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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第4章 騎士王顕現編
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第38話 騎士王を夢見る少女

はい、始まりました。


騎士王顕現編!


舞台は日本からぶっ飛んでイギリスに移ります!


長くなるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。

青い空、白い雲。

いつもと変わらない空に見えるが、周りの景色が違う所為か全く違う空に見えてしまう。

「本当に日本じゃないんだな……当たり前だけど」

突然だけど、俺達は故郷の日本から遠く離れた異国、ヨーロッパ大陸のイギリスにいた。

ちなみに俺が今いる場所はイギリスの観光名所の一つである英国の国会議事堂、ウェストミンスター宮殿に来ていた。

共にそびえ立つ巨大な時計塔、ビッグ・ベンが鐘を鳴らして時刻を知らせる。

日本には無い壮大な建築物を目の当たりした俺は感動を覚えた。

そして……。

「天音!時間がないんだから早く見に行こうよ!」

「親方様~、早く来るでござるよ~!」

「旦那様!奥様がお待ちですよ~!」

俺の視線の先では千歳と刹那と麗奈が手を振りながらはしゃいでる。

『ピィー!キュピピー!』

『見ろ、旦那!あんな大きな建物は初めて見たぞ!』

更には白蓮と銀羅も初めての海外にすごく興奮している。

「はいはい。今行くから落ち着いて」

まるで五人の子供を持つ保護者、もしくは修学旅行の引率の先生みたいな気分で俺はみんなの元へと軽く走った。

どうして俺達がイギリスの地にいるのかというと、それは一週間前の千歳の一言から始まった。



ドタバタの一学期がようやく終わると同時に天聖学園の夏休みが始まり、俺はアリス先生の地下室で宿題をやっている時に千歳が突然言い出した。



「天音!私と一緒にイギリスに行ってくれる?」



「……は?イギリス?」

この子は急にどうしたんだと俺は耳を疑った。

「おいおい、千歳ちゃんよ、急にどうしたんだ?」

「もしかして、二人で駆け落ち……?」

隣で一緒に宿題をやっている恭弥と雷花さんもこんな事を言っている始末だ。

「違ーう!私と天音の仲はお互いの両親が認めているから駆け落ちする必要はないの!」

「じゃあ、どうしてイギリスなんか……ちゃんと内容を具体的にかつ、わかりやすく説明して」

「うん、わかった。それじゃあ、最初に……私の家、天堂家は良家だって知っているよね?」

「ああ。まーな」

千歳の家、天堂家は日本でも有数な良家だ。その血筋の幅はとても広く、全国にある天聖学園は全て天堂家が仕切っている。他にも世界人獣協会の幹部にも天堂家の人間が何人か勤めている。

つまり、天堂家はこの現代の日本において人間と聖獣の関係を一心に背負っていると言っても過言ではないとんでもない一族なのだ。

その一族の一人である千歳がどこぞの神社の跡取りである俺と婚約者関係だと言うのだから驚きだ。

「それで、天堂家の娘として昔から色々なパーティーに招待されるの。それで、今から五年ぐらい前かな……私はとあるパーティーでイギリス人の女の子と出会って、友達になったの」

「イギリス人の女の子?」

それは初耳だ。今まで千歳がイギリス人の友達がいるなんて聞いたこともないから。

そして、この直後に千歳はとんでもない言葉を口にするのだった。




「でも、その女の子はただの女の子じゃないの。その子は……英国の王女様なのよ……」




「へぇー、英国の王女様ね…………ん?王女様?」

「そう、王女様。名前は“アルティナ・G・セイヴァー”。名前と顔ぐらい知っているでしょう?」

俺の思考が完全に停止した。何だって?千歳と英国の王女様が友達同士だって?そんなビックリ衝撃事実を突然告げられても簡単には信じられないって。

「あ、あはははは、千歳ちゃん。そ、そんな嘘をつくなんて、お、お前らしくないぞ?」

「し、信じられないよ……」

恭弥はともかく雷花さんも動揺している。そりゃあ、友達が突然そんな事を言って信じられるわけがない。

「嘘じゃないよ。ほら、これが証拠の写真!」

千歳はポケットから一枚の写真を取りだして俺たちに見せてきた。

それはちょうど十歳の頃の千歳がドレスに身を包んでいて、隣には可愛らしい金髪の英国人の少女が写っていた。

その少女の顔はニュースや新聞で何度も見たことがあり、見覚えがあった。

「信じるしかないな、これは……」

「ま、マジすか……」

「本当に王女様だ……」

写真に写っているのは間違いなく五年前の英国の王女……アルティナ・G・セイヴァー様だった。

「それで、一週間後にアルティナの十六歳の誕生パーティーがあって、それに招待されたの」

写真の次に千歳が取り出したのは、昔ながらの赤い蝋で封がされた手紙だった。蝋には英国王室の紋章が刻印されていた。ってか、王女様を呼び捨てにするとは……千歳と王女様が本当に友達同士なのだと改めて痛感した。

「手紙には前から私が話していた私の婚約者の天音に会いたいって書いてあるの。だから……お願い!天音、一緒にイギリスに行ってアルティナに会って欲しいの!」

なるほど、そう言う事か。どうして千歳がイギリスに一緒に行ってくれと言う理由が明確になった。だけど……。

「別に構わないと言うか、王女様に呼ばれるのはとても光栄な事なんだけど……本当に俺が行っていいのか?俺は神子とは言え、庶民だぞ?」

王女様に呼ばれると言うことはつまり、王女様の住まいである宮殿に行くと言うことだ。いくらなんでも千歳と違って身分がかなり違うから場違いな気がしてならない。

「そんな事は関係ないよ!アルティナは例え身分が違っても私を小さい頃からずっと支えてきた天音に会いたいって書いてあるの!だから……何度も言うけど、天音、私と一緒にイギリスに行って!!」

掌をあわせて必死にお願いをする千歳。こんなに必死にお願いをする千歳を見たのは久しぶりだった。恋人がこんなに頼み込んでいるのにこのまま断るのはあまりにも無粋だ。王女様に会うのはかなり緊張するけど、男としてここは腹を括るしかない。

「わかった。イギリスに行ってやるよ」

「本当!?」

「ああ。俺が行かなかったら、お前の面目が立たないからな」

「うん!ありがとう、天音!!」

「おおっ!?」

千歳は満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてきた。

「あー、はいはい。分かったから離れてねー」

千歳を優しく俺から剥がして座らせると、何かを思い出したかのように手を叩いた。

「あ、そうだ!実はアルティナが婚約者の天音以外に、私の友達に会いたいって手紙に書いてったの。だから……恭弥、雷花。一緒に行かない?来週の一週間後から、約一週間の期間だけど……」

王女様は俺だけじゃなく、千歳の友達の分のチケットも用意してくれたらしく、その心意気に感心したが、恭弥と雷花さんは頭を抱えて悩んだ。

「ぬぁあああ……い、行きたいけど、実はじいちゃんに呼ばれてエジプトに行くことになっちゃんたんだよ……」

「私も、実家の用事と、トールの付き添いで行けないの……」

残念ながら、二人は用事があり、行けないみたいだ。

「そうなんだ。それじゃあ――」

「失礼するでござる!」

「失礼します」

地下室の扉が開き、先日の戦いから自由の身となった二人の忍者、刹那と麗奈が出て来た。

「無事に拙者等の戸籍登録と学園の転入手続きを終えたでござるよ~」

「何もかも厳武様のお陰で、本当に感謝しきれないです」

忍者である二人に現代社会の戸籍は存在しないため、学園長の厳武じいさんが裏から手を回して二人に戸籍を作り、天聖学園の転入手続きをしてくれた。二人は二学期から俺達と同じ学年で学園へ通うことになる。

ちなみに、俺を主と決めて仕えることになった刹那は電話で実家の蓮宮神社にいる当主代理の親父に話し、とりあえず一時的に蓮宮家で預かることになった。今度実家に帰ったときに詳しい話をして、本当に刹那を蓮宮家に属するかはそこで決める予定だ。正直な話、刹那の事は友達で仲間だと思っているから部下や配下だとは思っていない。ただ、親父本人は本物の忍者って聞いて電話越しで嬉しそうな声を上げていたが……。

もう一人の忍者でくノ一の麗奈は何と、千歳に仕えることになった。何か、千歳に惹かれるモノがあったらしく、そのままあっさり天堂家に仕える形で千歳のくノ一となった。

ちなみに呼び方だけど、俺達が婚約者同士だからと言う理由で俺の事を『旦那様』、千歳の事を『奥様』と呼んでいる。

それに乗じて刹那も千歳の事を『奥方様』と呼ぶから、俺の悩ませる原因がまた増えてしまっている。

「せっちゃん、れいちゃん!ナイスタイミング!」

「何でござるか?」

「はい?」

「実はね……――」

千歳は今回のイギリスに行く話を二人に話すと……。

「了解でござる!」

「我ら、神影流忍者。お二人のイギリス旅行の護衛、承りました!」

俺達の前で跪いて共にイギリスに行くことを了承した。忍者らしく護衛として共に行くと言うので思わず苦笑してしまった。

最後の仲間である雫先輩と迅先輩は夏休みの初めから雨月家の実家に帰っているので学園には不在だ。千歳も電話で確認したところ、二人も用事があるのでイギリスには行けない。よって、イギリスに行くメンバーは千歳と俺、刹那と麗奈。

そして……。

『ピィー、ピヒィー♪』

『ほぅ、日本から遠く離れた西洋……英国か。観光地としても有名な土地だから楽しみだな』

俺と千歳の契約聖獣の白蓮と銀羅も共にイギリスに行くことをなった。

日本で召喚された聖獣は天聖学園、もしくは日本政府で正式に登録をしているなら、契約者と一緒に日本から国外に出ることができ、俺達はすぐに人間の四人分と、天聖学園で登録されている白蓮と銀羅の聖獣二体分のパスポートを手配してもらった。

しかし、ここで一つ問題があった。それは……。

「しまった……俺、英語がダメだったんだ……」

中学生の頃から本当に英語が苦手でテストはいつも赤点ギリギリ。

英文法はめちゃくちゃ、リスニングはちんぷんかんぷん。ついでに刹那と麗奈も英語は話せない。こんな状態で言語が英語主流のイギリスに行くのはとても大変だ……。

「心配ご無用!こんな事もあろうかと……アリス先生!!」

千歳が指を鳴らして呼ぶと、この地下室にあるアリス先生自身が使う自室からいつものドレス姿と違うラフなワンピースを着てアリス先生が出て来た。

「はいはい。ちょうど完成したわよ~!」

握った片手を開くと、そこには赤、白、緑の三つの宝石がそれぞれ埋め込まれたシルバーイヤリングがあった。

「千歳の要請で作った私特性の魔法具……“オールトランサー”よ」

「「「オール、トランサー?」」」

「これを耳たぶに挟んで付ければあらゆる言語を自国語……あなた達なら日本語ね。それをこのイヤリングに込めた魔法で自動的に翻訳し、どんな言語を話す相手と自由に話が出来るのよ」

「ま、マジですか!?」

「おお、でござる!」

「流石はアリス様!最強の魔女と言われるだけはあります!」

俺達の為にそんな夢のような魔法具を用意してくれたアリス先生に感動する。

「後はあらゆる言語で書かれた文章も読めることが出来るのよ。さあ、みんな。イギリス旅行、楽しんできてね」

アリス先生からオールトランサーを受け取る。俺は赤い宝石、刹那は白い宝石、麗奈は緑の宝石のイヤリングを受け取る。

「はい、ありがとうございます。お土産、たくさん買ってきますね!」

「アリス殿、感謝感激でござる!」

「ありがとうございます、アリス様!」

「いえいえ。それじゃあ、千歳……約束通りのお菓子をちょうだい♪」

眩しいくらいの輝くような笑顔を見せるアリス先生に千歳は白い箱を取り出して渡す。

「はい。これが約束のケーキ」

「わーい!早速ティータイムにしましょう♪」

箱を受け取ったアリス先生は嬉しそうに体を回転させている。

「千歳……あのケーキは?」

「雑誌やテレビで今話題の美味しいケーキよ。あれを対価に先生にオールトランサーを作ってもらったの。天音、英語がダメなのは知っているからね」

「すいませんね、英語は本当にダメなので……」

「誰にだって得手不得手はあるわよ。それよりも、楽しみだね。イギリス旅行」

「ああ、そうだな」

こうして俺達はイギリス王女・アルティナ様の誕生日パーティーに出席するためにイギリスへと旅立つこととなった。

すぐにイギリスに行くための買い物や準備を済ませ、数日後には空港に向かい、旅客機で日本から遠く離れた異国、イギリスに飛んだ。

俺にとって初めての飛行機はドキドキしながらの空の旅で、白蓮や銀羅も目を輝かせながら窓から見る景色を楽しんでいた。

そして、飛行機の長旅を終えてイギリスに到着すると、王女様と謁見する誕生日パーティーの前日までイギリスの観光地を巡る事になり、現在に至る。

耳たぶに挟んだオールトランサーは無事に機能を果たして、英語が日本語に聞こえていて、三人と二体に引っ張られながらも観光している。みんなが暴走しないようにブレーキ役の俺が一番苦労しているが、せっかくの旅行だからみんなを抑えつつ楽しむことにしている。

ウェストミンスター宮殿とビッグ・ベンを観光した後は近くにある食材やお土産が売っている市場に向かった。食材は特にこれといった珍しいものはなかったが、イギリスのお土産の定番である紅茶とそれに関連したグッズがたくさん売られていて、お菓子作りが趣味の俺にとって珍しく目を輝かせる光景だ。

興奮してたくさん並べられている紅茶を見ていると……。

「きゃっ!?」

「千歳?」

振り向くと、千歳が尻餅をついていた。

「大丈夫か?」

「いたた……はっ!? 天音、バッグを捕られた!?」

「何っ!?」

「今私にぶつかった人がバッグを捕っていった! えっと、あいつよ!」

千歳が指さした先には千歳が持っていたバッグを持って走り去る男の姿がいた。なるほど……観光客を狙った盗人か。だけど、盗んだ相手が悪かったな!

「白蓮!」

『ピィーッ!!』

俺の頭に乗っかっていた白蓮が鳳凰化して空から盗人を追いかける。

「刹那! 麗奈!」

「「はっ!!」」

俺の声に反応して忍者コンビの刹那と麗奈が現れる。

「千歳のバッグがあの男に盗られた! 奪い返すぞ!!」

「「承知!!!」」

俺は脚に霊力を込めて走り、刹那と麗奈は忍力を体に纏わせて高く飛んだ。

「逃がさないぞ、盗人!!」

「拙者等の前で盗みとはいい度胸でござるな!」

「奥様の荷物を取り返したら、私達があなたを適度に痛めつけて警察に突き出します!」

剣士と鳳凰と忍者二人……この布陣が相手なら盗人も一分もしないうちに捕獲できる!

俺達が追いかけているのを知ると、盗人は必死に逃げるがその先に一人の金髪の女の子が立っていた。

「どけぇえええええええええっ!!!」

盗人が懐からナイフを取り出した。危ない!あの女の子が……。

すると、女の子は大きな剣を取り出して両手で構える。




「俺様の前で、悪行は許しはしない!」




女の子の眼光が真紅色に輝き、長い金髪が揺らぎ、剣が太陽の光で反射して輝きを放つ。

ザンッ!!!

剣の一閃が煌めき、一瞬で盗人に斬撃を加えて倒してしまった。

盗人は声を上げる間もなく倒れてしまい、女の子は盗人が盗った千歳のバッグを持ち上げた。

「おーい、このバッグは誰のだー?」

「それ、うちのです!」

俺達は地上に降り立つと、女の子から千歳のバッグを受け取る。

銀羅に乗った千歳が遅れて到着し、戻ってきたバッグを強く抱きしめた。

「ありがとうございます!お陰で助かりました!!」

「いいさ。あんた達、観光客だろ?近頃、観光客を狙う奴が増えているからな気をつけな」

女の子は長い金髪と真紅色の瞳で見た目が可愛らしいが、何故か男物の服を着ていて口調も男っぽかった。

女の子は剣を鞘に収めて倒れている盗人の首根っこを掴んで担いだ。

「それじゃあ、こいつを“騎士団”に突き出してくるわ」

騎士団……?と、俺達は首を傾げたがすぐに納得した。イギリスには警察がなく、代わりに“帝国騎士団”と呼ばれる組織がある。

基本的には警察とは変わりないが、騎士道精神を元に国と民を守るために命を懸けて戦う“騎士”で構成された組織だ。

「じゃあな。我が国、イギリスを目一杯楽しんでな」

手を軽く振って立ち去ろうとする女の子。だが、女の子は何かを思い出したように突然立ち止まった。

「おっと、立ち去る前に是非とも俺様の名前を心に刻んでくれ!」

担いだ盗人を雑に地面に下ろし、再び鞘から剣を抜いて肩に担ぐ。




「俺様の名は、“セシリア・ペンドラゴン”! 将来……このイギリスを守る騎士の王となる女だ!!」




騎士王を夢見る少女、セシリア・ペンドラゴン。




この少女との出会いが、イギリス全土を揺るがす大きな戦いの始まりを告げるものだとは、俺達はまだ知らなかった……。



.

新キャラで今回のキーキャラ、セシリア・ペンドラゴン。


言葉遣いは少々乱暴ですが、正義の心を持つ優しい女の子です。


これから天音達とどう絡んでいくのか書いていく私自身も楽しみです。


次回は英国王女のアルティナ様が登場します。

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