第75話 修学旅行、スタート!
始まりました、天音たちの修学旅行。
今回は色々なネタを詰め込みましたwww
バトルは当分先になりそうです。
天聖学園1年A&B組の修学旅行の目的地……日本の象徴の一つである西の都、京都に到着した。
東京駅から新幹線で数時間、ようやく京都駅に到着し、初めて触れる空気に俺だけではなくクラスメート達全員が心を踊らせていた。
「皆さん、天聖学園の学生として礼儀正しく、無理な行動をせずに修学旅行を満喫してくださいねー」
俺達の担任の葛葉先生がそう注意するように言い、俺達の修学旅行が始まる。
すぐに俺達八人と六体の班が集まり、リーダーの明日奈委員長が先導して指示を出す。
「それでは、今日は千歳ちゃんの“伏見稲荷大社”、天音君の“平等院鳳凰堂”、そしてサクラ君の“清水寺”に行くよ〜!」
『『『おーっ!』』』
修学旅行では班員一人一人の行きたい場所へ行けることになっており、今日は俺と千歳とサクラの行きたい場所へ向かうのだ。
早速京都駅前から伏見稲荷大社行きのバスに乗って向かう。
窓から見える京都の古き良き街並みに、本当に京都に来たんだなと感動した。
「京都か……本当に綺麗な街だな」
「天音にはピッタリの街かもね」
「そうか?」
「そうだよ。だって、和服を着れば違和感ないからね♪」
「あはは、そう言う事ね……」
「あっ、見えたよ!」
バスは伏見稲荷大社の前に止まり、俺達はバス賃を払って降りた。
「おおー!大きな神社だねー!」
伏見稲荷大社は稲荷山と呼ばれる大きな山いっぱいに神社や沢山の鳥居が作られている。
境内に入ると銀羅はキョロキョロと周囲を見渡す。
『千歳、この神社から狐の力が感じられるぞ』
「狐の力?それもそうだよ。だってこの伏見稲荷大社はお稲荷さんで有名な稲荷神社の総本社だからね」
稲荷神社は狛犬の代わりに宝玉をくわえた狐の像が置かれており、それを稲荷狐として祭られている。
そして、この伏見稲荷大社が全国にある稲荷神社の総本社なのだ。
境内には稲荷狐の像がいくつもあり、九尾の狐である銀羅は目を輝かせていた。
「この伏見稲荷大社の主催神は五穀豊穣の神様、“宇迦之御魂神”様なのですよ〜」
明日奈委員長は伏見稲荷大社の主催神について説明をしてくれた。
「宇迦之御魂神様は日本神話の女神様で、食物の神様として農民に愛される神様なのですよ!」
日本人は米を主食にしている民族だから、宇迦之御魂神はまさに日本人にはうってつけの神様だった。
『食物の女神か……もしかして、あそこにいる狐耳の女とか?』
「えっ???」
銀羅の尻尾が指さした方角は伏見稲荷大社の本殿の上で、そこには狐耳の金髪美女が座っていた。
雰囲気からしてかなり徳のある神様で、俺達の視線に気付くと……。
『む?バレたか……シュタッ!』
本殿の上から飛び降りて稲荷山の奥へ逃げるように走り去ってしまった。
『逃がすか、追うのだ!!』
『よっしゃあ、とっ捕まえてやるぜ!』
『ガハハッ!ワシらから逃げられると思ったか!』
何を思ったのか銀羅は狐耳の美女を追いかけ始め、それに便乗するかのように悟空とトールも追いかける。
「銀羅!何で追いかけるのー!?」
『逃げるものを追いかけたくなるのは獣の性だ!!』
「悟空!お前も何やっているんだ!?」
『あんな美女が逃げるなら、雄としては捕まえたくなるだろ!』
「トール……あなたは?」
『ただ単に面白そうだからだ!』
三人はバラバラな理由で謎の狐耳美女を捕まえに行くが、妙に息のあったコンビネーションで追い詰めてあっさりと紐のように変化した悟空の如意棒で捕まってしまった。
狐耳美女はジタバタと暴れながら抗議をする。
『おのれ〜!妾を誰だと思っている!?この国の女神、宇迦之御魂神だぞ〜!』
わぁお……本当にこの伏見稲荷大社の主催神だったよ……。
『呪ってやる!貴様等、名を名乗れ!』
『私は九尾の妖狐、銀羅だ!』
『俺は闘戦勝仏、またの名を斉天大聖の孫悟空だ!』
『ワシは雷帝神王のトールだ!』
銀羅達の素性を知って驚愕する宇迦之御魂神様。
『な、何じゃと!?わ、妾に何をするつもりじゃ!?この体に傷を付けるつもりか!?』
『『『いや別に』』』
ズドーン!
宇迦之御魂神様は三人の発言に倒れてしまった。
『お前が逃げるから追いかけただけだ。別に陵辱とかするつもりはさらさらないぞ』
その前に俺達が全力でお前達を止めるわ。
すると宇迦之御魂神様は涙目になると何故か俺を睨みつけた。
『そこの女みたいなお主!』
「えっ?俺ですか?」
『そうだ、お主だ!この無礼に対する詫び……妾に絶品の料理を作れ!』
「りょ、料理ですか?」
『見たところ、お主は相当の料理の腕を持っている……その腕を使って妾に極上の料理を作れ!』
「いや、作れって……材料と調理器具はどうやって……」
『心配するな。そこは妾が準備する』
パァン!
手を叩いたような音が鳴ると、周囲の風景が一瞬で歪むと金色に輝く稲穂が一面に広がる不思議な空間となった。
「こ、ここは!?」
『ここは妾が生み出した心を現実に映し出した“現想結界”じゃ。この結界内なら食材と器具は使い放題じゃ』
宇迦之御魂神様がそう言うと俺の目の前にアリス先生がいつも出すような高級食材と高級調理器具が現れる。
「京野菜まである……」
しかも高級食材の中には京都でしか採れない京野菜と呼ばれる特別な野菜まであった。
こんなに珍しい食材を見せられては料理人の端くれとして調理をしない訳がない!
「おおっ!?あ、天音が燃えている!天音の中に眠る料理人の魂を揺さぶられたみたいだね!!」
千歳さん、詳しい解説をありがとう。
俺は顕現陣から赤い紐を取り出すとそのまま長髪をポニーテールに纏めてバッグを降ろす。
「さあ、みんな!宇迦之御魂神様に美味しい料理を提供するよ、手伝ってくれ!!」
『『『おーっ!!』』』
俺が料理長となり、みんなと一緒に宇迦之御魂神様をもてなす為の料理を作り始める。
この現想結界は外の空間よるも時間がかなり遅くなると言うので時間を掛ける手の込んだ料理を作ることにした。
何せ相手は日本神話の女神の一柱、宇迦之御魂神様だ。
失礼がないように全力で作らなければ。
そう思いながら数時間の時間を掛けて、やっと料理が完成した。
「お待たせしました!」
高級な京野菜を中心にしたヘルシーだけど美味しい料理を宇迦之御魂神様に提供した。
色鮮やかな盛り付けにして見た目からも美味しさを演出した。
もちろんデザートには俺得意のお菓子を用意した。
「ほぉ、これは美味そうじゃな。では……」
宇迦之御魂神様は箸で料理を摘まんで口に運んだ。
「……う、美味い!!」
「良かったです。では俺達もいただきます」
料理人として期待した言葉を貰い、俺達も料理を食べ始める。
「う〜ん!やっぱり天音の料理は最高!」
千歳はいつものように美味しそうに頂くが、隣にいた明日奈委員長はショックを受けた表情を浮かべた。
「私も料理をやっているのに天音君みたいにここまで味を美味しくできない……悔しい……」
料理人として負けを認め、悔しいながらも俺の料理を美味しく食べていると言う何とも複雑な気分の明日奈委員長だった。
そして、満足した宇迦之御魂神様は上機嫌となって笑顔を見せた。
『うむ!この美味しい料理に免じて先ほどの無礼は許してやろうではないか。ところで、お主達は何処から来たのじゃ?』
「俺達は天聖学園の関東校から修学旅行で京都に来ました」
『ほぅ、東の国からか。京都を心行くまで楽しむが良い――と言いたいところだが、そうは言ってられないかもしれんな』
先程の雰囲気が一転変わってシリアスな表情を浮かべる宇迦之御魂神様に俺達は箸を止めて一気に緊張した。
「それは、どう言う事ですか?」
『最近、この京都に邪悪な影が潜んでおる。目的は分からんが良からぬ事なのは間違いないが』
「そうしたら、俺の出番だな……」
サクラは右目の原罪の邪眼を発動して右手の関節を鳴らし、足下にいるツバキに視線を送るとツバキはコクリと頷いた。
宇迦之御魂神様は目を細めてサクラの力に興味を抱いた。
『ほぅ、それは異国の黄泉の力か……だが、お主の出番は必要ないかもしれないぞ』
「何……?」
『この京都には頼れる二つの守り手達がいるからな』
「二つの守り手……?」
『一つは数百年前、日本の幕末に存在した京都を守護するために結成された最強剣客集団。その名と志を継いだ現代の侍達……“新選組”だ!』
新選組……聞いたことがある。
天聖学園・関西校の全生徒の中から特に剣術を中心とした武術に秀でた生徒達で京都の治安を守る為に結成された、文字通り現代の新選組。
京都は古来より争いごとが耐えない都市で、その治安を守るためには絶対的な力が必要だった。
そこで幕末の新選組をなぞらえて現代版の新選組が結成されたわけだ。
『そして、もう一つは千年前の平安時代に存在した日本最強の陰陽師……“安倍晴明”の血と霊力を受け継いだ現代最強と謳われる陰陽師“安倍晴香”だ!』
「安倍……晴香?」
あの伝説の陰陽師、安倍晴明の子孫がこの京都にいたなんて……。
術や形式は違うけど、同じ異形の魔から人々を守る者同士、一度会って話をしてみたいものだ。
『新選組と安倍晴香がいれば何も心配することはない。お前達は安心して修学旅行を楽しむが良い』
宇迦之御魂神様が自信を持って言うのだからきっとそうなのだろう。
いつもトラブルに巻き込まれている俺としては嬉しい限りだ。
今回は何事もなく平和な修学旅行を楽しめそうだ。
その後、料理をみんなで食べ終えると宇迦之御魂神様は俺達を元の伏見稲荷大社へと返してくれた。
元の世界の時間はあまり経過しておらず、昼食の時間をかなり節約出来たので結果オーライだった。
境内で狐の頭の形をした絵馬を見つけ、せっかくなので千歳と銀羅は絵馬にお願い事を書いて飾った。
「千歳、銀羅、絵馬に何を書いたんだ?」
「秘密〜♪」
『秘密だぞ!』
二人は笑顔で絵馬の願い事について秘密にされてしまった。
そして、伏見稲荷大社から次の場所に行くことになった。
『さらばだ〜、しっかり楽しむのだぞ〜』
宇迦之御魂神様狐耳をピコピコと動かしながら手を振り、俺達を見送ってくれた。
俺達も手を振って反応すると、宇迦之御魂神様は小さく笑みを浮かべて呟いた。
「“闘争の運命”か……」
「えっ?」
何の事か分からない事を口にした宇迦之御魂神様に唖然としながらもみんなに引っ張られながら次の目的地に向かった。
☆
バスに乗り、伏見稲荷大社の次に向かった場所は……。
「付いたぞ、白蓮」
『ピィー!』
俺が修学旅行で望んだ目的地である平等院鳳凰堂だ。
平等院鳳凰堂は国宝クラスの綺麗な庭園や寺院が有名だが、俺が見たかったものは……。
「ほら、あれが鳳凰像だぞ」
『ピィー!?』
平等院にある有名な鳳凰像……これを同じ鳳凰である白蓮に見せたかったのだ。
「うーん、千年前に鳳凰の姿を模して作られたって言われているけど、近くで見ると白蓮に似てないな……」
「まあ、そもそも白蓮ちゃんは鳳凰として正しい成長をしていないからね」
『ピィー……ピィイッ!』
「白蓮!?」
白蓮は何を考えたのか体を成長させて鳳凰の姿へ変身させて鳳凰像の元へ飛んだ。
そして鳳凰像とにらめっこをすると、白蓮は勝ち誇ったような笑みを浮かべて翼を羽ばたかせる。
『うん、ばくのほうがかっこいい!』
「びゃ、白蓮!すぐに降りてきなさい!」
「天音、あれ……」
「えっ?」
みんなが指さす方向には俺達以外の観光客がたくさんいて、鳳凰像と並び立っている白蓮に向けて祈るように手を合わせた。
「おお、本物の鳳凰様だ!」
「何と神々しい光だ……!」
「是非とも、この平等院の守り神に……」
えぇええええええええええええええええーーーっ!!!???
何かうちの白蓮が観光客の人々に崇められているぅうううううーーーっ!?
「お、親方様!早く白蓮を連れ戻さないと大混乱になるでござる!」
「このままだと白蓮が本当にこの寺院の守護神になってしまいますよ!」
刹那と麗奈の指摘はもっともだ。
確かに白蓮を見るために観光客がぞろぞろと集まり始めている。
「白蓮、すぐに戻って来い!」
『え!?う、うん!』
白蓮はすぐに俺の所へ降り立つと、観光客の人達に囲まれないようすぐにその場から立ち去った。
本気で白蓮を守り神にしようと思ったのか、本気で追いかけてきたのでかなり焦った。
だけど、何とか逃げることに成功し、俺達はかなりの体力を使い果たし、息切れを起こしていた。
「はぁ、はぁ、白蓮……次からは、あんな事をしちゃダメだよ?下手したらあの平等院の守り神にされたかもしれないんだから……」
『はーい……』
自分の軽率な行動を反省した白蓮はシュンと小さくなったかのように返事をした。
「まあまあ、天音。そのくらいにしてね。ほら、次の目的地に着いたよ」
「あっ……本当だ」
走っているうちに次の目的地であり、サクラが希望した清水寺に到着した。
「ほら、白蓮ちゃんも小さくなってね」
『うん!』
「さて……色々あったけど、次は清水寺だな」
白蓮は鳳凰から雛の姿に戻って俺の頭に乗り、気を取り直して修学旅行を続ける。
清水寺は本日で最後に訪れる修学旅行の場所で、一日目を締めくくるには充分な場所だった。
建築物や美術工芸品など数多くの物が国宝遺産として登録され、世界的にも有名な寺院だ。
そして、清水寺に行きたかったサクラはいつになくテンションが上がっていた。
「キタキター!清水寺だ!!」
「あはは、サクラ君。テンションが上がる気持ちは分かるけど、落ち着いてね〜」
「分かっている!だが、このまま清水の舞台から飛び降りらせてもらう!」
「ストッォプ!そこのテンションマックスのハーフギリシャ人!!清水の舞台から飛び降りちゃダメェッ!!!」
テンションマックスで清水の舞台から飛び降りようとするサクラを全力で止めようとする明日奈委員長だった。
「サクラ、テンション上がってるね」
「そうだな……ん?」
清水寺へ歩いていると、突然不思議な気配を感じ取り、周囲をキョロキョロと見渡す。
周囲にいる契約聖獣とは全く違う気配を感じる……これは神の力?
「どうしたの?天音?」
「……いや、こっちに見ているような不思議な力を感じてな。でも、消えたかな……?」
まるで俺が気付くとすぐに走り去って逃げたように気配が消えた。
一体何だったんだ?
『旦那、この京都には特に力の強い色々な聖獣がいるんだ。一々気にしていたら切りがないぞ』
尻尾で器用に俺の頭を撫でる銀羅の言う通りだ。せっかくの修学旅行なんだから気にするよりも楽しまなくちゃな!
「そうだな。白蓮、黒蓮、目一杯楽しもうか!」
『ピィーッ!』
『『『ばう、ばうっ!』』』
「あっ、待ってよー!天音!」
『私達も楽しむぞ!!』
みんなで一緒に清水寺を楽しみに行く。
清水寺には寺院以外にも観光客が楽しめるスポットがたくさんある。
ホテルに向かうまでの時間ギリギリまで悔いの無いように楽しもう!
しかし、俺が感じた気配はただの勘違いではなかった。
遠くから俺達を見ていたのは朱色の髪と背中に大きな翼を持つ青年たった。
『見つけた……九尾の妖狐。すぐに晴香に伝えなければ……』
青年は朱色の翼を羽ばたかせて飛び、主である晴香の元へ飛んだ。
この青年の正体は安倍晴香が従えている十二天将の一柱……炎の天将・『朱雀』である。
そしてこれが俺達の京都での始まりの戦いへと繋がるのだった……。
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次回は宿泊先のホテルで波乱が巻き起こります。
修学旅行の定番、覗き、まくら投げ、混浴……などなど、色々なハチャメチャイベントが起こりますので楽しみにしていてください。




