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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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百三話「事件の謎1」

 日が傾き始めたころ、彰は人の流れに逆らいながら歩いていた。その人の流れとはさいめい高校の文化祭に訪れていた客であった。斉明高校が近くなってきたのと、文化祭が終わったから多くの人が帰っているのだということを示している。

 すれ違う人々、生徒の親やノリでやってきた他校の生徒、孫を連れた地域に住んでいる老人など、皆満足そうだった。


 斉明高校の生徒は今文化祭の片づけに入っているはずだ。だというのに彰がこんなところを歩いているのを見つけられれば咎められるだろう。

 幸いなことに彰を知っている人物はいなかったし、文化祭中ということで彰も制服じゃないので誰にも気づかれなかった。


「結構活気があったな」

「健太の王子様役の姿ばっちりとカメラに納めたわ」

「それにしてもあのカフェのウェイトレス。やばくなかったか?」

「あのスタイルは反則だよな」

 今まで楽しんでいた文化祭のことを話題にしながら帰っていく人々。


「…………」

 その合間を縫って彰は歩く。

「はあ」

 複雑な感情が混じったため息をついた。







 程なくして彰は斉明高校に着いた。いろんな人の目に付きやすい正門から入るわけにはいかず、かといって裏門から入っても今は目立つだろうと考えた彰は辺りに人がいないことを確認してから特別教室棟の裏手のフェンスをよじ登る。

「よっ……と」

 そして難なく着地。中学時代、学校から抜け出すためによくフェンスを乗り越えていた経験が生かされている。


「さて、これからどうするかな」

 現在文化祭の片づけと後夜祭の準備のために学校中が奔走しているのは学校の外から見て取れていた。それに自然と混ざるためには教室に向かうべきだろう。

 彰はクラスの文化祭委員であるので片づけも指揮を取る立場にある。その彰がいないため片づけはままなっていないはずだ。

「こんな時間に帰ることが分かっていれば先に指示をだしておいたんだがなあ」

 彰はぼやきながらも行動を開始した……


「え?」


 ……そしてすぐに障害にぶち当たる。

「彰……さん」

 彰は特別教室棟の裏手から出たところでゴミ袋を両手に持つ恵梨と遭遇した。



 こんなところで彰と会うと思っていなかった恵梨は目を見張ったがそれも一瞬。

「今までどこに行っていたんですか!」

 開口一番、恵梨からの叱責が飛ぶ。


「あー。うん。えーと、それはな……」

 彰はゆっくりと話して時間を稼ぐ。稼いだ時間で選択をしなければならなかった。


 すなわち本当のことを話すか話さないか。


 能力者が関わっていた殺人事件。

 能力者のことは一般人に知られてはいけないのだが、恵梨は能力者であるので話して悪いわけではない。事件が終わる前は恵梨が関わってくる恐れがあったので話せなかったが今なら大丈夫だ。

 と、理屈ではそうなのだが、

(何だこの嫌な予感……)

 そのとき、鈍感なことで有名な彰が珍しく何かを感じ取って背筋が震えた。恵梨に本当のことを伝えたら……何か恐ろしい事が起こるような気がした。


 なので彰はその直感のままに、

「……メールに書いただろう。文化祭の実行委員の手伝いをしていたんだ」

 恵梨に事件が終わるまで知られないため、そして能力者のことを説明出来ない由菜や美佳のために用意しておいた嘘の理由を強引に押し通すことにした。



「…………本当ですか?」

 とはいえ、そんな言葉では恵梨の疑惑は晴れないらしい。

「ああ、本当だ」

「うーん……」

「…………」

「うーん…………」

「…………」


「……そうですね。……まあ、信じましょうか」


 恵梨の言葉に安堵の息をつきたくなる彰。それをグッと我慢して、

「信じるも何も本当だっつうの」

 心外だ、という表情を浮かべた。



 どうやら恵梨はゴミを捨てに来た途中だったらしい。……いや、両手にゴミ袋を持っていることから明らかなのだが。だからこの人通りの少ない場所まで足を運んだようだ。

 彰は恵梨からゴミ袋を一つもらって、一緒にゴミ捨て場に向かうことにした。

「というか教室の片づけちゃんと出来ているのか?」

「彰さんが一向に現れなかったので、美佳さんが仕切って掃除を始めたんです」

「ほう。美佳が」

「彰さんが休んだ文化祭実行委員の穴を埋めるのに忙しく働いているから遅れているのだろうって、美佳さんがクラスの皆さんに言って仕切り始めたんです」

「そうか」

 彰はうなずく。今の何気ない会話から分かった事があった。


(……美佳には俺が嘘をついたことがばれているな)

 どうせ学校の情報を何でも知っている美佳のことだ。実行委員を手伝うという言葉が嘘だと分かっていたのだろう。俺に何か事情があると思って恵梨たちには黙っていてくれたに違いない。

 だからもっともらしく休んでいた実行委員の穴を埋めるだとか理由を付け足して、彰の代わりを務めてくれてるのだろう。

 その機転には感謝するが……問題は助けられた代償に何を請求されるかだ。

 あんまり無茶なことじゃなければいいが。……美佳のことだしなあ。



「それにしても彰さん。全く暇が出来ないほどに忙しかったんですか?」

「……いや、少しは休む暇があったんだが恵梨達と合流するほどの暇は無かったんだ。すまんな」

 整合性のある嘘は彰の得意分野だ。自分でも驚くほどにすらすらと嘘が口をついて出る。

「そうですか」

 恵梨は疑う素振りも見せずに納得する。

 しかし、それは彰を信頼している証でもあるのだ。同時に彰はそれを踏みにじっていることになる。

(ここまで信じられていると逆に罪悪感が沸くなあ。……やっぱり本当のことを話そうか……)


 彰が迷い始めたとき、恵梨は口を開いた。

「まあ、良かったです。……何となくなんですけど私には彰さんが何か厄介事に巻き込まれて、最初はしょうがなく解決しなければならなかったのが、段々とその厄介事を解決するのに夢中になっている……っていう感じがしたので」

「…………そ、そんなことあるわけないって」

 ギクリとさせられる発言に冷や汗が吹き出る彰。


 厄介事……確かにあの殺人事件はそうだったが、モーリスを捕まえるのは文化祭を無事に開催するために必要だったんだ。……そうに決まっている。

 けど……俺はモーリスを捕まえるのにノリノリになって作戦なんか立てたりして、その後はルークとも軽くだが一戦交えて楽しかったし。

 ……って、あれ? もしかして恵梨の言うとおりじゃね?


(…………怖ええーー! 女の直感、怖っ!)


 彰は心の内で叫ぶが、恵梨の言葉はまだ続いていた。

「まあ結果的に私の直感は外れたんですけど……もし、そうだったとしたら………………」

 そこで言葉を切る恵梨。

「もし、そうだったらどうしたんだ?」

 怖くなった彰は何となく聞いてみたという風に装って聞く。

「………………」

「……?」

 何も答えない恵梨をそこはかとしれない感情を抱いたそのとき。


「…………ふふふ」

 恵梨は片手を口元に当てて微笑を浮かべた。


「………………」

 何が起こるんだよ!?

 とはいえ、微笑を浮かべる(黒い)恵梨に彰はツッコむ訳にも行かず、

(もしかして全て把握しているからこうやって脅しているんじゃないのか?)

 という疑念を彰の常人より優れた頭が弾き出し、隅をよぎったが……間違いであることを祈ろう。



「それよりも早く片づけ終わらせましょう。これから後夜祭が行われるようですから、それには一緒に参加できるんですよね?」

「……ああ。もう手伝いは大丈夫だって言っていた」

「ふふっ。それなら昼は一緒に文化祭を回れなかった分、楽しみましょうね」

 今度は屈託のない笑顔を浮かべる恵梨。

 その不意打ちに彰は少しドキッとして、しかしすぐに確かめることの出来ない疑惑がまた頭をかすめて、後夜祭への期待と疑念の恐怖の板挟みに彰は苦しむのであった。









 モーリス捕獲作戦から三日後。

 アメリカに帰り十分に休養を取ったルークは、上司の呼び出しを食らっていた。

「一体何の用でしょうか……?」

 呼び出しの理由が全く検討つかない。だからといって無視するわけにも行かないのだが。


 というわけで、とある場所にある能力者ギルドの本部にたどり着いたルーク。

 本部は表面上は一般企業と同じ体裁だ。多くの人々が行き来して、受付には受付嬢がいる。誰もここに表に出られない組織があるのだとは思わないだろう。

 なので中に入るには、きちんと手続きを踏まないといけない。ルークは受付を済ませてエレベーターに乗る。

 かなりの上昇時間の後、エレベーターを降りてルークは歩く。

 程なくして目的の部屋にたどりついた。コン、コン。呼び出した上司が待つ部屋の扉をノックする。

「入りたまえ」

 ルークは扉を開けて中に入った。



 いつも思いますけど、無駄に豪華な部屋です。

 目線だけで部屋を見回すルーク。普通の調度に見えて、細かいところに金がかかっている。

 まあ、それだけ偉いってことですね……。

 上司はソファに腰掛けていたので、ルークもその向かいに座った。


「それで今日は何の用件ですか?」

「そんなに構えなくていい」焦るように話題に入ったルークを落ち着かせるに話す。「ただモーリスの捕獲を労おうと思っただけだ」

「……ええ、あなたが応援をよこしてくれなかったせいで大変苦労しましたよ」

「きつい言葉だな」

 苦笑する上司に取り合わず本題に入る。

「それで応援をよこせなかった理由は何なんですか?」


「組織を一つ潰すのに人員が必要だったからだ」


 一般人なら冗談だと思うか、もしくは芝居なのかと思うようなセリフ。

「そうですか。その成果は?」

 ルークはそれを普通に受け入れる。


 この場合の組織というのは麻薬密売を行ったりとか、銃の密輸だとか法を逸脱した行為を行うものを指す。

 しかし、ただの組織では能力者ギルドが動くわけがない。

 ようするに能力者がそういう行いに関わっているのだ。

 それも簡単な話である。例えば警察官がやってきても一人で倒せるほどの能力者は用心棒として雇われ、情報収集を得意とする能力者は組織間の抗争で一歩優位に立つような情報を組織にもたらし、異能力者隠蔽機関のリエラの『空間跳躍テレポート』のような瞬間移動の能力者がいれば空港での検閲から逃れられるので密輸が容易になる。


 そんな組織がごまんとあるアメリカでは、能力者が所属する組織も多くあった。

 そのほとんどは能力者と能力者でない者が混ざった組織である。

 つまり能力者を知る普通の人間がいるのだが、この者たちはラティスの『記憶メモリー』によって能力者の存在を忘れさせられていない。

 というのも能力者の存在が広く知られると悪いのは組織も同じだからだ。

 異能力者隠蔽機関はその名の通り能力者の存在が広く一般に知られなければ能力者のどんな行いも放置するスタンスだ。


 そのおかげもあって能力者であることを隠す日本と比べて、アメリカでは能力者が裏社会をばっこしていた。

 だからこそ秩序を守るために能力者ギルドという組織はできたのであった。




 上司は腕を組みながら言った。

「成果はあった。組織を潰した結果またこの世の中が一つ平和になった……と言っても納得しないのだろう」

「そうですね」

 その程度だったら目前の驚異だった殺人事件の方に人員を回すべきだ。

「当然だが成果は他にもある。それも君の追っていた連続殺人事件につながる成果がね。まあ、最初からそれが狙いだったのだが」


「? そのような組織とモーリスによる連続殺人事件で関わりのあることがありましたか?」

 この事件はモーリスの個人的な復讐のはずだ。特にそんな組織が関わってきたことなんてなかったはずだが……。



「モーリスの娘を殺した二人組が所属していた組織だったのだよ」



「あっ! その線がありましたか!」

 すっかり忘れていたが、事件はそこから始まったのだ。それにモーリスの娘を殺した動機は分かっていなかったので重要な話になるだろう。

「まあその二人はすでにモーリスに殺されているのだが、組織を壊滅させたついでにその仲間から詳しい話を聞けたようだ。それに関しての報告書は……えっとどこに置いたか」

 上司は立ち上がって執務机から紙の束を手に取る。

「これだな。……自分で読んでみるか?」

「面倒くさいですから要点だけまとめてください」

「……若者の活字離れが進んで悲しいことだ」

 言葉は嘆いているが雰囲気は全く嘆いていない。つまりどうでもいいのだろう。


「この報告書を要約すると、モーリスの娘を殺す一週間ほど前から犯人の二人と身に覚えのない女性が一緒にいたことがたびたび目撃されたことと、犯人の二人はモーリスの娘を殺せば巨万の富が手に入ると周りに言い触らしていたということらしい」

「……前半はともかく、後半はおかしな話ですね。モーリスの娘はただの一般人のはずですよ」

 それと今の話。もう少しで何かがつながるような気がするんですが……。

 首をひねりながら、もどかしい思いを抱くルーク。



「そう、私も最初おかしいと思った。……だが、君のおかげで全てが繋がった」

 上司は続ける。

「君には言ってなかったが昨日麻酔にかかっていたモーリスが目を覚ました。彼に事情聴取して……やっとこの事件の全貌が分かったのだよ」

「モーリスが目を覚ましたんですか!?」

「落ち着きたまえ」

「モーリスには聞きたいことがあるんです!」

 あの『騙されていた』という言葉の本当の意味を聞かねばならない。


「だから落ち着けと言っているだろう。事情聴取の中にたぶん君の知りたいことはあるだろう。……その報告書はこれだ」

「貸してください!」

 上司の手から紙の束をふんだくるルーク。

 紙にはモーリスから聞き取ったことが全て書かれていた。文字がぎっしりと書かれたその紙を読み進めて。




 その『女性』についての記述のところも読み進めた。

続く。

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