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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
四章 文化祭、殺人者と追跡者
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九十九話「モーリス捕獲作戦3 戦闘1」

「っ!」

「ヤバイ!」

 モーリスが迫る中、彰もルークも驚きはした。が、すぐに戦闘用に頭のスイッチを切り替え、二人は弾かれたように反対方向に飛ぶ。彰は自分が戦闘要員だと自覚していたから、そしてルークのプロとしての自覚が為した迅速さである。

 そのおかげでモーリスの攻撃は空を切り二人がさっきまでいた場所に着地する結果となった。五、六メートルの高さがある二階からではあったがモーリスは難なく着地。『獣化ビースト』によって強化された身体能力にとってはたやすい芸当である。


「グルァ!」

 右の彰と左のルークどちらを追撃するか。

 判断に迷うところだったが、モーリスはすぐに右を向いた。この前の戦闘で特に苦しめられたのが彰の風の錬金術だったからである。

 そうやって飛びかかろうとしたモーリスだが、


速度スピード二倍ダブル!」


 後ろから聞こえた声に攻撃を中止して振り返らざるを得なかった。

 視界には勢いよく走ってくるルークの姿が。奇襲されたというのにさすがの立て直し。奇襲した側の利として一方的に攻撃できると思っていたのは誤算だったようだ。


 先に彰の方を向いたためモーリスは出遅れていた。

 そのため避けれるタイミングではないと、ルークが振りかぶった拳を爪の生えた両手で受けようとして、


 ルークはその脇を駆け抜けた。


「……ガル?」

 思わず声を上げてしまったモーリスを置いて、ルークは彰に走り寄り、


腕力アーム二倍ダブル!」


 これまた援護しようとしていたため、拍子抜けしている彰を軽々と脇に抱え、


跳躍ジャンプ二倍ダブル!」


 大きくジャンプして機械の裏側に回り、ルークはモーリスの視界から外れる。モーリスに姿を見られないように物陰から物陰に移動してその場を離れる。

 電気が通ってないのと、外の天気がくもりで太陽光が無いため工場内は薄暗い。すぐに二人の姿がどこに行ったのか分からなくなるモーリス。

 しばらく工場内を移動する音が続いたが、ふいにそれが止まった。どこかに落ち着いたのだろう。


 一旦引いて作戦会議でもするつもりか? モーリスはルークが戦闘を避けた理由にそう見当をつける。

「……グルル」

 だが、いつまでも隠れていられると思うなよ。

 二人を逃がしてしまった自分に少々の苛立ちを浮かべながら、今度は逃がさないとモーリスは工場内の捜索を始めた。




 彰はルークに抱えられるままにダンボールーー売れ残った在庫なのか高く積まれているーーの陰に隠れていた。

 モーリスに見つからないように息を殺しながらも、とりあえずさっきの局面を乗り切ったことで安堵の息をつく。

「……いきなりでしたね」

 ルークは自身にかけた身体強化を解除した。

「全くだな」

 彰もモーリスに聞こえないよう小声だが軽口で返す。


 状況は最悪といってもよかった。

 寝ているモーリスに奇襲をかけるどころか、二人はモーリスに奇襲され返されている。

 普通ならその状態で壊滅だっただろう。

 しかし、



「それでは『予定通り』作戦の変更をします」



「だな」

 この程度の障害、予想し得る可能性の一つだった。

 ルークはこのモーリス捕獲作戦に全力を注いでいる。そもそもこんな状況になった時のために、本来ならルークだけで済む作戦に彰や異能力者隠蔽機関に協力を仰いでいるのだ。


「具体的にはどうするんだ?」

「まずですが、こちらの勝利条件はモーリスの無力化。敗北は殺されることか、逃亡されることです」

 ルークはそもそもの前提をまず定義した。

「この工場は作った製品を輸送しやすいようにか、駐車場の方には壁がない、いわゆるコの字型の構造をしていますのでそちらからは特に逃げられやすいので気をつけてください」

 ルークによる注意が無くても駐車場の方から入ってきた彰はそれぐらいは分かっている。


「それで彰さんにして欲しい行動ですが……」

「どうすればいい?」

「……特に言うことはありません。モーリスを倒すことだけを考えてください」

「まあ、元々そのつもりだが……正攻法だけで敵う相手じゃないぞ」

「大丈夫です。絡め手はこちらですでに準備していますので、彰さんは気にせず自分の持てる力を全て発揮してください」

 ルークが自信満々に言うのを聞いて彰は思い出す。


 彰が『空間跳躍テレポート』で現れる前に行っていたというルークの準備、協力を仰いだ異能力者隠蔽機関の二人、露骨に誤魔化された二本目の注射の行方。

 そのどれか……もしくは全てがルークの打った絡め手に繋がるのだろう。

 少々気になるが……ルークは気にするなと言っているんだ。だったら全てルークに任せよう。

 出会ってからまだ短い期間だが、そのように信頼できるくらいにはルークのことを理解している彰だった。


「絶対にここでモーリスを捕まえてこの殺人事件を終わらせましょう」

「ああ」

 そう締めて短い作戦会議を終わらせた。





 ここにもいないか。

 モーリスはもう数分は工場内を徘徊していた。

 用途の分からない機械やダンボールが積まれていたりとで工場内には隠れる場所が多い。

 それ故になかなか見つからない二人。今できることはしらみつぶしに探すことだけだと、はやる気持ちを落ち着けながら捜索を続けて



「!?」

 前方からナイフが飛んできた。



 奇襲された意趣返しの意味も込めてか、緑のナイフも不意打ちだった。彰の腕力プラス風の錬金術によりブーストをかけたそれはモーリスとの距離をすぐに詰める。

「……ガルッ!」

 しかしその程度ではモーリスは仕留め切れないのは明白だった。モーリスは『獣化ビースト』の反射神経の任せるままに腕を振るってそのナイフをはたき落とす。

 待望の敵の登場だが、モーリスは焦ったりはしない。

 ……これは陽動だな。


速度スピード二倍ダブル!」


 ルークが横手の物陰から姿を現した。

 ナイフを投げられた方向に意識を向けて置いて、ルークが横手から奇襲。

 しかしそれを見抜いていたモーリスはそれをやすやすと受け止めるばかりか、カウンターで蹴りを放つ。


「くっ!」

 ルークは自分の攻撃があっさりと止められたことに目を見開きながらも何とかその蹴りをガード。そして続く攻撃を、

跳躍ジャンプ二倍ダブル!」

 大きく飛び下がることで回避する。


 体勢が整わないルークは追撃のチャンスだったが、モーリスはその距離を詰めずに。

 ガキン!

 後ろから迫ってきた剣を受け止める。

「ちっ! ばれたか!」

 ナイフを投げた後、近寄っていた彰は悔しがる。

 だが、その表情に騙されたりせずにモーリスは一歩下がったところで、


 トスッ!

 一瞬前までモーリスがいた場所に刺さるナイフ。風の錬金術で操作した本命の攻撃も軽々と避けられてしまった。


「くそっ!」

 今度こそ本気で悔しがる彰。

 その彰に掴みかからんとモーリスは一歩踏みだそうとしたところで、

腕力アーム二倍ダブル!」

 しかし攻撃の機会はまたも後ろから飛んできたダンボールに妨げられる。

 ルークがとっさに行った投擲。投げた物がダンボールのためダメージは無いに等しいがモーリスの気を逸らすことには成功する。


 その間に彰も風の錬金術を発動。

 彰の姿を覆い隠すほどの大きさの金属板を作りだし能力で投射。

「食らえ!」

 威勢のいい掛け声の割にはその壁のスピードは遅い。板の巨大さためにスピードが出ないのだ。


「ガルァ!」

 何だこの腑抜けた攻撃は? と思いながらもモーリスは飛んできたその壁を蹴りとばす。

 勢いよく飛んでカランカランと音を立てたところで、能力を解除したのか消滅。


 見ると彰の姿はすでにそこにはいなかった。

 モーリスがあわてて振り返ると、ルークの姿も見あたらない。


「……グルルルル」

 また逃がしたか……。

 あの大きさはガキが逃げる姿を隠すための物だったか。それに気をとられたせいで、執行官の方も逃がしてしまった。


 ………………。


「グルァ!!」

 ドン!

 またも逃がしてしまった苛立ちをそこらにあった機械にぶつける。

 ……いいだろう。こうなったら我慢比べだ。

 再びモーリスはかくれんぼの鬼役を始めた。






 彰とルークは再度物陰に隠れていた。さっきの場所からは離れているのでそうすぐに見つかることはないだろう。

「……で。どうするんだ、あの化け物」

「本当にどうしましょうか……」


「「はあ……」」

 

 二人は同時にため息をついた。

 見た目にはさっきの攻防は互角だったが、相手が一人なのに対しこちらが二人で、その上奇襲をかけて互角なのでは話にならない。

「『獣化ビースト』で反射神経が良くなったとはいえ反応が早すぎませんか? こちらの出す攻撃全て通ってませんよ」

「この前の戦闘で手の内を見せすぎたな。……もう手持ちのカードのほとんどを切ってしまった」

「……学習能力を持った獣ほどやっかいな敵はいませんね」

 ルークが嫌気混じりの声を出す。


「………………」

 二人が黙り込むと辺りは静かになった。モーリスが工場内を徘徊しているのだろうが、しかし細心の注意を払っているのか移動の音は聞こえない。もしこの場所が見つかったら逆に奇襲され返されるだろう。

「それでいつになったらその絡め手っていうのは発動するんだ?」

「それはちょっと……今の状況じゃ無理ですね」

 彰が期待を込めて質問するも言葉を濁されてしまう。何か条件があるのだろうか?


 ルークがつぶやく。

「……いつかモーリスが疲れることを信じて、このままジリ貧な戦いを続けるしか無いのでしょうか」

 二対一でスタミナ的にも有利なのだからそれも作戦の一つだろう。

 だが、『獣化ビースト』を使っているモーリスのスタミナは常人の倍は優に越えるだろう。ずっと緊張状態の続くそれはそれは消耗する長期戦になるに違いない。

「いつ決着が付くのでしょうね?」

 その果てしなさにルークが少しめまいを覚えたところで、



「そんな必要ないさ。まだ切れるカードはある」



 彰がさらりと言った。

「絡め手が使えないんだったら……俺に一つ作戦がある。さっき思いついたんだが、これならモーリスを倒せるかもしれない」

 頭脳明晰な指揮官というよりかは、悪知恵を思いついた悪ガキのような表情で嬉気としてその作戦を語り出す。


「………………」

 ルークはその作戦を聞いて言葉を失った。

 少なくとも自分には思いつきそうにも無い物だった。相手の状況を読む頭の良さと人を小馬鹿にする精神、その二つが組み合わさった作戦。彰だからこそ立てられた作戦だろう。

「……これなら……これならいけるかもしれません」

「だろ。……じゃあ始めるぞ。タネがばれたら使えないから、一回できっちり成功させないとな」

 ルークの同意を得て、二人は作戦を始めるために動き出す。











「………………」

 その様子を工場の二階から眺めている者がいた。

 女性――モーリスに助言をささやいたその女性はビデオカメラ片手に、階下の状況を見守る。女性は戦いが始まった時からずっとそうしていた。

 俯瞰していると戦闘の状況はよく分かる。

 そのためルークの隠れている場所は上から見ていて分かっていたが、捜索をしているモーリスにそれを伝えたりしていなかった。

 戦いに至るまでの助言はするものの、戦い自体に関与しないのが女性のスタンスだった。

 それも全て女性の目的のため。


「順調、順調」


 つぶやきが漏れた。


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