第4話 幼馴染の波乱な契約
大変お待たせしました。
今回はヒロインの千歳ちゃんの契約です。
契約する聖獣は誰かな?
恭弥に続いて、クラスメイト達は無事に聖獣を召喚して契約の証であるAGを生み出していく。
「次、天堂千歳さん。お願いします」
「はーい」
千歳の番が来て、ホルスターにあるレイジングを確認しながら魔法陣の上に乗る。
「我が名は“天堂千歳”。人の世界と聖なる獣の世界、二つの世界を結ぶ架け橋をこの聖なる樹の下に繋ぐ。我は夢を追う者也。共に往かん、永遠の地へと。我が純粋なる魂と共鳴せし者よ。我の声、思いに応えよ! 来たれ、我と共に契約を望むこの時を!!」
滑らかな口調であっという間に召喚魔法の呪文を詠唱する。
「聖獣、召喚!!!」
ドガァン!
恭弥たちと同様にダイナマイトとは違う爆発が千歳の目の前で起きる。さあて、千歳の聖獣はどんなのかな? 俺と恭弥は期待しながら目を凝らして千歳の召喚した聖獣を見る。煙の中から現れたのは……。
「狐……?」
千歳が召喚した聖獣は大きめの体をした銀色の狐だった。焔先生の天狐の烽火と同じかと思ったが、圧倒的に違うところがあった。
「九本の尻尾……?」
その狐の生えている尻尾の数が九本もあり、それが狐の存在感を大きく見せていた。九本の尻尾を持つ狐と言えばアレしかいなかった。
「あなた、“九尾”ね?」
千歳は九本の尻尾を持つ銀色の狐――九尾に向かって微笑みながら言った。九尾とは、万単位の年月を生きた古狐が化生したものだともいわれ、数ある妖狐の最終形態の存在である。つまり、天狐の烽火よりも長い年月を生きた狐であるということだった。
「ヒュー♪」
千歳は思わず口笛を吹いてしまった。それほどまでに九尾の白銀の姿に美しい姿と思ってしまったからだ。
「こんにちは、九尾の狐さん」
『シャァーッ!!』
九尾の毛が逆立ち、九本の尾から青い狐火を作り出して千歳に向けて一斉に発射した。
「えっ……?」
「千歳ぇっ!!」
とっさに走り出して動いた俺は狐火が千歳に当たる寸前に千歳に抱き着く形で飛び込み、地面に倒れて転がりながら狐火を回避した。
「痛っ……千歳、大丈夫か!?」
「え、う、うん!」
「あいつ……千歳を突然攻撃するなんて……焔先生! 早く九尾を聖霊界に送り返さないと!」
このままだと千歳だけじゃなく他の人にも犠牲が及ぶ可能性が十分に考えられる。その前に九尾を聖霊界に返さなければ危ない。
「は、はい! わかりました。すぐに……」
「待ってください!」
先生が九尾を聖霊界に送り返す魔術を発動する直前に千歳が止めた。
「私……九尾と話してみます。だから、送り返すのは少し待ってください」
「で、ですが……」
「お願いします」
珍しく真剣な表情をする千歳だった。教師は生徒を守る責任があるが、同時に生徒の意思を尊重しなければならないという思いが焔先生を迷わせた。
「……わかりました、天堂さん。あなたの好きにしてください。ですが……」
先生は烽火を呼び出して肩に乗せ、袖の下から数本の大きな針を取り出して指の間に挟んだ。おそらくあの針が先生と烽火のAGを作り出すための契約の媒体だろう。
「天堂さんが大怪我しそうになったその時はその九尾を眠らせて聖霊界に送り返します。良いですね?」
優しそうな表情から一変し、眼光が鋭くなった先生の顔は戦士の顔だった。
「ありがとうございます、焔先生」
千歳は会釈をすると、ベルトに取り付けたレイジングが収められたホルスターと制服の下に隠し持っているダイナマイトの束を俺に渡した。
「天音、少しの間だけ持っていて」
「持っていてって……お前、武器はどうするんだ?」
「さすがに警戒している相手に武器を持っては行けないよ。じゃあ、行ってくるね~」
一体何を考えているんだこの幼馴染は!?
「それじゃあ、行ってきまーす」
「お、おい! 千歳!」
俺の制止を無視して千歳は無防備で九尾の元へ向かう。九尾は相変わらず毛を逆立てて警戒心むき出しで睨み付けていた。しかし、そんな九尾を相手にも関わらず、千歳はいつものようにニコニコと笑っていた。
「こんにちは、九尾さん。私の名前は――」
『シャアアアアーッ!!』
ズドォン!!
九尾が狐火を放ち、千歳が自己紹介をしようとした瞬間に狐火が体に直撃した。狐火が千歳の体に直撃し、クラスメイト達がざわざわと騒ぎ出す。
「ち――」
俺がまた千歳の名前を叫びそうになった時、
「ふぅー、なかなか熱いわね。あなたの狐火」
炎と煙の中から手で払って、まるで何ともないような事を言いながら千歳が出てきた。着ている制服は少し焼け焦げていたが、皮膚などは全く火傷をしておらず、髪の毛も焦げてなく、千歳は無傷同然だった。
「もう、自己紹介を邪魔するなんてマナーが悪いよ? 今度こそ聞いてね。私は天堂千歳よ。あなたは?」
千歳は笑顔を向けながら歩き、九尾の名前を尋ねた。しかし、九尾の警戒心は更に増し、無数の狐火を作り出して次々と千歳に向けて飛ばした。
「……難しいなぁ」
ズドォン! ドゴォン!! ゴォオン!!!
無数の狐火が全て千歳に直撃して今度こそダメかと思ったが、狐火の中の千歳は無事だった。制服の半分は完全に焼け焦げているが、本当に肌は火傷しておらず千歳は歩みを止めなかった。一歩ずつ確実に九尾近づき、逆に九尾は狐火を受けても平気な千歳を恐れて後ずさりした。
「私はね、こう見えても体がとっても頑丈なんだよ。だから、あなたの狐火を食らっても平気なのよ♪」
ウィンクを送りながら九尾に近づく千歳。そうだった……千歳は昔から体がとても頑丈で、昔ダイナマイトが誤爆しても平気だったことを今思い出した。体力は一般の女子高生並みだが、体の耐久力だけは生まれ持った天性の能力で誰よりも頑丈なのだ。
『シャァア……シャァアアアアアアッ!!』
その頑丈な肉体で千歳は確実に九尾に近づいて行くと、九尾は千歳を拒絶するように最後の力を振り絞るかのように再び無数の狐火を作り出した。そして、その無数の狐火を一つに収縮させて巨大な狐火の球体を作り出す。
「千歳!」
「天堂さん!」
あまりの狐火の力に俺はとっさに蓮煌を鞘から抜こうとし、先生も針に烽火を宿して九尾を止めようとしたが、
「来ないで!!」
千歳が大声で叫ぶように俺と先生を静止した。思わず急停止してしまったが、その隙に千歳は地を蹴って飛びこむように走り出した。
『フシャアアアアアアアアッ!!!』
九尾の拒絶が最大限となり、力を極限まで収縮させた狐火を発射した。
ドォオオオオオオオン!!!
巨大な狐火の球体が千歳に直撃し、今までにない大爆発を起こした。
「ち、千歳……」
「天堂さん……そんな……」
自分の眼を疑い蓮煌を手から落としそうになり、先生は膝をついてしまった。九尾は狐火を大量に作って発射しすぎて体力が大幅に削られ、息切れをしている。
その時だった。大爆発の後の煙の中から小さな両手が九尾の顔を包み込んだ。
『シャァア!?』
「つーかまえた♪」
千歳の手が九尾の顔を包み込むと、そのままギュッと抱きしめた。千歳の格好は制服の半分以上が燃え散っていたが、裾や腹の部分だけが燃えたので奇跡的に胸とかは見えていなかった。
九尾が暴れて千歳は振り払おうとするが、千歳は九尾を二度と離さないように抱きしめる力を強くした。
「私はあなたとお話をしたいの。そして……出来ればあなたと聖獣契約したい」
耳元で自分の気持ちを伝えると、九尾はスッと暴れるのを止めた。
『…………何故、だ?』
突然、澄んだ水の様な高い声が響いた。
「ふぇ? 今の声……九尾さんの?」
強く抱きしめるのを止め、九尾を開放した千歳は九尾の綺麗な青い瞳をしている目をじっと見る。九尾は口を小さく開いてその澄んだ声を発した。
『何故、私を選ぶ? 私はお前を傷つけたのに、何故だ?』
傷つきながら正面から狐火を受け止め、酷く拒絶してもなお自らを選んだ千歳の考えに九尾は理解不能だった。
「何故って、答えは簡単だよ。私があなたをとっても気に入ったから」
『気に入った……だと?』
単純すぎる答えに流石の九尾を首を傾げる。そんな九尾の顔を見ながら千歳は笑みを浮かべて九尾の体を優しく撫でた。
「うん。あなたの凛々しい顔や、この綺麗でサラサラしている銀色の毛皮。それに、このモフモフした九本の尻尾がとっても素敵だから」
『……初めてだ。私をそのように褒めてくれたのは……』
「そうなの? 本当に九尾さんは綺麗なのに」
『…………“銀羅”』
「え?」
『銀に羅刹の羅で銀羅だ。お前に私の名前を預ける』
九尾の名前、銀羅を聞いて千歳の顔が明るくなっていく。拒絶していた銀羅が千歳に名前を明かしたということはつまり……。
「それじゃあ……」
『お前と契約してやろう。人間がどんな生き物なのかをこの目で見極めてやる。そして、悪に染まった人間がいるなら、私自らが制裁を下してやる』
銀羅の目は明らかに人間を憎んでいるような眼だった。しかし、そんな眼をしていても千歳は笑ってみせた。
「悪い人間か……わかったよ。もし私にできることがあるなら何でも言ってね。私のダイナマイトでどんな敵もぶっ飛ばしてあげるから♪」
あろうことか銀羅の制裁に手を貸そうとしている千歳。相も変わらず恐ろしい女の子だ……。
『……お前は変わった人間だな。ひょっとして、狐が化けているのではないか?』
九尾である銀羅も疑っている。確かに千歳は本当に狐が化けていてもおかしくないからな、と思う俺がいた。
「あはは。褒め言葉として受け取るよ。それでは、早速……天音!」
「お、おう!」
俺は預かったレイジングの入ったホルスターを千歳に投げ渡した。
「サンキュー♪」
ホルスターを再びベルトに装着すると、千歳はレイジングを華麗な手さばきで回転させて右手に持つ。
「人獣契約を行うよ。良いね? 銀羅」
『ああ。早くしろ』
「うん!」
千歳は魔法陣の上に立つと、レイジングを銀羅に向ける。そして、契約のための呪文を唱える。
「我が名は“天堂千歳”……我は汝と契約を望む者也。この万物に連なる器具に汝の肉体と魂を一つに。汝と我が魂を繋ぎ、新たな姿となれ」
まるでもう完璧に暗記したかのようにスラスラと呪文を唱えると、銀羅の体の全てが粒子となってレイジングの中に入っていく。
「人獣契約執行……神器、“アーティファクト・ギア”!!」
千歳と銀羅。そして、契約の媒体となったレイジングのAGの姿……それは元の数倍も大きくなった巨大な銃だった。ボディは銀羅の毛皮と同じく銀色に輝き、弾丸を装填するリボルバーの部分は九尾の尻尾の数と同じく“九発”だった。
「これが……私のアーティファクト・ギア……」
まるで子供を抱きしめるように千歳は銀羅が宿ったレイジングを優しく抱きしめた。
「これからよろしくね、銀羅」
『……ああ。よろしくな、千歳』
素っ気なく応える銀羅だったが、確かに千歳を名前で呼んだのだった。
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と言うわけで、千歳ちゃんの契約聖獣は九尾でした。
九尾って、敵役でけっこう出てますが、味方は少ないんですよね。
なのであえて九尾を出してみました。
そして、千歳ちゃんの耐久力がまさかの鉄人でした(笑)
次回はいよいよ主人公の天音君です。
さて、どうなるでしょうか……。