第46話 集結
気付けばこのアーティファクト・ギアのお気に入りが100件になっていました。
いやー、嬉しいですね。
これからもアーティファクト・ギアをよろしくお願いします。
宮殿の地下……そこに住む王女や騎士でさえも知らない秘密の部屋がある。
その部屋の中心には血で描かれた不気味で巨大な魔法陣があり、壁には様々な魔法具が飾られている。その部屋の中心に一人の老人が立っていた。
「遂に……この時がきたか……」
老人の手にはとても古い本が握られており、表紙には竜を鎖で縛った絵が描かれていた。
「今夜は数十年に一度訪れる、月の膨大な魔力が地球に降り注ぐ日……」
老人が魔法陣の上に立つと少しずつ紫色に輝いていく。
「その時こそ、私がこの国を、いや……私が世界の支配者となる!!」
英国のみならず、世界を支配しようと目論むのは狂気の反逆者にして……王宮に仕える大臣、ディルスト・ヘレンズ。
☆
アルティナ様の誕生日パーティーの開始時刻が迫り、参加する俺達は王宮近くのホテルで正装に着替える。
「な、何か窮屈でござるな」
「俺も。流石にタキシードはなかなか着る機会は無いからな」
俺と刹那は黒のタキシードに身を包んでいる。制服や和服を中心に着ているから初めて着るタキシードに窮屈を感じている。髪は普段は縛っていないけど、今回は黒のリボンで纏めて縛っている。刹那は忍者として変装のために色々な服を着ていたらしいが、刹那自身もタキシードは初めてらしい。たけど、刹那は身長が低くて童顔だから大人びろうとする子供みたいな可愛らしさがある。
「おお、天音に刹那。二人ともよく似合うじゃないか。馬子にも衣装ってやつか?」
「……浅木。それは他人を褒める言葉ではなく、けなす言葉だぞ……」
「あ、そうでした……」
恭弥と迅先輩は俺達の準備を手伝ってくれた。特に迅先輩は執事として身だしなみを整えてくれた。
『ピキュー!』
俺のタキシード姿を気に入ったのか、白蓮は喜びの羽ばたきをして俺の頭の上に乗る。
「それにしても、千歳と麗奈は遅いな……」
「女子の準備は何かと手間と時間が掛かるでござるからな」
千歳と麗奈は俺達と同じく正装に着替えているが、女の子の支度は色々と時間が掛かるため、雷花さんや雫先輩たちが準備を手伝っている。
「そう言えば、月姫達はどうしている?すぐに呼べるのか?」
「大丈夫でござる。忍獣石さえあればすぐに呼び出せるでござる」
「そうか。それなら心配ないな」
出来るだけ戦力は集めるだけ集めておきたい。何が起きるかわからない戦いの中で忍者の刹那と麗奈、忍獣の月姫と幸助はとても頼りになる。
「二人の準備、出来たわよー」
隣の部屋からアリス先生の声が響き、ドアが開いた。
その声に思わず立ち上がった俺と刹那は部屋に入ってきた二人を見た瞬間、呆然とするように驚いた。
「千歳……?」
「れ、麗奈でござるか……?」
驚いた理由は単純だった。それは、千歳と麗奈の姿が……とても綺麗だったからだ。
「えへへ、どうかな?天音」
千歳はキラキラと輝くような青いドレス姿を身に纏い、そのドレスに合ったサファイアのイヤリングやペンダントを身に着けて大人らしさをだしていた。若干の初々しさが残るがそれでも本当に似合っていた。今まで十五年間一緒に過ごしてきて初めて見る千歳のもう一つの姿に俺は見惚れてしまう。
「せ、刹那。どう、ですか?」
対する麗奈はモデルのような身長の高さとスタイルの良さが千歳のドレスとデザインが同じ紫色のドレスとよく似合い、まるで女優のような雰囲気を醸し出していた。刹那も麗奈のドレス姿に見惚れている。
「おおっ、千歳、麗奈。すっげぇ似合うじゃねーか!」
「似合っているぞ……ほら、お前たちも何か言え」
迅先輩が俺と刹那の背中を叩くように押し、見惚れていた俺達は少し恥ずかしかったが千歳と麗奈を褒める。
「その……千歳、とっても綺麗だよ。似合っているし、見惚れちゃったよ」
「拙者もでござる。麗奈、美しいでござるよ」
「本当!?ありがとう、天音!」
「あ、ありがとうございます、刹那!」
千歳と麗奈は褒められて嬉しそうに笑いかけてくれた。
『ピィー!ピィー!!』
『千歳、麗奈。綺麗だぞ!』
白蓮と銀羅も二人のドレス姿を絶賛している。
「うーん、良いわね。素材が良いからドレスが映えるわね」
「そうですね。可愛いから鈍っていた化粧の腕を久しぶりに発揮させましたよ」
アリス先生と紅さんも二人の化粧や仕度を手伝っていた。
「素敵です、千歳さん、麗奈さん!」
「二人の晴れ姿、写真を撮らなきゃ……」
雫先輩と雷花さんは綺麗になった二人に感動してカメラを手にしている。
その後、何故か小さな撮影会が始まってしまい、タキシードを着た俺と刹那、そしてドレスを着た千歳と麗奈をモデルに撮影した。
パーティーの受付の時間が迫ると、俺と刹那は千歳と麗奈をエスコートしてパーティー会場である宮殿に向かった。
☆
入口で招待状を見せて受付を済ませ、宮殿前にあるパーティー会場に入ると、そこにはアルティナ様を祝うために世界中からやってきた世界各国の首脳や有名人などが集まっていた。それと共に見たことのない珍しい聖獣達も勢揃いだった。
庶民の俺個人の感想としては何とも場違いな感じがして緊張しっぱなしだった。
千歳はアルティナ様に会って挨拶をしようとしたが、当然と言うかなんというかアルティナ様は沢山の参加者に囲まれていてとても近づける状況ではなかった。近くには先にメイドとして忍び込んでいた璃音兄さんと花音姉さんがアルティナ様の傍に控えていた。
二人共見事にメイドとして静かで落ち着いた雰囲気を出していて、何と言うか知り合いや親戚じゃなかったら本物のメイドさんに見えていた。
まあ、その事は璃音兄さんには口が裂けても言えないけど。
何故なら、もしも俺がその事言ってしまったら璃音兄さんはショックで自分自身の手で自決してしまうかもしれないから……。
それから、時間がゆっくりと流れ、遂にアルティナ様の誕生日パーティーが開催される。
アルティナ様は壇上に上がり、グラスを片手にマイクに顔を近づける。
「皆さん、本日は私の誕生日を祝いにこの王宮まで来てくれてありがとうございます」
軽く会釈して感謝するアルティナ様にパーティー会場中から拍手が沸き起こる。
俺達は周囲を警戒するが、今のところ怪しい動きをする人間は見当たらない。それどころか主犯のディルストの姿も見当たらない。
仮にこれからクーデターが起きたら千歳がレイジングで閃光弾を放ち、合図を送る事になっている。
璃音兄さんと花音姉さんはアルティナ様の護衛の為にすぐ近くに待機している。
「では、心行くまでこのパーティーを楽しんでください。皆さんの心に残る楽しい一時を、乾杯!」
アルティナ様はグラスを軽く掲げ、乾杯の音頭を取る。
『『『乾杯!!』』』
パーティー会場にいる参加者全員がグラスを掲げて、中に注がれた飲み物を口の中に入れる。
誰もが楽しむはずだったパーティーだったが……俺達だけが知る恐れた事態が起きてしまった。
『開門せよ、魔竜界の扉!!!』
突如、上空に巨大な魔法陣が現れた。参加者達は謎の魔法陣の出現に何が起きたのか分からず驚いてざわついている。
「来た!千歳!」
「了解!!」
顕現陣からレイジングを取り出した千歳は空に向かって閃光弾を放った。
これで周囲に待機しているみんなが来てくれるはず……!
「刹那!麗奈!」
「「承知!!」」
二人は首にかけてある忍獣石を外して印を結ぶ。西洋から遙か遠く、陸と海を越えた極東の日本にいる二体の忍獣が忍獣石の召喚に応える。
「「忍獣召喚!!」」
煙が上がると、月の如き銀色の輝きを放った毛皮を持つ銀狼の月姫と池の神となった巨大な大蝦蟇の幸助が召喚される。
『銀狼の月姫、参ります!!』
『大蝦蟇の幸助、姐さんのお呼びに只今見参!!』
月姫と幸助は既に戦闘態勢に入っている。
『キュピィーッ!!』
白蓮は鳳凰化して変身し、俺も顕現陣から蓮煌と手甲を取り出す。
手甲を腕に装着してから、蓮煌を鞘から抜いて構える。
そして……魔法陣が輝き、中から何かが召喚され、その光景に俺達は一つの絶望を感じ取った。
『『『グォオオオオオオオオオオオオオオーーーッ!!!』』』
轟音のようなおぞましい鳴き声が響き、魔法陣から無数の怪物が現れた。
「な、何よ、あれ……?」
「あれは、竜……ドラゴン!?」
魔法陣から現れたのはドラゴンだった。しかも、ただのドラゴンじゃない。龍種は東洋では神として扱われるが、西洋では邪悪な性質と心を持ったドラゴンが殆どだと言われている。
優しく善良な心を持つラベンダー・ドラゴンやエンシェント・ホーリー・ドラゴンは寧ろ西洋のドラゴンの中ではとても貴重な存在なのだ。
「くっ、迷っていても仕方ない。行くぞ!白蓮!!」
『うん!!』
「私達も行くよ、銀羅!」『任せろ!』
「行くでござるよ、月姫!!」
『ええ!』
俺、千歳、刹那は白蓮、銀羅、月姫とアーティファクト・ギアの契約を執行する。
「「「契約執行!!!」」」
三体の聖獣の体が粒子化し、契約媒体と一つになり、アーティファクト・ギアが誕生する。だけど、ここで一つ問題が起きた。
「な、何これ?」
鳳凰剣零式と鳳凰剛柔甲は問題なく契約出来たけど、服装に問題があった。
「あ、天音……その真っ黒な服は……?」
隣にいた千歳も目を見開いて尋ねてきた。今の俺の服装は暗やみに紛れるような真っ黒だが、シンプルなデザインで動きやすそい戦闘に適した衣装だった。
「どうやらスーツが白蓮と一つになって新しいアーティファクト・ギアになっちまったみたいだな」
「さしずめ、“鳳凰之黒衣”と言ったところかな?」
そこに璃音兄さんと花音姉さんが来た。姉さんが言った鳳凰之黒衣とはこのスーツがアーティファクト・ギア化したこの衣装の事を指しているのは間違いない。そう言えば白蓮は俺が触れた物と契約をする事ができるのをすっかり忘れていた。
取りあえずこの鳳凰之黒衣はとてもクールな感じでカッコいいし、姉さんが名付けた名前もとても良い名前だからそれを採用させてもらう。
「ところで、璃音兄さん。あのメイド服は脱いだんだね……」
璃音兄さんはあの忌々しいメイド服を脱ぎ去り、蓮宮の神子装束を身に纏っていた。
「当たり前だ!魔法陣が出た瞬間からすぐに着替えたわ!」
「残念。とっても可愛かったのに、璃音ちゃん♪」
「てめぇ……喧嘩売ってんのか?」
「喧嘩を買うならあのドラゴンから喧嘩を買いなさい。今はまだ動かずに空に待機しているけど、いつ襲って来るかわからないわ」
「それもそうだな。よっしゃ、行くぜ。来い、轟牙!!!」
「流星!!!」
兄さんは魔法陣を展開して霊亀の轟牙、姉さんは指笛を吹いて麒麟の流星を呼び出す。
「さーて、天音達にこいつをお披露目するかな!!」
兄さんが左手の顕現陣を叩くと、中から一太刀の刀を取り出した。だが、その長さは長身の兄さん以上でまるで槍のような長さだった。
「兄さん、それは……?」
「こいつは蓮宮の神刀……名は“蓮牙”だ」
「蓮牙?」
「ああ。詳しい話は後でしてやる。花音、行くぞ!」
「ええ!」
姉さんも胸元にある顕現陣から神弓蓮月を取り出して契約を執行する。
「「契約執行!!」」
流星と蓮月のアーティファクト・ギアの蒼穹麒麟弓は既に知っているけど、轟牙と蓮牙のアーティファクト・ギアはどんなものかはまだ知らないから、正直少しドキドキしている。
「見てな、天音。こいつが、俺の新しいアーティファクト・ギア……霊皇氷帝剣だ!!!」
一瞬、アーティファクト・ギアが氷漬けになったかと思うと、氷が弾け飛んで中から懐かしい形をしたアーティファクト・ギアが現れた。
それは、俺が現在所持している兄さんの神剣氷蓮と轟牙が契約したアーティファクト・ギアの霊閃氷帝剣とよく似た大剣型のアーティファクト・ギアだった。
ただ、霊皇氷帝剣と霊閃氷帝剣で唯一違うところと言えば、それは『刀身』だった。
刀身が歪んだ曲線を描くように滑らかでシャープな形をしていた。例えるなら炎の揺らめきを形で現したような刀身だった。氷属性のはずの霊皇氷帝剣がどうしてそんな形なのか分からないけど、自信満々な兄さんの表情を見たら不安が消えていた。
「チトセ!!!」
そこにアルティナ様がラベンダー・ドラゴンのリーファと共にやってきた。
「アルティナ!」
「チトセ、騎士団の皆さんに頼んでパーティーの参加者を避難させています。早く皆さんも避難を!」
周囲を見渡せば確かにパーティーの参加者がほとんどいない。たった数分で百人単位の人間を避難するように指示をしたアルティナ様の手際に感心するしかなかった。
「アルティナ。そう言うわけにはいかないのよ。何故なら……」
空にいるドラゴン達を見上げながら、清嵐九尾を上に向けると同時に俺達の周りに複数の魔法陣が現れる。
「私は……私達はあなたを守るために此処にいるんだから!!」
魔法陣からアリス先生を始めとするこのクーデターを止めるために集まった仲間達が現れた。
「お待たせ。ちょっとだけパーティーに遅れたかしら?」
お茶目な声を出すアリス先生だが、俺はある部分に付着した物を見逃さなかった。
「……アリス先生。口元」
「口元……?はっ!?」
僅かだが、アリス先生の口元にはクリームが付着していた。それも俺が作ったお菓子に使った生クリームだ。
「先生、お菓子を食べるのに夢中で千歳の閃光弾に気付かず、挙げ句の果てには遅刻しましたね……?」
「ギ、ギクッ!?な、何の事かしらね……?」
「はぁ……まあ、言い訳は後で聞きます。ところで、何故あのドラゴン達は襲ってこないかわかりますか?」
何時まで経っても空の魔法陣の真下にいるドラゴン達は襲ってこない。
「ああ、あれは私があのドラゴンがいる空間を丸ごと時間を止めているからよ」
「……は?」
「ドラゴンに一斉攻撃されるのは面倒だから時の精霊・ゼノンに止めてもらったのよ」
アリス先生の隣に無数の懐中時計を携えた青年――時の精霊・ゼノンが現れた。
無限神書の魔女、アリスティーナ・D・クレイプスコロの体内に宿している世界を構成する数多の元素を司る十三の精霊、エレメンタル・スピリッツ。その十三の精霊の一体であるゼノンは時を司る精霊だと知っていたが、まさか一定の空間の『時』を止めるほどの力を持つとは予想外だった。
「ゼノン。後どれくらい持つ?」
『……一分』
「あらそう?じゃあ、そろそろ引き締めないとね」
指を鳴らしたアリス先生の手には金や銀の細工で作られ、十三種類の宝石が埋め込まれている綺麗で何とも豪華な杖が現れた。
「まさか、これを再び使う日が来るとはね……」
しみじみと何かを思い出すようにアリス先生はその杖を指で軽やかに回して遊ぶ。
一方、セシリアは何を思っているのか、生まれてすぐに生き別れた姉――アルティナ様に向かって歩む。
「どうかしましたか?」
「……いや。ただ、王女様の顔を近くで見たかっただけさ」
視線を逸らすように振り返ると同時に鞘からエクスセイヴァーを抜き、右拳の紋章が輝く。
そのエクスセイヴァーと紋章にリーファはハッと気づいた。
『あなたのその剣と紋章は……まさか!?』
「リーファ?」
「あー、王女様のドラゴンさんよ、その話は後にしてくれ」
「……何を隠しているのですか?」
リーファとセシリアの反応に不審にアルティナ様は当然思った。
そんなアルティナ様に対してセシリアは軽く頭をかきながら少し恥ずかしそうに言う。
「……護ってやるよ」
「えっ?」
「あんただけは何があっても必ず護ってやる。俺の騎士としての誇りと、この剣にかけてな。だから……」
セシリアは首を回して顔を後ろに向けた。
「あんたは俺を信じてくれ。ただ……それだけで、俺は頑張れるからよ」
そして、自分の愛する姉に向けて優しく、慈愛のある笑みを浮かべた。
その笑みにアルティナ様は言葉に表せない『何か』を感じ取った。
「……はい!私は、あなたを信じます!」
アルティナ様も笑みを浮かべてセシリアに強い信頼を寄せた。
「ふっ……さーて、派手に暴れてやろうぜ!!」
アルティナ様の想いを受け取ったセシリアは意気揚々と俺達にそう言った。
そして、時の精霊・ゼノンがゆっくりとカウントダウンを言い始めた。
『10……9……8……7……6……』
それは、ゼノンがドラゴン達に掛けた時を止める魔法の効力が切れる合図だ。
『5……4……3……2……1……時間だ』
自らの時間を取り戻したドラゴン達が再び動きだす。
『『『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーッ!!!』』』
再び咆哮をあげるドラゴン達はギラリと真下にいる俺達を睨みつける。
俺は鳳凰剣零式の切っ先をドラゴンに向け、恒例となった戦う前のセリフを言う。
「さあ、It's Show Timeだ!!!」
アルティナ様を……そして、このイギリスの地を守るための戦いがこうして幕を切るのだった。
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と言うわけで、遂にバトル勃発です。
今回は天音と璃音の新しいアーティファクト・ギア、鳳凰之黒衣と霊皇氷帝剣が次からの見ものになりますかね?
後は、アリスの時の精霊・ゼノンが強かったですね。
ちなみに、アリスとゼノンが本気を出せば、どこぞのラスボススタンド使いも真っ青です(笑)
次回はみんながドラゴン退治を始めます。
恭介や紅など、色々なキャラに焦点を当てていくのでお楽しみに。




