第67話 冥界に選ばれし断罪者
断罪者・サクラが瑪瑙を裁きます。
前半はかなりシリアスですが、後半はギャグになります。
温度差の違いがアーティファクト・ギアクオリティです(笑)
瑪瑙に狙われた俺を助けるためにケルベロス――黒蓮とサクラがやって来た。
サクラはその身を契約媒体にして黒蓮と契約し、アーティファクト・ギア『トライファング・ケルベロス』を作り出して瑪瑙と対峙をする。
その身に纏う冥界の力を現す闇のオーラに寒気が体中に走り、身震いがする。
「ジャマ、スルナァアアアアアアア!!」
邪魔された瑪瑙は怒りを爆発させて無数の死糸を作り出してサクラを狙うが、
「消えろ」
振り下ろした右腕から闇の波動が放出され、襲いかかってきた死糸を全て消滅させた。
一瞬にしてあれだけの死糸を消滅させた事に俺達だけではなく瑪瑙自身も驚いている。
サクラは死糸を消滅させた右腕をそのまま地面に叩きつける。
「シャドウ・クエイク!!」
叩きつけるた地面が地割れを起こし、地割れは瑪瑙の足元まで続くが、とっさにジャンプして避ける。
「シャドウ・テンタクル!!」
地割れした地中から不気味な影の触手が無数に現れ、最初に死糸を繰り出した瑪瑙に襲いかかる。
「チィッ!!」
舌打ちをした瑪瑙は死糸で影の触手を切り裂こうとしたが、死糸は影の触手をすり抜けてしまった。
「ナニィ!?」
「罪人を捕らえるための影の触手は、あらゆる物質をすり抜ける……捕縛せよ!!」
命令したサクラの言葉に敏感に反応した影の触手は一気に瑪瑙に襲い掛かって縛り上げた。
「ガッ、グアッ!?」
「覚悟しろ!」
サクラは捕らえた瑪瑙を倒すために走り出すが、自らの契約聖獣の女郎蜘蛛を食らった瑪瑙はただ捕まっているだけではなかった。
「グガァアアアアアアアアアアア!!」
瑪瑙の体から先ほどの邪気とは全く異なる力を発して体に巻き付く影の触手を弾いて消した。
あれは九尾の狐である銀羅が持つ妖怪の力『妖力』と同じだった。
女郎蜘蛛は妖怪の一つ……つまり瑪瑙の体には食らった女郎蜘蛛の妖力を取り込んでその力を使えるというわけだ。
妖力を使う瑪瑙にサクラも走るのを止めて数歩下がった。
「今回の相手はそう簡単にはいかないか……何せ、鬼人が相手だからな」
両腕を構え直してサクラは次の手を考えた。
サクラと瑪瑙の戦いを見ていた俺達だが、ふと夜空に一筋の流れ星が現れるのを目撃する。
しかし、その流れ星の光は一瞬だけではなかった。
流れ星の一閃は夜空に引かれ続け、真っ直ぐにこっちに向かって来ている。
いや、違う……あれは流れ星じゃない!
「「天音!!」」
「璃音兄さん!花音姉さん!!」
流れ星ではなく、麒麟の流星に乗った璃音兄さんと花音姉さんだった。
流星は俺達の元へ降りると、二人が駆け寄ってくる。
「天音、無事か!?」
「怪我はない!?」
「俺は大丈夫。瑪瑙は今、サクラとケルベロスが戦っている」
瑪瑙と戦っているサクラとケルベロスを見ると二人は目を見開きながら驚いていた。
「サクラとケルベロス……?まさか!?」
「こんなところでその姿を拝めるなんてね……」
「知っているの?」
「裏の世界で俺達天星導志以外に悪を裁く奴がいるんだ」
「どの組織にも属さず、たった一人で悪に立ち向かう、冥界から遣われた闇の執行者……」
「桜髪にあらゆる罪を見通す右目の邪眼、そして契約聖獣のケルベロス……間違いない。奴は“桜花の断罪者”だ!!」
桜花の断罪者……サクラの名前やその姿に合った異名だった。
そして、今戦っているサクラとケルベロスを見て何となく気が付いた。
璃音兄さんや花音姉さんは天星導志に所属しているが、二人はずっと誰にも頼らずに孤独の中で戦っているのだと……。
☆
「次はこれだ。ケルベロス・ハウリング!!ウォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
サクラは腹から声を出すように叫び声を上げると、両腕のトライファング・ケルベロスからも同じような叫び声が上がり、辺り一帯に一気に響き渡る。
あまりの轟音に俺達は耳を両手で塞ぎ、瑪瑙も耳を塞ごうとしたが、それは隙を与えることになってしまう。
「ガッ、グァアアアアッ!!」
耳を塞ぐことが出来ない瑪瑙は轟音が耳の中から鼓膜へ響き、身体にかなりのダメージを負った。
「これで、貴様の『生』を終わりにする!」
トライファング・ケルベロスの闇のオーラが燃え上がるように輝き、六つの眼光が怪しく光る。
「シンズ・チェイン!!」
トライファング・ケルベロスから数多の黒い鎖が現れて苦しむ瑪瑙を縛り上げてると黒い電撃が襲いかかる。
「ガッ、アァアアアアッ!?」
「その鎖と電撃は貴様が今まで犯してきた罪の数だけ貴様を苦しませる……」
まるで拷問のように鎖が瑪瑙の体を強く締め上げ、膨大な電撃が体中に流れる。
あれが瑪瑙が今まで犯してきた罪による罰だと思うと背筋が凍った。
そして、サクラは一歩ずつゆっくりと歩きながら両腕のトライファング・ケルベロスを交差させる。
「終わることのない、冥界の永遠の裁きを受けよ……」
トライファング・ケルベロスから今までで一番強い輝きを持つ闇のオーラを放つ。
三つ首の牙が巨大化し、闇のオーラが凝縮されて結晶化されてサクラの体の周囲に無数の刃が現れながら現れた。
その姿を見たその時、俺達全員は絶対的な死の恐怖を感じた。
あれには絶対触れてはいけない、戦ってはいけない……俺達が持つ人間と聖獣の本能がそう訴えた。
瑪瑙もその姿に初めて恐怖に怯える表情を浮かべる。
「ク、クルナ!クルナァアアアアアアアッ!!」
来るなと拒否をする瑪瑙だが、サクラはそれを無視して目の前まで近づき、力を解放したトライファング・ケルベロスを振り下ろした。
「エターナル・ジャッジメント」
闇の刃が一斉に瑪瑙の体に突き刺さり、三つ首の牙が瑪瑙の体を貫いた。
「っ!?千歳!!」
俺はとっさにその光景から千歳の目を隠すように抱き寄せてから強く抱き締めた。
刃と牙が瑪瑙の体を穿った事で大量の血が溢れ出して宙を舞い、地面に血溜まりが出来る。
そして、瑪瑙の足元に巨大な円形の黒い扉が現れた。
その扉には冥界の中で苦しんでいる亡者達のような姿が描いていた。
扉はゆっくりと開き、サクラは瑪瑙に突き刺したトライファング・ケルベロスを引き抜くと、瑪瑙はその扉の中へ落ちた。
瑪瑙を落とした扉は閉じてしまい、役目を終えたように扉は霧のように消えた。
闘いが終わるとサクラは黒蓮と契約を解除した。
サクラの体には瑪瑙の返り血をたくさん浴びており、黒蓮にある命令をする。
「ケルベロス、浄化の炎を頼む」
『『『グルゥ……』』』
黒蓮の口から紫色の炎を吐き出し、それでサクラの体を包み込んだ。
炎に包まれたサクラの体は火傷を一切負っておらず、その身に浴びた瑪瑙の返り血だけが燃やされて消滅した。
「ありがとう、ケルベロス……」
黒蓮は炎を吐くのを止めると、サクラの体を包んだ炎は消えた。
俺は白蓮と契約を解除してサクラと黒蓮に近付いた。
「サクラ……瑪瑙はどこに……?」
「冥界に送った。魂と体ごとな……冥界で裁かれ、永遠の苦しみを味わうことになるだろう」
「殺すべき、だったのか……?」
目の前で見たあの惨劇にそこまでする必要があったのかどうか考えた。
いくら瑪瑙が憎い仇でも俺は殺したいとは思わなかった。
父と母を殺された璃音兄さんと花音姉さんも同じ考えだった。
しかし、サクラは首を左右に振って真剣な眼差しで俺を見つめた。
「……天音。お前の言いたいことは分かる。だがな、瑪瑙の魂は罪を重ねて穢れきり、その身は自分の契約聖獣を喰らって鬼人となった……もはや救うことは無理だ」
俺が瑪瑙を早く倒せばこんな事にはならなかった……俺は説明できない悔しさから唇を噛み締めて蓮煌と氷蓮を強く握りしめる。
「俺は冥界に選ばれた罪人を裁くための断罪者だ。これからも俺は戦い続ける。罪人から平和に生きる人達を守るためにな……」
サクラの瞳は既に覚悟を持っていた。
あの瞳は天星導志として戦う璃音兄さんと花音姉さんと同じだった。
「それが、お前の覚悟なのか……?」
「そうだ。天音、お前は甘いがそれで良い……俺の正義があるように、お前だけの正義があるからな」
正義……それは道が一つではない、無数にある正しいと思う心のあり方。
俺の正義とサクラの正義は違う……俺達はお互いの正義を否定することは出来ないし、肯定することも出来ない。
『『『グゥ……ガウッ』』』
「黒蓮……」
黒蓮は俺に近づくと体を小さくして子犬の姿に戻った。
「ありがとう、助けてくれて……」
『『『ばうっ!ばうっ!!』』』
お礼を言われた黒蓮は尻尾を思いっきり振りながら俺に飛びかかって来た。
「おっと!?」
キャッチして抱き締めた俺に黒蓮は舌を出して俺の顔を舐める。
「あははっ、くすぐったいよ!」
『『『がうっ!』』』
これでお別れになるかもしれないから目一杯のスキンシップをする。
その光景にサクラは違和感を感じて尋ねる。
「ケルベロス……お前は本当にどうしたんだ?幾らなんでも天音にべったりし過ぎだぞ!」
「サクラ、これはちょっとマズい事になったかもしれないわ」
千歳はニヤニヤした表情を浮かべてサクラに言い放つ。
「マズい事って、何だよ!?」
「ふふふ。もしかしたら、もしかしなくても、ケルベロス……じゃなくて、黒蓮ちゃんだっけ?黒蓮ちゃんは天音の事が大好きになったんじゃないかしら?」
爆弾発言を投下する千歳にサクラは驚愕の表情を浮かべた。
「な、何ぃっ!?そ、そんな馬鹿な!ケルベロスは俺の契約聖獣だぞ!?」
「でもあれを見たらそう考えるのが普通じゃない?」
「だ、だが!そんな事があり得るわけ……おい、天音!ケルベロスを返せ!!」
「あ、う、うん。ほら、黒蓮。サクラの元へ……」
『『『がおっ!』』』
「え?」
黒蓮は俺にしがみついて嫌だと言いたげに三つ首を左右に振った。
まるで、俺から離れたくないと言わんばかりに……。
「あらあら。これはまた面白いことになりそうかしら?」
「ファハッハッハ!久しぶりに地上に出て来た甲斐が合ったもんだなぁっ!!」
聞き慣れた何かを楽しもうとしている声と豪快な笑い声が響き、俺達はその声の元へ一斉に振り向いた。
一人は言うまでもなく俺達の顧問であるアリス先生だ。
問題はその隣にいる人物だった。
豪快な声をしたその人はファンキーな格好をした壮年の男性だった。
「お、親父!?」
「親父?サクラ、彼は一体……?」
「“ハデス”だよ……」
その名前に俺は久しぶりに驚愕した。
「ハデス!?ハデスって、あの冥界の王の!?」
「おうよ!俺っちは皆さんご存じのギリシャ神話、ハァデス様だ!!驚いたか、こんにゃろぉ!!」
あまりにもテンション高い自己紹介に唖然とする。
冥界の王がこんなテンション上がりっぱなしの性格だと誰が予想するだろうか。
「えっと……ハデスの親父、どうして地上に出たんだよ?」
「それがよぉ、親友のアリスちゃんから面白いことが起きているから来いよって言うからよぉ、仕方なく来たんだよぉ!!」
「ど、どっからツッコミを入れたら良いか……」
サクラはハデスの言うことに理解が追いつかず、頭を悩ませている。
そう言えばアリス先生が以前死後の世界関係の神や王と友達と言っていた。
あれは本当だったんだ……と、今更だが驚くしかなかった。
そして、冥界の王・ハデスは俺の方に向かって歩いてジッと見つけた。
「あ、あの……?」
「へぇー、このガキがアリスちゃんのお気に入りかぁ?なかなか可愛い顔をしているじゃねえかぁ!」
「は、はぁ……?」
「そして、ケルベロス!お前、このガキにを気に入ったって本当かぁ?」
「えっ?ケルベロスが俺に?」
『『『ばおっ!』』』
「ハッハッハァ!そうかそうか!おい、ガキ。お前……ケルベロスに何をしたんだぁ?」
「何をしたって、えっと……あ、そうだ!」
左手の人差し指と中指を額において霊煌紋を輝かせる。
「霊煌拾壱式・記憶」
対象の記憶を呼び起こし、映像として流す霊煌拾壱式の力で俺と黒蓮との記憶を流す。
最初の出会いからクッキーを上げ、パンケーキをご馳走し、お風呂に入れて……数時間でとても濃い内容だった俺の記憶の断片をハデスに見せる。
「ウォオオオオイ!!何だこの至れり尽くせり状態はぁ!?完全にケルベロスの心を掴んでいるじゃねえかぁ!!?」
「ハデス!そこにいる天音はね、女の子みたいな見た目をしているけど、かっこよくてとっても優しい性格をしているのよ!!」
「ヌァニイィッ!?ちぃっ、これが世に聞く一級フラグ建築士なのかぁ!?」
「しかもお菓子作りが得意でとっても美味しいのよ!!」
「あの超甘党のアリスちゃんの舌を唸らせるほどのパティシエだとぉ!?よし、妻の土産にケーキをワンホール頼むぞ!!」
「あんたらは何を話しているのよぉ!?」
千歳がツッコミの為に大量のダイナマイトを顕現陣から取り出し、アリスとハデスの二人に向けて一斉爆破をした。
ドガーン!ドガーン!!ドガーンッ!!!
「フニャアアアアアアアアアア!?」
「ヌォオオオオオオオオオオッ!?」
無限神書の魔女と冥界の王がダイナマイトでぶっ飛ばされた。
二人共、かなりの実力者だと思うが何とも異様な光景だった。
と言うか、二人共……さっきから俺に対して何を言うんですか?
それからハデス、俺は一級フラグ建築士じゃないから……。
「いてて……ちょっと暴走しちゃったわね」
「なかなかやるじゃねえかぁ!さーて、俺様のペットのケルベロスちゃんよぉ!」
そうか、ケルベロスは冥界の番犬だからハデスにとってはペット同然の存在なんだ。
「お前さんは本当このガキの事が好きになっちまったのかぁ?」
『『『わうっ!!』』』
ハデスの問いに即答で返答する黒蓮。
「黒蓮……本当、なのか……?」
『ビイッ、ピピッ!』
白蓮は「黒蓮は父上が大好きで一緒にいたい」と言っている。
俺は白蓮と同じように黒蓮を自分の子供のような愛しさが出て来て、体を優しく撫でる。
「……ハデスの親父!どうしたら良いんだよ!ケルベロスがこんなんじゃ俺はこの先戦えないぞ!!」
「心配するなぁ、手がないとは言い切れないがなぁ」
「えっ?」
「他のケルベロスをお前の契約聖獣にすれば良いんだよぉ!」
「は、はぁっ!?」
「元々このケルベロスは複数ある冥界の扉を守護する番犬のうちの一体を適当にお前にやったんだぁ。契約聖獣としてお前と波長が合わなかったのかもしれないなぁ……」
俺達の契約聖獣は召喚と契約の魔法陣で召喚してからアーティファクト・ギアの契約執行を行う……サクラの場合は魔法陣でケルベロスを召喚したんじゃなくてハデスから与えられたのを使っていたわけか。
契約と召喚の魔法陣は、召喚者と相性の良い聖獣を召喚するように魔法の設定されている。
つまり……黒蓮とサクラは相性があまり良くないのかな……?
「え?じゃあ、俺は黒蓮と相性が良いんですか……?」
「そうみたいだなぁ……よぉし、蓮宮天音だったか?このケルベロス……名前はぁ?」
「えっと、黒い蓮で黒蓮です」
「そうかぁ、黒蓮か……蓮宮天音!この黒蓮をお前に託すぜぇ!」
「え……?えぇええええええええええええーーーっ!?」
冥界の王・ハデスから直々に黒蓮を託されて驚愕して叫んでしまった。
『ピィーッ!』
『『『がおー!』』』
俺が驚く傍らで白蓮と黒蓮は小さな咆哮を上げて喜んでいた。
「待ちやがれ!!!」
それを許さないかのようにサクラが怒号を言い放った。
その表情は怒りに満ちていて俺を睨みつけてきた。
「さっきから聞いていれば勝手な事を……納得できねえ!」
確かにサクラにとって納得出来ない話だった。
相性はあまり良くなくても自分にとって大切な契約聖獣……それをいきなり他人に託せと言われたら誰だって納得出来ないはずだ。
俺だって白蓮を他人に託せと言われたらサクラみたいに絶対に怒る。
「今まで一緒に戦ってきた相棒を他人に託すのは納得出来ねえけど、このままじゃ拉致があかねえ……だから、蓮宮天音!!!」
ビシッと俺を指さして叫んだ。
「お前に決闘を挑む!!!」
「け、決闘!?」
「ああ、決闘だ!俺が負けたら大人しくケルベロスをお前に託す!!」
要するにこの決闘でお互いの大切な何かを賭け、敗者は勝者にその大切な何かを渡すと言うことか。
だけど、サクラはともかく俺は何を賭ければいいんだ?
白蓮はサクラが欲しがるような様子は見せていないが……。
そして、この後サクラはとんでもない事を俺に要求してきた。
「天音!お前は婚約者の天堂千歳を賭けろ!!」
「ち、千歳を!!?」
何でサクラが千歳を賭けろって言うんだ!?
「サクラは私に一目惚れして告白してきたんだよ」
「マジで!?」
なるほど、それなら納得できる。
何だかんだで千歳はとっても可愛くて美少女の分類に入るからな……。
「マジよ。ねぇ、サクラ。その決闘の天音が賭ける内容……私で良いよ」
千歳はあっさりと俺の賭けの対象になって認めてしまった。
「ちちち、千歳さん!?あなたは何を言っているんですか!?」
「よっしゃあ!千歳、お前を俺の女にしてやるぜ!!」
サクラは本当に千歳に惚れているらしく自分の女にしたいらしい。
俺は千歳を引っ張って何を考えているか問う。
「千歳、何を考えているんだ!?」
「何って、サクラを納得させるためにね」
「お前……サクラの女になるつもりは……」
「ある訳ないじゃない。私は天音を信じているだけ」
ケラケラと笑ってサクラの女になる気は全く無いみたいだ。
「信じているって、何をだ?」
千歳はニッコリと笑みを浮かべて俺に抱きついてきた。
「天音が絶対にサクラに勝ってくれるって!だから私は何にも心配していないんだよ!!」
何とも千歳らしい想いが込められた言葉だった。
千歳は俺を信じて自ら賭けの対象になってくれた……だったら俺も信じて応えなくちゃならなくないな!
「サクラ!!」
抱きついている千歳を離し、蓮煌を鞘から抜いて切っ先をサクラに向ける。
「俺の一番大切な人が賭けの対象になった以上、俺は絶対に負ける訳にはいかない!!お前に必ず、勝つ!!!」
俺の宣言にサクラは不敵な笑みを浮かべ、拳を作った右手を俺に向ける。
「だったら俺も全力で相手をするぜ!桜花の断罪者として、一人の男としてな!!」
こうして俺とサクラはお互いの大切な存在を賭けて勝負をする事になった。
「ハデス、久しぶりに地上に出て良かったでしょ?」
「おうよぉ、アリスちゃん。この戦い……見届けなきゃ冥界の王としての名が廃るぜぇ!」
アリス先生とハデスにとっては楽しむための見せ物となっていた。
そして、話し合いの結果、俺とサクラの決闘は三日後になった。
この決闘はこの場にいる俺達だけの話のはずだが、何故か天聖学園を巻き込んだ一大イベントとなってしまうのだった……。
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次回、天聖学園の一大イベントとして天音とサクラの決闘が行われます。
賭けの対象となった千歳とケルベロス(黒蓮)の運命は如何に!?




