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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第3章 図書館城の魔女編
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第37話 常闇と月光

遂に長との決着が付きます。


さあ、せっちゃんと麗奈はどうなるでしょうね?

「餓鬼共が……後悔するがいい!!」

 怒り沸騰の爺さんは印を結び、胸元から翡翠の光が放たれる。もしかしなくてもあれは忍獣石の輝き!?

「忍獣召喚!!!」

 手を床に置き、爺さんの忍獣が召喚されるが、その前に地震が発生して土と岩で作られたこの決闘場が粉砕された。そして、地面がひび割れて地中から出てきたのは……。

「でっかい蛇!?」

それは全長が図りきれないほどの巨大な蛇だった。

「あれは長の忍獣、大蛇でござる!!」

「まさか“覇邪”まで出すなんて。おじいさま、本気ですね」

『何と禍々しい気を放つ蛇……』

 大蛇――覇邪の出現に俺達は緊張を高めた。

「やれ、覇邪!!」

『シャァアアアアアアア!!』

 覇邪は威嚇の声を発しながら俺達に襲い掛かってきた。

「散れ!!」

 俺達は覇邪に喰われないように別れて飛び、同時攻撃をする。

「蓮宮流、鳳凰炎刃羽!!」

 俺は双翼鳳凰剣から鳳凰の羽を模した炎の刃を生み出して放ち、

「忍法・手裏剣倍加の術!!」

 刹那は投げ飛ばした手裏剣を数ではなく今度は大きさを倍加させ、

「行きますわよ、幸助! 火遁・炎竜螺旋!!」

 麗奈は大きく息を吸ってから炎で出来た竜を吐き、三人で大蛇を攻撃する。

「クシャアアアアアアアアアアア!!」

 しかし、覇邪にとって俺達の攻撃は虫が攻撃する程度のものらしく表面を覆う鱗には傷は一切なく、それどころか逆に怒らせたらしい。しかし、敵は覇邪だけではない。

「覚悟!!!」

「はっ!? 刹那、上です!!」

 麗奈が叫び、刹那の真上に爺さんが苦無を片手に襲い掛かってきた。やっぱり長の狙いは刹那だったか!

 しかし、刹那をそう簡単に殺すことはもうできない。何故なら……。

『刹那は私が守ります!!』

 銀色の閃光が爺さんを横切り、弾き飛ばした。

「月姫!!」

「おのれ、銀狼がぁっ!!」

 刹那が召喚した銀狼の月姫。その身体能力は非常に高く、爺さんを軽く受け流して弾いた。

「助かったでござる、月姫!」

『しかし、この大蛇と長の二人を同時に相手するのは酷です。どう対処いたしますか?』

 月姫の言うとおり、このままでは対処の方法がない。長の実力のレベルははっきり言って俺達より何十倍も強い。大蛇の覇邪も巨体な聖獣でその力は未知数……。

 正直、俺達で本当に勝てるかどうかわからない状況だった。

『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』

「って、考えている暇はないか!!」

 覇邪が口を開いて俺を喰おうとしている。そんなお前にとびっきりの炎を喰わしてやる!

「蓮宮流――」

 双翼鳳凰剣を交差させて覇邪の口の中に炎の攻撃を繰り出そうとした時、




「頼むわよ、私のかわいい子供たち」




 突如として巨大な爆炎が覇邪を包み込んだ。そして、俺の前に屈強な肉体に炎髪の大男

が現れた。

「サラマンダー……?」

一度しか対面したことが無かったが、それは紛れもなく火の精霊・サラマンダーだった。

そして、この精霊を宿している人物の事を知っている。

「大丈夫かしら? 天音」

 背後に声が聞こえ、ハッと振り向いた先にはその人物がいた。

「ハァイ。こういう時には確か……こう言うのよね。真打ち登場! かしら?」

「ア、アリス先生!!」

 神書の魔女、アリス先生の颯爽とした登場だった。何でここに居るのかと聞こうとしたが、その前にアリス先生は指を鳴らした。

「燃やしたあとは……エヴァ!!」

 アリス先生の前に魔法陣が現れ、中から氷のドレスを身に纏った氷の精霊・エヴァが冷酷な眼差しを向けながら現れる。エヴァは手を前にかざすと、炎に包まれた覇邪を一瞬で氷漬けにした。そして、覇邪自身に限界が来たのか煙のように消えてしまい、内部に巨大な空洞がある氷だけが残った。

「す、凄い……」

「き、貴様は神書の魔女!? 何故ここに!?」

 爺さんはアリス先生の事をしているらしく、この場に登場したことに驚いている。

「全く、大人気ないこと極まりないわね……神影十蔵」

「神影、十蔵?」

 それが爺さんの名前と納得し、今度こそここに居る理由を聞いた。

「それにしても、どうしてアリス先生がここに?」

「あら? 私は最初からこの近くにいたわよ」

「何ですと!?」

「成長期のあなた達の成長の為に心を鬼にして見守っていたのよ。だけどね……」

 いつも穏やかな表情を浮かべるアリス先生は十蔵の爺さんを怒りの眼差しを向けた。

「十蔵。あなた、いい歳をして恥ずかしくないの? 未来ある子供たちの成長の芽を潰すなんて行為は長い時を生きている人間にとってタブーな事ぐらいわかるでしょ? 私達老人は次の世代を育て、見守ることが仕事でしょ?」

「無関係な貴様には関係ないわ!!」

「無関係? 残念だけど、天音やあなたが倒した子たちは私の大切な教え子で、つい昨日せっちゃんが負った怪我を私が治したのよ。関係は大有りよ。もしこれ以上この子たちを傷つけようとするなら……」

 いつものように指を鳴らし、アリス先生の体から十一の魔法陣が現れて、その中から様々な姿をした精霊が現れる。サラマンダーとエヴァを加えてアリス先生が生み出した十三の精霊『エレメンタル・スピリッツ』が召喚された。

「史上最強の魔女である私と……私の子供たちの十三の精霊があなたのお相手をするわ。」

英雄豪傑、威風堂々、豪華絢爛……そんな言葉が頭に過ぎるほど今のアリス先生はとても頼もしかった。

「うぐっ……」

 そして、十蔵じいさんはそんなアリス先生を前に柄にもなく怯んでいた。やはり忍者の長といえども、やはり千年生きてきたこの魔女さんとは大きく実力が離れているらしい。

「でも、このまま私が戦っても意味ないから一つ提案があるわ」

「提案だと?」

「ええ。せっちゃんとあなたの一騎打ちの決闘よ」

 本日二度目の決闘の開催に指名された二人は驚く。

「せ、拙者と長で、決闘……?」

「ふん。何を言うか。わしと刹那では実力が違う。それを分かっていて戦わせるのか?」

「もちろんこのまま戦わせたらせっちゃんに勝ち目はないわ。そこで……せっちゃんに銀狼とのアーティファクト・ギアを授けます!!」

「「「アーティファクト・ギア!?」」」

 忍者の三人がそれに驚いた。そういえば忍者達は忍獣とのアーティファクト・ギアを使っていない。何か理由があるのだろうか?

「詳しい理由は分からないけど、神影流忍者は掟でアーティファクト・ギアを使わないのよね。でも、せっちゃんは神影流を抜けたから別にアーティファクト・ギアを使っても問題は無いでしょう?」

「……良いだろう。勝手にするが良い」

 なんか少々無理やりな気がするけど、アリス先生の考えに十蔵じいさんは少し考えた後に、渋々了承した。

「拙者が、アーティファクト・ギアを……?」

「そうよ。あなたと銀狼のアーティファクト・ギアがあればあの頑固爺さんに勝てる可能性が出てくるわ」

「……わかったでござる。月姫、良いでござるか?」

『構いません。私の命はあなたと共にありますから』

 月姫は刹那に寄り添い、すりすりと忍者装束に体を擦りつけた。

「いい答えね。じゃあ、契約媒体となるあなたが長年使ってきた道具を選んで」

「それなら、拙者のこの忍者刀……“無月”を契約媒体にするでござる。この刀は拙者が長年使ってきた大切な武器でござるから!」

 刹那は契約媒体で忍者刀を選んだ。あれならアーティファクト・ギアとしても良い媒体になるはずだ。

「うん、それなら媒体として充分ね」

 契約媒体の確認を終えるとアリス先生は指を鳴らして地面に魔法陣を刻み込む。その魔法陣はアーティファクト・ギアを生み出すための契約の陣だった。

「さあ、この陣の中心に立って」

「はいでござる!」

「さて、今から私と同じ言葉を一文字も間違えないで言ってね。注意しておくけど、あなたの口癖の“ござる”は禁止よ」

「は、はいでござ……はい!!」

 いつもの口癖の時代錯誤な「ござる」の語尾を我慢して刹那は契約に臨んだ。

「ふふっ。それじゃあ、行くわよ……我は汝と契約を望む者也」

「わ、我は汝と契約を望む者也……」

 ぎこちない感じで刹那はアリス先生の言葉を復唱していく。

「この万物に連なる器具に汝の肉体と魂を一つに」

「この万物に連なる器具に汝の肉体と魂を一つに……」

 月姫の足もとにも魔法陣が現れると同時に、体が崩れていき、光の粒子となる。その粒子が刹那の手に握られている忍者刀・無月の中に入り込み、光と魔法陣を帯びる。

「汝と我が魂を繋ぎ、新たな姿となれ」

「汝と我が魂を繋ぎ、新たな姿となれ……」

 月姫の体の全てが粒子となり、無月と一つになり、その形が大きく変化していく。

「人獣契約執行……神器、アーティファクト・ギア」

「人獣契約執行……神器、アーティファクト・ギア!!」

契約が無事に完了した月姫と無月が一つに融合すると、三日月のような形をした鋭く尖ったまるでブーメランに似た不思議な剣が誕生し、更に刹那の体を覆うように銀狼の毛皮のマントが現れた。

「これが、拙者のアーティファクト・ギア……」

刹那はブーメランに似た剣――ブーメラン剣の内側にある取っ手を持ち、軽く上に投げると本当にブーメランのように回転しながら飛んで投げた刹那の元に戻る。

刹那は戻ってきたブーメラン剣をまるでずっと使ってきたかのようにあっさりとキャッチして肩に担いだ。

「決めたでござる。お主の名前は……“銀狼月牙(ぎんろうげつが)”!!!」

刹那はブーメラン剣を銀狼月牙と名付けると、銀狼月牙から夜空に輝く月と同じく金色の月の光を放った。まるでそこに本当に三日月があるようだった。

「さあ、これで準備は整ったわ。先にどちらかが相手に一撃を与えたらその時点で勝負は終わり。ちなみに、文句は言わせないから、よろしくね♪」

この場は完全にアリス先生が掌握しており、十蔵の爺さんも頷くしか道はなかった。

「あ、でもその前に十蔵の折れた忍者刀を直さなくちゃね。メタリアス!」

アリス先生が呼ぶと、黄金の鎧に身を包んだ金の精霊・メタリアスが十蔵じいさんの前に出て来て、手からドロッとした金属を生み出すと、折れた忍者刀の刃同士を接合させて忍者刀を新品同様の元通りの形にした。 

十蔵爺さんは元通りになった忍者刀を軽く叩き、色々な角度からじっくりと見る。

「……刀が直ったのは良いのだが、お主は何を考えておるのじゃ?」

「単純にあなた達神影流忍者とせっちゃんの因縁を断つ為よ。あの子達の歩む道に余計な石ころは置いておきたくないのよ」

「ふむ……まあ、良い……」

「はいはーい。それじゃあ、とっとと始めましょうか!」

アリス先生の仕切りで刹那と十蔵爺さんの文句なしの決闘が始まろうとする。

「お互い、闇の力を使う者同士だから……戦いの舞台は私が整えるわ。シャドウ、よろしく!」

指を鳴らしたアリス先生は美少女悪魔である闇の精霊・シャドウが前に出て、華麗な踊りを見せると刹那と十蔵爺さんを呑み込むように半球体の形をした闇のドームを生み出した。

「って、これじゃあ戦いが見えないんですけど!?」

「まあまあ、私達は信じてせっちゃんを待ちましょう」

暢気に答えるアリス先生に麗奈は両手を合わせ、祈るように額に持って行った。

「刹那……」

『姐さん……』

そして、その後ろ姿を大蝦蟇の幸助が心配そうに見つめていた。



アリス殿が生み出した闇のドームの中では何も見えない暗闇が広がっているでござるが、常闇の忍力を使う我ら二人には問題なく互いを認識できているのでござる。それに加えて拙者の体を覆っている銀狼のマントが月光の光を放っているでござる。

「さて……行くか」

長は直していただいた刀を逆手に構える。

「その前に、長。一つお願いがあるでござる」

死ぬかもしれないこの一戦でどうしても言っておきたいことがあるのでござる。

「何じゃ?言ってみよ」

緊張の一瞬でござるよ……。

「この勝負……拙者があなた様に勝利したその時は自由の身だけでなく……お孫様の神影麗奈殿を拙者にくださいでござる!」

まだ麗奈とは婚約を結んではおらぬが、麗奈の唯一の肉親である長にお願いするでござる!

「き、き、貴様ぁああああああああああああ!? 忍者としての自由の身だけでなく、わしから麗奈を奪っていくつもりか!? どこまで貪欲なのだ、貴様はぁあああああああああああああ!!」

おお、長が目を今にも飛び出しそうな勢いで物凄く怒っているでござるよ。だが、拙者も負けてはいないでござる!

「拙者は麗奈が大好き……否、愛しているでござる。だから、死ぬその時まで、麗奈といつまでも一緒にいたいでござる!」

これが拙者の気持ち……いつか麗奈に伝えたい愛の想いでござる。

「えぇい、幼顔であっさりと愛を語りおって! 貴様がわしに万が一の可能性で勝つことができたら麗奈をくれてやるわ!!」

「本当でござるか!? では……」

拙者は新しく手に入れた力であるアーティファクト・ギアの銀狼月牙を後ろに振り上げ、

「ふん、尋常に……」

長は刀に常闇の忍力を纏わせ、




「「勝負!!!」」




我らは同時に走り出した。お互いの体力はかなり消費しているので、長期戦にはならず、勝負は短期決戦でほんの十秒もかから僅かな時間で決まるでござる。

「はぁ……はあっ!!」

体を回転させ、遠心力を利用して銀狼月牙を勢い良く投げ、長に向かって不規則な動きをしながら狙うござる。

「金遁・真体鋼化の術!」

しかし、そこは神影流最強の忍者、素早く印を結んで体を鋼鉄のように硬くして銀狼月牙の一撃を弾き返したでござる。だが、拙者もまだまだ攻め続けるでござる!

「手裏剣大百花!!」

残っている全ての手裏剣を投げて忍法で分身させるでござる。

「甘い!!その程度でわしに傷を付けられぬぞ!」

金遁で硬化した肉体には分身させた手裏剣の刃は弾かれるだけで、その間に投げ飛ばした銀狼月牙が拙者の手元に帰り、取ってを掴んで横に持つでござる。

ここまで来たら小細工は通用しないのは明白。一か八かの賭に出るでござる!

「いざ、参るでござる!!」

銀狼月牙と毛皮のマントが輝きを増し、拙者は全力で走るでござる。

「特攻か!?だが、そんな事ではわしに勝てぬぞ!!」

長は常闇の忍力を纏わせた刀を振り下ろし、巨大な闇の斬撃を作り出したでござる。

「終焉の暗闇!!」

常闇の忍力を使う拙者にはわかるでござる。その闇の斬撃は振れたものを全てを飲み込む力を持っており、もし触れたら拙者の命は無いでござる。

長に見えないよう毛皮で隠しながら片手で印を結び、勝利への布石を繋ぐでござる。

すぐ目の前まで迫る闇の斬撃を銀狼月牙の光の力で防ぐことは可能かもしれない……だが、それでは長に勝つことは叶わぬでござる。

「忍法……」

忍力を体全体に伝わらせて、身体能力を限界以上まで活性化させ、マントを大きくはためかせ……。

ビュン!!!

「なっ!?」

銀狼月牙とマントを残して長の視界から消えるでござる。

「どこに……はっ!?」

「もう、遅いでござる……」

銀狼の毛皮はこの暗闇でよく輝く……しかし、それ故にそこに本人がいると完全に思い込んでしまうでござる。その一瞬の隙に衣類を囮にする“空蝉の術”で毛皮を囮にして背後に回らせてもらったでござる。

拙者が使える残り少ない常闇の忍力を全て右手に込めて拳を作り、長に習った忍の極意を思い出すでござる。

「刹那流……」




忍の極意とは深き闇に隠れ……相手を騙し……敵を討つこと!!!




月影瞬神破(げつえいしゅんしんは)!!!」




拳から鋭い刃の如く尖った常闇の忍力を放ち、長を貫いたでござる。

「くっ……見事……」

しかし、長の体には傷がないでござる。拙者の常闇の忍力で与えた攻撃はあくまで精神攻撃なので、長の持つ精神力が限界直前まで減らしただけでござる。拙者は倒れる長を受け止め、決闘が終わりを告げると覆っていた闇のドームが少しずつ晴れるでござる。



アリス先生の闇の精霊・シャドウが生み出した闇のドームに刹那と十蔵爺さんが包まれて約十秒……。

「刹那!おじいさま!!」

たったそれだけの時間で闇のドームが崩れていくように消え去って麗奈が涙を目に浮かべながら出て来た二人に駆け寄る。すると、刹那の手にある銀狼月牙が一瞬輝くと、契約が解除されて月姫が出て来て刹那に寄り添う。

「麗奈。大丈夫でござるよ、長は少し気を失っているだけでござる。しばらくすれば……」

「うぅっ……麗奈……」

「おじいさま!!」

十蔵爺さんは気絶していたらしくすぐに目を覚まし、ふらふらになりながら麗奈の方を向くと何があったのか突然涙を流した。

「うっ……くっ……」

「お、おじいさま!? どうして涙を……!?」

「幸せに……幸せになるんじゃぞ!!」

「えっ?あ、はい……」

涙を流しながらあまりに切羽詰まった表情を浮かべていたので、麗奈は訳が分からなかったが取り上げて頷いて返事をした。

「うむ……刹那!麗奈を悲しませたら今度こそ貴様を抹殺する!! よく覚えておけ!!」

「はっ! この命に代えても麗奈を幸せにするでござる!!」

「えっ? はっ? はいっ? 一体、何の話をしているのです?」

刹那と十蔵爺さんは何の話をしたのか分からず、麗奈は頭に大量の疑問符を浮かべながら若干混乱している。

「では、わしはここで失礼するとしよう……」

「十蔵。良かったら私が里まで送ってあげましょうか?」

アリス先生は指を鳴らして大きな魔法陣を展開してそう言った。あの魔法陣はおそらく別の空間を繋ぐ転移魔法が発動されていて、十蔵爺さんの故郷である神影流忍者の里と繋がっているのだろう。

「おぉ、ありがたい……」

十蔵爺さんは魔法陣のところまで歩き、入る直前で止まる。

「……麗奈、刹那よ」

「はいっ!」

「はいでござる!」

呼ばれた二人は反射的に返事をする。

「これは神影流忍軍長としてではなく、神影十蔵個人の言葉じゃ」

「「えっ?」」

振り向いたその顔に忍者の長としての面影はなく、人として、一人の孫娘の祖父としての穏やかな顔だった。

「二人共、己が見つけた運命の主と共に自由に、そして……幸せに生きよ。さらばじゃ……」

「おじいさま……おじいさま!!!」

「長!!!」

麗奈と刹那は手を伸ばして十蔵爺さんを掴もうとしたが、爺さんは魔法陣の中に入り、転移先の里に帰ってしまった。残された二人は爺さんの残した言葉を噛みしめ、心に深く刻んだ。

そして、麗奈は一つ、あることに気がついた。

「そう言えば、おじいさまはどうして刹那だけでなく私にまで自由と言ったのでしょうか……? それに、刹那が私を幸せにとは……?」

俺とアリス先生もそれが非常に気になり、耳を澄ませて聞いてみる。

「……麗奈!」

「は、はい?」

刹那は何かを覚悟したような表情を決めると、麗奈の肩をガシッと掴んだ。



「麗奈!二十歳になったら……拙者と祝言を挙げて共に夫婦(めおと)になろうでござる!」




「…………はいぃっ?」

「「なっ……!?」」

麗奈はもちろん、近くで聞いていた俺とアリス先生も驚愕して耳を疑う。

そして、正気を取り戻して今の言葉の意味をはっきり理解した麗奈は顔を真っ赤にして、

「……えぇえええええぇええええぇえええええええっ!?!?」

当然と言うか、当たり前と言うか、刹那からの突然のプロポーズを受けて麗奈は絶叫をあげた。

「あ、あぅ、しゅ、しゅうげ、め、めお……」

嬉しさのあまり麗奈の頭の中でバグを起こしているらしく、普通に喋れていない。

「あらあら、せっちゃん。可愛い見た目に反して漢ね……」

「何だか千歳に似た何かを持っているみたいです」

あのプロポーズは俺が千歳に言った時みたいで妙にデジャヴを感じる。麗奈は高まる鼓動が響く胸を押さえながら刹那の告白に応える。

「あ、あの、そ、その、よ、喜んで!?」

「本当でござるか!?」

「は、はい!わ、私をあなたの妻にしてください!!」

おお、刹那と麗奈が遂に結ばれて婚約者になった。新たなカップルの誕生した瞬間……。

「「「おめでと~う!!!」」」

「うおっ!?」

いつの間に目を覚ましたか、千歳と雫先輩と雷花さんの三人娘が出て来て麗奈を祝福した。

「おめでとう、麗奈ちゃん! 私、千歳って言うの! よろしくね!」

「あ、は、はい! よろしくです!」

「おめでとうございます。末永くお幸せに」

「あ、ありがとうございます」

「早速お祝いしなくちゃね……」

「ええっ!? そ、そんな、悪いですよ!」

 祝福を踏まえたガールズトークが始まり、さっきの戦いの静かな雰囲気が一気に吹っ飛んでしまった。

「よう、せっちゃん。突然だが冒険部に入らないかい?」

「刹那……今度俺と模擬戦をしないか?」

そして、刹那には二人の男子が囲むと、恭弥は刹那の肩を抱き、迅先輩は腕を組んで小さく笑みを浮かべていた。

「あはは、拙者は親方様の傍に居るので良いでござるよ。拙者の磨き上げた忍者スキルを大活躍させるでござる!」

「おう、頼もしい言葉だ!」

「楽しみにしてるぞ……」

どうやら刹那も我らが冒険部の仲間入りを果たしたらしい。この調子だと、婚約者の麗奈も冒険部の仲間になるのは時間の問題だろう。

「やれやれ、また騒がしくなりそうですね」

「仲間が増えるのは良い事よ。それにしても、天音の冒険パーティは最終的にどんな感じになるのかしら? 下手をしたら有能な軍の一小隊と同等の戦力になるかしら?」

 アリス先生はそんな事を言うが正直それはどうなるかわからないから何とも言えない。

「パーティか……どうなるでしょうね?」

俺はアーティファクト・ギアの契約を解除し、頭に雛の姿をした白蓮を乗せる。

だけど、戦力云々よりか今はこれだけ言える。

「戦力はともかく、仲間が増えるのは良いことです。行こうか、白蓮」

『キュピー!』

俺は刹那達の元へ歩き、楽しそうな話に加わる。



私は十三の精霊を体の中に返し、楽しそうに話をしている可愛い生徒達の姿を見ながら、手に魔法陣を浮かび上がらせる。

「本当に忍者を仲間にしちゃうなんてね……」

魔法陣から少し前に占った時の忍者と犬と蛙のカードを取り出して笑う。

まさか本当に忍者と関わりを持つなんて思っても見なかったから余計に笑ってしまう。蓮姫の子孫にして末裔の少年君は本当にトラブル体質を持っているから凄いわ。

「さて……次のあの子達はどんな出会いをするのかしら?」

百枚の近いカードを取り出して投げ、少し先の未来に出会う存在について占う。

そして、占いで手元に来たカードはまたもや三枚。

「次は……王と、騎士……それに竜? もはや日本を飛び出して海外の存在ね……これも退屈せずに済みそうかしら?」

これから天音が巻き込まれる面倒な出来事と、新たな出会いに私は退屈しのぎとなる楽しみを増やすのだった。




.

刹那&麗奈の新たなカップル誕生(笑)


これにてこの章も終わりで、次回から新章突入です。


新章タイトルは……『騎士王顕現編』です!


舞台は日本からいきなりイギリスに飛んでしまいます!


前から書きたかった『アーサー王物語』をネタにしたイギリス全土を揺るがす壮大な(?)お話です。


ですが、その前に以前から話していたキャラクタープロフィールを更新します。


乞うご期待です!

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