第49話 復活せし騎士の魂
今回はシルヴィアさんのアーティファクト・ギアが暴れます。
これはこれでチートです(笑)
side千歳&花音&シルヴィア
私は花音義姉様とシルヴィアさんというあまり想像出来ないチームを組んで二人の王女、アルティナとセシリアを守っていた。
セシリアも一緒に戦いたがっていたが、アーティファクト・ギア無しでドラゴンと戦うのは辛いとシルヴィアさんが判断してアルティナと一緒に下がっていた。
ちなみに、英国を守護する英国騎士団はアルティナが指示して、街に住む人々をドラゴンから守っているため、王宮に居ない。
まあ、正直私達で十分守れるから特に心配もないから良いけど。
天音はせっちゃんとれいちゃん、そして璃音兄さんと一緒に宮殿にいるはずのディルストを探しに行っている。ドラゴンを呼び出す魔法陣は今でも展開されていて、古代の強力な魔法陣を消すには元凶――つまり術者か発動媒体を絶たないといけないとアリス先生が言っていたので天音達が行っている。
だけど、ディルストのいるところまで何らかの罠が張られている可能性があるので、侵入や隠密行動、そして罠察知の能力を持つ現役忍者のせっちゃんとれいちゃんが一緒に行ってくれているから多分大丈夫だろう。
だからこそ私達は戦闘に集中する事が出来る。
中・遠距離型アーティファクト・ギアである私の清嵐九尾と花音義姉様の蒼穹麒麟弓でドラゴンが近づく前に撃墜していく。
しかし、一向に減らないドラゴンの数に痺れを切らしたシルヴィアさんは空に向かって大声で叫んだ。
「“イクス”!!!」
真夜中の天空から聖なる光が差し込み、英国を守り続けてきた守護竜――エンシェント・ホーリー・ドラゴンが光臨する。イクスと言う名は永い名前が面倒と言ったシルヴィアさんが名付けた名前だ。
「さあ、ひと暴れしようぜ、相棒!!」
『暴れるのは私の好みではありませんが、あなたに全てを委ねます』
「ははっ、それでこそ俺の契約聖獣だ!」
シルヴィアさんは騎士団に入団した時に入手した騎士剣を構え、天に掲げて意気揚々と叫ぶ。
「契約執行!守護竜、エンシェント・ホーリー・ドラゴン!!」
『――――――――――――――!!!』
イクスは綺麗な鐘の音のような咆哮を上げながら、両腕を左右に大きく広げ、体が粒子化する。粒子化するイクスはシルヴィアさんの剣に入り込むが、シルヴィアさんは剣を回転させ、その粒子を体に纏わせる。
そして、剣がアーティファクト・ギアに変化すると同時にシルヴィアさんの体に白く光り輝く鎧が纏われる。
その姿は聖なる守護竜と共に戦うに相応しい『聖騎士』そのものだった。白い鎧を身に纏い、白く輝く剣を構えたシルヴィアさんはそのアーティファクト・ギアの名前を叫ぶ。
「アーティファクト・ギア……“イクスカリバーン”!!!」
アーサー王が持っていたと言われる二つの伝説の聖剣、エクスカリバーとカリバーンを混ぜたような名前だった。
シルヴィアさん曰く、『最強騎士の私と守護竜のイクスのアーティファクト・ギアなら、名前を掛け合わせた感じで強くしてみた!』と、ちょっと意味が分からない理由でそう言う名前にした。
「さぁて、戦力を大幅に強化するかな!」
イクスカリバーンを地面に突き刺し、甲冑を身に着けた騎士の姿が描かれた陣が地面に刻まれる。ゴォオオオオオオオオ……。
すると、大地が震え、たくさんの不思議な声が響いてくる。
「英国に眠りし騎士達の魂よ、危機迫る英国を守るため、我が呼び声に応え今こそ蘇れ!!」
シルヴィアさんの声とイクスカリバーンの中にいる守護竜、エンシェント・ホーリー・ドラゴンの秘められた力によって何かが召喚ではなく、呼び出されるが、その呼び出されたものに私と花音義姉様は目を見開いて驚いた。
『『『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーッ!!!』』』
「お、お化けぇっ!?」
「しかもこれは……騎士の霊体!?」
地面から雄叫びを上げながら出て来たのは数え切れない数の騎士の幽霊だった。
「お前ら!俺の声に応えたって事はまだこの国を守りたいんだな?だったらお前等の腰にぶら下げている剣を抜いて竜狩りだぁっ!!」
今のシルヴィアさんは騎士の幽霊達を纏める騎士団長のように見えてしまう。
『『『オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーッ!!!』』』
騎士達はシルヴィアさんに応え、再び雄叫びを上げながら剣を抜いて一斉にドラゴンに襲いかかる。
ドラゴンに勇敢に立ち向かう騎士は圧倒的な戦力差で次々と取り囲んでフルボッコにしてしまい、味方なのにドラゴンがあまりにも可哀想過ぎて逆に悪役に見えてしまう。
「あの、シルヴィアさん。あの騎士の幽霊は……?」
「あれか?あれは大昔から英国に眠る騎士達の魂さ。未練を残したり、志半ばで死んでさ迷っている奴らをイクスカリバーンの力で呼び出したんだよ」
死者の力を借りるって、考えるだけでも恐ろしい力……英国の守護竜だからこそ出来る能力なのかもしれないけど。
「アーティファクト・フォースやギアーズ・オーバードライブを使わずにこの能力……やっぱり世界はまだまだ広いね……」
花音義姉様はシルヴィアさんのアーティファクト・ギアの能力の高さに驚きと同時に胸が高まっていた。私は清嵐九尾を見つめ、そっと額に持って行くと銀羅が話し掛ける。
『千歳、どうした?』
「銀羅、強くなろうね……今までより、もっともっと」
『え?あ、ああ。もちろんだ』
世界にはまだまだ未知なる力を持つアーティファクト・ギアとその契約者がいる。このままじゃ私は天音の側に相応しくない。だから私は絶対に強くなる。
私自身と銀羅のために。そして……。
「行くわよ、銀羅!妖炎弾、九頭竜炎陣!!!」
大好きな天音の為に!!!
「はああああぁっ!?古代英国伝説の騎士団、“円卓の騎士団”と“赤枝の騎士団”と“フィアナ騎士団”のメンバーだと!?」
シルヴィアさんは幽霊騎士団のみんなから生前の時の話を聞いていた。
『……千歳、今の……』
「い、言わないで忘れて!私の大好きなアニメや漫画の騎士の元ネタがすぐ近くにいると思うと発狂しそうだから!!」
『う、うむ……』
私は雑念を振り払うのように頭を振り、清嵐九尾を構えて集中した。
「って、こっちは騎士団修道会のテンプル騎士団のメンバー!?ちょっとお前ら、騎士としての志半ばで悔しい気持ちはよく分かるが、あまりにも未練残し過ぎだぁあああっ!!」
止めてぇっ!それ以上私の鋼の精神を揺さぶらないで!!
集中しようと頑張っているけど、だんだん難しくて来ちゃった……天音、早く帰ってきて!!
☆
side天音&璃音&刹那&麗奈。
空に展開している竜召喚の魔法陣を消すために今回の元凶であるディルスト、もしくは魔法発動媒体を破壊するために璃音兄さん、刹那と麗奈と一緒に宮殿に入った。
邪悪な魔力があふれ出ている地下室の扉を見つけ、侵入を試みたが物理的な罠と魔法の罠がわんさかあって全く進めない状況だった。
しかし、そこは大昔より侵入や隠密行動、諜報活動を専門とした忍者の末裔である刹那と麗奈、更に大蝦蟇の幸助が先陣を切った。
「神影流、罠破壊!!」
「神影流、呪印滅却!!」
『蝦蟇、大振撃!!』
幼い頃から鍛えられた罠察知の能力を駆使して地下道に設置された罠を次々と破壊していく。
「うーん、やっぱりあの忍者コンビを是非とも天星導志のメンバーに欲しいな……」
忍者として有能な仕事っぷりを見せる二人に璃音兄さんは天星導志にスカウトする事を諦め切れていなかった。
「兄さん……一応言うけど、刹那は俺の忍者で麗奈は千歳の忍者だから譲れないよ」
「お、おう、わかってるって」
「お二方!到着しました!」
「扉の奥に人の気配がします」
ようやく辿り着いた扉を前に俺と璃音兄さんは背中に背負っていた鳳凰剣零式を霊皇氷帝剣を構える。
「……よし、突撃!」
兄さんが霊皇氷帝剣を振るい、扉を吹き飛ばして地下室に入る。部屋の中には見たこと無い道具がたくさん壁に飾られ、床には血と思われるもので魔法陣が描かれていて、その上には……。
「はっはっは、邪魔者がここまで来たか……」
大量の竜を召喚して操り、イギリスを乗っ取るためにクーデターを引き起こした張本人、ディルスト・ヘレンズ。
「貴様がディルスト・ヘレンズだな?貴様の野望はもうお終いだ。大人しく投降しろ!」
璃音兄さんが天星導志としてのもう一つの顔である氷帝として霊皇氷帝剣をディルストに向けてそう言う。
「ふん……貴様があの名高い天星導志の氷帝だな?だが、私と……この“竜繰の魔導書”がある限り、終わりはしない!!」
ディルストの体から目で目視出来るほどの大きく気持ち悪いぐらい不気味な感じの魔力を放出し、表紙に竜が鎖で縛られた本――竜繰の魔導書を開いた。
「見せてやろう……竜繰の魔導書に秘められた真の力を!!!」
魔力が次第に膨れ上がり、血で描かれた魔法陣が赤く光る。
「マズイ!!みんな、俺の周りに集まれ!!」
焦った兄さんの言葉に俺達はすぐに兄さんの周りに集まる。霊皇氷帝剣を床に突き刺し、兄さんの霊力が霊皇氷帝剣に流れ込むのがすぐにわかった。
「蓮宮流、氷甲零結界!!!」
霊皇氷帝剣が青白く輝くと、俺達を包み込むように甲羅の形をした氷の結界が現れる。
その直後にディルストの魔力が部屋一杯に膨大して、大爆発を起こし、俺は強く目を閉じた……。
ドガァアアアアアアアアアアアアアン!!!
地下室が爆発し、その威力は上へと伸び、宮殿の一部が壊れて焼け焦げる。そして俺達は兄さんの氷の結界で無事だった。
「みんな、無事か?」
「あ、う、うん。ありがとう、兄さん」
「礼はいらねぇ。それより奴が逃げた。追うぞ!!」
壊滅した地下室を捨て、地上にぽっかり空いた穴から逃げたディルストを俺達も穴から地上へ戻ると千歳達が出迎えた。
「天音!みんな、大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ!」
「璃音、アンタ、天音達に怪我をさせてないでしょうね?」
「バーロー!俺を誰だと思っている!?ってか、ディルストはどこだ!?」
「ディルストなら、魔法陣の側にいる……」
恨むような憎しみの目を魔法陣に向けながらシルヴィアさんはそう言った。
空の魔法陣を見上げるとディルストが宙に浮きながら何やらブツブツと呪文を唱えていた。
「あの男……とても堅い結界を展開していて、蒼穹麒麟弓の矢でも撃ち抜く事が出来ない……」
花音姉さんは蒼穹麒麟弓を握り締め、チッと舌打ちをして悔しそうな表情をする。貫通力や破壊力が高い蒼穹麒麟弓でも撃ち抜く事が出来ないとなるとディルスト自身の魔力が高い、もしくはあの竜繰の魔導書の発する魔力が高いという事が考えられる。
現段階ではこちら側の大きな戦力で召喚される竜を次々と倒している。ディルストも馬鹿じゃなければ今まで通りの方法で攻める訳がない。
「ヒュドラがいない以上、次は奴を出すしかない……顕現せよ、魔竜帝!!!」
そして、ディルストは今までとは全く違う竜を召喚する。
召喚された竜は今までと全く違う姿形をしていた。
『ギュオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーッ!!!』
悪魔のような禍々しい体色に背中から生えている無数の触手、今まで見た竜とは別の存在に感じられ、大きさも桁違いだった。その姿に俺達は圧倒されると、
「ただいま~!」
何やら満足した表情をしているアリス先生が元気よく帰ってきた。
「こっちの状況はどんな感じ――って、あらやだ。あれって魔竜帝じゃないかしら?」
「アリス先生、知っているんですか?」
「ええ。聖霊界の邪悪な竜達が住まう“魔竜界”の王様よ。まさか魔竜帝まで操られてしまうとなると、あの男が持つ魔導書はAランク以上の能力がありそうね……仕方ない。ここは私に任せてみんなは下がって……」
「アリスさん、ここは俺に任せてくれないか?」
「あら?」
アリス先生の言葉に割り込み、自ら魔竜帝と戦うことを立候補したのは……。
「ここはこの俺、氷帝の璃音と弟の天音が魔竜帝を倒してみましょう」
「り、璃音兄さん!?」
璃音兄さんは立候補するだけでなく、俺を巻き込むように推薦してきてみんな驚いている。
「どうだ天音、俺と一緒にあいつを倒さないか?嫌なら別に構わないが……」
璃音兄さんが何を考えているか分からないけど、俺は沸き起こるようなこの胸の高まりを抑えられず、すぐに答えは決まった。
『ちちうえ、つばさをだすよ!』
「兄さん、空は飛べるの?俺の足手まといにならない?」
鳳凰之黒衣から鳳凰の双翼が生え、ちょっと生意気な言葉を送りながら俺は空を飛ぶ。
「ぷっ、くっくっく……言うじゃねえか。少しは生意気になったな、天音ぇっ!!」
大笑いする璃音兄さんの体から霊力が解放され、ふわっと宙に浮いて俺と同じ高さで飛んできた。
「蓮宮流霊繰術、天舞!どうだ?霊力は身体能力を上げるだけじゃなく、こう言う使い方も出来るんだぜ!」
自分が知らなかった新しい霊力の使い方に驚きながら俺はニッと笑って鳳凰剣零式を両手で持つ。
「兄さん、蓮宮兄弟で魔竜帝退治と行きますか!!」
「応よ!!兄弟仲良く派手に暴れてやろうか!!」
急遽結成した俺と璃音兄さんの蓮宮神子剣士コンビで魔竜帝と対峙する。
☆
「天音……」
私は不安そうに空を見上げ、天音の無事を祈った。
「花音様、璃音様の実力はどれほどなのでござるか?」
「先程、氷帝と申していましたが……」
「璃音の実力?」
璃音義兄様の実力を知らないせっちゃんとれいちゃんが花音義姉様に尋ねた。義姉様は数秒間考えるとボソッと呟くように答えた。
「……強いよ、璃音は。まだまだ成長途中だけで甘いけど」
「甘い?」
私は思わず聞き返してしまった。
「千歳ちゃん、瑪瑙の時の戦いを覚えている?」
「瑪瑙?は、はい」
「あの時、璃音は操られた澪を目の前にして、集中すら出来なくてまともに戦えなくて大怪我をしたのよ」
「そ、そうだったんですか……」
「でも、甘さや迷いがない璃音は強い……それだけは言えるわ」
花音義姉様は自らの双子の弟をそう評価すると小さく笑みを浮かべながら天音と璃音義兄様の戦いを見守る。
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成仏出来ない古代の騎士団、復活(笑)
大体は名もない騎士ばかりですが、中には有名な騎士がいるかもしれませんね。
次回は天音&璃音が大暴れです。




