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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第6章 波乱の二学期突入編
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第66話 復讐鬼

いつもより話が長めです。


けっこう瑪瑙さんが大暴れします。

世界の悪を潰し、どの権力にも属さない正義の組織……天星導志。

有給休暇を使って夏休みを満喫した後、俺と花音は天星導志のアジトにいた。

「天音は今頃何やってるかなー?」

「もう、璃音ったら本当にブラコンなんだから」

部屋で一休みしながら双子の姉の花音と話をしていた。

「お前だってそうだろ?それに、天音は俺の最高の弟だからな」

「はいはい、その台詞は聞き飽きたわよ」

バァン!

突然部屋のドアが開くと同じ天星導志の仲間の蒼燕が入って来た。

「お二人共、大変です!」

「どうした、蒼燕。緊急の任務か?」

「準備は出来ているからすぐに出られるわよ」

「違います!お二人共、数ヶ月前に瑪瑙と言う聖霊狩りと戦いましたね?」

その名前を聞き、俺と花音の目線が鋭くなる。

忘れもしない……瑪瑙は俺の親父とお袋、そして龍神・澪を殺した仇だ。

だが、数ヶ月前の戦いで天音が倒してくれた。

警察に捕まり、法の裁きの元、死ぬまで罪を償わせるつもりだ。

「それで、その瑪瑙がどうしたんだ?」

「たった今、警察にいる天星導志のメンバーから通信がありました。刑務所から瑪瑙が脱獄しました……」

「何だって!?」

「瑪瑙が、脱獄!?」

どうやって脱獄したんだ?

瑪瑙はその罪の重さから一番強固な刑務所の牢屋に入れられているはず……そこから脱獄するなんて有り得ない。

「実は、床に自分の血で召喚の陣が描かれていて、それで女郎蜘蛛を呼び出したのですが……」

蒼燕の顔は青ざめており、口が震えていた。

「女郎蜘蛛を呼び出して、何が起きたんだ?」

「蒼燕……?」

いつも冷静な蒼燕が恐怖で顔を歪めていた。

瑪瑙は一体何をしたんだ?

「そ、それが……牢屋に残っていたのは……無惨に殺されていた女郎蜘蛛の死体だったのです」

「契約が、失敗したのか?」

「もしくは既に殺されていて、死んだ状態で召喚したの?」

俺と花音は考えられる可能性の話をするが、蒼燕は首を左右に振った。

「違うのです……監視カメラにその時の映像が映っていて……瑪瑙は女郎蜘蛛を……」

思わず息を呑む俺達に蒼燕は衝撃の事実を告白する。

「自らの手で殺して、その肉を食べたのです……」

一瞬それが冗談の話かと思ったが、蒼燕がそんな話をするわけがない。

だとすると、本当に……。

「ちょっと待ってよ……聖獣を殺して、その肉を食べたって事は……」

「はい……魔人を生み出す事以上に、禁じられた邪悪な術と言われている……」

それは禁忌の魔術などの力で人間を捨てた化け物の力を得る魔人よりも恐ろしい術で作り出された存在……。

「この世界において残虐で最悪の術によって生まれた化け物……“鬼人”」

人間と契約した聖獣……それはこの世界の人間にとって一生付き合っていく掛け替えのないパートナーで、強い絆で結ばれている友であり、相棒であり、そして大切な家族だ。

そして、この世界で何よりもやってはいけない行為は……契約聖獣を契約者の手で殺すことだ。

それはこの世界において一番大きく深い罪で、その罪を犯した者は死後も苦しむことになると言われている。

瑪瑙は自分の契約聖獣の女郎蜘蛛を殺し、更にその肉を喰った……。

それにより、瑪瑙は女郎蜘蛛の力を取り込んで鬼人となり、魔人と同等かそれ以上の力を手に入れてしまった。

「瑪瑙は頻りにある人物の名前を呟きながら脱獄したそうです」

「ある人物の名前……?まさか!?」

「璃音!すぐに流星で向かうわよ!!」

「こちらから随時情報を送ります!急いで下さい!!」

俺と花音は部屋から飛び出すと急いで日本に向かった。

瑪瑙の目的は自分の契約聖獣を殺してでも行いたい復讐。

その復讐したい相手は……。

「どこまで、どこまで腐りきっているんだよ、奴は!!」

これ以上あいつに俺達姉弟の大切な家族を失われてたまるものか!!



三つ首の子犬……黒蓮(俺命名)を保護した俺はアリス先生の地下室でたらふくパンケーキを食べさせた後、学生寮に連れて行った。

その理由は……。

「ほら、暴れるなよ!」

『『『が、がう〜っ!?』』』

黒蓮をお風呂に入れてやることだ。

長い間体を洗っていないようなので、せっかくだからお風呂に入れて体の隅々までピカピカにする。

ちなみに俺達がいるところは学生寮にある大浴場だ。

ここは人間と聖獣が一緒にお風呂に入れるようにとにかく大きな浴場になっていて、連日多くの生徒や聖獣達が訪れている。

ただ俺はこの見た目の所為で他の男子生徒から色々な目で見られるのは嫌なので入らないようにしている。

だけど今日はもう既に真夜中だから入浴している生徒や聖獣は一人もおらず、俺達の貸し切り状態である。

『ああ〜、おふろがきもちいいよ〜』

白蓮はアリス先生の魔法による擬人化で一時的に人間となり、自分で体を洗って今は湯船でまったりとしている。

擬人化魔法は白蓮が俺を頼らずに一人で行動する時に使っているので、親(契約者でもあるが……)としては子供の成長を見られてとても嬉しい限りだ。

『『『が、がうっ!がう〜っ!!』』』

「もう少しで洗い終わるから大人しくしていろよー」

俺が黒蓮を洗っているのに使っているソープは聖獣用に開発されている一般的な物だ。

ソープにはいくつかのタイプがあり、黒蓮に使っているのはビーストタイプで聖獣の体質など合わせてたくさんある。

「よし、お湯をかけるから目を閉じてろよ」

洗い終わった黒蓮の体にお湯をかけてソープをしっかり流す。

そしてお湯で毛皮が引っ付いた黒蓮は体を左右に振って水気をふるい落とす。

「よく我慢したな。最後にお風呂に入ろう。気持ちいいぞ」

黒蓮を持ち上げて一緒に湯船に浸かる。

『『『わふぅ〜!』』』

湯船に浸かった瞬間、黒蓮は気持ちいいと声を漏らして良い表情を見せた。

俺も大きな湯船に浸かり、今日の疲れが癒されていく。

「黒蓮、気持ちいいな」

『『『わうっ!!』』』

「ちちうえ、おふろからでたら“あれ”をのみたい!」

白蓮はプカプカと湯船に浮きながら言う。

「あれか。そうだな、せっかくだから飲もうか」

「うん!」

『『『あう?』』』

あれって何?と言いたげな表情を浮かべる。

白蓮の言うあれとはお風呂に入った後に飲む日本である意味伝統的な飲み物だ。

それから少し時間が経過した後、お風呂から出て更衣室に入ると白蓮と黒蓮の濡れた体をバスタオルでしっかり拭いた。

俺も体と髪を拭いてすぐに浴衣に着替えると、更衣室に置いてあるドライヤーで白蓮と黒蓮の体をしっかり乾かす。

「よし!じゃあ、お待ちかねの飲み物だ!」

自動販売機で三人分の飲み物を購入する。

「お待たせ、コーヒー牛乳だよー」

「わーい!」

『『『ばうっ?』』』

購入したのはこういう大きな浴場でお風呂を入った後に飲むのに一番適した飲み物、コーヒー牛乳だ。

俺と白蓮は普通にそのままで飲めるが黒蓮の為にお皿を用意して購入したコーヒー牛乳を注いだ。

「それじゃあ、飲もうか!」

「いただきまーす!」

『『『わうー!』』』

俺達は一緒にコーヒー牛乳を飲んだ。

「おいしいー!」

『『『がうーっ!』』』

うん、やっぱりお風呂上がりのコーヒー牛乳は最高だな!

黒蓮も気に入った様子だし、良かった良かった。

「もうそろそろ寝る時間だから部屋に戻ろうか」

コーヒー牛乳を飲んだ後、白蓮は元の雛の姿に戻って俺の肩に乗り、黒蓮を抱き上げて部屋に戻る。

「あっ、いた!おーい、天音!」

『旦那ー!』

「ん?千歳と銀羅……って、どなた?」

千歳と銀羅の隣には見たことない桜髪の少年がいた。

桜髪の少年は俺を見ると驚いた様子で見つめている。

「ま、ま、まさか……こいつが千歳の婚約者!?」

「うん、そうだよ」

「どうみても女の子じゃないか!!もしや千歳さんはレズだったんですか!?」

「は……?」

誰だかわからないけど、初対面の少年に女の子呼ばわりされるとは思わなかった。

「違うって。天音は正真正銘の男の子だよ」

「そんな馬鹿な!こんな可愛い男がいるわけが――ああっ!!」

今度は何だ?いきなり大声で叫んで……。

「“ケルベロス”!!お前、何やってるんだ!?」

「ケル、ベロス……?」

ケルベロスは確か、ギリシャ神話の冥界の番犬……って!?

「黒蓮がケルベロス!?」

『『『がうっ!』』』

マジですか!?

こんなにちっこくて可愛い犬があのケルベロスなのか!?

でも、そう言えばケルベロスは甘い物が好きって伝承があったな……。

「はあっ!?何だよその名前は!?ちょっと、お前は人の相棒に何勝手に名前を付けているんだ!!」

「えっ?それはその……」

パンパン!

千歳は俺と少年の間に割り込んで手を数回叩いた。

「はいはい、そこまでですよ。これじゃあ埒があかないからちゃんと話し合いましょうね」

「ああ、わかった」

「わ、わかりました」

一度俺と千歳の部屋に戻り、ちゃんと黒蓮――ではなく、ケルベロスと何をしたのか説明した。

クッキーとパンケーキをご馳走し、お風呂に入れてあげて……その事を説明すると少年――サクラは口をあんぐりと大きく開けていた。

「ケ、ケルベロスが俺以外の奴に懐いているだと……?」

「懐いていると言うより、甘えているように見えているけど……」

千歳の言う通りケルベロスは俺の膝の上でスヤスヤと眠っている。

「と、とにかく、ケルベロスを保護してくれて感謝する。ありがとう」

「いえいえ。俺もこの子と一緒にいられて楽しかったからな」

「じゃあ、そろそろ行こうとするか……」

サクラは立ち上がると俺の膝に乗っかっているケルベロスを持ち上げる。

「行くって、どこに?」

「俺とケルベロスは旅をしているんだ。フラフラと色々な場所をな……」

「何のために……?」

そう尋ねる俺だが、サクラは首を左右に振った。

「それだけは言えない。これはケルベロスと俺の果てしない旅だからな……」

その表情はどこか悲しく、俺はそれ以上追求することは出来なかった。

きっと、サクラとケルベロスには誰にもいえない何かを背負っている……そう直感で感じ取った。

「わかった。でも、見送りだけはさせてくれ」

「ああ……」

俺達は学生寮を後にすると、サクラとケルベロスを天聖学園の校門まで案内する。

「ここで良い。みんな、ありがとうな」

「ああ。じゃあな……サクラ、黒蓮」

俺はサクラの胸の中で目を覚ましたケルベロス……いや、黒蓮に話しかけて頭を撫でる。

『『『くぅ、くぅ〜ん……』』』

『ピィー……』

黒蓮だけでなく、白蓮も悲しそうな表情を浮かべていた。

「……サクラ、気が向いたら天聖学園に遊びに来てね。私達、いつでも歓迎するから」

千歳はそんな二人を気遣い、サクラに歓迎すると言葉を投げかける。

「千歳……ありがとう。じゃあな!」

『『『ばう、ばうっ!』』』

サクラと黒蓮は手を振りながらゆっくり天聖学園から去っていく。

俺と白蓮は二人の姿が見えなくなるまで手を降り続けた。

そして、見送った後、俺と白蓮は少し浮かない表情をしていた。

「天音、あのケルベロスと別れるのは辛かった?」

「そうだな……短い時間しか一緒にいられなかったけど、黒蓮は俺のパートナーみたいな感じがしたな」

『ピィー!』

『白蓮は兄弟が出来たみたいで嬉しかったそうだ。ふむ……だとすると黒蓮は私達の末っ子だな』

白蓮のお姉さん的存在である銀羅は黒蓮を自分の弟……しかも末っ子と認めた。

「そっか……黒蓮が天音の本当のパートナーだったら良かったのにね」

「それは無理だよ。契約聖獣は一人一体って決まっているじゃないか」

「うーん、別にそう言うわけでもないよ」

「えっ?」

「“ダブルパートナーシステム”って、知っている?」

「ダブルパートナー、システム……?」

名前から聞いたらその意味を何となく分かるけど、そんな話は聞いたことはない。

「近年考えられている新しい人獣契約システムの一つなんだけど、一体だけじゃなくて二体の聖獣と契約する事が出来るんだよ」

「二体の聖獣と契約か……でも、黒蓮はサクラの契約聖獣じゃないか」

「ところがどっこい、話し合いとかで契約を解消して、他人と再契約とかも出来るらしいよ」

千歳がそう言うけど、心の中が少しずつ虚しくなっていく。

思い浮かんでくるのは黒蓮の笑顔や一緒に過ごしてきた思い出……。

「……この話はもう終わりだ。出来もしない話をしても、虚しくなるだけだ……」

「天音……」

「不思議だよな。他人の聖獣でここまで思い入れるなんてな……」

今まで感じたことのないこの何ともいえない気持ち。

俺は一体どうしたんだろうか……?

落ち込んでいる俺に千歳がギュッと抱きついてきた。

「天音、今日は一緒に寝てあげてあげようか?」

いつもなら即答で断ったりするけど、今日だけは千歳に甘えようか。

「……今日は頼もうかな。千歳、甘えても良いか?」

「もちろん。いっぱい甘えても良いよ!」

『ピー、ピィー!』

『私達も一緒に寝るぞ!』

白蓮と銀羅も一緒に寝たいと言ってきた。

一つのベッドて四人は流石に多いから何かしらの策を練らないとな。

ピピピピピ!!

「ん?あ、私の携帯だ」

千歳の携帯電話が鳴り、すぐに電話に出る。

「璃音義兄様?はい、もしもし?」

『千歳ちゃんか!?良かった、繋がって……』

電話の相手は璃音兄さんからだった。

俺は千歳の携帯電話に耳を近づけて話を聞く。

「どうしたんですか?そんなに慌てて……」

『天音は側にいるか!?』

「ええ、隣にいますけど……」

そう言えば携帯電話を部屋に置いたままだった。だから璃音兄さんは千歳に電話をしたのか?

『よし。良いか、良く聞いてくれ。実は天音を狙って――』




「ミツケタゾ……」




ゾクッ!!?

不気味な声と共に強烈な殺気が俺達を包み込んだ。

そして、ゆっくり振り向いた先にいたのは……。

「め、瑪瑙……!?」

俺と仲間達が数ヶ月前に対峙した聖霊狩りの女、瑪瑙だった。

刑務所に入れられたはずなのにどうして……!?

『旦那!奴の背中を見ろ!』

「背中!?」

暗くてよく見えなかったが、目を凝らしてよく見ると背中から八本の足みたいなのが生えていた。

「あ、足だと……!?」

「な、何で……!?」

『おい、千歳ちゃん!どうしたんだ!?』

「め、瑪瑙が私達の前に……」

『くっ!遅かったか……気を付けろ!奴は女郎蜘蛛を喰って鬼人になりやがったんだ!!』

「え、ええっ!?」

『狙いは天音だ。俺達が向かうまで耐えてくれ!!』

「は、はい!!」

璃音兄さんは電話を切り、千歳は携帯電話を顕現陣の中に仕舞い、レイジングとダイナマイトを構える。

対する俺も顕現陣から蓮煌と手甲と神子装束を取り出し、浴衣の上から神子装束の上着を羽織る。

「地獄から舞い戻ったか……瑪瑙!!!」

「もう一度地獄に送り返してやるわ!!!」

俺と千歳は契約執行し、契約聖獣の白蓮と銀羅が粒子化して契約媒体に入り込んでアーティファクト・ギアとなる。

「アーティファクト・ギア、鳳凰武神装!!」

「アーティファクト・ギア、清嵐九尾!!」

アーティファクト・ギアを構えると同時にガーディアン・カードを起動させて結界を纏う。

「千歳、援護を頼む!」

「ええ!Shoot!!」

千歳は引き金を連続で引き、清嵐九尾から放たれる狐火の弾丸に続いて俺は鳳凰剣零式を構えて走り出す。

「ハスミヤ、アマネェエエエエエエエエッ!!!」

瑪瑙は指先からかつて使っていたような鋭く強靱な糸である『死糸』を出して振り回し、狐火の弾丸を粉々に切り裂いた。

「糸の鋭さは健在か……それなら、霊煌肆式・斬撃!!」

霊煌紋を輝かせて鳳凰剣零式に霊力を纏わせて、巨大な斬撃を込めた乱撃を放つ。

「蓮宮流、天凜蓮華!!」霊煌肆式の力で強化された鳳凰剣零式の斬撃を乱撃として放ち、今度は死糸を粉々に切り裂いて霧散させる。

瑪瑙……悪いが、一気に決めさせてもらうぞ。

「霊煌弐式・強化!!」

全身の身体能力を向上させ、足に力を込めて更にスピードを上げる。

「霊煌壱式・破魔!!」

そして、瑪瑙の魔を破壊するために破魔の力を鳳凰剣零式に宿す。

瑪瑙はさらに指先から死糸を出すが、

「Break!!」

千歳が瑪瑙の掌を狙い撃ちをして、狐火の弾丸が掌を見事撃ち抜き、穴があいた手から大量の血が流れて瑪瑙はもがき苦しむ。

「蓮宮流……鳳凰紅蓮撃!!!」

白蓮の聖なる炎を灯しながら鳳凰剣零式から爆炎を瑪瑙の目の前で放つ。

爆炎を近距離でまともに受けた瑪瑙は空中に投げ出されて受け身も取らずに地面にたたき落とされる。

まるで人形のように動かなくなってしまった瑪瑙だが、すぐに小さく動き始めた。

「大人しくそのままぶっ倒れていろ……」

瑪瑙は俺の詩音叔父さんと弓子叔母さん……璃音兄さんと花音姉さんの大切な人を奪った憎い仇だ。

あいにく家族の仇に慈悲の心を向けるほど俺は優しくないつもりだ。

もし次に立ち上がるものならもう一度瑪瑙の体に爆炎を喰らわせてやる。

「千歳、天聖学園の教師のみんなと警察に連絡してくれ」

「うん、わかった!」

千歳は携帯電話で瑪瑙を捕らえるための人を呼ぶために電話をする。

振り下ろした鳳凰剣零式を構え直すと、瑪瑙は口元をつり上げて声を出した。

「ヒャヒャヒャ……イイゾ、イイゾ。ソレデコソコロシガイガアルモンダ……」

「黙れ。貴様はもう負けている。命を取るつもりはないが、立ち上がるなら完膚無きまでに叩き潰す!!」

「キサマミタイナ……アマッチョロイガキニデキルワケネエダロウガ!!」

声を張り上げた瞬間、瑪瑙の体から爆発的な邪気が放出された。

「なっ!?」

「天音、気を付けて!」

瑪瑙はゆっくり立ち上がると、その放出した邪気を体の中に取り込んだ。

そして、目を疑うような光景が広がった。

体中の骨が折れるような音が鳴り、まるで体の中を作り替えるように瑪瑙の姿形が変わっていった。

以前イギリスで見た人間を捨てて魔人となったディルストの時とはまるで違う気持ち悪さの光景だった。

瑪瑙はもはや人間ではなかった……背中から生えた足は更に長く伸ばされ、体のあちこちから骨の刃みたいなのが突き出ていて……一言で言い表すなら『化け物』だった。

「サア、ツギハワタシノバンダ!」

化け物となった瑪瑙は驚異的なスピードで俺に近づき、死糸を使わない近接格闘で俺に襲いかかってきた。

「くっ、氷蓮!!」

とっさに顕現陣から氷蓮を取り出して瞬時に白蓮と契約執行をし、鳳凰剣百式を構える。

骨の刃により全身凶器となった瑪瑙の攻撃は今までとはまるで別人で、双翼鳳凰剣では防ぎきれない攻撃の量だった。

「天音!下がって!!」

叫んだ千歳の手には大量のダイナマイトが握られており、俺が瑪瑙から離れると同時に千歳は瑪瑙に向けてダイナマイトを投げた。

そして、清嵐九尾でダイナマイトの一つを撃ち抜いた瞬間、瑪瑙の周囲でダイナマイトによる連鎖爆発が起きた。

爆発が止んで煙が舞うが、その中から瑪瑙が傷だらけの飛び出してきた。

「千歳!逃げろ!!」

「ジャマダ!マズハキサマカラダ!!」

「千歳ぇっ!!!」

瑪瑙は先に千歳を排除しようとし、俺は急いで千歳の元へ走った。

その時、いつもより輝く月光が俺達を照らした。

「月華光輪!!!」

千歳の前に高速で回転しながら飛ぶ黄金の刃が現れて瑪瑙の目を眩ませた。

「麗奈!」

「土遁・石柱撃!」

凜とした声の後に瑪瑙の足元から巨大な石の柱が出現すると同時に瑪瑙の体に激突して瑪瑙をぶっ飛ばした。

「グガアッ!?」

再び空中に投げ出された瑪瑙はまた受け身を取らずに地面に叩きつけられた。

「刹那!麗奈!!」

「お二人共、ご無事でござるか!?」

俺の忍者である刹那は三日月の形をもした特殊剣のアーティファクト・ギアである銀狼月牙を肩に担いだ。

「奥様、お怪我はありませんか?」

「うん、大丈夫。ありがとう、れいちゃん!」

千歳の忍者である麗奈はすぐに千歳に駆け寄って怪我がないか心配した。

「それより親方様。あやつは一体……?」

「前に話した聖霊狩りの瑪瑙だ。自分の契約聖獣を喰って禁断の力を得て俺を殺しに来たんだよ」

「な、何と外道な……許せんでござる!」

「ああ。奴だけは絶対に許せねえ!!」

俺にとっては瑪瑙は憎むべき存在で悪夢のようなもの……二度と悪行を起こさせないようにしてやる。

「ユルサネエダト……?ソレハコッチノセリフダ!!」

瑪瑙の体からまたしても膨大な邪気が溢れ出した。

「テメエノセイデワタシノジンセイハオワリダ……ダカラテメエモジゴクニミチヅレニシテヤル!!」

たくさんの人生を奪ってきた奴が何を言うか!!

瑪瑙は再び立ち上がると今度は全身から膨大な数の死糸を作り出して放ってきた。

「来るぞ、刹那!」

「了解でござる!」

俺と刹那は膨大な数の死糸から身構えた。




「やれ、ケルベロス」




突然、俺と刹那の前に黒い渦巻きみたいのが現れて中から巨大な何かが現れる。

三つの首に全てを睨み殺すような六つの真紅の瞳。

ふさふさとした黒い毛皮、獲物を狩るための鋭い牙と爪……それは巨大な三つ首の獣だった。

その三つ首の獣に俺は何となく見覚えがあった。

「まさか……」

「親方様、これは一体……」

『『『ガァアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』』』

三つ首の獣は凄まじい音量の咆哮をあげて襲いかかってきた死糸をその場で停止させて一緒で砕かれた。

「すごい……」

『『『グルゥ……』』』

感嘆の声を漏らした俺に三つ首の獣は振り向くと、六つの瞳はまっすぐ俺に向いていた。

さっきは恐かったが、今は優しくなっているその瞳を俺は知っていた。

「黒蓮……お前なんだな?」

『『『ガウッ!』』』

そうだよ!と元気良く返事をするのは間違いなく先ほど別れた黒蓮だった。

「とんでもない邪気を感じたから引き返したんだ。ケルベロスを保護してくれたお前にも借りを返すためにな」

そして、もう一人……出てきたのはケルベロスの契約者のサクラだった。

サクラは瑪瑙を睨みつけると、右目とその周りの皮膚に不思議な紋様が浮き出る。

「相当な悪行を行って罪を重ねてるな……てめえの魂は今すぐに『冥界』に叩き落とさなきゃならないな」

瑪瑙から何かを見たサクラはケルベロスの隣に立ち、両腕を前で交差させた。

「天音。こいつは俺に任せろ」

「何!?」

「深き罪を持った罪人は全て俺の獲物だ……今からこいつを冥界に送る。行くよ、相棒!!」

『『『グガァアアアアアアアアアアアアッ!!!』』』

ケルベロスはもう一度咆哮を上げると、サクラは大きく叫ぶように宣言する。

「契約執行!冥界獣ケルベロス!!」

サクラとケルベロスが契約を執行すると、ケルベロスの体が黒い粒子となり、それが驚くことにサクラの頭と両腕に入っていく。

頭と両腕はアーティファクト・ギアとして変化し、黒蓮のケルベロスの頭のような形になっていき、黒い闇を纏って鋭い牙が現れた。

「アーティファクト・ギア……“トライファング・ケルベロス”!!!」

契約者自身の体を使って契約聖獣と一つになる異例のアーティファクト・ギア……始めて見るその姿に俺達は目を凝らすように見た。

サクラはアーティファクト・ギアとなった左腕を瑪瑙に向け、こう言い放った。

「冥界の扉は、開かれた……」




.

次回、サクラ&ケルベロス(黒蓮)が瑪瑙と戦います。


そして、色々とフラグを設置しておきました!


主に天音と黒蓮関連で(笑)

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