第61話 気付いた気持ち
今回は恭弥君が主人公です。
まあ、鈍感なラノベ主人公よりかなりマシな感じです(笑)
突然だが俺は今、人生で一番ヤバい状況を迎えている。
それは、雫先輩のお母さんの紅さん主催の南の島リゾートの宿泊する部屋割りで雷花と一緒の部屋にされてしまった事だ。
雷花は俺にとって大切な友人で仲間だが、恋人ではない。それなのに一緒の部屋で寝泊まりはどう考えてもヤバい。
しかもこの状況をみんながニヤニヤしながら楽しんでいた……お前達は俺をどうしたいんだ!?
「恭弥……」
「はひっ!?」
雷花に話しかけられ、変な声が出てしまった。
寝転がっていたベッドから起き上がると、パジャマ姿の雷花がバスタオルで髪を拭いていた。
「お風呂、上がったよ……」
風呂上がりの雷花の顔はほんのり赤くなっていていい香りが漂う。流石はリゾート、良いシャンプーとボディソープが用意されているのだろう。
「じゃ、じゃあ俺も入ろうかな!」
俺は一時撤退をするように着替えを持ってバスルームに行った。
高級バスルームだったが、全然心が休まる気になれなくなり、すぐに頭と体を洗って出てしまった。
「早かったね……」
雷花は部屋に用意してあった炭酸飲料をグラスに注ぎ、飲みながらそう言った。
「あ、ああ。いつもこんな感じだ」
「ふーん……恭弥も飲む?」
「ああ。飲むぜ」
雷花はグラスを取り出し、炭酸飲料を注いで俺に渡す。
「それじゃあ、乾杯」
「おう、乾杯」
グラスを軽くぶつけ合って乾杯して炭酸飲料を飲む。
椅子に座り、窓から見える月に照らされる綺麗な海の風景を楽しむ。
「本当に綺麗なところだな」
「うん。ねえ、恭弥……」
「何だ?」
「恭介さんと、若葉さんの話をして……?」
「じーちゃんとばーちゃんの?」
「うん。二人の話を聞きたいな」
「そうか。そうだな……じーちゃんとばーちゃんは俺にとって両親より大切な家族だ」
「ご両親より……?」
「ああ。両親二人とも歴史研究家で、古くからの人間と聖獣の関わりやアーティファクト・ギアの歴史について研究しているんだ。家にはほとんどいなくて、帰ってくるのも一年に一回あるかないかぐらいなんだ」
だから両親との思い出なんてほとんど無い……だけど。
「その両親に代わってばーちゃんが俺の母親代わりだったんだ。最も、ばーちゃんは見た目が若いから母親って言われてもあまり違和感無いけどな」
「若葉さんが恭弥のお母さん代わりか……」
「それで、じーちゃんは冒険家で考古学者だから家にはけっこういないけど、天聖学園に入学する前は一ヶ月に一回は必ず帰ってきてくれたし、俺の長期休暇の時にはほとんど一緒にいてくれるから嬉しかったぜ!」
「恭介さんは恭弥を大切にしているんだね……」
「ああ。毎年世界の遺跡とかに連れて行ってくれるからな!雷花の家はどうなんだ?」
次に俺は雷花の家族について聞いてみた。
「私?私の家は普通かな。家にはいつもお父さんとお母さんと雷輝がいるから……」
「そっか。弟の雷輝君、良い子だよな」
礼儀正しいし、素直で良い子……俺もあんな弟が欲しかったぜ。
「うん。雷輝はとっても良い子。私の自慢の弟だよ……」
雷花は弟を褒められて嬉しかったのか、いつもより柔らかい笑顔で笑いかけてきた。
その笑顔にドキッとなった俺は心臓の鼓動が激しくなり、収まるのに時間が掛かった。
その夜は色々な話をしてその後はそれぞれのベッドで寝るのだった。
☆
翌朝、迅先輩が作った朝食を食べていると天音と千歳に話しかけられた。
「恭弥よ、昨日の夜はどうだったかな?」
「雷花と進展したのかな?」
ニヤニヤしている二人に対し、俺はさらりと反論した。
「別に何もないぞ。ただお互いの家族の話をしていただけだ。そう言うお前らはどうだったんだ?」
「えっと……」
「まあ、色々とね……」
苦笑いを浮かべる二人。おいおい、昨日の夜に風音ちゃん達と何があったんだ?
すると紅さんは今日の予定についてみんなにある提案をする。
「今日は綺麗な海の中をマリンダイビングしようか」
海の中の景色を見るマリンダイビング……人生であまり体験出来ない事だから楽しみだ。
みんなもマリンダイビングを楽しみにしていると……。
「それなら、私のウンディーネの出番かしら?」
アリス先生が天音お手製のスイーツを食べながら言った。
「アリスよ、本当にお前は甘味が好きだな」
天音のご先祖様の蓮姫さんが隣にいるアリス先生を呆れながらお茶を飲んでいる。
「むー、良いじゃない……甘い食べ物は正義なのよ!」
「意味が分からんぞ」
冷静にツッコミを入れる蓮姫さん。
やはりこう言うところとか天音に似ているからやはりご先祖様だなぁ、と感じた。
☆
朝食を食べ終わった後、紅さんが運転する大型クルーザーに乗り、島から少し離れた海域に止まった。
「ウンディーネ、出番よ!」
アリス先生の体から青色の魔法陣が現れ、中から水の精霊・ウンディーネが現れる。
指を鳴らした発動したアリス先生の魔法と軽やかに踊るウンディーネの魔法が融合し、この場にいる俺達全員の体に薄い膜みたいなものが張られた。
「名付けて、アクア・バリア。今から約一時間、水の中を息継ぎ無しでも平気で自由に行動出来るわ」
つまり、今から行うマリンダイビングに重い酸素ボンベを背負わずに済むことが出来ると言うわけか。
流石は無限神書の魔女、俺達の先生だぜ!
「それじゃあ、雷花。早速行こうか」
「うん……!」
俺が手を差し出すと、雷花は笑顔で俺の手を握っり、一緒に海の中へ飛び込んで行った。
海の中に入るとアリス先生の魔法の力が働いて本当に息継ぎ無しでも息が平気だった。俺達に続いて天音達も海に飛び込んで来た。
そして、瞳に映った海の中は本当に綺麗な光景だった。
透明な海の中に広がる宝石のような輝きを持つ形が様々な珊瑚礁、その珊瑚礁の周りを泳ぐ小さくて色鮮やかな魚……地上では絶対に見られない生命に満ちた海の世界が広がっていた。
「わぁ……可愛い」
雷花は海の中で泳ぎながら小魚達と遊ぶように触れ合っていた。
おそらく、雷花は自身の雷を操る能力を使い、微弱な電気信号を小魚達に送っているのだろう。
楽しそうに遊んでいる雷花に俺は目が離せなかった。
自作の黒い水着を着用した姿で小魚達と遊んでいる今の雷花の姿が、俺が知っている『雷神の申し子』ではなく、まるで海にいる可愛い人魚のように見えてしまった。
「ねえ、恭弥も一緒に遊ぼー?」
「え?あ、ああ!」
今度は雷花が手を伸ばしてきて、俺はその手を取って一緒に遊んだ。
この時に俺は確信した。いや、前々から感じていたこの心の中に秘めていた一つの感情に気が付いたと言った方が正解なのかもしれない。
俺は、雷花の事を…………。
☆
マリンダイビングが終わり、一度島に戻って昼食を取った後、俺や千歳達は恭弥に呼ばれた。
「それで、どうしたんだ?恭弥」
「あの、その、みんなにアドバイスを貰いたくて……」
「アドバイス?」
恭弥の顔は珍しく赤くなっていて、何となくアドバイスして欲しいことに気付いて千歳はため息を付いて言う。
「何?やっと雷花に告白する気になったの?」
「バッ!?なな、何を言って……」
「違うの?」
「ちっ……違いません……」
正直に白状する恭弥は頼りなく頭が下がっていた。
「それで、どんなアドバイスが欲しいんだ?」
「その……どうやって雷花に告白したら良いかどうか……」
なるほど、告白か。確かに難しい内容ではあるな。
「みんな、恋人同士だから何か良いアドバイスがあると思って呼んだんだ……」
この場にいるみんなを見渡すと、俺と千歳、雫先輩と迅先輩、刹那と麗奈……確かに恋人同士だな。
まずは千歳。
「アドバイスって……私は小さい頃から天音の事が好きだったし、告白したのは天音が願い事を叶えてあげるって言ったから、結婚してと言ったのよ?」
「それ、全然参考にならない気がする……」
次に雫先輩。
「私も幼い頃に出会った頃から迅が好きで、十六歳の誕生日に迅への思いを爆発させて身も心も捧げたのです」
「ちょっと待って下さい。色々とツッコミどころが多いし、それも参考になりそうになりませんよ……」
最後に刹那。
「拙者は皆さんが知っている通り、長に許可をいただいたので麗奈に告白したでござる」
「あー、あれね……ってか、みんな揃って幼なじみで小さい頃からお互いの事が好きじゃねえか!!?」
はい、確かにそうですね。
俺達の経験談から恭弥の求めるアドバイスが見つからない。
その時、俺の脳裏にイギリスで初めて若葉さんに会ったときにアリス先生から恭介さんと若葉さんの馴れ初めを聞いた時の事を思い出した。
「だったら、お祖父さんの恭介さんと同じく直球勝負をしたら?」
「あのな……じーちゃんの場合はまだ世界樹の木の精霊・ドリュアスだったばーちゃんが何でも一つ願いを聞くって言うから告ったんだぜ?流石に直球は無理に決まっているだろ……」
うーん、提案してみたが、やはりそれも無理っぽいな。
「ああ、もう、どうしたら良いんだよ……女の子に恋するのは初めてだし、告白するのも……」
「えっ?恭弥、あんた恋するのが初めてだったの!?」
千歳は意外って顔で恭弥を見た。
「そうだ、初恋は天音だ。ちなみに初めは女の子だと思って一目惚れでな……」
そう言えばそんな事を前に話していたな……つまり、恭弥にとって雷花さんは初恋って事なのか?
「ああ、もう!誰かこの俺に適切な告白のアドバイスをしてくれぇっ!!」
まともなアドバイスが全く得られずに、苦悩する恭弥。
俺は感じたこと無いけど、初恋に悩む男の子ってこんな気持ちなんだろうか。
ここにいる六人ではあまり恭弥の恋の役には立てそうにない。
もっと適役な人が居てくれば……。
「青春をしているな、初々しい青少年よ!!」
「お主の悩み、この私達に全て任せるがいい!!」
ババン!と突然出て来たのは紅さんと蓮姫様の二人だった。
「お、お母様……?」
「蓮姫様……?」
呼んでもいないのに突然現れた二人に唖然とする俺達。
紅さんと蓮姫様は恭弥の肩を叩いて自信満々に言う。
「恭弥君、私達に良いアイデアがあるぞ!」
「特にお主のような知識のない少年には打ってつけのな!」
「ほ、本当ですか!?」
頼もしい二人の登場に恭弥はキラキラと輝くような笑顔を見せた。
「それで、どんなアイデアがあるんですか?」
「恭弥君、“吊り橋効果”を知っているか?」
「吊り橋効果……?」
白衣を身に纏い、眼鏡をかけた紅さんが立って説明をし始めた。
これが、世界最高の名医で、神医と謳われている雨月紅さんの姿なのか……。
「これは医学的に証明されているんだが、同じ場所にいて緊張状態や危機的状況に陥った男女がお互いに恋愛感情へ目覚めさせるんだ。ほら、映画とかでよく主人公とヒロインが危機的状況にあって結ばれたりする事があるだろ?」
「ああ、確かに……」
紅さんの説明に納得して何度も頷く恭弥。
隣にいる映画好きの千歳も同意するように頷いている。
「そこで、私達はあまり危なくない状況で恭弥と雷花の二人を吊り橋効果を起こさせる絶好の内容を思いついた!」
「それで、その内容は……?」
恭弥はドキドキしながらその吊り橋効果を実行させる内容を緊張しながら聞く。
蓮姫様は目を輝かせながら人差し指を恭弥に向けた。
「ふふふ……決まっているだろう?日本の夏の定番……“肝試し”だ!!」
まさかの提案に恭弥は目を点にした。
「え?肝試し……?」
「そうだ、肝試しだ!」
何故肝試し?そう思ったのは恭弥だけでなく俺達もそう思った。
「実はこの島の近くに肝試しにピッタリな島があるんだ」
「そこで肝試し大会を開催し、恭弥と雷花の二人で肝試しをして……」
二人がそこまで言うと、恭弥も何となく察しが付いた。
「吊り橋効果で俺と雷花の距離を縮めて俺が告白……そう言う事ですか?」
「その通りだ」
「さぁ、この話……君は乗るかな?」
挑発に似た蓮姫様の誘いだが、恭弥の答えは既に決まっていた。
「是非とも、よろしくお願いします」
こうして紅さんと蓮姫様が考える恭弥と雷花をくっつける為の肝試しが行われることになった。
もちろん、俺達も二人のために全面協力をすることになったが、正直のところ本当に上手くいくかどうか俺自身不安なところがあった。
☆
そして、その日の夜……みんなを連れて紅のクルーザーで肝試しを決行する無人島に到着する。
「えー、それでは……これより、肝試し大会を決行する!」
紅さんが宣言をし、恭弥と雷花さんをくっつけるための肝試し大会が始まった。
「ルールは部屋割りで決めた各チームで、この無人島の奥にある“虹の石”と呼ばれる七色に輝く石を取ってきて、ここまで戻ってきたら終了だ」
ルールを説明すると、紅さんは全員に大まかな無人島の地図を渡す。
道中には色々な障害物や少し怖そうな場所が描かれていた。
「もし途中で無理だと判断したらこの閃光弾を撃ってくれ。すぐに救助に向かう」
紅さんは参加者全員に閃光弾が込められた小さな銃を渡した。
「では、くじ引きで順番を決めるぞ」
順番を決めるくじ引きの箱を取り出して中から紙を引いていく。
ちなみに恭弥と雷花さんのチームの順番は……。
「あ、俺が一番だ」
「え……?私達が、最初なの……?」
偶然にも恭弥と雷花さんが肝試しで一番初めの順番になってしまった。
いや、これは偶然じゃない。
実はアリス先生が魔法で細工して、くじで恭弥と雷花さんのチームが一番初めになるようにしたのだ。
「それじゃあ……行ってみるか?」
「う、うん……」
雷花さんはいつもより元気が無さそうな様子で恭弥の服を握り、二人で無人島の森の奥へと進んでいった。
さあ、ここからが俺達の仕事だ。
「天音、出番だぞ」
「はい!」
蓮姫様に言われ、俺は霊力を最大解放し、体に刻まれた霊煌紋を輝かせて発動する。
恭弥と雷花の仲を縮めるために……親友の俺が一肌脱いでやるぜ。
「“霊煌拾式・夢幻”!!!」
この無人島全体に夢と幻を生み出す空間を作り出して展開した。
.
次回、恭弥と雷花の肝試しでどうなるか!?
期待しててください。
そろそろ南の島の話が終わるので、後は天音と千歳の誕生日ネタですかね。
それで夏休み編の終了で、その後は二学期になります。




