第70話 黒白の大剣
天音VSサクラ、遂に決着です。
そして、冥覇獣神剣の他に更に天音に新たな力が!?
俺が好敵手と認めた男、蓮宮天音。
見た目は女そのものだが、性格は男らしく芯がとても強い。
そして今、俺の相棒だったケルベロス……黒蓮と契約し、新たなアーティファクト・ギアを生み出した。
「冥覇、獣神剣か……」
巨大な三つの黒い剣……俺のトライファング・ケルベロスと同じ闇の力を秘めている。
光の鳳凰と闇の冥界獣……相反する二つの力を操るか。
天音、お前は俺のことを凄いと尊敬したがお前だって凄いぜ。
規格外で複数のアーティファクト・ギアを操る事が出来るその優れた才能……恐れ入ったぜ。
「だが、俺もそう簡単に負けるつもりはないぜ!」
一人の男として、好敵手として、天音……お前を必ず倒す。
そして、俺の女神……千歳を俺の女にする!
☆
俺と黒蓮の絆の証……冥覇獣神剣。
俺の周りを浮いているこの三つの剣にどんな力を秘めているのか全く分からない。
だけど、この三つの剣にはケルベロスである黒蓮の闇の力が秘められている事が良く分かる。
「白蓮、黒蓮」
『うんっ!』
『『『バウッ!』』』
「行くぜ、Ready……Go!!」
俺が走り出すと同時に冥覇獣神剣は俺の動きに合わせて飛び、その内の一本が俺の右手に飛んでやってくる。
その剣の柄を握り、大剣の鳳凰剣零式と同じように構える。
「飛べ!!」
左手を振り下ろすと二本の冥覇獣神剣が高速で飛び、サクラに刃を向けて襲いかかる。
「来たか、ハウリング・インパクト!!」
トライファング・ケルベロスから音波を圧縮した衝撃波を放ち、二本の冥覇獣神剣を弾き返した。
「蓮宮流……」
俺が持つ冥覇獣神剣から闇の力を秘めた炎……漆黒の炎が燃え上がった。
俺は黒炎を纏わせた冥覇獣神剣を肩に担いで高く跳び、地面へ落ちると同時に振り下ろした。
この一撃は蓮宮流剣術・紅蓮裂刃を改良した技だ。
「黒蓮裂刃!!」
振り下ろした斬撃にサクラはトライファング・ケルベロスで殴りつけて応戦する。
「おらっ!!」
ぶつかり合う二つの闇の力が反発しあい、俺とサクラは吹き飛ばされてしまった。
「ぐあっ!」
「ちぃっ!」
サクラはそのまま地面に倒れたが、俺は高く飛ばされてしまい、鳳凰之羽衣から翼を出そうとしたが、それよりも早く飛翔する物があった。
「えっ?おわっと!?」
冥覇獣神剣の一本が俺の元へ飛翔し、巨大な刀身が俺の足の裏に付き、俺を乗せて飛んでしまった。
まるで海でサーフィンのサーフボードに乗ったような気分で大空を飛んだ。
空を飛ぶ感覚は鳳凰之羽衣の双翼で経験済みだったが、俺を乗せて飛翔する冥覇獣神剣はスピードがとても早く、風を肌に受ける感じが心地良かった。
『おおっと!剣がまるでサーフボードのようになって蓮宮天音を乗せて飛んだぁ!?』
『これは面白いアーティファクト・ギアだなぁ。自由に空を飛べるなんてなぁ』
『機動力がかなりありますね。そして、まだその力は未知数ですね』
冥覇獣神剣がどんな能力を秘めているのかまだ分からない……サクラに勝つには冥覇獣神剣の力を最大限にして勝つしかない。
「黒蓮……」
目を閉じて、冥覇獣神剣に手を置いて黒蓮の声を聞いた。
黒蓮はずっと一緒に戦ってきたサクラから俺を選び、パートナーとしてこれから共に戦い、生きていくと決めた……俺はとても嬉しかった。
何故か分からないけど初めて会った時から黒蓮の事を気になっていた。
千歳からダブルパートナーの話を聞いた時、絶対に無理だと思っていたから考えないようにしていた。
だけど、不思議な事が積み重なり、黒蓮は俺のパートナーとなった。
俺と白蓮と一緒に……歩いて行こう、俺達の進む道を!
『『『ガァウ……ガァアアアアアアアアアアアッ!!!』』』
冥覇獣神剣から黒蓮の声がしっかりと聞こえた。
黒蓮はこう言っている……冥覇獣神剣に秘められた力を解放し、サクラを倒せと!
「よし……行くぞ!!」
空を飛ぶ冥覇獣神剣を操り、地面に降り立つと三本の剣を自らの手ではなく『心』で操る。
自分の手よりも心で操るほうが最も早く、手を振る動作に合わせ、冥覇獣神剣は高速で飛翔しながらサクラに斬りかかる。
三つの巨剣による縦横無尽の斬撃は人間が振るうよりも太刀筋が全く読みにくいので……。
「うわぁああっ!?超恐ぇええええっ!!」
サクラからしてみればかなりの恐怖だ。
予想外の斬撃も飛んでくるのである意味罪人を相手にするよりも恐いかもしれない。
「こんなに恐い剣は無いぞ!?だが!!」
三つの巨剣の斬撃から逃れたサクラは俺に向かってきた。
「本体のお前ががら空きだ!!」
冥覇獣神剣を操っている時に必然的に俺はがら空きになるから、サクラは真っ先に俺を狙うと思った……だけど、甘いよ。
「これで終わりだ!!」
「水蓮天昇」
トライファング・ケルベロスの一撃を霊力を張った手で受け流し、更に体を回転させながらサクラの背後に回る。
「なっ!?」
「小さい頃から剣と舞の稽古を積み重ねていたんだ。剣が手元になくても、これぐらいは出来る!!」
霊力を纏わせた掌でサクラの背中に掌打を喰らわせる。
「うぐっ!?」
『サクラ・ヴァレンティア。結界エネルギー、17パーセント低下。エネルギー残量、15パーセント』
これで結界エネルギーはほぼ同じ……次に一撃を入れた方が勝者になる。
冥覇獣神剣は再び俺の元へ戻り、掌打を受けて立ち上がったサクラと対峙する。
「お互い……いよいよ崖っぷちだな」
「ああ。そうだな……」
「ここは一つ、お互いの最後の一撃を撃ち合って勝負を決めないか?」
「良いよ……俺もそろそろ限界だし、そう言うのは嫌いじゃないから」
「ふっ……本当にお前は“漢”だな!!」
「そう言われるのは初めてだよ……」
「だろうな……行くぜ、天音。これが俺の最後の力だ!!!」
サクラとケルベロスから闇の力が解放され、両腕を交差させた。
「現れよ、断罪の牙……!!!」
そして、トライファング・ケルベロスの牙が鋭く、大きくなり、闇の力を圧縮させた結晶の刃がサクラの周囲に現れる。
それは瑪瑙を冥界に叩き落とす為に使われた罪人を裁くための力だった。
「心配するな、天音は罪人じゃねえから冥界に送らねえよ。まあ、こいつでお前を倒すけどな……」
それを聞いて少し安心した。
だけど、あの力は本能で絶対に触れてはいけないと叫ぶほどの力を秘めた、言わば絶対的な『死』を与える刃だ。
さて、どうするか……。
そう考えている時だった。
『ちちうえ』
『『『ガウッ!』』』
「白蓮?黒蓮?」
『ぼくたちのちからをひとつにして』
『『『ガウ、ガウッ!』』』
「力を、一つに……そう言うことか!!」
俺は白蓮と黒蓮の言葉を理解し、それを実現をするために……。
「契約解除」
冥覇獣神剣、鳳凰之羽衣、鳳凰剛柔甲の契約を解除して俺の両側に白蓮と黒蓮が並び立つ。
そして、冥覇獣神剣の契約媒体となった蓮煌、氷蓮、銀蓮の剣が地面に突き刺さる。
「なっ!?契約を解除しただと!?天音、何を考えているんだ!?」
「何を考えている?こうするんだよ、白蓮!!」
『うんっ!』
白蓮はアーティファクト・ギアを誕生させるための契約の陣を再びフィールドに刻んだ。
「契約執行!鳳凰白蓮!冥界獣黒蓮!!」
「な、何ぃ!?」
白蓮と黒蓮の体が白と黒の粒子になって混ざり合い、地面に突き刺さった蓮煌、氷蓮、銀蓮と契約を執行して一つとなる。
「に、二体の契約聖獣による“二重契約執行”だと!?」
「この契約がどうなるか分からないけど、俺達の絆と無限の可能性で奇跡のアーティファクト・ギアを誕生させる!!」
粒子が三つの契約媒体に入り込むと、地面から浮いて刃が一つに交差して黒白の眩い光を放つ。
そして、黒白の光は俺の元へ飛んでいき、その光を握ると一つの剣が姿を現す。
白と黒が混ざり合いながら輝く両刃の刀身に鳳凰の形を模した唾に、ケルベロスの三つ首の形を模した柄……白蓮と黒蓮が契約媒体と一つになった新たな大剣型のアーティファクト・ギアだ。
「アーティファクト・ギア、“冥覇鳳凰剣”!!!」
鳳凰剣零式と冥覇獣神剣の名前を組み合わせた名前をこのアーティファクト・ギアに名付けた。
冥覇鳳凰剣の誕生にサクラは口を大きくあけて呆然とした。
「ほ、本当に出来ちまった……お前はどんだけ規格外なアーティファクト・ギアを造るんだよ!?」
「さぁな。さて、お喋りはこのくらいにして最後の一撃……いかせて貰うぜ!!」
残っている最後の霊力を解放し、白蓮の天力と黒蓮の魔力を一つにしてアーティファクト・フォースを発動させる。
「行くぞ、サクラ!!」
「応よ、天音!!」
サクラもアーティファクト・フォースを発動して最後の一撃を放つ準備をする。
俺は冥覇鳳凰剣、サクラはトライファング・ケルベロスを構え、同時に走り出す。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
「はぁああああああああああああああああっ!!!」
走りながら獣のように叫びながら吼え、サクラから最後の一撃を放つ。
それは、大罪を犯した者を冥界に葬るための断罪の一撃。
「エターナル・ジャッジメント!!!」
闇の刃が一斉に飛び、三つ首の牙と共に襲いかかってくる。
「蓮宮流剣術奥義――」
俺は鳳凰光翼剣に代わる新たな蓮宮流の奥義を繰り出す。
光と闇の力を一つにした、終わりを迎えるための一撃。
アーティファクト・フォースの全ての力を込めた冥覇鳳凰剣を振り下ろした。
「黒白之終焉」
フィールド全体が黒白の光が包み込まれ、この戦いは終結となった。
黒白の光が消え、俺の目に映ったのは倒れているサクラの姿だった。
『サクラ・ヴァレンティア。結界エネルギー、オーバーダウン。エネルギー残量、0パーセント。結界を解除します』
サクラのガーディアン・アクセサリーの結界エネルギーがゼロとなり、首輪がカードの姿に戻る。
その瞬間、会場から大興奮から轟音の歓声が沸き起こる。
『すすす、凄い!!数々の素晴らしい奇跡を起こし、蓮宮天音が大勝利を飾りました!!!』
『サクラも天音も良い戦いだったぜぇ!久しぶりに良いものを見せて貰ったぜぇ!!』
『天音さん!凄いです!是非今度手合わせをお願いします!!』
実況席の三人も興奮している。
雫先輩、手合わせはまた今度でお願いします……。
「ははっ、勝ったようだな……」
勝利に対する気持ちの高揚感よりも疲労感が出てしまい、冥覇鳳凰剣を地面に落としてしまう。
そして、目の前が真っ暗になり、立つ力がもう残っておらず、前に倒れてしまう。
地面に倒れる衝撃を覚悟したが、柔らかく温かい何かが俺を包み、嗅いだことのある良い香りが鼻をくすぐる。
「あ、れ……?」
「お疲れ様、天音」
目の前にいたのは純白の衣装を身に着けた、俺だけの女神だった……。
「千歳……?」
「天音、とってもカッコ良かったよ」
「ああ……後は、頼む……」
「うん!」
俺は千歳の胸の中で意識を手放し、ゆっくり眠りについた。
☆
どれぐらい眠ったのか分からないけど、目を覚ますとそこは見慣れた学生寮の部屋だった。
「天音、起きた?」
「千歳……白蓮と黒蓮は?」
「ふふふっ、二人共ぐっすり眠っているよ」
白蓮はいつもの毛布を入れたバスケットに眠っており、黒蓮はいつ用意したのか毛布を入れた大きめのバスケットに眠らせており、その隣で銀羅が寄り添うように寝ている。
ゆっくり起き上がり、眠っていた脳を覚醒させながら隣のベッドを見ると一着のドレスが置いてあった。
「千歳、そのウェディングドレス……」
「うん、雷花に作って貰ったものだよ。綺麗でしょ?」
「ああ、綺麗だったよ」
「ありがとう。それじゃあ、決闘が勝ったお祝いに……結婚式を挙げちゃう?」
千歳はウェディングドレスを自分に重ね、笑顔で言う。
千歳、お前は本当に懲りないなぁ。
「嫌だ」
「ええっ!?ねえねえ、やろうよ、結婚式!!」
「……勿体ないだろう」
「えっ?」
「今やったら勿体無いだろ?どうせなら、思い出のある結婚式を挙げたいから我慢してくれよ」
「むぅー、またそんな事を言って!もう、今度デートしてくれなきゃお仕置きだよー!!」
「デートね……わかったわかった。修学旅行用の物を買いに行くので良いか?」
「じゃあ、それで許す!」
「了解」
結婚式の代わりがデートで済むなら安いもんだ。
「あれ?そう言えばサクラは……?」
「サクラはね、冥界に連れてかれちゃったの」
「……何があったか詳しく説明してくれますか?」
流石にそれだけじゃ何があったか全く分からない。
「はいはい。決闘が終わった後に私が天音を連れて行こうとしたら、空が暗くなってサクラの元に一人の女性が現れたの。それがハデスの奥さん、ペルセポネだったの」
「ペルセポネ?」
「確か、冥界の女王って言われていて、ハデスと一緒に冥界で罪人を裁いているみたいだよ」
「そのペルセポネが何でサクラの元に?」
「ハデスから聞いたんだけど、ペルセポネは冥界の女王だから、子供が作れなくていないんだって。だから、サクラの事を本当の息子のように愛しているんだって。そして、倒れたサクラとケルベロスを冥界に連れ帰って休ませているみたいだよ」
そうか、冥界は死後の世界だからそこで生命が生まれることはないから、ペルセポネはサクラを息子のように可愛がっているのか……。
冥界は死の世界だからあまり良い印象はないけど、ちゃんと愛があるんだなぁと感心した。
「サクラかの話しはまた明日になるから、今日はもうゆっくり休んでも大丈夫だよ」
「そうか……それなら!」
「えっ?キャッ!?」
俺は千歳の手を掴んでベッドの中に引き入れてそのままギュッと強く抱き締める。
「今日は頑張ったからそのご褒美に千歳は俺の抱き枕になってね」
「え、ええっ!?だ、抱き枕ぁ!?」
「ちなみに拒否権は千歳には無いからね。それじゃあ、お休み……」
「ふぇえええっ!?そ、そんなぁ〜……」
千歳を抱き枕代わりにして眠りについた。
不思議といつもより気持ち良く眠ることが出来た。
やっぱり人肌が側にあると人間は気持ち良く眠れるんだなぁと改めてそう思った。
ちなみに、千歳は俺に最後まで包まれて心臓がドキドキし過ぎて逆に眠れなかったそうだ。
.
まずは一言。
やりすぎて申し訳ありません。
m(_ _)m
白蓮と黒蓮の二重契約執行で誕生させた新たなアーティファクト・ギア、冥覇鳳凰剣。
これで天音のチートがますます加速してしまいますなー。
でもこの世界は設定上かなりのチートで戦わないとまともに渡り合えないのでどうかご理解ください。
次回はサクラのこれからについての話となります。
9月中旬には修学旅行編に突入出来そうです。




