第56話 暴走する風と鈴の音
今回は風音ちゃんが暴走してしまいます。
ちなみに蓮姫に体を乗っ取られた天音はしばらく眠っています(笑)
大好きなお兄ちゃん達が家に帰ってきて、私は早速千歳さんの邪魔をしてお兄ちゃんとイチャイチャしようと部屋に突入しようとした。
だけど、私は部屋の前で自分の出生の秘密を聞いてしまい、家を飛び出してきた。
「ねぇ、鈴音……わからなくなっちゃったよ……」
私の最近の秘密の場所である洞窟の中で寝っ転がりながら、そこで出会った蛇に似た聖獣……鈴音を抱き締めていた。
『リーン……?』
鈴の音のような高い声を出す鈴音は心配そうに私を見つめた。
「今まで、私を大切に育ててくれた家族は実は血の繋がりもない他人同士で、私の本当の家族はいない……私は本当は一体誰なの?ここにいる“蓮宮風音”は偽物なの……?」
私が蓮宮家の養女で、お父さんとお母さんの義理の娘。
そして、お兄ちゃんの義理の妹……。
今まで積み重ねてきた記憶が一気に壊されたような気分で分からなくなってしまった。
「鈴音……あなたはどう思う……?」
鈴の音のような声しか発することしか出来ない鈴音を強く抱きしめながら私は止められない涙を流した。
涙の雫が鈴音の体に当たった瞬間、鈴音の体が白く光り輝いた。
『……全てを、壊してやる』
突然鈴音が人間の言葉を発し、私は起き上がって鈴音を見つめる。
「鈴、音……?」
『我の風音に、涙を流せる存在を全て壊してやる……』
普段の甘えん坊な鈴音からは想像出来ない大人びた性格に私は驚くことしかできなかった。
すると、この暗い洞窟を照らしている不思議な二本の刀が地面から抜かれて私の前にやってくる。
私は鈴音を肩においてその二本の刀へ手を伸ばした。
今まで抜こうとして抜けなかった刀が私を待ちわびているかのように現れた。私は迷うことなく刀の柄を握りしめた。
その時、鈴音と刀から溢れんばかりの白い光がその場を包み込んで私の意識が薄れていった……。
☆
ズズー……。
「うん、美味い茶だ。今の世はこのような茶が普通に出回っているようだな」
私の目の前で天音……ではなく、天音に取り憑いた幽霊・蓮姫はお茶を美味しそうに飲んでいた。
蓮宮神社の初代当主である蓮姫が光臨して、蓮宮のみんなは大慌てをして客間へ案内して、お茶や茶菓子を用意をしてもてなした。
「本当に、親方様の御先祖様がいるのでござるか……?」
「未だに信じられないです……」
騒ぎを聞きつけたせっちゃんとれいちゃんに事情を説明したけど、未だに信じられない様子だった。
『ピィー……』
『我慢しろ、白蓮』
大切な父を奪われた気分になっていた白蓮ちゃんを銀羅が宥めている。
「それで、蓮姫様……どのような御用件で私の息子に憑依を……?」
現在の蓮宮神社の当主代理であるお義父様はかしこまった態度で蓮姫にそう尋ねた。
「実は私が死ぬ直前に友に頼んで昇天する魂をあの巻物に封印してくれと頼んでいたのだ。五百年後に目覚めるようにしてな」
「友って、まさか……」
蓮姫の友に私はある人物の姿が思い浮かんだ。するとその時、見慣れた魔法陣が現れて中からその思い浮かんだ人物が出て来た。
「ようやく目覚めたのね、私の蓮姫」
「久しいな……我が友、アリスよ」
現れたのは蓮姫と友人と言っていたアリス先生だった。突然の来訪者にお義父様とお義母様は驚くが、璃音義兄様と花音義姉様が説明してくれたからあまり騒がれることは無かった。
「天音は眠っているのかしら?」
「ああ。妙にこの子孫とさっき話をした。少しの間、体を貸して貰うことを許してくれた」
「天音は良い子だからね。それと、あなたが目覚めたとなると……」
「ああ。“あいつ”が目覚めるな」
勝手に話を進めていく二人に我慢が出来なかった私は思い切って聞いた。
「蓮姫、アリス先生、あいつって何ですか!?」
「ん?あいつはこの蓮宮神社に封印した“龍”の事よ」
「りゅ、龍!?」
まさか蓮宮神社に龍が封印されているとは知らず、私だけじゃなくてみんなも驚いている。
「多くの人間の邪気によって心身共に汚された哀れな龍でな。私が五百年を掛けて汚れを浄化する封印を施したのだ。そして、無事にその龍が目覚めるように見届けるために私の魂を巻物に封印して貰ったのだ」
「せっかくだから、みんなで行かないかしら?もしかしたらこの蓮宮神社の守り神になってくれるかもしれないし」
初代当主の蓮姫が封印したと言われる龍……それを見逃す訳にはいかないと、私達は蓮姫に付いていった。
家を出たところで私はもう一人の蓮宮家の人間が居ないことに気が付いた。
「あれ?ところで風音ちゃんは?」
「あら?そう言えばあの子はどこに行ったのかしら……?」
風音ちゃんの姿が見つからず、お義母様もどこにいるのか分からないようだった。
「風音?あそこにいる娘がそうではないのか?」
蓮姫が指さした先には風音ちゃんがこっちに向かって歩いてきた。
「あ、本当だ。おーい、風音ちゃーん!」
「…………」
「ありゃ?」
返事がない。いつもなら何らかの反応をするのに珍しかった。
と言うより、いつもと何か様子が違って、両手に見慣れない刀を持っていた。
まだ風音ちゃんは十歳だから蓮宮伝統の神具は与えられないはず……じゃあ、あの二本の刀は一体何……?
すると、隣にいた蓮姫は目を見開いて風音ちゃんが持っていた刀を凝視していた。
「あ、あれは……そんな、まさか……」
何故か酷く動揺して口を手で押さえていた。
アリス先生は風音ちゃんの刀を細目で見た。
「あれは神双刀の“双蓮”じゃない」
「「「「「双蓮?」」」」」
初めて聞く武器の名前に私達は疑問符を浮かべた。
少なくとも蓮の名前が付くから蓮宮神社の神具だと推測できるけど、アリス先生が口にした事実に私達は驚かされる。
「あの刀は五百年前に蓮姫が使っていた愛刀で、蓮宮で一番最初に作られた神具なのよ」
「え……ええっ!?」
「それって蓮宮にとって重要な家宝じゃない!!?」
「何でそんなお宝を風音が持っているんだよ!?」
花音義姉様と璃音義兄様は蓮宮神社の最大の宝が登場して興奮が止まらなかった。
「風音!」
お義母様は風音に近付いて話を聞こうとする。
「あなた、それをどこから持ってきたの?危ないからしまいなさい」
母として風音の手にある双蓮を引き離そうとするが、次の瞬間信じられないことが起きる。
「黙って……」
「え?」
風音ちゃんは双蓮を振り上げた。
「血の繋がりのない他人が私に指図しないで」
そして、双蓮の凶刃がお義母様に振り下ろされた。
『六花!!!』
その時、雪女の美雪の声が響くと同時にお義母様の目の前に氷の盾が現れて双蓮の凶刃が防がれた。
『タマ!!』
『任せるニャー!』
美雪さんの次に猫又のタマの声が聞こえると、お義母様の背後に体が数十倍も巨大化したタマが現れた。
二股の尻尾を器用に使って呆然としているお義母様の体に巻き付けて持ち上げると私達の元へ軽やかに飛んで来た。
『六花、大丈夫!?』
『大丈夫かニャー?』
「え、えぇ……」
美雪さんとタマの活躍でお義母様に傷は一切なかった。
「風音……一体何で六花に刃を……」
風音ちゃんの行動に私やお義父様達も理解ができなかった。
しかし、蓮姫とアリス先生だけは何かを知っているような表情で風音ちゃんを見つめていた。
「これは大変なことになったわよ、アリス」
「ええ。あの子……“疑似契約暴走”を起こしているわ」
アリス先生が言ったその単語に私は驚愕する。
「ぎ、疑似契約暴走!?アリス先生、それは本当ですか!?」
疑似契約暴走とはアーティファクト・ギアが誕生する際に起こる偶発的な暴走自己の一つである。
そもそもアーティファクト・ギアを誕生させるためには聖獣と契約媒体を融合させるための“魔法陣”が必要になる。
私達が天聖学園で聖霊樹の前で銀羅達と契約の時に使用した魔法陣がそれだ。
あの魔法陣の形にはアーティファクト・ギアを誕生させる時に発生させる不具合やズレを修復して安定させ、アーティファクト・ギアによって繋がれた契約者と契約聖獣を守る術式が組み込まれている。
アーティファクト・ギアを誕生させる際にこの魔法陣は必要不可欠で、魔法陣無しで誕生させることは法律で禁止されている。
仮にもし、魔法陣なしでアーティファクト・ギアを無理矢理誕生させようとすると……無限の可能性を持ち、強大な力を秘めた力のバランスが傾いて契約者と契約聖獣自身の手には負えない暴走を起こしてしまい、何が起こるか予想が出来ない。
アリス先生の言うことが本当なら、今の風音ちゃんがその暴走をおこしている。
「このまま暴走してしまったらこの地一帯が焼け野原になりかねん……アリス!」
「ええ、わかっているわ!」
蓮姫の指示でアリス先生は指を鳴らして複数の魔法陣を呼び出すと、この場にいる私達全員を蓮宮神社から消した。
☆
アリス先生が私達を魔法で転移した先は果てしなく続く荒野だった。
この土地ならいくら暴走しても被害はほとんどない。
「ここならいくら暴れても被害はないわ」
「ありがとう、アリス。さて……そろそろ出てきたらどうだ!」
蓮姫は同じく転移された風音ちゃんを睨みつけると、背後から白い霧のようなものが立ち上った。霧は空まで高く立ち上ると、形を成していった。細長い体に鋭い牙と爪、鷹のような翼、そして全てを殺すかのような鋭い眼孔を輝かせていた。
「り、龍!?」
「マジかよ……親父の澪よりデカいぞ」
「とてつもない力……アリス先生、あれは?」
澪よりも強大な力を秘めた龍にアリス先生はそっと口を開いてその正体を明かした。
「あれは蓮姫が封印した何千年もの長い時を生きた伝説の龍……“応竜”よ」
それは初めて聞く龍の名前だった。
そして、応竜はギロリと私達を睨みつけて口を開いた。
『貴様等か、我が風音を泣かす輩は!』
この応竜も人語を話せるようで、私達にそう言った。でも私達が風音ちゃんを泣かせたとはどう言うことだろう?
「応竜!あなたは何をしているの?早くその子を解放しなさい!」
アリス先生は風音ちゃんを解放するように応竜に呼び掛けるが、
『誰だ貴様は?我に命令出来るのは風音だけだ!!』
「まさか、記憶を失っているの!?」
『何をごちゃごちゃ言っている!我は愛する風音に力を与え、風音を泣かす全てを壊してやるのだ!!』
応竜は封印される前の記憶を失っているらしく、おそらくその封印を解いた風音ちゃんを慕っているらしい。
『風音、我が力を全てお主にくれてやる!!』
そして、応竜の体が粒子化して風音ちゃんが持つ双神刀の双蓮の中に入っていく。
それは紛れもなくアーティファクト・ギアの契約執行を行っている状態だった。
本当に風音ちゃんと応竜が魔法陣を使わないで契約をしていて、風音ちゃんは疑似契約暴走で意識が暴走しているのが理解出来た。
そして、双蓮の形が大きく変化し、アーティファクト・ギアが誕生した。
「“神龍双覇”……」
二本の刀をした双蓮は変化し、柄が竜の胴体から頭を模した形になっており、刀身には見事な蓮の花と竜の刻印が刻まれた。
「あれが風音ちゃんと応竜のアーティファクト・ギア……」
「奥方様、早急に風音様からあのアーティファクト・ギアを離した方が良いと思うでござる」
「私達神影流忍者の速力で風音様の懐に入ってアーティファクト・ギアを引き離してみます」
せっちゃんとれいちゃんはそう言うと一瞬で私服から忍装束に着替えて忍者刀を構える。
でも、確か風音ちゃんは……ダメ!!
「ちょ、ちょっと待って!」
「「いざ、参る!!」」
私の制止を聞かずに二人の忍者は忍力で身体を強化し、高速で走り出した。
「影分身の術!!」
その際にせっちゃんは得意の影分身で四人の影を生み出して六人で風音ちゃんを囲んで同時に攻撃する。
「「「「「風音様、申し訳ないでござる!」」」」」
「御覚悟を!!」
この時せっちゃんとれいちゃんは一刻も早く風音ちゃんを助けようとしていたが、二人は知らなかった。
「蓮宮流……」
風音ちゃんの秘めた真の力を。
「水蓮天昇閃」
風音ちゃんは自分の体を回転させながら手の中にある神龍双覇を巧みに操り、天を貫くような螺旋状の斬撃を放ってせっちゃんとれいちゃんを吹き飛ばした。
更に、ダメージを負ったせっちゃんの分身体が煙のように消失してしまった。
「な、何でござるか、今の剣技は!?」
「旦那様の剣技に似てますが、威力が桁違いです!!」
確かにあれは天音の水蓮天昇と同じ剣技だけど、威力は違う。
「気を付けろ忍者カップル……」
璃音義兄様は前に出ると同時に顕現陣から蓮牙を呼び出して鞘から抜いて構えました。
そして、自分の半分の年齢である妹の風音ちゃんに対して警戒しながら間合いを取る。
「風音ちゃんはな……天才なんだよ」
「「天才?」」
その意味を胸の谷間にある顕現陣から蓮月を出す花音義姉様が答えます。
「ええ。風音ちゃんはね……“蓮宮流剣術弐式”。つまり蓮宮流の二刀流剣術の使い手で、既に免許皆伝の実力を持っているのよ」
「「め、免許皆伝の実力!?」」
風音ちゃんは生まれながら天から授かった剣の才能を持っていて、純粋な剣の対決なら同じ蓮宮流剣術の使い手である天音と璃音義兄様でも凌駕する実力を持っている……。
「その風音ちゃんが蓮宮の初代当主が持っていた愛刀と、封印した伝説の龍の力を一つにしたアーティファクト・ギアを持っている。これは一筋縄じゃ行かないかもしれないね……」
私は顕現陣からレイジングを取り出して構え、ダイナマイトを服の下に隠す。
まさかこんな形で風音ちゃんと戦うことになるなんて思いも寄らなかった。
入学当初から色々な戦いに巻き込まれる天音の不幸体質が本当にあるのではないかと私は思い始めてしまうのだった……。
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と言う訳でチート風音ちゃんでした。
下手したら剣の腕は天音や璃音以上……天才は凄いですね。
次回は風音ちゃん無双が始まります(笑)




