第81話 降魔を打ち砕く絶望
タイトルから不穏な雰囲気が……。
総詞と晴香と天音がピンチです。
千歳が銀羅の姉・金羅に捕らわれてしまい、そのまま千歳の体に無理やり契約をしている。
「ぐぅっ、あっ、くぅ、あああああああああああああああっ!!!」
千歳は体の中に金羅が入り込み、苦痛の悲鳴を上げている。
「千歳を……離せぇっ!!」
冥覇獣神剣を操り、高速に飛び交う三つの剣で千歳と契約を結ぼうとしている金羅を狙う。
『邪魔を……するな!』
金羅は妖気の波動を飛ばして俺達と冥覇獣神剣を吹き飛ばす。
「くっ!なんて妖気なんだ!」
「天音さん、ここは任せてください!」
「総詞!?」
総詞は刀神彩華を構えると、左手で軽く目を押さえると、次の瞬間人が変わったかのように目が鋭くなった。
「うふふふふ……久々に血が騒ぎますねぇえええええええええええっ!!」
ニヤリと笑みを浮かべると、右手に持った刀神彩華の刀身が輝き、再び金羅に向かって飛んだ。
普段はニコニコしている総詞だが、今は狂気を纏った剣士みたいだった。
あれが……新選組一番隊組長『沖田総詞』の本当の姿なのだとすぐにわかった。
総詞は刀神彩華で高速の突きを連続で放った。
「秘剣……三段突き!!!」
金羅の頭や胸などの急所を狙って三連続の突いた。
あまりにも速い突きで、あれは俺でも放てるかどうか分からない剣技だった。
しかし、
スカッ!スカッ!!スカッ!!!
「あれぇ?」
金羅を狙ったはずの高速の三段突きは何もない空を突いた。
『おねえちゃん!うしろ!!』
グサッ!!
「えっ……?」
刀神彩華の中にいる刀華が叫んだその直後、背中から何かが総詞の腹を貫いた。
「あうっ……?ええ……?」
『他愛ないな……』
総詞の背後にいたのは間違いなく金羅だったが、その姿が全く異なっていた……。
「千歳……?」
『そんな、遅かったのか……』
千歳は既に金羅と強制的に肉体と契約をしてしまい、その姿は今まで見たことのないものになってしまった。
頭には狐耳が付いており、俺と同じ黒髪だった千歳の髪は金髪となってしまい、セミロングだった長さも俺よりも長いロングヘアになっていた。
纏う衣類は天聖学園の制服ではなく、露出度の高い和服に変貌していた。
九尾の妖狐の証でもある九本の尻尾が生えていた。
その九本の内の一本の尻尾が……総詞の腹を貫いていた。
ズルッ……ドバッ!!
貫いた何かを腹から抜くと、総詞から大量の血が流れる。
『おねぇちゃあああああああああん!!!』
総詞の手から離れた刀神彩華の中にいる刀華は契約を解除して、倒れる総詞を抱き留めて地面に着地する。
「おねえちゃん!おねえちゃん!!」
「刀華ちゃん、任せて!」
倒れている総詞の元へ行くと、刺された傷口を両手で塞いで霊力を手に込める。
「霊煌参式・治癒!!!」
このままだと総詞の命が危ない!
俺の持てる霊力を解放し、霊煌紋の癒やしの力を最大限で総詞に注いで傷を癒していく。
「刀華ちゃんは総詞の手を握ってあげて!」
「う、うん!」
刀華ちゃんは涙を流しながらも自分に出来ることをやるために、大切な姉の総詞の手を祈るように握った。
『ふはははは!やはり人間は脆くて弱いな!』
金羅が契約した千歳は倒れている総詞をあざ笑った。
「千歳……」
『姉上……』
もはや千歳の肉体は金羅によって完全に奪われてしまい、心が奥底に閉じこめられてしまった。
すると、炎の双剣・双翼炎刀を構えた晴香は俺に視線を向けながら前に出る。
「……天音は治癒をお願い。千歳とは、私が戦う!」
「晴香!」
『まさか、千歳を殺す気か!?』
容赦をしない晴香の性格から銀羅はそう危惧したが、晴香は首を左右に振った。
「心配するな。古より陰陽師の仕事は妖魔から人を救うこと……千歳を救うためにまずは気絶させるだけだ。その後に取り付いた九尾を引き離す!」
銀羅の時は容赦なかったが、陰陽師として人を守るという想いを持っていた。
「十二天将!!」
晴香の周囲に十二天将が姿を現し、そろぞれが武器を構えて金羅を倒すために飛んだ。
巫女装束の懐から数十枚の神霊符が飛んで晴香の体を舞う。
「縛!!」
数枚の神霊符から光の鎖が獲物を狙う蛇のように飛び、金羅は空を滑走するように飛びながらかわす。
更に神霊符を飛ばすが、それは金羅ではなく夜空へと飛んだ。
雲に入り込んだ神霊符は爆音と光を轟かせた。
「振り下ろせ、雷神の剣!!!」
次の瞬間、雲は雷雲へと姿を変えて数多の落雷が金羅に降り注いだ。
『雷神の力を借りた落雷か……』
空に向けて手を掲げた金羅は妖力で壁を作り、落雷を簡単に防いだ。
「風よ、魔を封ずる檻となれ!」
神霊符から風が巻き起こり、膨大な風が金羅を包み込んで見えない檻となる。
「今だ!!」
十二枚の神霊符が金羅を中心に十二の方向に配置され、そこにそれぞれの方向の場所を持つ十二天将が立ち並んだ。
その際、晴香の手にある双翼炎刀から朱雀が出て来て共に並んだ。
そして、十二天将はそれぞれが持つ武器同士を光を繋いでいき、一つの大きな光の陣にする。
『魔を滅する、我ら十二天の煌めき!!“十二天・方陣結界”!!』
天一は聖なる槍を掲げて十二天将が作り出す陣を完成させた。
十二天将が全員が無防備になる代わりに、金羅を完全に押さえ込むこの陣は強力だった。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!!!」
その間に晴香は両手で素早く九字の印を結ぶと、十二天将が描いた光の陣から無数の光の剣が現れる。
「悪しき魔を穿つは、聖なる光より生まれし降剣!!!」
光の剣が一斉に金羅に向けられ、妖魔を滅する退魔の力を宿した。
「光剣降魔!百鬼滅却!!急急如律令!!!」
晴香の詠唱が終わると共に光の剣が一斉に発射された。
十二天将が完全に金羅を封じ込めてからの無数の降剣の剣……これは完璧な連繋攻撃だった。
だが、俺達は気付いていなかった。
金羅の持つ力と、俺達の格の違いを。
『討ち滅ぼせ……“九魔之魔剣”!!!』
封じ込めたはずの金羅から九つの金色の斬撃が放たれ、十二天将の張った強力な陣を破壊し、更に晴香の放った光の剣を粉々に砕いた。
その際、陣を張っていた十二天将は全員吹き飛ばされてしまった。
「方陣結界と、降剣の光剣が……」
呆然とする晴香に金羅は陣と剣を破った自らの持つ剣を見せた。
それは九つの叉に分かれた不思議な形をした金色の剣で、分かれている叉に色の異なる宝玉が埋め込まれていた。
まるでその剣は九尾の妖狐である金羅の姿を模した剣だった。
『これは私が千年の時をかけて生み出した、貴様ら魔を討ち滅ぼす術者の力を殺す剣……“降魔殺しの剣”だ!!』
古来より人間を喰らうなどの仇なす妖魔などを討ち滅ぼすために陰陽術などの、霊力を使った術や神の力を借りて戦う破魔・退魔・降魔と呼ばれる、いわゆる『魔を祓う』力を持つ術者達が人間を守ってきた。
その魔を祓う力を殺す剣……つまり、術者に対する対抗策の一つとして金羅が用意した力だった。
妖魔にとってこれほど強力な武器はなかった。
『さあ、安倍晴明の子孫にして現代最強の陰陽師よ……九魔之魔剣の刃をその身に受けよ!!』
金羅は九魔之魔剣を振り下ろし、九つの斬撃を放った。
「逃げろ、晴香!!!」
「はっ!?へ、壁!!!」
呆然としていた晴香は俺の叱咤で気を取り戻し、残り全ての神霊符を使って何重にも重なった強固な壁を生み出した。
『ふっ……無駄なことだ』
不敵な笑みを浮かべた金羅の言葉通り、九つの斬撃は晴香の展開した壁を紙のようにいとも簡単に打ち破った。
「そんな……」
そして、何もすることが出来ない晴香はその身に九つの斬撃を受けてしまった。
「晴香ぁっ!!!」
俺は冥覇獣神剣に乗り、落ちていく晴香を受け止めた。まだ完全に総詞の治癒は終わってないけど、取りあえず傷口を塞いで止血はしたから命に別状はない。
だけど、晴香は体中傷だらけになり、傷口から血が溢れて血みどろだった。
晴香を抱きしめながら全身に治癒を施していく。急がないと晴香が出血多量で死んでしまう。
そして、金羅が総詞と晴香の次に狙いを定めたのはもちろん俺だった。
『後は貴様だけだな。このまま九魔之魔剣でやるのも良いが、面白い事をしてやろう』
金羅は九魔之魔剣を背中に背負うと、左手の平が光り、何かを取り出した。
それは千歳の愛銃のレイジングとストリームだった。
何故レイジングとストリームを取り出したのか分からなかったが、すぐにその理由が分かった。
「銀羅!逃げろ!!」
しかし、俺が警告したところで千歳の体を使っている金羅は既にその『言葉』を発してしまった。
『契約執行、銀羅!!』
『しまっ――ぐぁああああああああああああっ!?』
銀羅は金羅が持つレイジングとストリームへ連れ去られるように契約をしてしまい、無幻九尾銃となってしまった。
契約をしてない金羅と言えども、憑依をして契約をしているその体は銀羅と契約をしている千歳そのものだ。
銀羅は契約に抗う事が出来ずにアーティファクト・ギアとなってしまったのだ。
『はっはっは!面白い武器となったな、銀羅よ!』
『離せ!姉上に使われたくない!!』
『この体はお前が愛する小娘なのに強情な奴よ……しばらく黙っていろ』
『ぐあっ!?』
金羅は無幻九尾銃に呪印みたいなものを打ち込み、中にいる銀羅を黙らせてしまった。
『さあ……貴様の愛する女の放つ弾で果てるがいい!!』
無幻九尾銃をストームガトリングに変化し、無数の妖炎弾が放たれる。
「くっ、強化!!」
治癒で晴香を治しながら強化で高速で動き、妖炎弾を回避していく。
「刀華ちゃん!総詞と一緒に安全なところに逃げて!」
「え!?あ、うん!」
刀華ちゃんは小さい体で総詞を抱き上げてこの場から逃げていった。
「よし。黒蓮!!」
『『『ガウッ!!』』』
冥覇獣神剣を高速で飛ばし、金羅の死角を狙って反撃を行おうとした。
『往生際の悪い奴だな……』
金羅は何も見ていないはずなのに背中の九魔之魔剣を抜いて三本の冥覇獣神剣を全て弾き返した。
『貴様も眠っていろ!』
無幻九尾銃をブラストランチャーに変化して圧縮した妖炎弾を冥覇獣神剣にぶつけた。
すると、冥覇獣神剣の契約が解除され、黒蓮と三本の刀剣が地面に突き刺さった。
「黒蓮!!!」
何故冥覇獣神剣の契約が解除されたのか分からなかったが、俺の纏っている鳳凰之羽衣にも変化があった。
『ちち、うえ……けいやくが、うまくいじできない……』
「まさか……」
昼間晴香と戦ったときに奥の手である冥覇鳳凰剣を使ってしまった。
冥覇鳳凰剣の二重契約執行は俺達の契約にバグを起こしてしまう……。
アリス先生の調整でバグは収まったが、こんな時にそのバグが契約を維持出来なくなると言う事態になってしまった。
白蓮と蓮煌で鳳凰剣零式を契約してもすぐに解除されるだろう。
「くっ!!」
どうすればいいんだ!?晴香を治癒していて両腕が塞がれていて、その晴香を治癒するためにもう霊力も4分の1を使ってしまっていて、更に白蓮と黒蓮の契約にバグが生じている……。
ただでさえ強大な力を持つ金羅に対して満足に戦うことが出来なかった。
頭を回転させて必死に考えるが、それが逆に仇となった。
『ふっ、隙ありだ』
金羅の放った妖炎弾が俺の両足を貫き、体中に激痛が走る。
「ぐがあああああっ!?」
足を怪我し、走れなくなった俺は晴香を抱きしめながら倒れてしまった。妖炎弾に貫かれた熱さと痛さが同時に足を襲いかかり、今まで味わったことのない激痛だった。
「ぐっ、あぐぅ……」
『ふはははは!足は生き物にとって体を支える部分……痛みはより辛いだろうな』
「金、羅ぁ……」
金羅は地面に降りると、動けない俺の元に来た。
『悔しいか?悔しいだろうな……貴様が愛した女に今から殺されるなんてな!』
金羅は足で思いっきり俺の両足の傷を踏み込んだ。
「ぐああああああああああああああっ!!!」
傷口を踏まれ、更なる激痛が俺に襲い、悲鳴を上げてしまう。
『くっくっく……良い悲鳴だ。特にお前は美しいからもっと声を出させたくなる……』
俺をいたぶる事に快感を得た金羅は一旦足を退かすと、俺の髪を持って頭を持ち上げると俺の頬を舐めた。
『ふん……ペロッ……』
「くっ……!?」
体は千歳でも金羅が俺の頬を舐めている……これほどの屈辱的な気分は初めてだった。
そして、金羅はそのまま俺の耳元で囁いた。
『気に入った……お前、私の奴隷になれ。私の奴隷になれば永遠の快楽を与えてやるぞ?』
「ふざ、けるな!誰が、お前の奴隷なんかに……」
『あくまで拒むか。だが、順応するまで調教しがいがあるな』
俺を手に入れようとする金羅にまだ抗うものがいた。
『ちちうえをはなせ!』
鳳凰之羽衣との契約を解除した白蓮が金羅に立ち向かった。
「よせ!白蓮!!」
『鳳凰か……美しいな。貴様を綺麗な道具に加工してやる!!』
金羅の放った妖炎弾は白蓮の体を貫き、全く傷を付けずに倒した。
「白蓮!!!」
『さて、次はどうしてやろうか……』
再び俺に視線を向けて狙いを定めた金羅。
もう俺の手に金羅に対抗するための手段は何一つ残っていなかった。
千歳と銀羅を奪われ、総詞と晴香、そして白蓮と黒蓮を傷つけた金羅を許せなかった。そして、悔しかった。
「ちくしょう……」
無力な俺は両目から一筋の涙を流してしまった。
その時、黒蓮の隣にあった銀蓮から銀色の光が放たれた。
「アマネ、お前に涙は似合わないぜ?」
「えっ……?」
銀色の光から一つの影が現れ、一瞬で金羅をぶっ飛ばした。
『うがっ!?何だ!?』
「あの時、約束したよな……?」
その声は男っぽい口調だったが、綺麗な高い声音だった。
金髪をなびかせ、体にはこの京都では絶対に見られないであろう純白の鎧を纏っていた。
そして、右手には黄金と白銀に輝く美しき聖剣。
その姿はまさに国と民を守るために戦う誇り高き騎士だった。
「お前とチトセに避けられない大きな戦いに巻き込まれたら……私と騎士団のみんながお前のところに駆けつけるってな!!」
「セ、セシリア……!?」
振り向いて俺に笑顔を見せる少女は日本から遠く離れた英国の地で俺達と友となり、『騎士王』の称号と地位を手に入れた英国第二王女『セシリア・ペンドラゴン』だった。
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絶望からの希望……騎士王セシリア見参です!
次回はキャラクター大集合です!
そして、金羅に憑依された千歳は……?




