第50話 蓮宮兄弟コンビ
お待たせしました。
天音&璃音コンビのバトルです。
ラストは遂にあの人が登場します。
俺と璃音兄さんはクーデターの首謀者・ディルストが召喚した聖霊界の邪悪な竜達の帝王・魔竜帝を倒しにいく。まさか人生でまたこんなにも大きい竜と戦うなんて思いも寄らなかった。あの時は澪の意識を取り戻すためだったけど、今回は遠慮なしで全力で戦う。
「天音!俺は左の翼を狙うからお前は右の翼を狙え!こいつを地面に落としてから討つ!!」
「了解!」
兄さんは霊皇氷帝剣から冷気を漂わせ、周囲の水分を一気に集めて巨大な氷塊を生み出し、サッカーボールのように蹴る。
「蓮宮流、大紅蓮氷塊烈波!!」
目の前まで迫り来る氷塊を魔竜帝は間一髪で体を反らして回避するが、俺はその隙に魔竜帝の右翼を狙う。
「蓮宮流、紅蓮爆炎波!」
右翼を炎を纏った鳳凰剣零式で斬りつけて燃やすが、燃えた翼を羽ばたかせて俺の体を打ってきた。
「ぐうっ!?」
「天音!」
「大丈夫だ!!」
体を強く打たれたが髪留めのガーディアン・アクセサリーの結界が守ってくれた。
『蓮宮天音、結界エネルギー45パーセントダウン。エネルギー残量54パーセント』
今の一撃で半分のエネルギーを持ってかれた。これ以上魔竜帝の攻撃を喰らうわけには行かないが、臆していたら翼を狙うことはできない。ここはダメージ覚悟で翼を狙うしかない!
俺はアーティファクト・フォースで鳳凰之黒衣にある双翼を強化してスピードを上げて飛び、鳳凰剣零式を前に突き出す。切っ先から炎が放出し、炎は俺を包みながら巨大な鳳凰の形を象る。
「蓮宮流、烈空鳳凰紅蓮撃!!!」
さながらその姿は炎を纏いながら特攻する鳳凰で魔竜帝の翼を貫いて燃やし尽くす。
『―――――――!?!?』
自分の体の一部を失い、魔竜帝は激痛で体中に痛みが走り、声にならない叫びをあげる。
特攻した俺は自分を包んだ炎を払い、鳳凰剣零式を構え直すと璃音兄さんが前に立つ。
「やるな、天音!なら、俺は一瞬で翼を落としてやる!!」
璃音兄さんは霊皇氷帝剣を肩に担ぎ、体全体から霊力を放出して宙に浮く天舞から足だけに霊力の放出を集中し、空中を走った。
「蓮宮流霊操術、空歩!」
宙に浮く天舞から空中を自由自在に歩くことが出来る新たな霊繰術に俺は目を見開いて驚いた。
空歩で地上と同じように走る璃音兄さんはあっという間に魔竜帝の左翼に近付いた。
「喰らいな、デカブツ!蓮宮流、大紅蓮裂砕刃!!」
対象を一瞬にして凍らせる氷結の刃で左翼に斬りつけると、左翼は凍り付き、更に亀裂が入る。
「はっ!墜ちな!!」
見事な蹴り技で翼を蹴ると、左翼は脆いガラスのように砕け散り、飛ぶ術である左右の翼を失った魔竜帝は俺達の狙い通りに地面に墜ちた。
しかし、ここで璃音兄さんはミスを犯してしまった。墜ちた魔竜帝のところには幸い人間は居なかったが、シルヴィアさんが呼んだたくさんの騎士の霊がいて、魔竜帝に押し潰されてしまった。
『『『ぬぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』』』
潰れてしまった騎士の魂の叫びが響き、消えてしまった。
「こらぁっ!俺が呼んだ騎士の五十人がまた大地に戻っちまったじゃねえか!!」
地面にいるシルヴィアさんがイクスカリバーを振り回しながら怒っている。既に何百年も前に死んでいるから殺した訳じゃないけど……何か気分が悪くなった。
「やっべー、宗教が違うけど後で教会で懺悔でもするかな……」
うん、絶対にそうした方が良いと思う。下手をしたら璃音兄さんが呪われてしまう可能性があるからな。でも、神道の人間が教会で懺悔するってかなり不思議な光景だと思うけど、どうなんだろ?
「と、とにかく、地上に降りるぞ!」
「ああ!」
俺と兄さんはすぐに地上に降り、地に墜ちた魔竜帝と対峙をする。
千歳達は遠くに離れていつでも俺達を援護出来るようにアーティファクト・ギアを構えている。
『ギュアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
翼を失い、許さんと言わんばかりに咆哮を上げてドラゴンブレスである炎を放射する。
俺は鳳凰剣零式で炎を斬るが、そのまま斬り払うのではなく、鳳凰剣零式から放射される白蓮の炎と一つに絡ませながら自分の炎とする。
今放った炎を白蓮の炎と一緒に送り返す!
「喰らいな、竜鳳紅蓮撃!!」
竜と鳳凰の炎を一つにして放ち、魔竜帝を包みながら焼く。
「ははっ、敵の炎を自分の炎と一緒に送り返すなんて面白い事するじゃないか!」
「まぁね!兄さん、そろそろ……決めるよ!!」
「任せな!蓮宮最強の神子剣士……その本気を見せてやる!」
俺は顕現陣から兄さんの剣だった氷蓮を取り出して左手で構え、霊力を体から解放させながら兄さんと一緒に叫んだ。
「「アーティファクト・フォース!!!」」
俺の霊力と白蓮の天力が鳳凰剣零式の中で混ざり合い、アーティファクト・フォースの力を氷蓮に流すと自動的に鳳凰剣百式へと契約執行される。
そして、兄さんは霊力と気力、轟牙は霊力と天力……合計四つの力が霊皇氷帝剣で混ざり合い、俺よりも数倍の輝きを放つアーティファクト・フォースを纏う。アーティファクト・フォースの力をここまでパワーアップさせるなんて……やっぱり蓮宮最強の神子剣士の名前は伊達じゃなかった!
「さあ、一気に決めるぜ天音!!」
「ああ、璃音兄さん!!」
俺は双翼で空高く飛びながら鳳凰剣零式と鳳凰剣白式を一つに重ねる。
「光り輝け、鳳凰の翼!!」
兄さんは霊皇氷帝剣を後ろに構えながら魔竜帝の懐に入る。
「天を衝け、霊亀の刃!!」
二つの鳳凰剣――双翼鳳凰剣は光り輝く鳳凰の翼を重ねながら光の剣となり、霊皇氷帝剣は巨大な無数の氷塊を一つに合わせて巨大な氷の剣となる!
「蓮宮流、鳳凰光翼剣!!!」
「蓮宮流、天衝氷帝剣!!!」
上から光の剣が振り下ろされ、下からは氷の剣が斬り上げられ、二つの巨大剣の斬撃を同時に喰らった魔竜帝は声も上げずに意識を完全に失い、バタン!とその場に倒れる。
「兄さん!」
地上に降りた俺は兄さんに駆け寄る。
「天音!やったな。前より強くなっていて兄ちゃんは嬉しいぜ!」
親指を立ててグッドサインを見せる兄さんに俺もグッドサインを見せる。
「兄さん、今度天舞と空歩を教えてくれる?」
「ああ、もちろんだ。お前は蓮宮の当主なんだから霊繰術はたくさん学ばなきゃな。だけどその前に……」
兄さんの目が鋭くなり、霊皇氷帝剣を空にいるディルストに向ける。
「ディルストォ!これでてめえの竜の軍隊は全て片づけた!後はてめえだけだ。大人しく降伏しろ!」
そうだ。これでディルストの召喚した竜は全て俺達が倒した。後は元凶のディルストを倒すのみ!
だけど、ディルストは嫌な悪の笑みを浮かべながら首を傾げた。
「降伏?この私が?クフフ……ハッハッハ!!!」
ディルストは大笑いをして竜繰の魔導書を開いた。
「天星導志よ!私の切り札が魔竜帝だと思ったか!?」
「何だと!?」
「私の真の切り札は……これだぁっ!!」
ビリッ!バリッ!!
何とディルストは今まで大切そうに持っていた竜繰の魔導書を背表紙から破ってしまった。
竜を操る魔法が描かれたたくさんのページがディルストの周囲を舞う。
「何て事を……魔導書を破壊することは本に込められた魔力が爆発することを意味するのに……まさか、自決――いや、違う!!」
アリス先生は何かに気づいたのか突然血相を変えた。
「マズいわ……みんな、気をつけて!ディルストは最後の切り札を使うつもりよ!」
「最後の切り札!?それは一体……」
「さあ、私と一つになれ、竜繰の魔導書よ!!」
「なっ!?」
ディルストが破り捨てた竜繰の魔導書が赤く光ると、まるで蠅のように高速で飛び、そのままディルストの体内に取り込まれた。
「魔導書がディルストの中に!?」
「魔導書は本来、読んだ人間がそこに書かれた魔法を扱い、力を得るためのもの……それを体の中に取り込む事は自分の精神や肉体を対価に魔導書の魔力と魔法を自分の一部にする事を意味するのよ!」
だけど、竜繰の魔導書は文字通り竜を操るための魔導書……それを体内に取り込んで何をするつもりだ?
すると、倒れているたくさんの竜達の真下に魔法陣が浮かび、一斉にふわりと宙に浮いた。
「な、何だ?」
「これは……もしかして!?エレメンタル・スピリッツ!!」
アリス先生はエレメンタル・スピリッツを呼び出し、一斉攻撃をする。しかし、ディルストが体内に取り込んだ竜繰の魔導書によって魔力を強化され、自身を纏っていた結界を更に堅くしてエレメンタル・スピリッツの攻撃を弾いた。
「エレメンタル・スピリッツの攻撃を弾いた!?何て高密度な魔力結界なのかしら!?」
アリス先生は驚いていると、ディルストの周囲に俺達が倒した全てのドラゴンが宙に浮いていた。その数は100体以上で……って、よくもまぁ、そんなにたくさんの竜を全部倒せたよなと思わず感心してしまう。
「不老不死の魔女よ……見ているが良い!我が最高の魔術を!!」
ディルストは体から魔力を解放すると、周囲に浮かせた竜を小さな球体にした。
そして……球体にした竜を魔導書と同じく全て自分の体に取り込ませた。「竜を……ドラゴンを自分の体に……!?」
目の前の光景に驚きを隠せず、唇が震えてしまう。すると、アリス先生は全身に力を込めて思いっきり叫んだ。
「止めなさい……今すぐに竜を取り込むのを止めなさい!そんな事をすれば……あなたはもう人として生きていけないわ!私と同じ……大きな力を持った“化け物”になるわ!!」
こんなにも必死に叫ぶアリス先生は初めてだった。それと、自らを化け物と言うアリス先生の声は震えていて悲しそうな表情を浮かべていた。
「だから何だ?」
しかし、ディルストはアリス先生の必死の言葉をあざ笑うかのように次々と竜を体に取り込んでいく。
そして、魔竜帝を含む全ての竜を体に取り込んだ。
「ぐおっ、ぬおっ……うぉおおおおおっ!!」
ボコッ、ボコッ!と骨から肉、内臓までが急激にディルストの体が変化していく。
「ディルストの……人間としての体が壊されて、化け物としての体が作り替えられている……」
アリス先生は胸を押さえて何かを思い出すように恐怖におののいていた。「力が……力が溢れてくる!!」
ディルストの体から膨大な魔力が溢れ、爆発が起き、煙の中から現れたのは……。
「魔人……」
アリス先生はそう呟いた。もはや今のディルストは人間ではなかった。竜の牙、爪、翼、鱗、角、尻尾……人間の体を竜の体に変化した一つの化け物――魔人が誕生した。
ディルストは竜の腕を振り上げる。
「――消えろ」
振り下ろした腕から全方位に向けて無数の衝撃波が放たれる。
「いけない!精霊守護防壁!!」
アリス先生はエレメンタル・スピリッツを総動員させて俺達を守る結界を生み出してくれた。
衝撃波は辺り構わず放たれ、大地を抉り、樹木を切り裂き、そして宮殿の建物を破壊していき、衝撃波が放たれた後はあまりにも酷い光景だった。
「酷い……これが、魔人の力……?」
「そうよ。人間を捨てて、化け物になったものの力よ……」
アリス先生は俺達を守るための結界を張るために相当の魔力を使ったらしく、若干疲れた表情を見せた。
「まさか、この平和な時代でも人間を捨てて魔人になる人間がいるとは思わなかったわ。みんなは下がっていなさい。私がディルストを止めるわ!」
「悪いが……ディルストは俺様の獲物だ!!」
エクスセイヴァーを構えたセシリアが憎しみの感情を現しながらアリス先生を退けてディルストに襲いかかる。
聖剣・エクスセイヴァーの一撃をディルストは竜の鱗を持つ腕で受け止めた。
「貴様、我に臆することなく攻撃するとは……何者だ?」
「てめえか……十六年前に殺し損ねたガキだよ!!」
「十六年前……!?はっ、その剣は……まさか、貴様は……!?」
ディルストはセシリアの正体に気付き、驚いた様子だった。
「ふはははは!まさかこんな形で会うことになるとは!今度こそ葬ってやろう!」
エクスセイヴァーを弾き、セシリアの腹を強く蹴ってぶっ飛ばす。
「ぐうっ!?」
「セシリア!!」
ぶっ飛ばされたセシリアを空中でシルヴィアさんはキャッチして降りる。
「大丈夫か!?無茶しやがって……」
「仕方ねえだろ。あいつは……俺とシスターと、母さんの人生を奪った奴だから……」
「それは、どう言うことですか……?」
アルティナ様は困惑した表情でセシリアに尋ねる。
「ディルストがあなた達の人生を奪ったとは……?」
「そ、それは……」
まだ正体を明かしたくないセシリアは戸惑った。
「そこにいるお方はアルティナ様の妹君ですよ」
セシリアの正体に気付いたディルストはアルティナにあっさりバラしてしまった。
「き、貴様ぁっ!?」
「妹……?あなたが、私の、妹……?」
アルティナ様は目の前にいるセシリアを自分の妹だと知らされ、目を見開いて呆然としている。
そして、ディルストはセシリアとアルティナ様を葬るために手に魔力を込める。
「それでは、姉妹仲良くあの世にいきなさい!!」
「させるか!!」
シルヴィアさんはイクスカリバーを構えて二人を守る。
自らが召喚した竜を全て取り込み、魔人となって強大な力を手にしてしまったディルスト。
しかし、その時、空の果てから一筋の光が飛んできてディルストに直撃する。
「あんたなんかに私の可愛い契約者を殺させないよ!」
ドゴォーン!!
「ゴガァッ!?」
空の果てから飛んできたものにディルストはぶっ飛ばされ、地面に激突する。
「だ、誰だ!?」
そこにいたのは蝙蝠のような大きな翼を持った露出度の高い服を着た少女だった。少女はセシリアの前に降り立ち、優しい笑みを浮かべる。
「始めまして、私はアルトリウス……あなたの契約聖獣よ」
「な、何だって……?」
セシリアが驚く中、謎の聖獣・アルトリウスとセシリアの持つエクスセイヴァーが光を帯びた。
更にシルヴィアさんが召喚した幽霊の騎士達はアルトリウスさんの姿を見るとバッとすぐに跪いた。
『『『お待ちしておりました。我らが王よ……』』』
幽霊の騎士達が『王』と呼ぶアルトリウス……何か色々な訳がありそうだった。
そして、セシリアとアルトリウスは王の力を持つ新たなアーティファクト・ギアを生み出そうとしていた……。
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如何でしたか?
個人的に私は天音と璃音との必殺技の同時攻撃がお気に入りです。
次回はいよいよセシリアのアーティファクト・ギアが誕生です!




