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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第4章 騎士王顕現編
55/172

第44話 動き出す者達

今回はめっちゃ話が長くなりました。


色々省略してしまった所もありますが勘弁してください。


それでもまだ話が全く進みませんが……。

午後7時、日本・雨月家。

雨月家は代々有能な医者を繰り出している一族で、一族全員が医療関係の職業についています。

私の愛するお母様――雨月紅は歴代でも医学の最高峰の知識と技術を持つ御方で医学界では“神医”と呼ばれ、崇められています。

そんなお母様は常日頃から忙しく、世界中を飛び回って病気に苦しむ人たちの命をたくさん救ってきました。それ故に年に私と会える日も少なく、一緒に過ごす時間もいつも短いです。ですが、今回は珍しく二週間という長い夏休みを取ることが出来ました。

私はもちろん、迅もとても嬉しく、出来るだけ長い時間を家で一緒に過ごしています。

そんな時、私の携帯電話に一本の電話が掛かってきました。

「もしもし?あら、天音さん。一体どうしたですか?」

電話の主が今イギリスにいる天音さんで驚きながら要件を聞きます。

『担当直入に言います。実はイギリスでクーデターが起きそうなんです!王女様とイギリスを守るために力を貸してください』

「は、はい……?」

いきなり何を言い出すのかと思えば、イギリスでクーデターと訳の分からない事を言うので思わず疑問符を浮かべてしまいました。しかし、天音さんがそのような冗談を言う人でないことはわかっています。あまり信じたくはありませんが、恐らくクーデターと言うのは本当でしょう。

それに……大切な後輩の頼みを無碍にする訳にはいきませんので私は頷いて返事をします。

「わ、わかりました。説明は後でしっかりお願いしますね」

『では、30分後にアリス先生の地下室に集合ということでお願いします!』

「はい。それでは失礼します」

通知ボタンを切ると、私はすぐに迅を呼びます。

「迅、来てください!」

ヒュン!

「何だ?」

呼んでから僅か数秒で迅は私の側に来てくれました。

「天音さんから電話があって、イギリスで大変な事が起きているようです。私達の力が必要らしいですのですぐに戦いの支度をしてください」

「雫、良いのか?せっかく、紅様がいるのに……」

「……仕方ありません。きっと、お母様も許してくれます。迅、シャインレインとガーディアン・カード、それからオカリナをお願いします!」

「……わかった。俺も準備しよう」

迅は戦闘準備の為に走り出し、私も戦闘衣装のドレスを着替えに自分の部屋に向かいました。

十分後には私と迅は戦闘準備を全て整えて私の部屋に集合しました。

「では、早速地下室へ――」

「私に内緒で主と執事の禁断の逢い引き&駆け落ちかい?」

「「っ!?」」

凛とした声はドアの外から聞こえ、ドアが開くとそこにはお母様が立っていました。

血のような真紅の髪と瞳を持ち、大人の色気を漂わせながらも子供のような笑顔を見せる。

「全く……身分違いだからって、駆け落ちなんかしなくても私はお前達の中を認めているのに!」

「何を勘違いされているんですか、紅様……」

迅はげっそりとした様子でお母様に応えます。

「じゃあ、何か?もしかして今から二人で愛を育むのか!?すまない、それは邪魔したな!孫の顔を楽しみにしているぞ!!」

「どうしてあなた様はそのような考えにたどり着くのですか!?」

「雫と迅の子供ならきっと才色兼備だろう。はっはっは、引退後の余生が楽しみだな!」

元々迅を私のお婿さんにする事を考えていたお母様は既に私と迅の子供、つまりは孫の事を楽しみにしています。流石にお母様からそのような事を言われると恥ずかしいです。

「いい加減にしてください……私と雫はそのような関係では……」

「ほう、一ヶ月に雫と何回もヤッているをお前が言うかね?」

「ぐおっ!?な、何のことか……」

「とぼけるな。私を誰だと思っている?神医の神眼にかかれば雫の体調や精神状態を見ればお前達がどれぐらいやっているかすぐにわかるわ」

「ぐぉぅ……な、何と……」

「それで、お前達はどんなプレイをするんだ?なぁ、迅よ、お義母さんである私に教えさいよ」

お母様は何とも悪趣味な事を迅に聞いています。自分の娘のそういうことを聞くなんて……。

「あの、お母様。私達は駆け落ちをするのではなく、戦いに向かうのです」

「何……?戦いだと?」

急にお母様の表情が真面目になり、視線が鋭く光ります。

「はい。イギリスにいる顧問からの緊急招集です」

「顧問、と言うことはアリス師匠の呼び出しか……よし!」

するとお母様はどこからか赤く色を塗った長年愛用している杖を取り出して床を軽く叩きます。

「来い、“アスクレピオス”!仕事だ!」

お母様の呼び声に反応するかのように背後の空間が歪みます。

そしてその空間から一人の青年が現れました。

『相棒よ、どうした?』

その青年の正体はお母様の契約聖獣、ギリシャ神話に登場する神の一柱で、優れた医術の技を持つ医学界の象徴的存在であるアスクレピオス。

アスクレピオスは長年お母様の相棒として多くの人の命を救ってきました。

お父様がいない私にとってアスクレピオスは父親代わりであり、兄である大切な存在です。

『せっかく雫や迅と過ごせる貴重な休みだというのに、もしかして急患か?』

「急患ではない。ただ、怪我人が続出しそうな事件が起きそうだ」

『そうか……場所は?』

「イギリスだ」

『イギリスか……わかった。どこだろうとお前に付いていくぞ』

アスクレピオスも私達と共にイギリスに行くことを同意しました。そして、お母様も医療道具を準備して遠く離れた場所の扉同士の空間を繋ぐ境界輪廻を使い、アリス先生の地下室に向かいました。



同時刻、日本・鳴神家。

鳴神家は私の持つ雷を体の中に蓄電し、自由自在に操ることが出来る体質を持つ特異な一族です。

特異な体質を持っていると言っても一般家庭で家も普通で、お父さんとお母さん、それから弟がいます。嫁に来たお母さんは出来ないけど、鳴神家の血を継いでいるお父さんと弟も雷を操ることが出来ます。

そして、この春に召喚した相棒の雷神・トールに家族全員気に入ってくれた。お父さんなんか自分の秘蔵のお酒出してトールと一緒に飲むぐらい話が合っちゃうほどだった。

そんな時、イギリスにいる友人の千歳から携帯電話に電話が鳴り響いた。

「もしもし?千歳、どうしたの……?」

『雷花、こっちで国を揺るがす大変な事が起きようとしているの!説明は後でするから地下室に来てくれる!?』

何やら向こうで事件に巻き込まれたみたい。これは行かなきゃダメみたい。

「わかった。トールを引っ張っていくから待っていて……」

『本当!?ありがとう!じゃあ、30分後、地下室によろしく!』

千歳と連絡を切り、私は私服から自分で縫って作ったゴスロリ風の戦闘衣装を着て愛用のピコピコハンマーを持つ。

「よし……!準備、OK……!」

後はトールを連れて行くだけ。それで、そのトールはというと……。

『がはははは!お前は本当に面白いなぁ!!』

「いやいや、それほででもありませんよ!」

『お前の娘にも、もうちっとその性格があったら良いんだけどな!』

「いやー、すいません。無愛想な娘に育ってしまって……」

お父さんとお酒を飲みながら馬鹿騒ぎをしていた……トールが妙にムカつく事を言っているけど、それは我慢した。

「トール……」

『おっ?どうした、ライカよ!お前も一緒に飲むか?』

「私、未成年だから……」

『固いことを言うな!今の内から慣れとけ!』

「はぁ……」

仕方ないけど、今のトールを連れて行くにはこれしかないか。

「契約執行……」

『む?ぬ、ぬぉおおおおっ!?何をするのじゃ、ライカ!?』

「これからイギリスに行くんだよ……。千歳達が向こうで事件に巻き込まれたみたい……」

『な、何じゃとぉ!?』

「だから、イギリスに行くよ……」

『や、止めろぉ!わしを休ませてくれぇ!!美味い酒を飲ませてくれぇえええっ!!』

「ダーメ……」

契約執行を完了し、手にはピコピコハンマーとトールを契約させたライトニング・トールハンマーが帯電させながら完成した。

「それじゃあ、お父さん。少し出掛けてきます……」

お父さんは目の前で起きた契約執行に呆然としたけど、手に持ったお猪口をテーブルに置くと立ち上がって私の頭を撫でに来た。

「そうか……トールさんが一緒にいるから安心だけど、無茶だけはしないでおくれよ?」

「うん……わかった、行ってきます……」

「行ってらっしゃい」

優しい笑みを見せて送り届けてくれたお父さん。私は境界輪廻を手に地下室へと向かった。



午前10時、エジプト。

俺の人生の目標で憧れの存在であるじーちゃんの浅木恭介。

数々の偉業を成し遂げ、全ての冒険家にとって神様的存在だ。

今、そのじーちゃんに誘われて、ピラミッドなどの世界的遺産があるエジプトに訪れている。

『すげぇな。でっかい石でこんな墓を作るなんて、人間はやっぱりすげぇな』

相棒の悟空は数千年前のエジプトに住む人間達が作ったピラミッドの巨大さに驚いている。

「そうじゃろ?古代遺跡はその当時を生きた人間達の最大の芸術作品みたいなものだからな!」

そこにカウボーイのような服装をした初老――俺のじーちゃんの浅木恭介が出て来る。

「じーちゃん、ありがとう。エジプトに連れてきてくれて」

「なーに、年寄りにとって孫との旅行は楽しみの一つだからな!ワシの力で現在調査中の場所をお前に見学させてやるから楽しみにしておくんだぞ?」

「おう!楽しみにしているぜ!!」

調査中の遺跡を見れると言うことなのでテンションが上がる中、携帯に電話が鳴る。

「天音?あー、もしもし?」

電話の相手はイギリスにいる天音だった。

『恭弥、アリス先生の緊急招集だ』

「はぁ?」

『今夜、イギリスでクーデターが起きるんだよ!だから、それを止めるために冒険部のメンバーを招集している』

「な、何じゃそりゃあ!?クーデターって本当かよ!?」

『璃音兄さんと花音姉さんの仲間からの確かな情報らしい』

「ゲッ!?璃音さんと花音さんも一緒かよ!?」

世界を股に掛けて悪人をぶちのめす天星導志の二人が一緒にいるならそのクーデターも本当かもしれない。

「っ……仕方ない。わかった、部長として行くしかないな!」

『すまない、恭弥。30分後に地下室に来てくれ』

「わかった。じゃあな」

電話を切り、俺はテンションを下げながら大きなため息を付いた。

『恭弥、何があったんだ?』

「クーデターって不吉な言葉を口にしていたが……」

悟空とじーちゃんが心配そうに俺を見る。連れてきてくれたじーちゃんには悪いけど、本当に諦めるしかなかった。

「じーちゃん。悪いけど、俺は今からイギリスに行ってくる……」

「イギリスじゃと!?」

「今夜イギリスでクーデターが起きるらしいんだ。それを止めるためにアリス先生が冒険部全員を招集している……冒険部部長として、みんなを無視するわけにはいかないから……」

「そうか……アリス先生の招集なら仕方ないの。そして、仲間を見過ごすことは出来ないか。ふむ……」

じーちゃんは顎に手を添えて何かを考える。

十秒もすると、じーちゃんは何かを思いついた表情をしてパチンと指を鳴らした。

「恭弥よ、それならワシも共に行くぞ!」

「はあっ!?」

「はっはっは!孫だけ危険な場所に行くのに黙っているワシだと思うか?ワシも共に行き、そのクーデターを止めてやろうではないか!」

や、やべえ……じーちゃんは一度言い出したら聞かない性格(俺と同じ)で、どうあっても俺と一緒にイギリスに行くだろう。ちなみに悟空はイギリスに行くことに特に反論はなく、欠伸をしながら言う。

『ふーん。イギリスね……そんじゃ、準備してとっとと行こうぜ!』

「そうだな。でもじーちゃん。無理はするなよ」

「なーに、まだまだ若いもんには負けんわ!」

「はぁ……」

俺はため息を付き、金剛棒やガーディアン・カードなどの荷物を取りに一度ホテルに戻った。そして、準備を完了させると境界輪廻でアリス先生の地下室に向かった。

地下室には既に雷花に雫先輩と迅先輩が集合していたが、更に雫先輩の母親とその契約聖獣がいることに驚いた。そして、約束の時間にイギリスから境界輪廻で空間を繋いでやって来た天音達の案内で俺達冒険部+αはクーデターを阻止するためにイギリスに向かった。


   ☆


冒険部全員を招集し、まさか一緒に来るとは思ってもいなかった雫先輩のお母さんの紅さんとアスクレピオス、更には恭弥のおじいさんの恭介さん……そんな大物達と挨拶をした矢先、四大騎士にトラブルが起きていた。

実はセシリア以外の三人は意外にも俺達と一歳年下で、まだ聖獣の召喚と契約をしていなかった。

そこでアリス先生が戦力強化のために四大騎士の聖獣を召喚しようと言い出した。十五歳の年齢を達していない人間の子供が聖獣を召喚する事は世界人獣協会が定めた人獣契約システムの内容を明らかに違反しているが、緊急事態で多少の違反は私が隠してあげるとアリス先生は笑いながら言った。

こうして四大騎士に聖獣を召喚させようとするが、セシリアから問題が起きた。セシリアは今年の春にイギリスの学校で召喚の儀式を行ったが、いくらやっても何も召喚出来なかった。

聖霊界を繋ぐ魔法陣や召喚の為の詠唱に問題はなく、セシリアだけ召喚出来なかった。

ただ、最近の研究によると、聖獣を召喚が出来なかった人間には何らかの条件を満たしていないと自分の聖獣を召喚出来ないと言う説が挙げられており、もしかしたらセシリアが王女様と言うことと何か関係があるのかもしれない。取りあえず本人は自分にはエクスセイヴァーとドゥン・スタリオンがあるから大丈夫と自分に言い聞かせて納得させた。

気を取り直して次にヴァークベルが召喚するが……召喚されたのはなんと、清楚で可愛い女の子だった。その女の子は白と緑が混ざった明るい髪をしたいて、不思議な形をしながらも清楚なイメージを損なわない服を着ていて、キョトンとした表情でヴァークベルを見つめていた。

その女の子を見た瞬間、ヴァークベルは手を握って真剣な眼差しを送る。




「お嬢さん、私とアーティファクト・ギアの契約ではなく、夫婦として結婚と言う名の契約を結んでください」




ズドーン!!!

俺達は一斉にずっこけた。告白を通り越したプロポーズを召喚した自分の聖獣に言うヴァークベルの女の子好きにはもはや賞賛に値するものだった。

そして、召喚された聖獣(?)の女の子は突然のプロポーズにあたふたしていた。

「えっ、あっ、そ、そんな、いきなり、結婚だなんて……」

「正直に言うと、あなたに一目惚れしました。もう一度言います。私と結婚してください」

そしてヴァークベルはどこから用意して取り出したのか花束を女の子にプレゼントする。

「あ、あぅ……」

受け取った花束で真っ赤になった顔を隠す。

「おっと、申し遅れました。私はこの教会を守護する四大騎士が一人、槍の騎士・ランサーのヴァークベル・ペンドラゴンと申します。お嬢さんのお名前は?」

もはや騎士と言うか紳士となっているヴァークベルに他の四大騎士や育ての親のシルヴィアさんは頭を抱えて悶えている。女の子は胸に手を当て深く頭を下げた。

「えっと……私は誇りある騎士様を人として死するその時までお仕えする“妖精族・フェイ”の一人です」

「フェイ?」

「はい。フェイは古の魔法や多くの知識で騎士様を支援いたします」

「騎士をサポートか……それじゃあ、あなた自身のお名前は?」

「私のですか?私は……“リナ”と申します」

「リナか。うん、良い名前だ!」

「ありがとうございます。ヴァークベル様」

「それでは、少し向こうでお話を――」

「「「いい加減にしろ、馬鹿ヴァン!」」」

ドゴッ!!

「グピャア!?」

「ヴァークベル様!?」

このままでは収集がつかないと判断したセシリア達四大騎士はヴァークベルの頭に打撃を加えて強制的に眠らせた。

「えっと、リナだっけ?取りあえずこの馬鹿との話は後にしてくれる?ちょっと急いでいるから」

「あ、は、はい!」

リナは眠っているヴァークベルの手を握り、心配しながら見守っている。プロポーズされたが、意外にも満更ではないらしい。

「それじゃあ、次はレイズ、お前だ!!」

「ああ。わかった」

気を取り直して次にレイズが召喚する。

だが、レイズが召喚したのは別の意味で厄介な聖獣だった。

『グルゥ……』

「赤い……狼?」

魔法陣から現れたのは真っ赤な毛皮の大きな狼だった。その狼の姿を見た瞬間、トールは珍しく焦った声で叫んだ。

『気をつけろ、小僧!そいつは冥界獣の一体で、冥界の番犬“ガルム”だ!!』

トールが知っていると言うことは、あのガルムって狼は北欧神話に登場する聖獣……しかも、冥界の番犬って、レイズはそんにヤバいものを呼び出したのか!?

『グルゥ……グァアアアアア!!』

ガルムは吠えながらレイズに襲いかかってきた。口を大きく開け、数十本の鋭い牙がレイズを食い殺そうとしていると物語っていた。

『いかん!』

トールは愛用のミョルニルを取り出してガルムを止めようとするが、レイズは無言で掌でトールを止める。

レイズに制され、一瞬止まってしまったトール。しかしガルムはお構いなくレイズを食い殺そうとする。

そしてこの直後、レイズから彼のイメージに合わない言葉を口にする。




「ふざけすぎだ。獣畜生が……」




バキッ!!!

『グプァッ!?』

強く握りしめたレイズの右拳が口を大きく開いたガルムの顎を殴り、口を無理やり閉じさせてそのまま上に向かって見事なアッパーを決めた。

顎を強打されたガルムは地面に倒れてしまい、俺達のみならず助けようとしたトールも唖然としてしまう。

「あ、レイズがキレた」

「あの狼さんに冥福を祈らないと」

セシリアとキュアリーは殴られたガルムに向けて何故か祈りを捧げた。その訳は……。

「レイズは普段あまり怒らないけど、キレると俺達の中で一番怖いんだよ……」

「キレた時は冷静な騎士ではなく、冷たい氷のように冷酷な拳士……あのガルムって冥界獣はもう……」

バキッ!ドコッ!!バコッ!!!

「貴様……私を食い殺したら次はセシリア達や子供達を食い殺すつもりか?そんな事はさせない……冥界獣か何か知らんが、人間を舐めるな、この獣畜生が!!!」

自分の数倍以上もある巨体のガルムを臆することなく殴り、蹴り、そして間接を決めるレイズに一同に戦慄が走った。

『キャン!!アゥン!?ヒィン!!』

ガルムは虐待された子犬のような悲鳴を上げていて冥界獣の威厳や恐怖が完全に消えていた。

数分後にはレイズの力にガルムはひれ伏し、忠誠を誓った。レイズもそれに満足すると、頭を撫でたり体をブラッシングしたりしてガルムを気持ち良くした。まさに飴と鞭の使い方とはこの事だった。



そして、最後にキュアリーさんが召喚する。ヴァークベル、レイズとトラブル続きだったから穏便に済ませて欲しいと全員が思う気持ちで召喚されたのは……。

『初めまして、可愛いお嬢さん。私の名は“サジタリウス”。“黄道十二宮・人馬宮”の聖獣でございます』

十二の星座で射手座を司る人馬宮……弓を使う半人半馬の聖獣、ケンタウルスだった。

上半身の人間の部分には鎧を装着していて、巨大な弓を携えていた。

「へぇー……サジタリウスか。弓矢使いにはこれ以上ないほど当たりな聖獣ね」

同じ弓使いである花音姉さんはキュアリーさんの召喚したサジタリウスに感心していた。

キュアリーさん本人は嬉しそうに左腕に装着したコンパクトボウを変形させてサジタリウスに見せる。

「初めまして!私はこの教会を守る四大騎士が一人、弓の騎士・アーチャーのキュアリー・ペンドラゴンです!」

『弓の騎士でお名前がキュアリーですか。どうやら私は素晴らしい契約者に出会うことが出来て幸運ですね』

サジタリウスはキュアリーに召喚されてとても嬉しそうだった。相性はバッチリのようだ。

こうして、セシリアを除いた四大騎士の聖獣が揃った。後は契約の証であるアーティファクト・ギアを完成させるだけだが、その前にもう一人召喚する人間がいた。

「おいおい、俺もか? 三十なのに聖獣を召喚して契約をしていいのかよ?」

それはシルヴィアさんだった。シルヴィアさんは十五歳になる前にセシリアと共にこのペンドラゴン教会に住んでいたので、聖獣を召喚する機会を失ってしまっていたのだ。

「良いの良いの。十六年もセシリアやたくさんの子供達を守ってきたんだもん。それぐらいの事で罰は当たらないわ」

アリス先生の薦めにシルヴィアさんは苦笑いを浮かべながら魔法陣の上に立ち、聖獣を召喚する。

シルヴィアさんはあまり召喚される聖獣についてあまり期待してなさそうにしていたが、

『ずっと……この時をお待ちしていました』

「んぉっ?」

優しい母のような声が響き、魔法陣から白い光が溢れた。白い光が自ら形を作り出していき、やがてそれは巨大な聖獣の形となる。そして、光が止むと同時にその姿が俺達の眼に映し出される。

「あ、はっ、ははは……何だよ、これ……」

思わず乾いた笑いをするシルヴィアさん。何故なら、シルヴィアさんの前にいるのは――ドラゴンだった。

それもただのドラゴンではなかった。体全体の龍鱗から翼、果てには尻尾までが白銀に美しく輝いていて、瞳がシルヴィアさんと同じ綺麗な碧眼だった。更に、ドラゴンは恐怖のイメージが強いが、そのドラゴンから恐怖を感じられず、寧ろ優しさや温かさを感じた。

『私は守護竜、“エンシェント・ホーリー・ドラゴン”。シルヴィア、あなたを長い間お待ちしていました』

「私を知っているのか?」

『はい。私はこの英国をお守りする為に生まれた守護竜。ですが……』

守護竜――エンシェント・ホーリー・ドラゴンは浮かない表情をした。

「ん?どうした?」

『私は……影からこの英国をあらゆる災厄から守るために聖なる結界を張り続けていましたが、あの男……ディルストによって長年封印されていました』

「ディルストがあんたを封印!?どう言うことだ!?」

『あの男は竜を自由自在に操る事が出来る古の魔導書を持っています。その魔導書の力によって竜である私を封印し、人々から災厄を守るを結界の力を打ち消しました。あなたがお仕えした王女が不治の病に掛かったのも……』

エンシェント・ホーリー・ドラゴンの語られた真実にシルヴィアさんとセシリアは目を見開いた。

「じゃ、じゃあ、もしあんたの守護の力が働いていたら……」

「母さんは……母さんが病と俺達を産んだことで死ぬことはなかったのか!?」

『絶対にそうとは言い切れませんが、その可能性は捨て切れません。仮に病に掛かったとしても、まだ生きられる望みがあったかもしれません……』

この守護竜にどれほどの力があるか未知数だけど、少なくともディルストに封印されていた所為でオリヴィア様はまだ生きることが出来たかもしれない。そうと知ったセシリアとシルヴィアさんは腑が煮え返る思いで叫んだ。

「許さねえ……母さんを死に追い込んだディルストだけは絶対に許さねえっ!!!」

「あんの、クソジジイ!!もはや法の裁きを受けさせるなんて生温い!大昔の拷問道具で死の苦しみを与えてやるわ!!!」

亡き母と恩人を思うあまり、二人はディルストに対して憎しみの感情が生まれてしまった。

これはマズいと思い、俺はセシリア、アリス先生はシルヴィアさんを宥める。

「セシリア、落ち着け。気持ちはよくわかるが、憎しみで戦う事が騎士のすることか?お前は国と民を守る騎士王になるんじゃなかったのか?」

「シルヴィア。まずは憎しみの感情はお腹の中に押さえ込みなさい。あなたは復讐よりオリヴィアの約束を果たすことが大切じゃないかしら?」

俺とアリス先生の説得と問いにセシリアとシルヴィアさんは本心を気付かされ、押さえきれない憎しみの感情を必死に押さえて座り込む。

「わかったよ……姉さんと、この国を守らなきゃいけないからな……!」

「ああ……あいつに復讐するのは全てが終わったからにしてやる。そうじゃなきゃ、オリヴィア様に怒られてしまうからな……」

それでも二人の表情から憎しみの感情が消えていなかった。この状態でディルストと戦うのは少し危うい気がするが、時間は無いし、戦力をダウンさせるわけにはいかないのでこのまま一緒に戦うしかない。

『シルヴィア……私はあなたの聖獣召喚によってディルストの封印を打ち破る事が出来ました。感謝いたします』

「俺は自分と契約するための聖獣を召喚した。ただ、それだけだ」

『それでも私はあなたに感謝いたします。シルヴィア、私は守護竜としてこの国を守るために戦います。身勝手な話かもしれませんが、私と共に戦ってくれますか?』

「はっ!何を言っているんだ?俺はオリヴィア様に永遠の忠誠を誓い、この国を守る騎士だぞ?守護竜のあんたに言われなくても一緒に戦ってやるさ!!」

『それでこそ、私の契約者になる相応しい偉大な騎士です!これからよろしくお願いします』

「ああ!よろしく頼むぜ、守護竜!!」

シルヴィアさんは自分のパートナーであるエンシェント・ホーリー・ドラゴンに向かって拳を向けて互いの絆を結んだ。

槍の騎士・ランサーのヴァークベルには騎士を魔法で支援する妖精、フェイのリナ。

拳の騎士・ストライカーのレイズには冥界獣の一種で、凶暴で巨大な冥界の番犬、ガルム。

弓の騎士・アーチャーのキュアリーには黄道十二宮で射手座を司る人馬宮、サジタリウス。

そして、文武両道の天才騎士であるシルヴィアさんには英国を守護する聖なる竜、エンシェント・ホーリー・ドラゴン。

それぞれが素晴らしい聖獣と契約したが、たった一人だけ召喚する事が出来なかったセシリアは愛馬のドゥン・スタリオンの体に自らの背を預け、王の剣であるエクスセイヴァーを眺めながら黄昏ていた。

「ったく……一体どこをほっつき歩いているんだよ……」

現れない自分と契約を結ぶはずの聖獣に苛立ちと不安の声を漏らしていた。



イギリス郊外にある誰も入らないような深い森の中に昔ながらの小さな小屋があった。

そこに蝙蝠のような大きな翼を背中から生やした少女――アルトリウスがそこに降り立った。

「や、やっと着いた……」

アルトリウスはこの家を見つけるのに苦労したらしく、疲れた表情を見せていた。

「中でお茶ぐらい飲ませてもらおう……おーい、入るよ!」

扉を開けて家の中に入るが、シーンとしていて反応が無かった。

「あら?出かけているのかな?おーい、マー……」

「ここにおるぞーい」

突然背後に老人が現れ、アルトリウスの尻を触った。

「ひゃああっ!?な、何するのよ、このエロジジイ!!」

バッと反射的に離れたアルトリウスは尻を手で押さえながら背後に現れた老人を睨みつける。

「いやー、相変わらず張りのある良い尻じゃな~。アーサーよ、良かったらそのたわわに実った胸も揉ませ――」

「くたばりやがれ!!!」

バゴーン!!!

「ゴパアッ!?」

次の瞬間、老人は何かによってぶっ飛ばされ、そのまま木に激突し、振動によって木の葉が舞う。

「お、おぉ……相変わらず容赦がないな……」

老人の意識はまだあるが、ピクピクと体が痙攣していた。

「チッ。生きていたの?セクハラエロジジイ……」

セクハラを受けたアルトリウスは憤怒の感情を露わにしながら老人を見下していた。そして、アルトリウスの体に一つの変化があった。それは背中の大きな翼の下……尾てい骨の辺りから鱗と刺がある巨大な尻尾が生えていた。

この尻尾を尾てい骨の辺りから一瞬で生えさせ、半回転しながら尻尾で老人を叩きつけた。半回転による遠心力と重量のある尻尾の威力が合わさり、老人を簡単にぶっ飛ばす事が出来た。

「いたた……老体にその一撃はやりすぎじゃないか?」

「うるさい。セクハラを罪なのよ?全く……古の偉大な魔法使いなのに何をやっているのよ、“マーリン”……」

ギロリと睨んだ後に呆れ果てた表情を浮かぶ老人――マーリンを見る。この老人はただのセクハラエロジジイではなく、世界にその名を馳せる古の魔法使いの一人である。かつてアーサー王の助言者として側にいて、後にセシリアが所有しているエクスカリバーの兄弟剣であるエクスセイヴァーを作り、アリスティーナに魔法の指導をした張本人である。

「まあ、その話は後にしておくわ。マーリン、いよいよあんたの予言の日が来たわよ」

「……はて?それは、今日だったかのー?」

「……次は“爪”でその体を引き裂いて、火葬してやろうかな……?」

ボケるマーリンにアルトリウスはニッコリと微笑みながら手の関節をバキボキと鳴らし、マーリンを葬ろうと物語っている。

「ボケてすいません。ちゃんと覚えているので許してください、アーサー」

イギリス人なのに日本人顔負けの見事な土下座をするマーリン。

「ねぇ……マーリン。いい加減、アーサーって呼ぶのを止めてよ。今の私はアルトリウスだから……」

何度もマーリンから『アーサー』と呼ばれて不機嫌な表情をするアルトリウス。

「そんな事を言われても、お主はワシにとってアーサーじゃよ」

「もう……それで、私達が動くのはいつなのよ?」

「今夜じゃ。いよいよお前が待ちこがれていた契約者と会う日が来たのじゃぞ」

「やっと、か……それじゃあ、湖に行ってエクスカリバーを返してもらおうかな?」

「アーサーよ、“鞘”はあるのじゃな?」

「もちろん。鞘はここに、ちゃんとあるわよ」

アルトリウスは胸を軽く叩いて笑う。

「なるほど。それならもう二度と無くす心配はなさそうじゃな。それじゃあ、ワシも八百年ぶりに愛弟子に会う準備をするかの?」

「それって、セクハラの準備?」

「違うわい!お主はさっさと自分の剣を取りに行けいっ!!」

「はいはい。じゃあ、また後でな!!」

外に出たアルトリウスは背中の双翼を羽ばたかせ、マーリンと一旦別れて再び大空を飛んだ。

「待っていなさい……私の契約者。この国を救えるのは私とあなただけだからね!」

アルトリウスは自らの契約者に出会うために心を弾ませ、失われた聖剣を再び手にするために湖へ向かった。




.

雨月紅、アスクレピオス、浅木恭介、フェイのリナ、ガルム、サジタリウス、そして私オリジナルの聖獣、エンシェント・ホーリー・ドラゴン。


一気に新キャラを大量放出してすいません(汗)


次回こそは璃音とかのメイド姿が見れますので(爆)

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