第72話 千歳と銀羅の新たな力
今回は修行と、千歳と銀羅の強化イベントです。
ちょっと新キャラを登場させてみました。
かなりチートですが(笑)
青い空に太陽が輝き、海の上を滑走する二つの姿があった。
一人は巨大な大剣に乗って滑走し、もう一人はユニコーンの幻影を持った一本の槍の上に乗って海を駆け抜けていた。
「逃がしませんよ、天音さん!」
「まさか槍に乗って走るとは思いませんでしたよ、雫先輩!」
俺はケルベロス・黒蓮とのアーティファクト・ギア、冥覇獣神剣に乗っており、雫先輩はユニコーンの幻影を浮かび上がったユニコーン・ザ・グングニールに乗っていた。
数日前のサクラとの決闘の時にお手合わせをお願いしますと言っていたので、今それをやっている。
「さあ、これをどう受けますか?アンリミテッド・グングニール・ファンタジア!!」
雫先輩は神槍を無限に複製させ、様々な軌道を描きながら一斉発射していく。
「黒蓮、加速だ!」
『『『ガオッ!』』』
乗っている冥覇獣神剣の飛ぶ速度が上がり、手の動作に合わせて空中に浮く二本の冥覇鳳凰剣を操る。
「霊煌弐式、強化……両目の視神経を強化!!」
霊煌紋の力で両目の視神経を強化し、無限の神槍の動きを完全に捕捉し、冥覇鳳凰剣を高速回転させる。
「蓮宮流、冥覇轟回閃!!」
ブーメランのように飛んでいく冥覇鳳凰剣で無限の神槍を正確に叩き落としていく。
雫先輩は叩き落とされた神槍を操り、ギュゥイン!と音を鳴らしながら高速回転させる。
「神槍一閃、ユニコーン・シエイバー!!」
ドリルのような破壊力のある神槍が一直線に飛んできて思わずギョッとする。
「黒蓮、全力回避だ!!」
冥覇獣神剣のスピードを更に上げて空を駆け抜ける。
さて……今俺が、俺達がいる場所は何処にいるかと言うと、ここはただの海じゃない。
正確に言えばここは人間界の海じゃない。
ここは信じられないけど、アリス先生とエレメンタル・スピリッツが創りだした世界……『星界』だ。
自然が豊かで、修行用の施設もあるこの星界で俺達は自分達の力を向上させるために修行を行っているのだ。
事の始まりは数時間前……サクラが天聖学園に転入した時だった。
サクラは雷花さんが在籍する1−B組に転入し、早速千歳に会いに俺達の1−A組に突撃してきた。
「よぉ、千歳!会いに来たぜ!!」
「あ、サクラ。いらっしゃい」
「おう!」
「そして自分のクラスにお帰り下さい」
千歳は笑顔でご丁重にサクラを送り返そうとする。
「ぐはぁ!?早速拒否られた!?」
「サクラ、お前は早く自分のクラスに帰れ」
「天音、千歳に一緒にいるからって調子に乗るなよ……」
「調子に乗ってないよ」
ライバル同士なので既に一触即発の状況となる。
「まあまあ、落ち着きなさいな。蓮宮君」
「委員長!」
「あ、委員長だ!」
俺とサクラの間に割り込んだのは茶髪のセミロングに眼鏡をかけた少女だった。
彼女は『霧夜明日奈』、俺達1−A組のクラス委員長だ。
委員長はサクラに指差しをして注意をする。
「転入生のサクラ・ヴァレンティア君。私の目が黒い内は、このクラスで無益な争い事や喧嘩は許さないぞ〜」
「お前には関係な――っ!?」
サクラは委員長の顔を見た瞬間に右目の原罪の瞳が発動し、距離を離して戦闘態勢を取った。
「貴様……“悪魔”を使役しているな?」
警戒するサクラに委員長はニヤリと笑みを浮かべ、扇子を取り出して口元を隠す。
そう、彼女には恐るべき契約聖獣……悪魔がいる。
「へぇー、やっぱりその瞳の力で見たんだねー。流石は“桜花の断罪者さん”ね」
委員長はサクラの異名を既に知っており、サクラは更に警戒心を高める。
「何者だ……悪魔を使役しているが、罪人じゃなさそうだが……」
「ふふふ、私はどんな秘密も暴く悪魔のジャーナリストよ」
「悪魔の……ジャーナ、リスト……?」
「委員長……転入生を恐がらせないで下さいよ」
「それもそうね。じゃあ、喧嘩しないでね」
振り返り、手を振って立ち去る委員長。
サクラは一筋の汗を垂らして俺に尋ねる。
「天音……あいつは本当に何者なんだ?」
「委員長は……明日奈さんは“ソロモン72柱”が契約聖獣なんだ」
「はぁ!?ソロモン72柱って、ソロモン王が使役した72の悪魔じゃねえか!」
ソロモン72柱とは古代イスラエルの王・ソロモン王が使役したと言われる72の悪魔の事である。
「明日奈さん曰く、自分はソロモン王の生まれ変わりらしいんだ。まだ半分の悪魔には認められていないけど、その悪魔の力を借りて自分の知りたい“情報”を集めているんだ」
「じょ、情報……?」
「だから、明日奈委員長には逆らわない方が良いよ。悪いことをしなければ何もしないから」
「あ、あぁ……」
幸い、委員長は人が良く、クラスメイトや困っている人の為に積極的に人助けをしているので俺は好感を持てる。
「おっ、サクラ。来ていたんか?」
「サクラ……千歳に会いに来た?」
恭弥と雷花のカップルが教室にやって来た。
「みんな。放課後、冒険部は全員地下室に集合だぞ」
「アリス先生が見せたい物があるって……」
「分かった。放課後に地下室な」
アリス先生が見せたい物って一体何だろう?
その事に少し気になりながらその日の授業を受け、放課後に聖獣のみんなと一緒に境界輪廻でアリス先生の地下室に向かう。
地下室には雫先輩と迅先輩が先に待っていた。
そして、開けた事のない扉からアリス先生が出て来た。
「さーて、冒険部のみんな、揃ったわね?それじゃあ、この部屋に入って」
アリス先生の導きで俺達はその部屋に入る。
殺風景な部屋だったが、部屋の中央には青く輝いたまるで地球みたいな綺麗な球体が浮かんでいた。
「みんな、何も言わずにこの球体に触れて」
アリス先生に言われた通りに俺達はその球体の周りにに立ち、一斉に右手で球体に触れた。
俺達が球体に触れた瞬間、球体の青い輝きが増した。
「えっ!?」
驚いた次の瞬間に俺達はその光に包まれて目の前が真っ白になった。
真っ白になった視界が元に戻ると、そこは見たこともない大自然が広がっていた。
ここは天聖学園ではない……それだけは確かだった。
俺達は何が起きているか分からないこの状況に目を疑っている。
「はっはっは!とっても驚いているね、みんな!!」
俺達の驚いている表情にアリス先生はしてやったり!と、面白そうに笑っている。
「アリス先生……これは何なんですか!?」
「ここはあなた達の為に創った新しい世界……“星界”よ!」
「星、界……?」
アリス先生はこの『星界』について色々説明してくれた。
イギリスでヒュドラを倒す時に『星界創造撃』と言う究極創世魔法で創った世界で、俺達冒険部の為に創ってくれた。
「さぁ、みんな。自分の力を高めるためにこの世界で修行をしてね!」
壮大な自然のバトルフィールドや冒険のサバイバル用の大自然、そして宿泊用の施設……修行出来る世界としては至れり尽くせり状態だった。
「天音さん!是非私とお手合わせをお願いします!」
「雫先輩……はい、わかりました!」
早速雫先輩と決闘の時の約束で手合わせをする。
「白蓮、黒蓮!行くぞ!!」
『ピィー!』
『『『がう!』』』
「ソフィー、行きますよ!」
『ヒヒーン!!』
お互いに契約媒体を取り出して契約聖獣とアーティファクト・ギアの契約をする。
「「契約執行!」」
今回は黒蓮を中心にした戦いをするために蓮煌、氷蓮、銀蓮を使う。
「アーティファクト・ギア、冥覇獣神剣!!」
更に鳳凰之羽衣と鳳凰剛柔甲を身に纏い、俺の戦闘準備が終わる。
「アーティファクト・ギア、ユニコーン・ザ・グングニール!!」
雫先輩も神槍、ユニコーン・ザ・グングニールを手に持ち、手合わせを行う。
「ねぇ、恭弥……冒険者のサバイバルを教えて……」
「おう!任せろ!」
恭弥と雷花は二人で冒険者としてのサバイバルの修行をする。
「サクラ殿!拙者と手合わせをお願いするでござる!」
「リアルジャパニーズ忍者……喜んで相手をするぜ!」
「迅先輩、私とお願いします」
「分かった……本気で行くぞ!」
刹那はサクラと、麗奈は迅先輩と手合わせをする。
そして、千歳は……。
「アリス先生、ちょっと良いですか?」
「ん?何かしら?」
銀蓮を連れてアリス先生と何処かに行ってしまった。
そして、俺は雫先輩と手合わせをして現在に至る……千歳は何をしているのだろうか?
☆
みんながそれぞれ修行を始めている時、私はアリス先生に相談をしていた。
「それで千歳。相談したいことってなにかしら?」
「はい。私のアーティファクト・ギア……清嵐九尾の契約媒体を変えられないかと思いまして……」
「契約媒体を変える?どうしてそう思ったの?」
「実は、清嵐九尾の力に限界を感じて来ちゃったんです。銀羅は強い力を持つ聖獣で九尾の狐だけど、もしかしたらレイジングと相性が悪いのかなと思って……」
清嵐九尾は決して弱くないアーティファクト・ギアだけど、他のみんなのアーティファクト・ギアに比べると能力が弱く、銀羅の力を出し切れていない気がする。
「うーん、そうねぇ……契約媒体と言うより……」
アリス先生は銀羅の方を見ると腰を下ろして頭を撫で、魔力を手に込めて何かを感じ取る。
『アリス……?』
「ねぇ、銀羅。あなた……“陰陽師”から術を受けたことはない?」
陰陽師は平安時代を中心に活躍した日本を代表する術士。
銀羅がその陰陽師から術を受けたって事は……。
「銀羅!陰陽師に攻撃されたの!?」
「……大昔にな。九尾は悪と言われていたから一方的に陰陽師の術を喰らってしまい、深手を負った……」
知らなかった……初めて出会った時に人間を憎んでいたのはそう言う理由も含まれていたんだ。
だけど銀羅が九尾の狐だからって一方的に攻撃するなんて許せない。
「見る限り、傷は癒えているようだけど……妖力の源である魂がかなり傷ついているし、他にも銀羅自身が気付いていない後遺症を患っているわね……」
陰陽師の術で魂まで傷ついているなんて……知らなかったとは言え、そんな状態で今まで戦わせていたことにショックを受けてしまう。
『そう、だったのか……?アリスよ、それらを治せないのか?このままでは千歳に迷惑を掛けてしまう……』
「心配しないで。私の力で必ず完治させてみせるわ」
アリス先生は指を鳴らして、魔法陣を描いて銀羅をそこに立たせる。
「行くわ。銀羅の肉体を一時的に全て分解して、魂の修正と肉体の後遺症を切り取って肉体を最高レベルにするわよ」
『ああ。頼んだ』
魔法陣が輝くと銀羅はすぐに意識を失い、糸に吊されたマリオネットのように宙に浮いた。
「千歳、ちょっと気持ち悪いかもしれなくなるから、離れた場所で待っていてね」
「わかりました。銀羅をお願いします……」
私はその場から離れて近くにあった湖に訪れた。
「銀羅……」
綺麗な湖を眺めながら私は銀羅の無事を祈り、顕現陣から二つの合成銃、レイジングとストリームを取り出して構える。
レイジングとストリームで二丁合成銃の構えの型をやろうとした時、周囲の森がざわめきだした。
「何……?」
森の枝が変化し、的の形に変化した。
周囲の森がたくさんの的を作ってくれた。
「凄い……これが修行場にとっかした世界か……」
まるで私のためだけの修行場だった。
二丁合成銃にゴム弾を装填して構え、そっと目を閉じてカウントダウンをする。
「3……2……1……Ready Go!!!」
目を開いた瞬間、走りながら的に向かって構え、二丁合成銃の引き金を引いた。
☆
数十分後……持っていたゴム弾を全て使い切り、森が作ってくれた的を全て撃ち抜いた。
「はぁ……はぁ……疲れた……」
私は呼吸を整えながらその場に座り込み、レイジングとストリームを見つめる。
「二つ銃による……銃撃は何とかなりそうね」
映画の俳優みたいにカッコ良い感じで撃つことが出来た。
そして、初めてストリームの威力や性能を知ることが出来た。
「アルティナ……ありがとう。あなたがプレゼントしてくれた銃は最高よ」
二丁合成銃をホルダーに仕舞うと同時に大きな風が吹いた。
「うわっ……?」
あまりにも強い風に倒れかけてしまうと湖に一つの姿が降りたった。
『待たせたな……千歳』
「銀羅……?」
そこにいたのは銀羅だったけど、その姿は今までの銀羅とは全然違っていた。
銀色の毛皮がいつもより輝き、その体には赤い色の文様が刻まれていた。
銀羅は湖の上をゆっくり歩いていき、一歩ずつ踏み出す度に波紋が広がる。
『千歳。私の力は全て元通りに戻った……改めて、私と契約だ!』
今の銀羅は前とは比べものにならないほどの妖力を秘めていた。
近くの木に寄りかかっていたアリス先生は笑顔でピースサインを私に見せる。
どうやらアリス先生が行った銀羅の魂の修正と肉体の再構築は無事に完了したみたいだった。
「銀羅……ええ!」
私と生まれ変わった銀羅の足元に魔法陣が浮かび上がり、アーティファクト・ギアの契約をする。
「契約執行!!!」
銀羅の体が粒子化して私の元へ飛んできてレイジングに入り込む。
『まだだ!契約を更に強化するぞ!』
銀羅はそう言うとレイジングのみならずストリームにまで粒子が入り込んだ。
「銀羅、あなた……」
『本当の力を取り戻した今の私なら、清嵐九尾の力をもっと強くできる!』
銀羅の粒子がレイジングとストリームに完全に入り込んで輝きを増してその姿形を変えた。
それは清嵐九尾よりも煌びやかで、二つの銃が今の銀羅と同じように銀色に輝いており、赤いラインが刻まれていた。
このアーティファクト・ギアは……私と銀羅の新しい力を秘めた最高の絆!
「アーティファクト・ギア……“無幻九尾銃”!!!」
閃くように思いついた新しいアーティファクト・ギアに名前を付けると、私は天に向かって妖炎弾を放った。
「生まれ変わった九尾の力……見せてもらうわよ、千歳」
木に寄りかかっていたアリス先生はそう呟いていた。
.
ソロモン王の生まれ変わりの少女、明日奈の登場と千歳と銀羅の新しいアーティファクト・ギアの無幻九尾銃、どうでしたか?
次回は千歳と誰かを戦わせようと思います。
無難に天音かな?




