第42話 反乱の前触れ
今回からイギリス編が急展開を迎えます。
ラストは特に色々ワクワクする展開の話になると思うのでお楽しみに!
イギリスの爽やかな朝に二人の日本人が立っていた。
「ようやく、到着したなー」
「そうね。流星も頑張ってくれたし」
「でもその前に腹拵えしたいぜ」
「それなら、イギリス名物のフィッシュ・アンド・チップスなんていかが?」
「おっ、良いね。とりあえず行こうぜ」
二人は仕事前にイギリス名物のフィッシュ・アンド・チップスを食べに街を徘徊する。
☆
ペンドラゴン教会のパーティーの翌朝、俺達は四大騎士に誘われてイギリスの街に出ていた。
「よーし、お前達にイギリスで一番美味いフィッシュ・アンド・チップスをご馳走してやるぞ!」
フィッシュ・アンド・チップスが好物のセシリアは朝からテンションマックスだった。
「それにしても、まさか今日がセシリアの誕生日だったなんてな」
「アルティナと同じ誕生日で年齢も同じなんて凄い偶然ね」
今夜、アルティナ様の誕生日パーティーが宮殿で開催される。もちろん正式で盛大なパーティーなので正装で参加することになるので、俺と刹那は慣れていないスーツ姿で、千歳と麗奈はドレス姿となる。
「実質、昨日のパーティーが半分くらい誕生日祝いを含んだようなものだな」
「だが、私達でもう一度セシリアを祝うつもりだ」
「ちゃーんとプレゼントもよういしたからね!」
ヴァークベル、レイズ、キュアリーの三人が話すとセシリアは涙ぐみ、腕でゴシゴシして涙を拭う。
「くぅ~っ!嬉しいことを言ってくれるじゃねえか!流石俺様自慢の弟と妹達だ!」
こんな感じで話しているうちにセシリア達がよく通っているフィッシュ・アンド・チップスのお店に着いた。
「オッス、おばちゃん!」
店の奥から四十代ぐらいのふくよかな体型をしたエプソンを着たおばさんが出て来た。
「おや、セシリアちゃんにみんな!よく来たね。いつもので良いかい?」
「今日は日本人のお客さんがいるから、全部で8セットお願い。それと、今日は俺の誕生日だから、いつもより多めでよろしくな!」
「そう言えば、今日はセシリアちゃんの誕生日だったね。だったら、お祝いにサービスで色々付けちゃうから楽しみにしてな!」
「おお、サンキュー!愛しているよ、おばちゃん!!」
セシリア達にとって昔からの馴染みのお店らしく、フレンドリーな関係でお店の女将さんと話していた。
俺達はお店の奥にある団体用の大きなテーブルに座り、料理が来るまで話をしようとするが、ヴァークベルが他のテーブルに座っている客を見て小声で話しだした。
「おい、見ろよ。あそこの客、アマネみたいな長い黒髪をしているぞ」
「えっ?」
ヴァークベルが指さす方を見てみると、確かに少し離れたテーブルに俺と同じ黒髪ロングの男女二人がフィッシュ・アンド・チップスを食べていた。
「あれ……?」
その二人の姿をよく見ると、見覚えのある二人だった。男性の方は体格は良く、身長は高めでその長い髪を三つ編みに纏めていた。対する女性も身長は高くてスタイルがとても良く、髪には蓮を模した飾りがあった。
「まさか……」
脳裏に浮かぶ二人を思い出しながら、俺は席から離れてゆっくりとその二人に近づいた。近づくにつれて二人の会話が耳に届いていく。
「おっ?けっこう美味いな、これ」
「そうね。だけど、最近は外食ばかりでたまには天音の料理を食べたいな……」
「わかるぜ……天音の作る飯は死んだお袋の味を思い出すからな……」
「あーあ。今頃天音は千歳ちゃんとイチャイチャしているのかなー?千歳ちゃんが羨ましいわ」
「なぁ、この仕事が終わったら天音に会いに行こうぜ。そしたら、たくさん飯を作ってもらおうぜ!」
「わかったよ。璃音兄さんと花音姉さんの為に腕によりをかけて料理を作るよ」
「おっ!それは嬉しいぜ。流石は俺の自慢の弟……だ……ぜ……?」
「後は絶品のデザート、特にケーキをよろしく……ね……?」
ギギギと音を鳴らしながら首を回して俺の方を向く璃音兄さんと花音姉さん。俺は久しぶりに会った兄と姉に笑顔を向けた。
「久しぶり!璃音兄さん、花音姉さん!元気にしていた?」
「か、かか、花音よ……どうやら仕事の疲れで幻覚を見ているらしい……目の前に自慢の弟の天音がいるんだが……」
「き、奇遇ね、わ、私も天音が見えるわ……しかも声付きで」
「どうして俺の存在が幻になるんだよ」
目の前に俺が居ることを信じようとしない二人にツッコミを入れる。
「あれ?見たことあると思ったら、花音義姉様と璃音義兄様じゃないですか?お久しぶりです!」
「「ち、千歳ちゃん!?」」
そこに千歳が挨拶をしに来て二人は現実を認めざるをえなくなる。
『キュルピィー!』
更に白蓮が二人の頭の上を飛び回る。
「びゃ、白蓮まで……」
「これはもう認めるしかないね……」
やっと二人は現実を受け止め、俺達の座る席に移動して一緒に食べることにした。それから間もなくして女将さんがセシリアの誕生日を祝うサービスを盛り込んだ特別メニューを出してきた。
目当てのフィッシュ・アンド・チップスのみならず、ボリュームのあるパンやサラダなど大きな更にとにかく色々乗せてくれた。それだけではなく、飲み物もお酒以外なら飲み放題と言ってくれてとても申し訳ない気持ちだった。
兄さんと姉さん、セシリア達四大騎士は初対面同士だったが馬が合ったのか、すぐに仲良くなった。
そして、俺と千歳の忍者である刹那と麗奈を紹介すると……。
「君達、良かったらウチの組織に入らない!?」
「あなた達の力を最大限に役に立てるわよ!」
まさかの正義の組織である天星導志にスカウトをするのだった。
しかし、刹那と麗奈は俺と千歳に忠誠を誓っているので迷うことなく断ってくれた。
そして、店で楽しみながら食べ終えると兄さんと姉さんを連れてそのままペンドラゴン教会に連れて行き、俺と千歳を踏まえた四人で“仕事”について話を聞くことにした。
「それで、二人はイギリスへ何しに来たの?」
「天星導志の仕事ですから、正義の行いだと推測できますが……」
立って聞く俺と千歳だが、何故か璃音兄さんと花音姉さんは正座をしていた。
「えっと……それは、ですね……」
「正直、関係ないあなた達を巻き込むわけには……」
二人の性格を考えたら瑪瑙の時は別としてあまり俺達を巻き込みたくないのは明白だった。
「はぁ……まあ、そう簡単に正義の味方が口を割る訳ないか」
「天音、この事は忘れてアルティナの誕生日パーティーに出るって選択しもあるけど……」
千歳が言った一言に二人の体がピクッと動く。
「アルティナ……?もしかして、二人は今日行われるアルティナ王女の誕生日パーティーに出席するのか!?」
璃音兄さんは声を上げてそう聞いてきた。
「えっ?そうだけど……あと、刹那と麗奈も一緒だ」
「アルティナは私の親友で今回イギリスに来たのも誕生日パーティーに出席するためで……」
今回の旅行を簡潔に話すと、二人は何かを相談し始めた。
「璃音。これはもう関係ないとか、巻き込みたくないとか言っていられないわよ……」
「そうだな。幸いここにはあの有名な神書の魔女もいることだ。助力を願うしかないな……」
すると二人は何かを決心した表情で俺達の方を向いた。
「天音、千歳ちゃん。本当はお前達を危険な目に合わせたくはなかったが、事情が変わってしまった。協力してくれないか?」
「もちろん、強制はしないわ。だけど……下手をしたらアルティナ様の身に危険が及ぶの。だから……」
花音姉さんの発したその一言に俺と千歳の返事はすぐに決まった。
「璃音兄さん、花音姉さん。何が起きようとしているのか詳しく教えてくれないか?」
「アルティナに危険?どういう事か説明してください」
表情や視線、更には声も自然と鋭くなり二人は頷いた。
そして、教会にいるみんなを集めて二人の口からこれから起きることを話した。
その話の内容に一同驚きを隠せずに大声で叫んでしまう。
『『『王女様の誕生日パーティーに乗じたクーデター!?』』』
「ああ。偶然こっちで仕事をしていた仲間からの情報だ」
「その仲間だけでは対処するのは難しいと判断したから私と璃音が派遣されてこのイギリスに来たのよ」
「でも、誰がクーデターなんか仕掛けるんだ?この国は平和で生活基準も高いし、政治も王女様が頑張っているのに……」
俺が客観的なイギリスの事を言うが、セシリア達はそれに同意するように頷いた。基本的にクーデターは国のに体制や活動に大きな不満がある一部の群集や軍事組織などが国に対して武装蜂起する行為。
だけど、このイギリスでクーデターを起こすほどの体制や活動は行われていない。
「平和な国でクーデターを起こすとなると、大方政権を奪うことが目的でしょうね。でも、どこの誰が……」
「一人、心当たりがいる」
アリス先生の言葉にシルヴィアさんが鋭い声でそう言う。
「王宮に使える長年仕えている大臣のディルストが黒幕だろ」
ディルストって、確か昨日王宮に訪れた時のあの初老の大臣?だけど、どうしてシルヴィアさんがその人を挙げたのだろうか……?
「シスターのあんたに何故それがわかる?」
「雰囲気からただのシスターじゃないってわかっていたけど、あなたは何か知っているのね?」
璃音兄さんと花音姉さんはそれに真っ先に疑いを持ち、シルヴィアさんに理由を問い詰める。
問いつめられたシルヴィアさんは十秒くらい沈黙してしまい、セシリアの方を向いた。
「……そろそろ、放す時が来てしまったようだな」
「シスター?」
「セシリア。私は昔、お前にはもう血の繋がった家族はいないと言っていたが、それは嘘だ。お前にはたった一人だけ……双子の姉がいる」
「双子の姉……?」
双子の姉と聞いてセシリアは呆然とする。ちょうど目の前には似ていないから忘れてしまいそうだけど双子の兄さんと姉さんがいて妙に親近感が湧く。
「その人は……綺麗な大空のように青い瞳と髪を持ち、女神のような美しいお方だ……」
シルヴィアさんはまるでセシリアのお姉さんを女神に比喩し、崇めるかのように言う。
「大空のように青い瞳と髪って……まさか!?」
千歳はセシリアのお姉さんについてすぐに察し、シルヴィアはそれが正解と言うように頷く。
「そう……セシリアの双子の姉は現英国第一王女、アルティナ・D・セイヴァー様。つまり、セシリアは英国の第二王女なんだ!!」
隠された事実に俺達は衝撃を受けた。セシリア本人は自分がこの国の第二王女と知ってポカーンと呆然していた。
「は、はは……な、何言ってるんだよ、シスター……。お、おれ、俺様がこの国の王女で、アルティナ様が姉ちゃん……?じょ、冗談は止してくれよ……」
流石に信じられなくて動揺しっぱなしだった。しかし、シルヴィアは首を左右に振ってセシリアの右手を掴んだ。
「嘘じゃない。お前は本当に英国の王女なんだ。何よりも、お前の右手の甲に刻まれている“聖剣の紋章”が何よりの証だ!」
「聖剣の紋章……?」
セシリアの右手の甲に刻まれている剣に竜が絡みついた紋章が昨夜同様に黄金に輝き、どこからともなくエクスセイヴァーがセシリアの手に飛んで来た。
「そのエクスセイヴァーはイギリスの王家に代々伝わる聖剣で王家の人間にしか抜くことができない。つまり、その剣を扱えるセシリアは紛れもない王家の人間だ」
「これが、王家の聖剣……?」
「しかも、王宮に伝わる書物によるとそのエクスセイヴァーはあのアーサー王が持っていたとされる“エクスカリバー”の兄弟剣と伝えられている」
「え、えぇえええっ!?エクスカリバーの兄弟剣!?」
あの伝説にして世界一有名な聖剣のエクスカリバーに兄弟剣が存在することと、それが目の前にあることにセシリアのみならず俺達も驚いている。ただ一人、アリス先生はポンと手を叩いて何かに納得した顔をしていた。
「通りでその剣からマーリンの魔力を感じると思ったら……エクスカリバーの兄弟剣だったのね。アーサー王の死後に残されたエクスカリバーをベディヴィアが湖の精霊に預けた後に、マーリンが何らかの事情で作ったのね。元々、エクスカリバーの製作者は彼だしね」
一人で勝手に納得しているが、それよりも早くシルヴィアさんの口から話を聞きたかった。
「全てはちょうど今から十六年前……英国前王女、“オリヴィア・D・セイヴァー”様がセシリアとアルティナ様を産んだ日の夜から始まった……」
そして、シルヴィアさんは十六年前のセシリアさんが産まれてから何が起きたのかを打ち明けるのだった。
☆
同時刻、イギリスのどこかにある美しい島で一人の少女が海岸沿いに生えている木に横たわり、美味しそうなリンゴを手に豪快にがぶりついていた。
「ムシャムシャ……やっぱりこの島のリンゴは美味しいわね……」
少女はリンゴを美味しそうに食べて晴れている青空を眺めていた。
少女がいるその島は美しいリンゴがあり、妖精達が住む世界で冥界に近い場所と言われている伝説の島にして、美しき楽園……アヴァロン。
そのアヴァロンにいる少女は赤い瞳にショートカットのボーイッシュな紺青色の髪を持っているがスタイルのよい肉体にビキニの水着のような露出度の高い服装を着用し、脚や腕に軽装の鎧を装着していた。
やがて、食べているリンゴの身が少女の口の中に消えていき、食べられない芯だけが残る。
「ムシャムシャ……ゴクン!さて……リンゴを食べた事だし、そろそろ行こうかな?」
少女はリンゴの芯をポイッと捨てると体の関節を伸ばしながら立ち上がる。そこに一人の女性が近づいて少女が捨てたリンゴの芯を拾い上げて睨みつける。
「……あなた。ゴミを捨てないって親から教わらなかったの?」
「えー、良いじゃないですか、姉上。ここに捨てたリンゴの芯とかはこの島の地面がリンゴの木の栄養として勝手に吸収してくれるんですから」
「だとしても、せめて穴を掘って埋めときなさい。あなたには立派な“爪”があるんですから」
「はーい」
姉に怒られた少女は返事をするが、その指には普通の人間の爪しか生えていなかった。
これで土を掘るのはいささか難しそうだが、少女はその事を気にせずに海の方へ歩いた。
「それじゃあ、行ってきますね、姉上。ちょっと本国に行って、契約者を見つけて暴れてきます」
「……やはり、“元の肉体”に戻るつもりは無いのですね?」
「ありませんよ。眠っているとしても所詮は大昔の体ですし、復活したところでこの世界には邪魔ですよ。それに……」
少女の背中に平行した縦の二つの切れ込みが浮き出て、次の瞬間には蝙蝠のような巨大な翼が現れた。
「この体、とっても気に入っているんです。では、行ってきます、姉上」
その翼を羽ばたかせて大空へと飛び上がる少女。
女性は軽く手を振って少女を見送る。
「行ってらっしゃい、“アルトリウス”。いえ……」
女性は軽く首を振り、少女――アルトリウスの名前を言い直した。
それは、アルトリウスの昔の姿で、今とは大違いの姿の時の名前……。
「“アーサー”」
そして、それは世界にその名を轟かせている偉大なる騎士の王の名前だった。
.
ラストに出て来たアルトリウスことアーサー……すいません、これだけは言っておきます。
Fateファンの皆さん(特にセイバーファン)、もし不快な思いをさせてしまったら、申し訳ありません。
m(_ _)m
パクリと言われたくないので言いますが、セイバーさんとは性格から見た目まで何もかも違います。
これはあくまで私がオリジナルで考えました。
取りあえず次回はセシリアさんの出生の秘密についてのお話です。
アルトリウスさんの次の登場予定はバトル途中になります。
それでは、失礼します!




