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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第5章 ドタバタ夏休み編
75/172

第64話 約束と運命の絆

天音と千歳の誕生日&夏祭りデート回です。


今回でようやく夏休み編が終わります。

8月20日。

蓮宮神社の創立記念日で俺と千歳の誕生日である。

朝から蓮宮神社の境内で縁日のお祭りが行われて大いに賑わい、十三代目当主となった俺も忙しく働いていた。

そして、軽くお昼ご飯を済ませて午後になると俺は蓮宮神社の奥にある身を清める場所に来ていた。

珍しく白装束に身を包んで訪れたのは小さな滝がある川だった。

この滝は蓮宮の人間が身を清めるために使われる神聖な場所であり、蓮宮の神に捧げる神楽舞を踊る俺が身を清めに来たのだ。

「さーて、身を清めるかな……」

意を決して川の中に足を入れるとひんやりとした水の冷たさが足から全身に響いた。

冷たいのを我慢しながら俺は滝の前まで行き、呼吸を整えるとそのまま体を滝に打たせた。

全身に水の冷たさと滝の衝撃が同時に襲いかかるが、それを耐えて滝に打たれ続ける。

五分ぐらいの時間が経過すると俺は滝から出て川から上がった。

「久しぶりにやるとキツいな……」

「天音、早く拭かないと風邪を引くよ?」

そう言って頭にバスタオルを被せられ、すぐにバスタオルを取って振り向くとそこには昨日親戚のみんなに婚約者と言った千歳だった。

「千歳……サンキュー」

「ほら、早く着替えに行こうね」

「わかったよ」

バスタオルで髪の毛や体の水気を取りながら家へと戻った。

家に戻るとすぐに白装束を脱ぎ捨てて体の水気を拭き取ると、取りあえず私服に着替えた。

「天音、髪の毛を乾かすよー」

「ああ。頼むよ」

いつものように千歳はドライヤーとタオルを使って丁寧に俺の髪を乾かしていく。特に今日は神楽舞を踊るためか念入りに手入れをしながら乾かしている。

乾かした後、最後に櫛で綺麗に髪を整えて終わった。

「はい、出来上がり♪」

「ありがとう、千歳」

「いえいえ。お礼なんていらな――」

チュッ。

俺は千歳を抱き寄せてから唇に軽くキスをした。

「お礼はこれで良いか?」

「ふぇ、あっ……も、もっとしてください……」

「了解……」

昨日の千歳の綺麗な着物姿を見てからと言うもの、こうして千歳を求めたくなっている。

だけど、俺はキスやハグしかやっていない。

それ以上の行為は虚弱体質だった千歳の体を気遣っているため、最低でも二十歳ぐらいになるまで絶対にやらないと心に決めているからだ。

千歳もそれを分かっているため、やりたいとは口にしていない。

その代わり、キスやハグの回数や激しさが徐々に増えていっているが……。



それから時間が過ぎ、夕暮れ時になると俺は最後の準備をした。

蓮宮の神子装束に身を包み、手甲を両手に装着し、左腰の紐に蓮煌と氷蓮を挿した。

それだけならいつもの戦闘装束だが、今回は特別で神楽舞用の煌びやかな金の飾りを頭や耳などに着けていた。

「綺麗だよ、天音」

「男としてあまり嬉しくないけど……まあ、今日は良いよ」

千歳が着替えの準備を手伝ってくれて俺の姿を褒めている。

「旦那、こちらも終わったぞ」

『ピィー!』

擬人化した銀羅は白蓮を連れてきた。

白蓮は毛から羽までピカピカに整えられていた。

神楽舞で一緒に出る白蓮の身だしなみを銀羅が整えてくれたのだ。

「さあ、白蓮。そろそろ行こうか」

『ピィーッ!』

神楽舞が始まる時間も近付いてきており、俺は白蓮を肩に乗せた。

「天音、頑張ってね!」

「白蓮、ファイトだ!」

千歳と銀羅の声援を受け、俺と白蓮は腕と羽を上に上げて応える。

「行ってくるよ!」

『ピピィッ!』

俺と白蓮は晴れ舞台であり、神楽舞を踊るための舞台である本殿に向けて歩き出した。



神楽舞が始まる時間が近づくにつれ、蓮宮神社に続々と参拝客が集まっている。

天音と白蓮ちゃんの晴れ舞台を間近で見るために私と銀羅は一番前の席に座った。

だけど、座っているのは私と銀羅だけではなかった。

「楽しみだな、天音の神楽舞」

「蓮宮天音ファンクラブ会長として、この写真を撮らなければ……!」

「楽しみですわ、天音さんの神楽舞」

「蓮宮がどんな舞を踊るか……楽しみだな」

先日カップルになった恭弥と雷花、そして雫先輩と迅先輩の四人だった。みんなは私と天音の誕生日を祝い、神楽舞を見に来たのだ。

そして……時間となり、天音と白蓮ちゃんの神楽舞が始まる。

まずは奥から風音ちゃん、璃音義兄様、花音義姉様、せっちゃんとれいちゃんが古の演奏者の格好をして出て来た。

五人は天音が踊る神楽舞を彩る音楽を奏でるため、和楽器を演奏する事になっている。

風音ちゃんは三味線、璃音義兄様は神楽笛、花音義姉様は琵琶、せっちゃんは小鼓、そしてれいちゃんは琴を演奏する。

五人の息のあった演奏が始まると、奥から天音と白蓮ちゃんが一歩ずつ歩いてきた。

恭弥達は奥から出てきた天音は目を疑った。

いつもと全く違う姿の天音の姿に驚いていたからだ。

それもそのはず、今の天音は神秘的な雰囲気も纏い、息を呑むような美しさがあったからだ。

天音の肩に乗っていた白蓮ちゃんの体が輝き、雛から鳳凰へと姿を変える。

美しい鳳凰の姿に私達だけではなく、この場にいるみんなも見取れている。

天音は瞼を閉じて左腰にある蓮煌と氷蓮を鞘から抜いて構える。

そして、心の中で天音は白蓮ちゃんとの契約を望むと、白蓮ちゃんの体が粒子化して天音が身に纏う四つの契約媒体と一つになり、美しきアーティファクト・ギア……鳳凰武神装となった。

鳳凰武神装を身に着けた天音は和楽器の演奏に合わせて踊り始めた。

戦いの時とは違う雅で美しい舞を踊り、この場にいる誰をも魅了する舞だった。

大剣のアーティファクト・ギアである鳳凰剣零式と鳳凰剣百式は数々の敵を倒してきた武器であるが、この時だけはどんな物にも負けない芸術品のような美しさがあった。

天音はゆっくり体を回転させながら双翼鳳凰剣を手の中で回したりして綺麗に動かしていく。

舞の中にはただ単に綺麗で美しさだけではなく、鋭い刃のような美しさがあった。

和楽器の演奏と共に踊る天音は蓮宮十三代目当主として相応しく、何よりも二つの大剣を巧みに操る神子……『剣の神子』と称するほどに天音は美しかった。

少なくともこの神楽舞で天音のファンが増えるのは確実で、私がもう一度惚れ直すのも当然の事だった。



神楽舞を無事に終わらせた俺は自分の部屋に戻ると、一気に疲れが押し寄せてベッドに倒れてしまった。

「疲れたぁ……」

『ちちうえ、だいじょうぶ?』

「ああ。白蓮も疲れただろ?お前も休んで良いぞ」

『うん。それじゃあ、おやすみなさい……』

白蓮は鳳凰から雛の姿に戻ると、バスケットの中にある寝床でスヤスヤと眠りについた。

「お休み、白蓮」

俺は起き上がって白蓮に小さな毛布を掛けてゆっくり眠らせた。

時計を見ると6時40分……千歳とのデートの時間が迫っている。

「支度をするかな」

神子装束を脱ぎ、事前に母さんが用意してくれた浴衣を着る。

紺色の生地に白蓮と同じ白い鳳凰の絵柄が描かれた新しい浴衣だった。

財布と携帯電話を持って下の階に降りると浴衣姿の千歳が既に待っていた。

しかも、ラッピングされたたくさんの荷物を持って。

「天音、お疲れ様でした」

「ああ。ところでその荷物は?」

「これはみんなから天音と私へのプレゼントだよ。ちょっと開けてみる?」

「そうだな。見てみるか」

最初に璃音兄さんのプレゼントを開けた。

「わぁ、綺麗……」

「これは、瑠璃色のコップ……?」

俺と千歳で使えと言わんばかりに綺麗な瑠璃色のコップが二つあった。

璃音兄さんの名前的な意味で選んだのか分からないけど、使い勝手が良さそうなコップだから明日から使おう。

次に花音姉さん。

「えっと何々……『中国伝統凄いのお酒で、媚薬効果があるよ。これで二人の距離も縮ま』――ああっ!天音、何するのぉ!?」

「これは没収します」

「使わせてぇー!」

「ダメです」

瓢箪に入っているいかにも怪しいお酒を手紙を読んでいる千歳から奪って顕現陣の中に仕舞った。

花音姉さん……あなたは誕生日に何て物を送るんですか……?

このお酒は顕現陣の中にずっと封印しようと心に誓った。

気を取り直して刹那と麗奈。

「か、可愛い!銀羅のお人形だ!」

「こっちは白蓮か……うん、可愛いな」

白蓮と銀羅をデフォルメした可愛らしい人形が入っていて、まるで本当に市販で売られているような出来だった。

二人共、いい仕事をしているな。

次に恭弥と雷花。

「恭弥は……へぇー、冒険ファンタジーの本か。意外ね……」

「雷花さんは手作りの洋服だな。どうして、俺のも女物なんだ……」

「大丈夫、きっと天音によく似合うから♪」

「止めてくれ……」

恭弥はオススメの冒険ファンタジー小説のセットで、雷花さんは手作りの洋服だった。

しかし、何故か俺にはメイド服やチャイナドレス、更にはゴスロリと言う明らかに俺に着させて写真を撮りたいという欲望丸出しのプレゼントだった……。

意気消沈しながら雫先輩と迅先輩のプレゼントを開けるが、中には凄い物が入っていた。

「す、凄い……高級調理器具に高級包丁セット……」

「こっちは最新版の『世界お菓子大辞典』だ……」

軽く数十万円はすると思われるである高級調理器具と高級包丁セット……まさに料理好きの俺のためのプレゼントだった。

更に、世界中のあらゆる場所と時代のお菓子のレシピが記された『世界お菓子大辞典』……よし、今度二人にこの大辞典に載った絶品お菓子をご馳走しよう!

最後に風音は……。

「ハートのペンダント?」

「いや、これはロケットペンダントだ……」

金色のハートのチャームが開閉式になっていて、中に写真を入れるロケットペンダントだった。

手紙には『お兄ちゃんと千歳さんの写真を入れて身に着けてね』と書いてあった。

気が利いたプレゼントに笑みが浮かべる俺と千歳は笑みが零れた。

そして時計を見ると7時前だった。

「さて……プレゼントを見たし、そろそろデートに行くか?」

「うん!」

玄関で下駄を履き、俺と千歳の誕生日デートでもある夏祭りデートに向かった。



蓮宮神社の境内にあるたくさん出店とそこに訪れるお客さんで縁日は大いに賑わっていた。

その出店の前には神楽舞に来た仲間達の姿が見られた。

「あっ、恭弥と雷花さんだ」

「ほっほー、初々しくデートをしてますな〜」

カップルになったばかりの恭弥と雷花さんは初々しくデートをしていて、俺達はニヤニヤしながら見ていた。

「あっちには雫先輩と迅先輩だ」

「相変わらず迅先輩は尻に敷かれているね〜」

雫先輩がいつにも増して積極的に迫っていて、迅先輩は相変わらずたじたじだった。

二組のカップルの邪魔してはダメだと思い、そのままそっとして出店を見回る。

「天音、綿菓子食べよう!」

「オッケー。すいません、綿菓子を二つ下さい」

出店のおじさんにお金を渡して綿菓子を二つもらい、一つを千歳に渡す。

「ほらよ」

「ありがとう!いただきまーす!」

千歳は大きく口を開けて大きなフワフワの綿菓子を食べる。

「ん〜!甘〜い!」

「そりゃあ、綿菓子は砂糖で出来ているからな。あははっ、千歳……鼻についているぞ」

「んっ?」

思いっきり食べている千歳の鼻に綿菓子が付いていてそれを指で取ってあげる。

「ほら。ゆっくり食べな」

「んー……パクッ!」

「うわぁっ!?」

千歳は取った綿菓子を俺の指ごと食べてしまった。

舌で念入りに綿菓子と俺の指を舐め、口から離すと悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

「えへへ、ごちそうさまです!」

「お前……俺の指を食べるな!?」

「違うよー。私は天音が持っていた綿菓子を食べたんだよ?」

「嘘つくな!俺の指を念入りに舐めてたじゃないか!?」

「じゃあ、天音も綿菓子ごと私の指を舐める?」

千歳は綿菓子を千切って俺の前に持って行く。

「アホかぁああああーーーっ!?」

たまに変態みたいな行動をしたり、薦めたりする千歳に頭を掲げて叫ぶ俺だった。




「ちくしょう……羨ましいもんを見せつけてくれるじゃねえか!!」

「チトセ、相変わらずアマネさんを愛していますね」

「現代ではああ言うのを、バカップルと言うらしいな」




こ、この声は、ま、まさか……!?

聞いたことのある三つの声が聞こえ、俺と千歳が急いで振り向いた。

「セ、セシリア!?」

「アルティナ……そして、アルトリウス!!」

そこにいたのは約1ヶ月前に共に戦い、仲間になったイギリスの王女姉妹、セシリアとアルティナ様。

そして、セシリアの契約聖獣でアーサー王が転生した竜人の少女・アルトリウスだ。

しかもイギリス人で浴衣姿だったが、とても良く似合っていた。

イギリス王女と人が多い場所で話すわけにはいかないので、俺と千歳はすぐに三人を連れて人気の少ない場所へ移動した。

「どど、どうして三人がここに!?」

「いつこっちに来たの!?」

三人が日本に来日したと言う情報は公式にない……つまりお忍びで来たという意味だ。

セシリアとアルティナ様は笑みを浮かべながら古い鍵を見せた。

それは俺と千歳も持っている空間移動をするための魔法の鍵・境界輪廻だった。

「へっへー、アリスさんに貰ったんだぜ!」

「チトセとアマネさんの誕生日を祝いにこちらへ来たんですよ」

そう言うとセシリアは俺に、アルティナ様は千歳にプレゼントを渡した。

「私はマーリンに作ってもらった魔法剣だ!」

セシリアが俺にプレゼントしたのはヨーロッパ地方の伝統的な騎士の剣であるロングソードだった。

鞘から抜くと、刀身から美しい銀色の輝きを放ち、不思議な文字が刻まれていた。

流石はアリス先生の師匠で、伝説の古の魔法使い……こんなにも凄い魔法剣を作るなんて。

「凄い……とてつもない力を感じる……」

「使うかどうかアマネ次第だが、受け取ってくれ」

「もちろん。ありがとう、セシリア」

「ああ!」

男らしかったセシリアの笑みはいつになく優しく女の子らしく可愛かった。

そして、アルティナ様が千歳にプレゼントしたのは千歳自身が愛用しているオートマチックとリバルバーを組み合わせた合成銃・レイジングによく似た銀色の銃だった。

「アルティナ、私はもう銃は……」

「それはただの銃ではありません。チトセのために我が国一番の武器職人作らせた変形式銃剣……名は“ストリーム”です!」

「変形?レイジングに似た銃にしか見えないけど……」

千歳はストリームにあったボタンを押した。

カシャン!ガシャン!!

銃の形をしたストリームはボタン一つであっという間に剣の形に変形した。

「うわっ!?ほ、本当に変形した!?」

「これなら、中遠距離の攻撃が得意なチトセでも接近戦が出来ると思ったのよ」

千歳はストリームを操り、軽く振ったり狙いを定めたりする。

「アルティナ……ありがとう!大切に使わせてもらうわ!!」

ストリームを気に入った千歳はアルティナに抱きついた。

「チトセ。レイジングとストリームを使って、あなた自身と皆さんを守ってくださいね」

「ええ。約束するわ……」

アルティナ様は先日の誕生日に千歳がプレゼントしたレイジングを取り出して千歳の持つストリームと交叉させた。

大切な人を守るという二人の友情の誓いでもあった。

「さて……これ以上二人のデートを邪魔するわけにはいかないからそろそろ行くぞ」

アルトリウスは俺達を気遣ってか、セシリアとアルティナ様を無理やり連れ出す。

「あっ、ちょっ、アルトリウス!?」

「チトセー!後でまた会いましょうねー!」

「さあ、セシリア、アルトリウス。リンゴ飴を食べに行くぞ!!」

三人を見送ると再び二人っきりになると、千歳は俺の腕に抱きついてきた。

「ねぇ、天音……」

「何だ?」

「もうすぐ、花火大会が始まるから……二人っきりになれる場所に行かない?」

「そうだな。じゃあ、あそこに行くか」

俺は花火が見られて二人っきりになれる場所を知っており、千歳をそこへ連れて行った。



俺は千歳を連れて蓮宮神社の境内の端にある周囲が森に包まれているが、少し開けた高台へ向かった。

そこは蓮宮の人間しか知らない場所で普通の人が絶対に来ない場所だから、千歳と必然的に二人っきりになれる。

「ここなら花火をよく見られるよ」

「これで天音と私の二人だけで花火を見られるね!」

「そうだな。おっ……始まった」

ちょうど花火大会が始まり、夏の夜空に花火が打ち込まれる。

赤、青、黄、緑……色鮮やかな一瞬だけ輝く花火が見る者を魅了していく。

「綺麗だね……」

「そうだな……」

「もう、こう言うときは『千歳のが綺麗だよ……』って言うもんだよ?」

「断る。恥ずかしいし、俺のキャラに合ってないから」

「むぅー、仕方ないか……じゃあそろそろ愛しの天音様にプレゼントをあげようかなー?」

千歳は左手の顕現陣から可愛らしいデザインの小さな紙袋を取り出して俺に渡す。

「開けても良いか?」

「もちろんだよ」

紙袋を開けて手の上に乗せた。

「これは……勾玉のブレスレット?」

紙袋の中に入っていたのは一際目を引く緑色の勾玉や、綺麗な玉が紐で繋がれたブレスレットだった。

「それは翡翠の勾玉で作ったお守りだよ」

「お守り?」

「うん。勾玉は古代日本から伝わる装身具で、霊的な力があるって言われているの。一説には戦いの護符としても使われていたんだって」

「戦いの護符か……」

「天音って、戦いとか色々なトラブルに巻き込まれやすいから、天音が無事で幸せになれるように想いを込めて作ったんだよ」

「想いを込めてって……これ、千歳の手作りなのか?」

「ちょっと、無骨かもしれないけどね……」

「そんなことはない。とっても綺麗な勾玉だよ」

千歳が作ってくれたお守りに俺は嬉しさがこみ上げ、ブレスレットを右手首に付けた。

「ありがとう、ずっと大切にするよ」

千歳がプレゼントしてくれたブレスレットを大切にしようと心に誓った。

「天音……うん!!」

「では、俺も千歳姫にプレゼントをしましょう」

顕現陣からアリス先生に依頼して作ってもらった物を取り出すが、その前に千歳がはっちゃけた事を言い放った。

「じゃあ、天音の心と体を私にプレゼントして下さい!!今夜、ベッドの上で私と一つになりましょう!!!」

いい雰囲気を壊すな、万年発情千歳姫!!!

「却下だ!!!」

「ガビーン!!?」

当たり前だが、俺は即答で拒否した。

「ったく……そう言うことは二十歳になったらって言っただろ?」

「ううっ、はーい……」

「よし、じゃあ、気を取り直して……」

顕現陣から小さな箱を取り出して千歳に渡す。

「ずいぶん、ちっちゃいね……」

「開けて見ろよ。絶対に千歳が喜ぶから」

「うん……」

箱の中に何が入っているか恐る恐る開け、中にある物を見た瞬間……千歳は目を見開いて固まった。

「あ、天音……これ……?」

「気に入らなかったか?」

「そ、そんな事はないよ!ただ、驚いちゃって……」

千歳が驚くのは無理がなかった。

小さな箱の中に入っているのは、緑色に輝く小さな石が埋め込まれた銀色の輪……要するに、指輪だ。

二つの指輪……これがどんな意味を持つのか千歳にはすぐに理解できた。




「これ、婚約指輪(エンゲージリング)だよね……?」

「ああ、正解だよ」




そう、この指輪は俺から千歳に贈る婚約指輪だ。

十六歳の誕生日であるこの日に婚約指輪を贈るのは以前からの千歳との約束だった。

今からちょうど六年前、俺と千歳が十歳の誕生日を迎えた時に千歳がある事を言い出した。

『天音!六年後の誕生日に婚約指輪をプレゼントして!』

『ええっ!?な、何で俺が千歳に婚約指輪をプレゼントしなきゃならないんだよ!?』

『女の子は十六歳になったら結婚して良いってお母さんが言っていたの。だから、六年後の誕生日に婚約指輪をプレゼントして!』

『はぁ……わかったよ』

『本当!?』

『ただし、十六歳になっても、その約束を忘れずに俺が千歳の事を好きだったらね』

『あっ、天音のイジワルー!そこは絶対にプレゼントするって言ってよー!』

『無茶言うなよ……』

単なる口約束だが、俺はその約束をしっかり覚えていた。

そして、俺は千歳の事が大好きだ。

だから約束通りに婚約指輪をプレゼントしようと考えたのだ。

「約束、覚えていてくれたんだ……」

「俺は約束を破らない男だって知っているだろ?」

「天音……うん!うん!!」

「まあ、石は流石にダイヤモンドじゃないけどな」

「これって、何の石?翡翠、じゃないよね?」

「これはペリドットだよ」

「ペリドット?」

ペリドットは8月の誕生石で明るい緑色が特徴の宝石だ。

「ペリドットの石言葉を知っているか?」

「え?知らない……」

「じゃあ、教えてやるよ」

ペリドットの石言葉が婚約指輪に使う石として選んだ理由……きっと千歳に気に入ってもらえる。




「ペリドットの石言葉、それは……“運命の絆”だよ」




運命の絆……正しく、俺と千歳を現しているかのような石言葉だった。

「運命の、絆……?」

「他にも、夫婦愛や夫婦の幸福って意味も込められているんだ」

「夫婦……愛、幸福……」

「千歳、この指輪……受け取ってくれるよな?」

「う、うん!天音……薬指に填めてくれる?」

千歳はそっと左手を差し出す。

婚約指輪を填めるならやはり左手の薬指だ。

「もちろん、填めさせてあげるよ」

二つある指輪から小さな方を取った。

長年幼なじみとして一緒に過ごしてきたから千歳の指の大きさも把握済みだ。

左手の薬指に通した指輪はぴったりと薬指の付け根に填まった。

「千歳、俺のにも填めてくれ」

「う、うん!」

千歳は箱に入っているもう一つの指輪を手に取り、俺の左手の薬指に填める。

こうして俺と千歳の左手の薬指に婚約指輪が填められた。

「千歳、嬉しいか?」

「あ、当たり前だよ……嬉しくないわけ、無いじゃない……」

「そうだよな。おっと、言い忘れていたことがあった」

「なーに?」

「誕生日おめでとう、千歳」

「それを言うなら私も……誕生日おめでとう、天音」

偶然か必然か、十六年前の今日、同じ日に生まれた俺達……。

それからずっと同じ時を生きてきて、今は恋人同士でこうして婚約指輪を填めるほどの関係になった。

普通ならこんな事は起きるはずがないから、俺はこれを奇跡だと思う。

俺は今までも、そしてこれからもずっと千歳を大切にしていきたい。

「天音、大好きだよ!」

「俺もだよ、千歳」

この日、俺と千歳は人生で最高の誕生日を迎えた。

幸福に包まれた天音の夏休み……しかし、二学期からまた新たな出会いと戦いが俺達を待ち受けるのだった。



その頃、無限神書の魔女、アリスティーナ・D・クレイプスコロは久しぶりに占いをしていた。

「さて……久しぶりに占おうかしら?」

手から発現させた魔法陣から占い用の百枚のカードを上へバラまくように投げた。

そして、アリスティーナの手に四枚のカードが集まる。

「何々?断罪者と冥界の番犬……祭り……そして好敵手か……」

この四枚のカードが何を意味しているのか分からないが、アリスティーナは笑みを浮かべた。

「ふふふっ、なかなか面白そうね……二学期も退屈せずに済みそうよ、天音」

アリスティーナはあらゆるトラブルに巻き込まれる体質……『闘争の運命』を持った天音に対してそう言うのだった。

そして、夏休みが終わり、天聖学園の二学期が始まるのだった。




.



どうでしたか?


私的にはなかなかの天千回だと思いますが?


ゲストとしてイギリス編のセシリアとアルティナ、そしてアルトリウスさんを出してみました。


次回から新章の二学期で、遂に天音のライバルキャラを登場させます。

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