そこの馬鹿がいいなら、私たちも誘ってくれるのよね?」

「そういえばどこの海に行くんだ?」

 二人に加えて、依然として肩を組んでいる仁志にも説明を求められた彰は、

「OK、OK。ちょうど時間だし、その話は昼飯食いながらにしよう」

 朝から勉強会を始めていたので、現在時刻はちょうど昼飯時だった。

「そうですね」

 恵梨もうなずいた。



 「ちょっと待っててください」と恵梨が言い残してキッチンに姿を消す。その間に残りのメンバーは勉強道具を一時的に片づけた。

 十分ほど経って、五人の前にはチャーハンが並べられていた。

「急いでちゃっちゃと作ったんですけど……」

「いつも通り旨いぞ」

 彰の素っ気ない賛辞。

 チャーハンの具材はタマネギにベーコンに卵だけだったのだが、卵がパラパラになっていて塩加減もちょうどよくとても十分ほどで作ったとは思えない出来だった。

「本当にどうやったらここまでおいしくできるのかしら」

「恵梨が料理が上手いとは聞いていたけどここまでとはね」

 続いて由菜と美佳も感想を述べる。

「おかわり!」

「仁志、おまえは食うのが早すぎるんだよ」

 ツッコむ彰もほとんど完食寸前だったが。



 昼食を食べながら話をするということだったが、結局彰は皿を空にしてから話し始めた。

「さて、海の話だったよな。……といってもさっきは連れて行ってやるとか言ってたけど、実は俺も招待された側なんだ。この前メールが届いてな」

「へえ、誘ってくれたのって誰なの? 私の知っている人?」

 幼なじみの由菜は彰の親戚の顔を思い浮かべる。昔から彰とは交流があるので親戚の顔もだいたい知っていた。

「いえ、私の知り合いで風野っていうんです」

「あっ、恵梨の知り合いなのね」

「それで友達も連れてきて良いって招待してくれた人も言ってくれたから、こうやって話を今持ち出している訳だ」

 彰が付け加える。正確には招待主は風野藤一郎で、メールが来たのはその娘の風野彩香からなのだが、大した違いでもない。


「概要は把握できたから、次は詳しい話を聞きたいのだけれど」

 ちょうどチャーハンを食べ終わった美佳が口を開いた。

「詳しい話って?」

「どこの海に行くのかとかそんな感じの話よ」

「そういうことなら日程の話をするか。……集合場所はここ、俺の家だ。迎えをよこしてくれるらしい。

 夏里(なつさと)市って知っているか? そこが今回行くところだ。海水浴をするにはもってこいの場所らしいし、それに二日目の夜には近くの神社で夏祭りも行われるらしい」

「ちょ、ちょっと待って。今、二日目って言った?」

 美佳が聞き返してきた。

「……そう言ったが」

「これって日帰りじゃないの?」

「八月の上旬に二泊三日の予定みたいだ」

 夏里市とはGW中に行われた能力者会談の開催場所にもなったところだ。泊まる場所も同じ旅館らしく、そこは風野藤一郎が社長を務める大企業アクイナスの傘下なので海水浴で忙しいシーズンだというのに部屋を取れるらしい。


「夏休みに入ってすぐにサッカー部の合宿だからちょうどよかったわ」

「私もテニス部の合宿がそんな感じだから日程も大丈夫そうね」

 すっかり行く気になって話す仁志と由菜。

 しかし、美佳はそこまで短絡的ではなかった。

「ちょっと待ちなさい。二泊三日の旅程ってどれだけお金がかかるのか分かっているの?」

「ああ、招待主にかかる負担を心配してるならそれは無用だぞ」

「何でよ」

「俺も確かに最初はかかる金額から遠慮がちだったんだが、それをメールで書いたら『私がしたいから誘っているんだ。気にしないでくれ』と返事があった」

「……その人に何のメリットがあるっていうのよ」

「さあな。まあ、気にしないでくれって太っ腹なことを言えるほどには相手は金持ちだからな」

 大企業アクイナスの社長ともなれば俺たち五人にプラスして、娘や火野、雷沢、光崎の旅費を出すことぐらい造作もないことだろう。


「よく分からないけど……私も海に行きたくないわけじゃないし、それなら遠慮なくその誘いを受けさせてもらうわ」

 結局美佳も受諾して、五人で海に行くことが決定した。

「けど……風野って名字で、金持ちとなるともしかして……いや、ただの偶然の一致かもしれないし」

 美佳がぶつぶつと口に出しながら考えていたが、

「つうことで海が待っているんだ。昼はもっと勉強に精を入れろよ!」

「オッス!」

「分かってるわ」

「そうですね」

 彰はそれに気づかず皆に発破をかけていた。

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