第82話 奪われたモノ
今回は次回に繋げるためにいつもよりかなり短めです。
ただ、天音の絶望感ぷりは最高潮を迎えていますが……。
「セシリア、どうしてここに……?」
「アマネにプレゼントした魔法剣のお陰だよ」
「銀蓮が……?」
セシリアに言われ、銀蓮に視線を移すと、地面に突き刺さった刃から銀色に輝く魔法陣が展開していた。
「あの魔法剣にはアマネが死に直面した時、私達が英国から一瞬でアマネのいる場所まて移動する魔法が発動するようになっているんだ。流石はマーリン、いい仕事をしているぜ」
「私達って、もしかして……?」
「ああ、そろそろ来るんじゃねえか?」
『さっきから何をごちゃごちゃ抜かしておるんだ!!』
突然セシリアが現れて目の前にいる金羅を無視して俺と話をし始めたので金羅は無幻九尾銃から妖炎弾を発砲した。
「ふんっ!」
セシリアのアーティファクト・ギア、聖剣・エクスセイヴァーとアーサー王の生まれ変わりの竜人・アルトリウスが契約した『シャイニング・XX・カリバー』の一閃が妖炎弾を切り裂いた。
「おい、チトセ!操られるなんてだらしないな!!そのまま操られているなら、俺の嫁としてアマネを奪っちまうぞ!!」
セシリア、俺を未だに好意を寄せている気持ちは嬉しいけど、今言う台詞じゃないよな!?
その台詞に反応するかのように銀蓮の魔法陣から三つの影が現れた。
「おいおいおい!天下の英国騎士王様が寝取り王になるのか!?」
「まさか、英国王家に日本人の血が混ざるのか……!?」
「うーん、将来生まれるのが英国人の騎士王と日本人の巫女から生まれたハーフの王子か王女……意外に良いかもしれないよ?」
そう言いながら出てきたのは英国騎士団の騎士隊長を務める四大騎士のヴァークベル、レイズ、キュアリーの三人だった。
三人はとんでもないことを口にしていたが、それについては後でじっくりと語り合うとしようか。
『次から次へと……消えろ!』
金羅はストームガトリングで連続で発砲される妖炎弾でヴァークベル達を狙う。
「さーて、お仕事お仕事!……現れよ、騎士達を守護する盾よ!」
ヴァークベルは妖精族のリナと契約した槍型アーティファクト・ギア、『ディバイン・ゲイ・ボルグ』の柄を地面に突き立てると妖精族の魔法陣が浮かび上がり、聖なる力を秘めた盾が現れて妖炎弾を防ぐ。
「更に!傷つきし肉体に癒しの光を!!ヒーリング・シャイン!!」
ディバイン・ゲイ・ボルグから癒しの光が解き放たれ、俺と晴香や傷付いて白蓮と黒雲の傷を癒してくれた。
「ありがとう、ヴァークベル!」
「おうよ!キュアリー!」
「うん!」
その間にキュアリーは人馬宮のケイローンと契約した弓型アーティファクト・ギア、『シューティング・スター・ケイローン』の弦を引き、流星群の如く大量の星の矢を放った。
『ちっ……!』
舌打ちをした金羅は一瞬でその場から姿が消えて星の矢を回避した。
「……こっちだ!!」
消えた次の瞬間、レイズは冥界獣ガルムと契約した手甲アーティファクト・ギア、『ブラッディ・ガルム』で背後の何もない空間を殴った。
バキッ!!
『うがあっ!?』
何かを殴った音が鳴ると、消えた金羅が地面に転がり落ちた。
『馬鹿な……私の闇討ちに気付いただと!?』
「気付いたのは俺じゃない。血の臭いに敏感なガルムがお前に付着している血を察しただけだ……」
総詞を一撃で倒した金羅の攻撃をあっさり攻略してしまった。
ガルムの能力のお陰でもあるけど、レイズは一瞬で意志疎通をして背後から襲いかかった金羅を性格に殴り飛ばした。
「さーて、狐ちゃん。そろそろチトセを返してもらおうか!」
セシリアは聖剣を金羅に向けた。セシリア達はイギリスで一緒に戦った時よりも何倍も強くなっていた。
この状況でこれほどまでに頼れる援軍はなかなかいないだろう。
しかし、援軍はセシリア達だけじゃなかった。
「千歳さん!!」
「天堂……!!」
「あらあら。これはちょっとマズい状況かしら?」
「先輩!!アリス先生!!」
関東校にいるはずの雫先輩と迅先輩、そしてアリス先生が来た。
アリス先生は金羅と契約して憑依された千歳を見るとすぐさま杖を構えた。
「銀羅と別の九尾……私の可愛い教え子を解放しなさい。今すぐに解放したら見逃してあげるからね?」
『ふん……不老不死の人外か。だが、そう言うわけにはいかないな。この小娘の体は妙に心地がよいからな』
「そう……だったら腕ずくしかないかしら?」
『お前と戦うのも良いが……もう時間だ』
ゴゴゴゴゴ……!!!
突然空気が震えるほどの轟音が鳴り響き、夜空が黒雲に包まれる。
「な、何だ!?」
空気がより重く感じる……まるで京都と違う世界にいるような気分になった。
そして、黒雲が渦巻いていき、中央から何かが突き出た。
「――――!?」
その光景に俺は声を出すことが出来なかった。
セシリア達も同様に驚いて声が出ていなかった。
黒雲の中から現れたのは不気味な黒や紫の色をした巨大な城だった。
黒雲から落ちるように城の頂上が突き出ており、俺達は城を真上で見ているような状態で、不思議な気分だった。
ただ一人、アリス先生だけは警戒の鋭い瞳を浮かべながら杖を握りしめて言葉を紡いだ。
「悪しき妖怪達が住む魔の巣窟……“妖魔城”……!!!」
妖魔城。
聞くからに妖怪のために築かれた城の名前だった。
そして何より、あの城から吐き気がしそうになるほどの邪悪な妖気が漂っていた。
『あの妖魔城には、日本人による降魔の術者達が葬って来た強大な力を持つ妖魔が眠っている……』
「あなた、何をするつもりなのかしら?妖魔城は聖霊界にある魔の城よ……?」
イギリスの魔竜の住む場所と言い、聖霊界にはあんな不気味な城まで存在するのかと、いつか冒険するであろう聖霊界の見えない『底』に身が震えて寒気がした。
そして、金羅の目的が千歳の口を通じて遂に明らかとなる。
『私の目的は妖魔城に眠っている日本最強の鬼……“酒呑童子”を蘇らせるためだ』
「酒呑童子!?」
日本には数多の妖怪や魔物など人外たる異形が存在するが、特に日本の妖怪としての代名詞として有名なのは『鬼』と呼ばれる存在だ。
鬼は恐怖の象徴の一つとして古来より人間を恐怖へ導いてきた。
数ある鬼の中でも最強と言われているのは今金羅が口にした『酒呑童子』だ。
酒呑童子は最強の鬼だが酒好きと言うこともあってその名で呼ばれている。
『私は私自身と銀羅の妖力を使い、酒呑童子を蘇らせ……この京都を妖魔の都にする!そして、京都を中心に日本を全てを妖魔の世界にするのだ!!』
妖魔による日本の侵略……それが金羅の目的だった。
酒呑童子を復活させるために銀羅の妖力が必要だったからあんなにも執着していたのか。
「そんな事、させるか!!」
俺はまだ癒えてない足で立ち上がった。
「うぐっ!?」
足に激痛が再び走り、バランスを崩して倒れそうになる。
「アマネ!」
倒れかけた俺をセシリアが受け止めた。
「無茶をするな!」
「千歳を……千歳を離せ!!」
俺はセシリアに支えながら残り少ない力で金羅に向かって叫んだ。
金羅は周囲を見渡すと、ニヤリと俺を見つめ、妖魔城を指差す。
『返してほしければ、妖魔城まで来るんだ!』
「妖魔城に……!?」
『明日の夜、満月が血に染まる時……全ての始まりとなる!!』
そう言い残した金羅は千歳と銀羅を連れて妖魔城に飛んでいった。
「千歳ぇっ!銀羅ぁっ!!」
手を必死に伸ばすが体が全く動かず、届くはずがない。
千歳と銀羅は金羅に妖魔城へと連れてかれてしまった。
妖魔城は黒雲の中へ消えてしまい、その黒雲も消えて元の京都の夜空となった。
「ちくしょう……」
何もする事が出来なかった。
一太刀すら与えることが出来なかった。
金羅に千歳のみならず銀羅まで奪われてしまった。
セシリア達が来てくれたお陰で助かったが、これは……完全なる敗北だった。
俺は、千歳をずっと護ると誓い、約束したはずなのに、この様はあまりにも情けなかった。
セシリアから離れ、俺は地面に膝をつき、拳で地面を何度も叩いた。
「ちくしょう……ちくしょおおおっ!!!」
悔しさの涙が流れ、叫びの慟哭が京都の夜に響き渡った。
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千歳と銀羅を連れ去られた天音はどうするのか……。
次回は天音がどうなるか……。
まあ、天音にはあのブラコンブラザー&シスターズがいますので。
金羅の対抗策を持って参ります。




