第43話 王女と騎士の歪まれし運命
今回はセシリアとシルヴィアの過去について話します。
まだまだイギリス編の完結まで先は長そうです。
シルヴィアさんは自分とセシリアの過去を話し始める。
「始まりは今から約二十年ぐらい前になるな……家族を事故や病気で亡くして、一人ぼっちになった私は途方に暮れていた。そんな時に、街で一人の女が複数の男に囲まれていた。俺は何故かその人を見過ごす事ができなくて、その辺にあった棒を使って男達を追い払ったんだ。こう見えても、剣の腕は天才的に強かったからな」
シルヴィアさんが家族を失って孤児だったと言うことに驚いたが、わずか十歳で複数の男を追い払ったことにも驚いた。
「そしたら、助けた女が英国王家の姫君……オリヴィア様だったから驚きさ。お忍びで宮殿を抜け出して街に出たらしくてな、俺はすぐに跪いちまったよ」
そりゃあ、助けた女性が王家の人間だったら誰でも驚くな。
「そしたら、オリヴィア様は助けてくれた俺に何かお礼をしたいを言ってな。俺は困ったけど、昔から抱いていた夢を言ったんだ」
「夢?シスター、その夢って……?」
セシリアはシルヴィアさんの言う“夢”について聞いた。
「俺の夢。それは……“国と愛する人を守れる最強の騎士になりたい”……だ。ガキっぽい夢だったが、オリヴィア様はその夢を真剣に聞いてくれた。そして、オリヴィア様は俺の手を引っ張って連れて行った場所は、英国の騎士を養成する国立の学校……“王立騎士学校・ホワイトナイツ”だった」
「王立騎士学校・ホワイトナイツって、騎士を目指す子供が入学できる騎士学校の中でも最上級のエリート校じゃねえか!?」
「そうだ。オリヴィア様は自分を助けてくれたお礼にと、父である国王に頼み込んでそのホワイトナイツに私を王家推薦枠として入学させてくれたんだ。しかも、高い学費や寮の生活費とか、金は王家が全額負担してくれてな……」
シルヴィアさんは遠い目をして昔のことを思い出していた。たった一つの出会いが少女一人の人生をそこまで変えた。やはり、人と人との出会いや縁はとても不思議なものだと思い知らされる。
「俺はそんなオリヴィア様に恩返しをしたくて、学校の学業や騎士の訓練を真剣に取り組んで、学年主席まで登り詰めた。飛び級も繰り返して、本来なら二十歳の成人で卒業出来る学校を十三歳で卒業して、無事に騎士となり、英国騎士団に入団することが出来たんだ」
「と、飛び級と学年主席って……」
「シスター……本当に天才だったんだな……」
「知識明細で、武術にも秀でていると思ったら……」
「そう言う理由だったんだね……」
あまりのハイスペックにシルヴィアさんの教え子でもある四大騎士は開いた口が塞がらなかった。
「騎士団に入団してすぐに俺は宮殿に呼ばれ、その腕を見込まれてオリヴィア様の直属の騎士になることを命じられたんだ。私はオリヴィア様の騎士となり、常にオリヴィア様の側にいた……」
シルヴィアさんはシスター服のフードを外し、首に掛けてある少し古びた丸い形のペンダントを外して手に持つ。それは、写真を入れるロケットのペンダントで、蓋を開いて中の写真をセシリアに渡して見せる。
「オリヴィア様は俺を騎士ではなく、妹のように接してくれたんだ……俺はオリヴィア様を主として忠誠を誓いながらも、同時に姉として誰よりも敬愛していた」
「この人が、俺の母さん……?」
写真には今よりずっと若い騎士の鎧を身に纏ったシルヴィアさんと髪の色は空色だがセシリアによく似たドレス姿の女性が写っていた。この女性が今は亡き元英国王女のオリヴィア様でセシリアとアルティナ様の母君だとすぐにわかった。オリヴィア様は後ろからシルヴィアさんを抱き締めていて、二人とも幸せそうな笑顔を浮かべていた。
「そして、オリヴィアは結婚なされ、お腹に二つの命を宿した。それこそがセシリアとアルティナ様だ。しかし、不測の事態が起きてしまった。オリヴィア様は……子をお腹に宿した状態で不治の病の掛かってしまったんだ……」
「不治の、病だと……!?」
「ああ。しかし、時間を掛ければ治る治療法があったんだが、そのためにはお腹の子を降ろさなきゃならなかった……それをオリヴィア様は拒否して子供を産むことを選んだんだ」
「っ……!!」
セシリアは唇を噛み、手を強く握りしめて爪を食い込ませていた。シルヴィアさんは目を閉じ、セシリアと同様に爪を手に食い込ませて続きを話す。
「オリヴィア様は……病によって日に日に体は蝕まれ、凄まじい苦痛を受ける日々を耐え続けた。そして、十六年前の今日……お前とアルティナ様を産んだ。だ、が……」
声が詰まったシルヴィアさんの目尻に涙が浮かんできて、それが垂れて頬へと流れる。
「出産で、極限まで披露したオリヴィア様は産まれてきた二人を満足した顔で見ると、弱々しく私の手を握って頼み事を言ってきた……『この子達と、国をよろしくお願いします』と……そして、オリヴィア様は力尽きて、天に……」
「母、さん……」
セシリアは涙を流し、ロケットを握り締めて膝を付いた。
昔から母は強しとよく言うが、オリヴィア様も母としてとても強い女性だと感じ、凄いと思った。シルヴィアさんは涙を拭うと、話を続けた。
「だが、その日の夜にとんでもない事態が起きた……その夜はオリヴィア様が亡くなった悲しみを空が現すかのような大雨が降っていた。俺は真夜中に生まれたばかりの二人の赤子の様子を見に行ったんだ。そしたら、雨の音にも負けない赤子の泣き叫ぶ声が耳に届き、すぐに俺は寝かしつけようと赤子が眠る部屋に駆けつけた。だか、そこで信じられない光景を目の当たりにしたんだ。部屋の窓が外から壊され……双子の赤子の片割れがベッドから消えていたんだ」
「消えていた?まさか……俺が誘拐されたのか!?」
すぐに察したセシリアの言葉にシルヴィアさんは頷いた。
「ああ。俺はすぐに外に出て探そうとしたが、大雨で痕跡が残っている訳がない。絶望しかけたその時に……王家に代々伝わる聖剣エクスセイヴァーとドゥン・スタリオンが俺の目の前に現れたんだ」
「ドゥン・スタリオン……?」
それって、セシリアが跨っていた教会の外にいる馬だよな。でも、どうしてシルヴィアさんの前に現れたんだ?
「俺は訳も分からないままドゥン・スタリオンに跨り、エクスセイヴァーの導きでセシリアを誘拐した奴らを見つけ、そいつらを倒してセシリアを奪還した。俺はセシリアをすぐに宮殿に連れて帰ろうとしたが、跨ったドゥン・スタリオンが突然言うことを聞かなくなって勝手に走り出したんだ。そして、辿り着いた場所が……この教会だった」
シルヴィアさんは目を閉じてまるで昔を思い出すように上を向いた。
☆
オリヴィア様の忘れ形見の片割れの赤子を謎の者達から奪還した俺は跨った馬に導かれて田舎町の教会に連れてこられた。
『何だ……この教会は……ずいぶん古びているな。ったく、あの馬は何でこんな場所に……』
『あっ、うぅ……』
だが、そんな愚痴を言っている暇はなかった。俺の胸の中にいる赤子を早く暖めないといけない。このままだと雨の寒さで凍え死んでしまう。
『さてと、暖炉とかはあるかな?それか毛布があればいいんだが……』
勝手に物色するのは犯罪だが、誰も住んでなさそうだし、緊急事態だから許してくれるだろう。
そう思って教会の中に入ると……。
『よくぞ参った、騎士の少女よ』
突然、声が聞こえ、私は剣を抜いて構える。
『誰だ!?出てこい!』
『落ち着きなさい。わしは君の敵ではない』
声が教会に響くと、俺の目の前に青いローブを着て、古びた大きな杖を持った老人が現れた。
『なっ!?魔法使いか!?』
『いかにも。名前は明かさぬが、わしは君の味方じゃ。ドゥン・スタリオンを向かわせたのはわしだからの』
『あの馬の名前のことか……?だとしたら、ここに導いたのもお前の仕業か!?』
『その通りじゃ。なぜなら君とその子は今日からここに住むからの』
出会って早々にふざけたことを言う老人に俺はキレた。
『ふ、ふざけるな!?どうしてお前に命令されなきゃ……』
『うぁあああああああああん!!』
『おわっ!?あっ……よしよし、驚かせてごめんな……』
俺の大声に驚いてしまった赤子は大泣きしてしまい、何とかあやそうとする。
『取りあえず、君とその子の服と髪を乾かさないといけないの。そーれ!』
老人が杖を一振りすると、大雨で濡れていた私と赤子の髪と服がすぐに乾いてしまった。
『これは……?』
『次はその子の為の揺りかごとオモチャじゃの。そーれ!』
老人がもう一回杖を振ると、木で作られた大きな揺りかごと沢山のオモチャが出て来た。
『さあ、赤ちゃんをゆりかごに』
『え、あ、ああ……』
老人に勧められて私は赤子をゆりかごに寝かした。
『さあ、お休みなさい。可愛い可愛い、赤ちゃん……』
自分の孫を見るような優しい祖父のような表情で老人が赤子の頭を撫でると、さっきまで泣いていた赤子がすぐに目を閉じて眠ってしまった。その光景に俺はその老人が悪人だと思えず何が目的なのか聞く。
『お前は何なんだ?私とその子をどうするつもりなんだ?』
『……この子は、いずれこの国を納め、数多の敵を薙払う偉大な王となる。まだ生まれて間もないこの未来ある命を守るためにわしはここに現れたのじゃ。もし、このまま宮殿に戻ってしまっては宮殿に潜む“影”によってこの子も、君も消されてしまう』
『影?それは一体誰のことなんだ?』
『確か……ディルストと言ったかの?』
『ディルスト大臣が!?馬鹿な!ディルスト大臣は若い頃から宮殿に仕えてきたんだぞ!?』
『君が信じようが信じまいが、これは真実じゃ。幸い、宮殿にいるこの子の姉君は消されることはない。何故ならディルストは王家の権力争いが起きぬようにこの子を消そうとしたのだから……』
『そんな……』
『心配しなくても大丈夫じゃ。この教会はわしが守りの魔法をかけといた。悪意ある人間がこの教会の周辺に来ることは無い。生活費も用意してある。だから、安心して住むのじゃ』
老人は杖を振って今度は大量の宝石や金貨を出してきた。これだけあれば赤子を育てることと、この教会で暮らすことが出来る。
だが、どうしても聞きたいことが一つあった。
『……一つ聞きたい。その子が、王として立ち上がり、ディルストを倒す日は来るのか?』
すると、老人は頷いて答えてくれた。
『君がその子と教会に近い将来やって来る三人の子を騎士として立派に育てて、この地に遠き極東の地から訪れる戦士達と出会ったその時こそ、国を守護する“騎士王”として立ち上がるのじゃ!』
『騎士王、か……わかった。オリヴィア様の約束を果たすために、俺はこの子を立派に育ててみせる!!』
『うむ、頼むぞ。では、最後に……この子に名前を付けてやらないとな。よろしいかの?』
『名前か……ああ、頼むよ。あんたが名付け親になってくれ』
『それでは……未来の騎士王であるこの子の名前は今より“セシリア・ペンドラゴン”じゃ』
『ペン、ドラゴン?それはアーサー王の……?』
『この子にふさわしい名前じゃ。シルヴィアよ、セシリアを愛情たっぷりで可愛がり、騎士として鍛えてくれ』
そう言い残すと、老人は霧のように消えてしまった。
『ああ、任せときな。じいさん……』
☆
「そうして、私とセシリアの生活が始まった。子供を育てるのは初めてなので色々大変だったが、セシリアとの生活は楽しかった。その後、じいさんの言った通りにヴァークベル、レイズ、キュアリーの三人の子供がこの教会に訪れ、私は四人を未来の騎士として鍛え、育てた」
「まさか俺達がこの教会に来て、セシリアとシスターに出会ったのも……」
「全てはその魔法使いが予言した通りだったと言うわけか……」
「そして、今……」
キュアリーは俺達を眺めるように見る。
「極東の地……日本から訪れた戦士達……それは俺達の事なのか?」
「だとしたら、セシリアが騎士王として立ち上がる時が来たのかしら?」
全員の視線がセシリアに集中する。先ほどまで涙を流していたセシリアは裾でゴシゴシと涙を拭き取り、立ち上がる。
「……シスター、この際だから前から言いたいことを言わせてもらう」
受け取ったロケットペンダントをシルヴィアさんに返す。
「何だ?」
「俺は、シスターに似て乱暴な男勝りな性格になって……生意気な事を言っちまうけど、いつも思っていることがあるんだ」
セシリアはシルヴィアさんに強く抱きついた。
「セシリア?」
「俺は、シスターを育ての親じゃなくて、本当の母さんだと思っているんだ。私の本当の母さん……オリヴィア母さんの約束の為に、私を大切に育ててくれてありがとう」
セシリアがシルヴィアさんに十六年間秘めていた想いを打ち明けた。シルヴィアさんはセシリアの感謝の言葉に涙を流して強く抱きしめた。
「こんな事を言ってたら、オリヴィア様に怒られてしまうかもしれないけど、俺も……お前を本当の娘だと思っている。愛しているぞ、セシリア……」
セシリアとシルヴィアさん。二人は互いの想いを打ち明け、血は繋がっていないが“親子”としての愛を確かめ合った。
そして、セシリアは同じ時間を過ごしてヴァークベル、レイズ、キュアリーの三人に向き合った。
「ヴァークベル、レイズ、キュアリー。三人に頼みがある。国と……アルティナ姉さんを守るために、私と共に戦ってくれるか?」
セシリアの頼みに三人の騎士達はその場で跪いた。
「セシリア……いや、セシリア王女。俺の魂と槍をあなた様に捧げる」
「あなた様の騎士として、共に戦う事を誓おう……」
「私達の命を……全てを、あなた様に預けます」
三人は騎士として共に戦うことを誓い、セシリアは次に俺達を見る。
「天音……日本から来ただけで本当に魔法使いの予言通りの存在かどうかは分からないが、私と戦ってくれるか?」
少し不安そうな表情で見てくるが、俺の答えは決まっている。
「当たり前だ。ここまで巻き込まれて戦わないとは言わないよ。それに、アルティナ様は千歳の大切な友達だからね」
千歳達も頷き、日本組のみんなはセシリアと共に戦うことを誓った。すると、アリス先生はにっこりと微笑んだ。
「それじゃあ……イギリスと王女様を守るために私達の仲間を呼ぼうかしら?」
「仲間?」
「そうよ。天音、千歳。日本にいる雫、迅、雷花。そしてエジプトにいる恭弥を大至急呼ぶわよ!!」
「冒険部全員を緊急召集ですか……わかりました!」
現状で考えられる最大戦力でイギリスと王女様を守るために各地にいる冒険部の仲間を召集する事となった。
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どうでしたか、セシリアとシルヴィアの壮大な過去は?
次回は日本とエジプトにいる仲間達を召集します。
更にヴァークベル、レイズ、キュアリーの三人の聖獣を呼びます。
セシリアは……ちょっと待っていてください。




