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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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百五話「メール」

 文化祭の次の日、月曜日は振替休日となっていた。彰は文化祭の準備や作戦で思った以上に疲れた体を休めるために惰眠をむさぼった。

 そして火曜日。彰はいつも通りに恵梨と由菜と一緒に登校する。


「おざーっす」

 言いながら彰は教室に入った。朝から机に突っ伏している人が多いように思えたが、「よっす」「おはよう」とまばらな挨拶が返ってくる。

「……何? その挨拶?」

「おはようございますを略した挨拶だ」

「略しすぎて原型を止めてませんね」

 すぐに由菜と恵梨から反論が来る。

「不評か。……いい挨拶だと思ったんだがな」

「普通におはようございますって言えばいいじゃないですか」

「恵梨ならそれでいいかもしれないけど、俺だと長いし固いでキャラに合っていないんだよ」

「ですけど礼儀は大事ですよ」

「教室に入るのに礼儀なんて必要ないだろ」

「……ああもう、教室の入り口で話するのは止めなさい。邪魔になっているわよ」

 恵梨と議論を展開していたところ、先に机に荷物を置いてきた由菜に注意される。


 しぶしぶと彰と恵梨は自分の机に向かった。

「そういえば今日はみんな元気が無いように見えるな」

「……そうね。私も気になっていたところよ」

 席に着いた彰は授業開始まで余裕のあるので隣の席の由菜と雑談する。

 周りを見回すと抜け殻のような生徒が特に男子に多い。

「思えばさっきの挨拶にも返事が少なかった気がするな」

「まあ文化祭でみんな疲れているんでしょ。私も結構疲れているし」

「そうかあ。……けど、それだけ」

「ではないですよ!」

 いきなり語尾に言葉を被せられる。

 声から分かっていたが、振り返るとそこには美佳がいた。

「どうしたんだ、美佳。いきなり会話に参加してきて」

「みんなが元気のない理由知ってるの?」

 そんなの普通は知っているはずがない。しかし、二人は美佳なら知っていてもおかしくないと思った。


 案の定、美佳は訳知り顔で語った。

「男どもは今回、文化祭でナンパしまくってそれが全て玉砕したってわけ。すがすがしいことに、全員駄目だったようね。だから燃え尽きているの」

「そういえば……」

 クラスメイトが最近は反リア充ではなく、自分達もリア充になってやるんだと燃えていたのを思い出す彰。

 俺にとってはありがたい動きだったのだが……駄目だったのか。

 確かに抜け殻のようになっている男子に耳をすますと「鬱だ。死のう」「どうせ俺なんか……俺なんか」末期状態のようだ。

「こういうときはご愁傷様って言えばいいのか?」

「直接言ったら駄目よ。リア充から情けをかけられたらトドメになるから」

 そうか。……なら、直接言ってやるか。

 いつも反リア充ということで容赦なく攻められている彰がクラスメイトに容赦をかけるはずがなかった。


 彰が暗い考えに身を浸していたところ、由菜と美佳は文化祭を振り返っていた。

「それにしても一昨日は楽しかったね」

「クレープにお好み焼きにたこ焼きにどれもおいしかったわね」

「食べ物ばかりじゃん」

「ああでも、色々出し物があったけど…………面白さで言えばどれも由菜たちのパレードには敵わないわよ」

「そ、そんなに面白かった?」

「それはもう、顔を真っ赤にしている由菜が面白くて面白くて。……そういえば、彰」

「ん? どうした?」

 話の途中いきなり彰の名を呼ぶ美佳。

「いや、ずっと聞こうと思ってたのだけど、文化祭の二日目、本当は」

 何をしていたのと美佳は言うつもりであった。

 しかし、彰の反応は迅速だった。

「ああうん? 宿題教えてくれって? 分かった、分かった!」

「え? そんなこと言ってな……」

「さあ、行くぞ!」

「ちょ、引っ張らないでよ!」

 美佳が文化祭のことを話題にした途端、彰は美佳を訳の分からない理由で引っ張っていった。 


「……?」

 置いてかれた由菜は理解できずにきょとんとする。


 恵梨にも由菜にも聞こえないように窓際まで移動した後、彰は口を開いた。

「何がお望みだ?」

 有無を言わせない口調。

 美佳はそれだけで理解した。

「……へえ。話が早いわね」


 美佳は学校のことは何でも知っている。それ故に文化祭の日、彰が恵梨や由菜に嘘をついて文化祭を抜け出していることも知っていた。

 しかし美佳はそれをばらしたりはせずに隠蔽に協力していた。『わざわざ彰が嘘をつくなんて何があったのか?』という興味もあったし、秘密を握っとけば交換条件で何かを要求できるかもしれないと考えてのことである。


「しかし、あんたからそれを言ってくるとは脅迫する手間が省けたわ。

 ……ちなみにだけど何をしていたの? 学校内での目撃報告も無いんだけど?」

「そんなことまで知っているのか……」

 彰は舌を巻く。どんな情報網があればそういうことが分かるのか見当がつかない。

「すまないが、それを詮索しないことまで含めての交換条件だ」

「私、口の固さには定評があるのだけど……まあいいわ」

「ありがたい」

 素直に礼を言う彰。


 美佳は腕を組み思案顔になった。

「さて、問題なのは何を要求するかね。私に真実を教えないくらいだからよほどのことを要求しても大丈夫なはずだし……」

 わざと彰に聞かせるようにつぶやく。

「どーんと来い」

 威勢のいいことを言いながらも、内心汗だらだらになる彰。

 よ、よほどのことは要求しないはずだよな。……うん、そうだ。いくら美佳といえどある程度は良心を持っているはずだし。

「…………よし、決めたわ」

 今、審判が下る……!




「期末試験に向けて勉強会しましょう。彰にはその講師役をお願いするわ」




 美佳の頼みは……思ったより普通だった。

「……そんなのでいいのか? そんなのいつもみんなであつまってやっているだろ」

「もっときついのがお好み?」

「いいえ! 滅相もございません、美佳様!」

 気が変わらないよう、彰はへりくだった対応をする。

「……寒気がするわ、それ」

 お気にめさなかったようだ。


 とはいえ美佳も普通なお願いだと自覚しているのだろう。言い訳ではないが、説明を始めた。

「今回の期末試験で成績が良かったらおこづかい上げてもらえるように交渉したから、万が一にも悪い成績を取るわけにはいかないのよ」

「へえ、何か買いたいものでもあるのか?」

「期末試験が終わったら夏休みよ。だから盗撮用に新たなカメラを………………冗談よ。そんなにらまないでちょうだい」

「本当に冗談なんだよな!?」

「冗談に決まってるわよ。……そんなに大げさに反応して失礼ね」

「あっ、すまん。おまえが言うと本気に聞こえてな」

「本当は盗聴用に…………おっと口を滑らせてしまったわね」

「それも冗談だよな!?」

 あながち美佳だけに本当かもしれない。


 いっとき薬にも水にもならない掛け合いをした後、いつ勉強会を行うかなど予定を立てた。参加予定は他に恵梨、由菜、仁志のいつものメンバーだ。

「もうそろそろ夏休みなんだよな……」

 といっても六月の初旬のためあと一ヶ月半はある。しかし、入学してから今までの二ヶ月もあっという間に過ぎていった感覚があるので一ヶ月半ならなおさら早く感じるだろう。

 高校に入って初めての夏休み。

「何が起こるか楽しみだが……平和に過ぎて欲しいなあ」

 この二ヶ月だけで、それまでは何の関わりもなかった能力者関係の争いごとに何回も巻き込まれている彰。

 せめて夏休みは何事も起きないでくれ、という祈りは神に届くのだろうか?



「……そういえば今年は夏休みに何か予定が入っていたような……?」

 ?

 彰が自分の記憶に検索をかけたそのとき、ちょうどチャイムが鳴った。

「……よし。今日も一日がんばるか」

 自動的に授業モードの頭に切り替わる。

 なのでそれっきり忘れていたのだが……その後、彰は自分の携帯に届いたメールを見て思い出すことになる。





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 夏祭りの日程決まったわ。

 前日には父が迎えをよこすので、彰は荷物の用意だけをすればいいわ。泊まりの用意と、海水浴もできるので水着を忘れないように。

 それと父から、友達を何人か連れてきていいとのことでした。能力を使うわけでもないので、一般人でも大丈夫とのことです。

 ちなみにだけど火野君や、雷沢さん、光崎さんもやってくるようよ。


 それじゃあ、夏休みにまた会えるのを楽しみにして……ち、違うわよ。海や夏祭りが楽しみなだけで彰と合うのなんて期待してないんだからね!


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 風の錬金術者、風野彩香からのメールだった。











 海を渡ってアメリカでのこと。

 『ささやき女』対策会議を終えたルークはまた上司の部屋に戻って反省会を行っていた。


「……仮説受け入れられてましたね」

「客観的な証拠もあった。認めるも何もそれを前提に考えなければ進まないだろう」

 連続殺人事件がたった一人の女性によって起こされたという案は会議でも受け入れられた。

 しかしルーク達の考えには一つ抜け落ちていたものがあったのである。


「『ささやき女』がこの事件を起こした理由ですか。……そういえば全く考えてませんでしたね」


 一人の執行官がそう質問したのだ。

「本来なら一番真っ先に考えるべきなのだがな」

 上司も苦い顔をする。

 そう、二人の考えからはなぜ『ささやき女』がこの事件を起こしたのかという核たる部分が抜け落ちていたのである。


 なので二人は早速検討することにした。

「……しかし、今回の事件で『ささやき女』は何を得たのか?」

 偶発的でない限り、事件とは何かを得るために起こされる。強盗事件は金を得るためであるし、復讐だって自己満足を得るために起こされる。

 モーリスの娘を含めて、六人も死んだこの事件は『ささやき女』が何を目的に起こしたのか。

「この六人とも地位も境遇もバラバラで、犯人の二人組以外お互いに面識もない。六人に共通するところがない以上、復讐だとか殺すことで目的が果たされたとは思えない」

「この事件で殺された者たちは身につけていた金銭も奪われてないから金銭絡みでもないですね」

「……この事件を陽動にアメリカ内で何かが起こったという報告も受けていないからその線もないだろう」

「他にこんな事件を起こす理由って……ありますかね?」

 思った以上に人が殺人事件を起こす理由とは少ない。


 上司が、そういえばと思い出したように言った。

「今になって思うと、気になる点が一つある」

「何ですか?」

「モーリスはなぜ三人目に執行官を殺したのかということだ。四人目、五人目に一般人を殺しているというのに、わざわざ腕の立つ執行官を殺したというのがどうも奇妙だ」

「……あれのせいでギルドも本格的に調査に乗り出しましたしね」

 実のところ、 最初殺された二人は組織の人間だったため、また組織間の抗争なのだと思ってギルドは調査に本気でなかったのだ。

「モーリスによると『ささやき女』がこの人間が娘を殺した手助けをした……つまり殺せと言ったそうだ」

「つまり意図して殺されたということですよね」

 この行動に何の意味があったのか?


「強いて言うなら、『ささやき女』は我々ギルドがこの事件に積極的に介入することを望んでいたということになるな」


「そういうことみたいですけど……それに何の意味があるんでしょうか。無駄に争いが起きただけですよ」

「……私にも分からない」

 二人は答えの出ない問いに頭を抱えた。









 そのころ、某所でこんなメールのやりとりがあった。


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 難航したが、ようやくブツを日本入りさせた。


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 了解。受け渡し日時は後日伝える。


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 こちらにも準備というものがあるから早めに頼む。

 ……しかし、日本は無駄に規制が厳しいから運び入れるのには苦労した。

 だが、今回運び入れたもので何を作るつもりなんだ?


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 お互い目的の探り合いはしないと決めていたはずだが。


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 ……すまない。そんなつもりは無い。ただの愚痴だと思って流してくれ。

 しかしまあ、そちらから見るとこちらの目的は明快なんだろうしその協定は不平等じゃないか?


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 金の為なら何でもする。分かりやすい理由だな。

 だからこそ取引相手としては信頼できるのだよ。


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 ……それはどうも。

 では早めに連絡をお願いする。


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 <四章 文化祭、殺人者と追跡者 完>


 早速、第五章予告!!


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 期末試験を乗り越え、普通の高校生(であるはずの)彰に夏休みが訪れた。


 彰はいつものメンバーと一緒に、風野藤一郎の誘いで旅行にやってきていた。GW以来となる風野彩香たちとも再会した彰たちは夏らしく海に、夏祭りにと楽しむ。

 しかし、海では由菜と乗ったボートが漂流したり、夏祭りの夜に出会った女性が何やらトラブルを運んできたりーー

「少しぐらい俺を休ませてくれ!!(by彰)」



 能力者in夏休み! 物語はここから動き始める! 第五章『夏祭り、後の祭り』開幕!



「………………へえ」

 『ささやき女』は何を見つめるのか?


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