第51話 騎士王顕現!!!
アルトリウスついでに、あの騎士も登場させてしまいました。
やっちゃった感はかなりありますが後悔はしていません。
「お前が、俺の契約聖獣……?」
「ああ、そうよ。私のことはアルトリウスと呼んで――」
「ラアァッ!」
セシリアはアルトリウスの言葉を遮っていきなりエクスセイヴァーを振り下ろした。
ギィン!!
「ワァオッ!?ちょっと待って!どうしたの、セシリア姫!?」
何の武器を持たないアルトリウスは突然手が一段と大きくなって鉄のような皮膚となり、五指の爪が鋭い鉤爪となってエクスセイヴァーを受け止めた。セシリアは体中から気力や魔力でもない怒りの気迫である『怒気』を放ちながら睨みつけている。
「アルトリウス……俺の契約聖獣だから人間じゃないと思っていたが、お前は何だ?」
「わ、私は竜の力を持った乙女……竜人・ドラゴンメイドだよ~……」
「竜人?ドラゴンメイド?」
「そ、それよりも、剣を納めてくれないかな……?」
アルトリウスは汗をかきながら笑顔でセシリアに頼むように言う。
「俺の質問にちゃんと答えてくれたらな?」
「は、はーい……」
ようやくエクスセイヴァーをアルトリウスから離し、セシリアは聞きたかったことを質問する。
「まず始めに、俺の召喚に応えないで今まで何処で何をしていた?」
「わ、忘れ物を取りに……」
「あぁ?忘れ物だと?」
「ひぃっ!?ご、ごめんなさい!どうしても、必要な物だったので……」
完全にセシリアの怒気に怯えているアルトリウスがとても不憫に見えてしまった。
「それで、俺の召喚を無視して取りに行きたかった忘れ物は何だ?」
「こ、これです……」
アルトリウスは自分の胸に手を置くと、そのまま水の中に入れるように体の中に手を突っ込み、体の中から一本の剣を取り出した。
その剣はセシリアの持っているエクスセイヴァーと似た形をしていて、共鳴するかのように鼓動しながら光っていた。
「エクスセイヴァーと共鳴している?」
「そりゃあそうよ。だって、この剣はその剣の兄弟剣、エクスカリバーだもん」
「はぁっ!?エ、エ、エクスカリバァッ!?」
セシリアだけでなく、俺達も驚いている。伝説の聖剣、エクスカリバーが目の前にあるのだから驚いて当然だった。しかも失われたはずの鞘付きでエクスカリバーをこのアルトリウスが持っていると言うことは……。
「ほっほっほ、アーサーよ。王の威厳は何処に消えたのかのー?」
アルトリウスの後ろに青いローブを着た古い魔法使いの老人が現れた。
「むっ?出たな、セクハラエロジジイ!」
「誰がセクハラエロジジイじゃ!?」
「ああっ!お前はあの時の魔法使い!?」
シルヴィアさんは指差しながら叫んだ。と言うことは、この老人が十六年前にセシリアとシルヴィアさんを導いた魔法使い?
「うむ、十六年ぶりじゃな。時折遠くから見守っていたが、元気そうじゃな」
老人はシルヴィアさんの姿を見て満足すると、次にアリス先生を見る。
「だいたい、800年振りか……久しぶりじゃな。我が弟子、アリスティーナよ」
「ええ。久しぶりね、マーリン」
アリス先生は軽く会釈をする。その老人は世界を代表すると過言でもない伝説の大魔法使い、マーリンだった。
「マーリンって……あの大魔法使いの!?」
「如何にも。そして、そこにいるアルトリウスは……」
「止めろ、マーリン。私が言う」
アルトリウスはマーリンの言葉を遮ると、エクスカリバーを鞘から抜いた。エクスカリバーの刀身は黄金に輝いており、聖なる光を感じる。
「私は竜人、アルトリウス。この姿になる前、前世の私は……ブリテンを統べる王。騎士王、アーサー・ペンドラゴンだ!!」
ここに来て超弩級の事実が判明。俺達の目の前にいる竜人の女の子が……大昔の英国・ブリテン伝説の王様、アーサー・ペンドラゴンだった。
「ア、アア、アーサー・ペンドラゴン!?!?」
アーサー・ペンドラゴンの名前を聞いて一番驚いていたのは――千歳だった。そう言えば、千歳は虚弱体質で寝込んでいた頃に一時期アーサー物語にハマっていて、それをモチーフにしたアニメや漫画をよく見ていたな……。
千歳にとってアーサー王――アルトリウスはアイドルや芸能人のようにキラキラと輝くように見えていて、今にも飛びかかりそうな雰囲気で俺はとっさに千歳の元に行く。
「千歳、大丈夫か?」
「あ、天音ぇ……私、自分の衝動を抑えられないよぉ……」
『千歳は今までアニメと漫画のモチーフとなった騎士が近くにいたのに我慢していた。だが、あの騎士王の登場で衝動が爆発しそうになっている』
清嵐九尾から聞こえる銀羅の声に俺は思わずため息をついてしまう。
「そうか……今までずっと我慢していたんだな。偉いよ、千歳」
「うぅっ……天音、ギュッて抱きついて良い?これ以上我慢するには天音に抱きつかないと無理だよ~……」
「はいはい。セシリア達の邪魔にならないならいくらでも抱きついて良いよ」
「ありがとう、天音~……」
千歳は涙目になりながら俺に抱きつき、必死に衝動を抑えていた。
俺は二本の鳳凰剣を地面に突き刺し、空いた両手で軽く千歳を抱きしめながら右手で頭を撫でてあげ、俺は再びセシリア達の方を見る。
アルトリウスは先ほどから跪いている霊体の騎士達の方へ行き、一人の騎士の前に立つ。
「久しぶりね……“ランスロット”」
『王、よ……』
ランスロット。それはアーサー王に忠誠を誓った『円卓の騎士』の一人で、『湖の騎士』と言う二つ名を持つアーサー王の親友だ。だけど、ランスロットはアーサー王の妃を愛してしまい、円卓の騎士から裏切り者の烙印を背負わされ、最後はアーサー王を助けようとしたが志半ばで死んでしまった悲劇の騎士。
まさかシルヴィアさんが召喚した中に伝説の騎士であるランスロットがいるなんて……。
アーサー王が転生したアルトリウスはどんな言葉をランスロットに送るのか、千歳と一緒にドキドキしながら見守る。
「……私は今更、お前をギネヴィアの事で裁くつもりなんてない」
「王……そのような事を言わず、私を……魂の私を塵も残さず滅して――」
「馬鹿を言うな!」
アルトリウスは腰を下ろしながらランスロットを抱き締めた。
「王……?」
「私は竜人に転生した後、色々な人間を見てきて分かったんだ。お前が……ギネヴィアを愛した気持ちは本物だって。ランス……お前はずっと辛かったんだよな。天にも行かず、この地でずっと私やギネヴィアの事を想ってくれていたんだよな……」
「止めてください。私は……ギネヴィア様を奪い、親友であるあなたを裏切ったのですよ……」
「人間には心がある。誰だって間違いや過ちはある。私は……親友であるお前を許す」
アルトリウスはランスロットの大きな罪を裁かずに許した。
「お、王……アー、サー……」
数百年も己を縛り付けたランスロットの悲しみが涙として一気に溢れ出した。アルトリウスは泣き崩れる子供をあやす母のようにランスロットを優しく包み込んだ。ここに永年心がすれ違った二人の親友の絆が再び紡いだのだった。
「遂に仲直りをしたのお、二人共」
『マーリン様……』
「ランスロットよ。お主に贈り物じゃ」
マーリンはウインクをして杖を一振りをすると、魔法陣が現れて中からアルトリウスに似た姿をした男性が現れた。そして、その男性の肉体にランスロットの魂が吸収されて一瞬光り輝いた。
「うっ……ん……?これは……?」
男性は目を覚ましてキョロキョロと周りを見渡す。
「ランス。それがあなたの新しい体よ」
「私の……?」
「竜人に転生したアーサーの一部から作った肉体じゃよ。“ドラゴニュート”と言っておくかの?」
「アーサーと同じ、竜人の肉体……?」
竜人・ドラゴニュートとして転生したランスロットは背中から竜の翼、尾てい骨から竜の尻尾、両手から竜の手、そして頭から竜の角を出した。
「せっかく親友と仲直りしたのに、このまま天に行くのはつまらないでしょ?もう少し、私と一緒に戦わない?」
エクスカリバーを肩に担ぎながらアルトリウスはニッと笑った。それに応えるようにランスロットも笑う。
「……はい!どこまでもお供します、アーサー!」
「よーし、それじゃあ、新しい肉体と一緒にこれも受け取って!」
アルトリウスは再び体の中に手を入れると、もう一本の剣を取り出してランスロットに渡す。
「これは、まさか……!?」
「“アロンダイト”。あなたの愛剣よ。旅をしている時にたまたま見つけてね。ランスに渡せて良かった」
「感謝の極みです……アーサー!!」
「ええ。セシリア!シルヴィア!待たせたね、待ってくれているそこの敵を討つ!」
「待っていたぜ、その言葉!!」
「教会で奉っているアーサー王とランスロット……二人の騎士と共に戦うことが出来るなんて。騎士にとって最高の誇りだ!」
セシリアとシルヴィアはテンションが最高潮に上がり、何故か今まで待っていたディルストの方へ向かう。
「伝説の騎士王、アーサー・ペンドラゴンと湖の騎士、ランスロット……これは戦いがいがあると言うものだ!」
光栄だと言わんばかりのディルストの喜びにアルトリウスは不機嫌な表情を浮かべて話す。
「……あなたは聖霊界から大量の魔竜を召喚してこの国を混乱させたあげく、その竜を全て取り込んで魔人になった……あなたは何がしたいの?」
「何がしたいだと?それは、この世界が至極つまらないからだ」
「つまら、ない……?」
その答えにアルトリウスだけでなく、俺達も疑問符を浮かべる。
「五十年前の大戦後、この世界は格段に平和になった。しかし、平和になったこの世界は大戦前よりも刺激が無くなっていた。世界中の各国が自分の国を発展させるために睨み合い、そして僅かなきっかけで戦争を起こした」
五十年も前の話は教科書とかで断片的にしか知らないけど、確かあの時代は現代と比べてどの国も疑心暗鬼で、すぐに戦争を起こすような暗黒の時代だと聞いたことがある。
「私は、あの目まぐるしい日々に人生で一番充実していた。だが、大戦が終わるとどうだ?充実していたはずの私の日々が一気に冷めてしまった……だから、私は起こすことにした。この魔人の力を持って世界を再び混乱に導き、私が世界の支配者となるのだ!!」
俺達はディルストの身勝手な野望に開いた口がふさがらなかった。ただ一人だけアリス先生は怒りの表情を浮かべながら言う。それは千年の長い時間を生きたアリス先生だからこその言葉だった。
「狂ってる……!今の世界は五十年前の大戦で多くの先人達が流した血と涙でようやく得られたのよ。それを、あんたみたいな人間に壊させたりはしない!!」
そう……今の世界は完全に平和とはいかないけど、それでも大戦前よりは平和へと向かっている。それは数え切れない多くの人達が流した血と涙によって得られた掛け替えのない世界だ。
「その為に守護竜を封印して母さんを死に追いやり、俺を殺そうとしたわけか……てめえをぶっ潰す理由がまた増えたわけだな……」
セシリアは復讐だけでなく、世界を守るために戦うという理由が出来、復讐で冷静を失いかけた最初より冷静な雰囲気となった。アルトリウスはセシリアの肩に手を置いてウインクをする。
「セシリア姫。そろそろ待ち望んだ時よ」
「……ようやくこの時が来たか。頼むぜ、アーサー王」
「今はアルトリウスよ」
「わかった。改めて……行くぜ、アルトリウス!!」
「ええ!!」
二人の心が一つになると、セシリアとアルトリウスの足元に契約の魔法陣が浮かび上がる。
「セシリア、アーサーよ。いよいよお前達の契約の時じゃ」
「マーリン……」
「ワシの契約の魔法陣には余計な詠唱は必要ない。二人の聖剣を交差させてただ叫ぶのじゃ。契約執行、とな」
「よし……アルトリウス!」
セシリアはエクスセイヴァーを掲げ、
「共に行こう……セシリア!」
アルトリウスはエクスカリバーを掲げてエクスセイヴァーと交叉させ、契約の言葉を叫ぶ。
「「契約執行!!」」
マーリンが描いた魔法陣が輝き、契約聖獣となるアルトリウスと聖剣・エクスカリバーが粒子化してセシリアのエクスセイヴァーに入り込んだ。
エクスセイヴァーがアーティファクト・ギアへと姿形が変わっていくと、セシリアに純白に輝く鎧が装着される。そして、エクスセイヴァーは黄金と白銀に輝く美しき聖剣へと生まれ変わり、新たに誕生したアーティファクト・ギアの名前を叫ぶ。
「アーティファクト・ギア……“シャイニング・XX・カリバー”!!!」
アーサー王の魂を持つ竜人アルトリウスと二つの聖剣、エクスセイヴァーとエクスカリバーが一つになった究極の聖剣……シャイニング・XX・カリバーが誕生した。
究極の聖剣を手にし、黄金と純白の鎧を身に纏ったセシリアは『騎士王』と呼ぶに相応しい姿だった。
「さあ、騎士王の出陣だ!!」
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ラストバトルは次回に持ち込みです。
セシリア&シルヴィア&ランスロットが魔人ディルストと戦います。




