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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第3章 図書館城の魔女編
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第36話 開かれた道

お待たせしました!


最近忙しくてなかなか更新できませんでした。


今回は神影流忍者の長とのバトルと、刹那の忍獣の御披露目です!

 突然現れた爺さんは神影流忍者の長だった。爺さんも刹那や玲奈と同じ黒い忍者装束に身を包んでいて顔は布でほとんど隠してあってまったく見えない。

 麗奈は自分の祖父である長に駆け寄った。

「お、お待ちください、おじいさま! 刹那は私との決闘に逃げることなく正々堂々と挑み、私に勝利しました!これでは約束が……」

「だとしても、刹那をこのまま野放しにすればいずれ我が里の脅威になるやもしれん。掟に従い、里の脅威を排除するのが長としての役目!」

「お止めください! それでは何のために刹那は私と……」

血統の約束通りに刹那の排除を止めようと呼びかけるが長の目が鋭くなって腕を振り上げた。

「黙れ」

爺さんは何と、自分の孫である麗奈の頬を叩いてぶっ飛ばした。

「うぐぁっ!?」

「麗奈ぁっ!」

『姐さん!!』

刹那は麗奈を受け止めて地面に激突するのを防ぎ、幸助はすぐに駆け寄る。今のはたきの威力が強かったらしく、麗奈は気を失っていた。

「くっ、長! あなたと言う御方は……!!」

「わしに逆らう人間は例え孫であろうとも容赦はしない……」

自分の孫でさえ手に掛ける長のやり方に怒りがわき上がってくる。

「はぁ? 里の脅威だと?歳を取って所為で、その固い頭がボケましたかね?」

「何ぃ?」

「あ、天音殿!?」

既に白蓮と契約を執行して三つのアーティファクト・ギアを装着している状態で俺は刹那の前に立つ。

「おい、爺さん。耳が遠いかもしれないけど、よく聞いときな。刹那みたいに立派な自分の道を見つけようとしている奴が里の脅威? どうしたらそんな考えになるのか理解できないな」

「貴様……口の効き方に気を付けろ……」

「あいにく、俺はあんたみたいな孫に手をかけるような腐った年寄りに敬意を払うつもりは無いな」

お年寄りは大切にするっていつも思っているけど、今回ばかりはその思いに背いて鳳凰剣零式の切っ先と同時に自分の戦意を爺さんに向ける。

「少なくとも……俺の友達をそんな下らない里の掟を使って殺そうとしている奴にはな!俺はあんたをぶっ潰して刹那を守る!!」

「あはは、今日の天音は熱いね~」

「だが、その意気込みは良いぜ」

「私も、同感……」

「では、私達全員であの長さんを止めましょう。迅、すぐに御剣の解刃を」

「承知した……」

俺の両隣に“刹那を守る”と言う意見に同意した冒険部の仲間がアーティファクト・ギアを構えて並び立つ。

「み、みんな……どうしてでござるか……? どうして、拙者なんかを……」

刹那はどうして自分を守ってくれるのか分からず、呆然としながらそう言った。

「友達を守るのに理由なんているのか?」

「友、達……?」

「刹那は麗奈と下がっていろ。それと……もしもの時は俺達に構わず全力で逃げろ!」

「天音殿!?」

「そうはさせん! 土遁・岩牢決闘場!!」

爺さんは刹那を逃がさないために高速で印を結んで忍力を地面に流した。すると、先程麗奈が使った土遁の忍術以上の地震と地割れが発生し、地面の土が俺達を囲むように壁を、そして天井を作り出してドーム状の建物を作り上げた。ご丁寧に壁一面にはおそらく火遁と木遁を同時に使って作ったであろう何十本もの松明で建物の中を明るく照らしてくれた。

「この忍術は敵を逃がさず、戦いの儀を行うための術……わしを倒さぬ限り、ここから出ることは出来ぬぞ!!」

「ようは倒せばいいわけだな? さあ、It's Show Timeだ!!」

全員ガーディアン・カードを投げてすぐにガーディアン・アクセサリーを体に装着して透明な結界を纏う。

「覚悟しな、爺さん!」

「天音、援護は任せて!」

先陣を切って鳳凰剣零式を肩に担ぎながら走り出し、千歳は清嵐九尾の銃口を爺さんに向けて引き金を引く。

「妖炎弾、瞬炎乱舞!」

銃口から青い炎の弾丸が発射され、千歳の操作によって複雑な弾道を描きながら飛ぶ。

銃の弾丸がそのような弾道を描くとは思いも寄らなかった爺さんは目を疑い、忍者刀を構えて身構える。

しかし、それに反して妖炎弾は爺さんではなく、足元に着弾して炎と煙を上がらせた。

「千歳、ナイスアシスト!」

これで爺さんの視界を潰せた。一気に攻撃して爺さんを眠らせる!

鳳凰剣零式から炎を放出させて刃に絡ませ、肩から振り下ろす。

「蓮宮流、紅蓮裂刃!!」

得意げに振り下ろした重い一撃だったが、信じられない光景を目にする。

「狙いは良いが」

爺さんが鳳凰剣零式に手を振れた瞬間、刃に纏う燃え上がる炎を一瞬で消してしまった。

「まだまだ未熟……」

そして、有り得ないことに、爺さんは片手で超重量の鳳凰剣零式の刃を受け止めてしまった。爺さんからかつて戦った精霊狩りの瑪瑙とは違う殺気を放っていた。

「信じられないか?なら、そのまま理解できずに死んでしまえ」

もう片方に握っていた忍者刀を振り上げてまっすぐ俺の頭に向かって振り下ろされた。

俺は思考を停止してしまい、目の前の凶刃を避ける暇がなかった。

「如意棒、虎空砕牙!!」

しかし、忍者刀が振り下ろされた瞬間に、如意棒によって刃が真っ二つに砕かれ、折れた刃が床に突き刺さる。

「何……?」

「雷電狂乱、サンダー・スパーク・ショック!」

「ぐおっ!?」

忍者刀が折れて驚いた次の瞬間に爺さんの体に電撃が走り、体が痺れた。

「天音、下がれ!」

「早く……!」

「恭弥、雷花さん!!ありがとう!!」

痺れて動けない爺さんの腕を蹴り飛ばして鳳凰剣零式を手から引き離し、そのままみんなの元へ下がる。

「大丈夫か、天音!?」

「怪我は、ありませんか……?」

「恭弥、雷花さん……助かったよ、本当にありがとう……」

「これは一筋縄ではいきませんね」

「こっちも最初から本気で行かないとな……」

爺さんの予想以上の実力に恭弥達は気持ちを引き締める中、千歳は手を顎に添えてじっと何かを考えていた。そして、後ろで待機している刹那に視線を向けて話しかける。

「ねー、せっちゃん。あのお爺さんは麗奈さんと一緒で五遁使い?」

「そ、そうでござる。麗奈は天才五遁使いと言われているでござるが、長も五遁使いで威力は桁違いでござる」

「なるほどね……みんな、あのお爺さんに向けて六方向からの一斉攻撃をしましよう」

「六方向から?」

「天音の紅蓮裂刃が防がれたのは多分……“火属性”と相性の良い“水属性”の術を使ったからに違いないわ」

千歳の火属性と水属性という単語に何のことだかわからなかったが、すぐに答えがわかった。

「属性……? そうか、“五行思想”の事だな!?」

「That's Rightよ、天音」

千歳は指を鳴らして人差し指を俺に向けた。

五行思想とは古代中国で考えられた自然哲学で、万物は木・火・土・金・水で構成されていると言われており、五つの元素は互いに影響を与えて生滅盛衰によって万物が変化し、循環するという考えがある。

そして、五行の“相剋”と呼ばれる“相手を打ち滅ぼす”関係があり、“水は火を消す”と言われている。

単純に現すなら、水をかければ火は消える、水属性は火属性に強い……そう言うことだ。

先程の紅蓮裂刃があっさり受け止められたのはおそらく爺さんが何らかの土遁の忍術を使い、土属性で鳳凰剣零式の火属性の力を打ち消したからだ。

そうとわかれば話は早い。あの爺さんは様々な属性の優劣を熟知していて、敵の弱点である属性の遁術を使って敵を倒すことを得意としているのだろう。

「だから、全員で属性の異なる技で攻撃すれば勝機は見つかる!」

「それなら、雷花さんの雷で麻痺をしている今のうちだな!!」

「応よ!」

「了解です……」

「わかりましたわ!」

「承知」

俺達は爺さんを遠くから囲むように六方向に別れてアーティファクト・ギアを構える。

「逆巻け、螺旋の如く!アクア・スパイラル・ランス!!」

雫先輩の手から離れたユニコーン・ザ・グングニールが高速回転すると同時に聖なる水が生み出され、一角獣の槍から螺旋の水槍となった。

「暴れな……サイクロン・ブレイカー!」

迅先輩が前に突き出して構えたイージス・オブ・ペガサスから小さな竜巻が生み出され、周囲の空気を巻き込んで少しずつ巨大化していく。

「轟雷爆散、ライトニング・ブラスター」

雷花さんの体から複数の雷の球体が現れ、それが回りながらトール・ハンマーに纏う。

「如意棒、竜蛇撃震!!」

恭弥が片手でくるくると回した如意棒はゆっくりと伸びながら竜や蛇のように動いてくね曲がる。

「妖炎弾、九尾乱閃!!」

千歳の背後に銀羅と同じ九本の尻尾が現れ、尻尾の先からサッカーボールぐらいの大きさの狐火の炎弾を生み出す。

「蓮宮流、焔翔鳳凰穿!!!」

そして俺は自身の霊力を含ませた炎の球体を作り出して鳳凰剣零式を両手で構えて掲げ、それぞれが属性を付与した技の繰り出す準備を整えた。

「せーのっ!」

千歳の合図で一斉にアーティファクト・ギアを振るう。

「いけぇええええええええええーーーっ!!!」

六方向からの同時攻撃が爺さんに向かって放たれる。

流石に同時攻撃を受ければ爺さんも倒せるはずだ。




しかし、この時の俺達は完全に爺さんの実力を見誤っていた。




「深淵の暗闇」




 突然、爺さんの体から黒い何かが噴出して俺達を包み込んだ。

「何だ!?」

 目の前が暗闇となり、俺達は目標を完全に失った。これはもしかしてさっき刹那が使った常闇の忍力なのか!? そして、この暗闇の中で仲間たちが次々と倒れることになる。

「土は水をせき止める……」

「キャアッ!?」

「雫先輩!?」

雫先輩の悲鳴!? 一体、この暗闇の中で何が起きているんだ!?

「火は風によって力を増す……」

「うぐっ……」

「迅先輩!!」

ガーディアンを起動しているのに短時間でやられている?まさか、ガーディアンの結界を壊すほどの一撃をこの暗闇で撃っているのか!?

「土は降り落ちる雷を受け流す……」

「あっ、がっ……」

「雷花さん!」

目を閉じ、霊力を放出させながら体に纏って五感を高めて周りを見渡すが、仲間以外の気配を何も感じ取れない。

「木は土を締め付け、養分を吸収する……」

「ぐがぁっ!?」

「恭弥!!」

次々と聞こえてくる仲間の悲鳴に耐えきれず炎を纏う鳳凰剣零式で灯りを灯そうと振り回したが何も見えない。

「水は火を打ち消す……」

「天音、逃げ――きゃああっ!!」

「千歳ぇっ!!」

千歳の悲鳴が耳から頭に直接響く。一体、どうすればいいんだ?

何も見えない、何も出来ない深い暗闇の中で今まで感じたことのない恐怖に捕らわれてしまう。

「そして、最後。貴様も同様に水は火を……」

「忍法・光刃無月!!」

何も光らないはずこの暗闇の中で一筋の光が俺の前を横切り、キィン! と刃が交差する音が鳴る。その直後に辺りを覆っていた暗闇が晴れて松明の灯りが照らされる。

暗闇から目に映った光景はまず俺の目の前で刹那が忍者刀で爺さんの攻撃を防いでいた。爺さんの手には先程恭弥が折った忍者刀が握られていたが、折れた刃から透明な水色の刃が出ていて、それが水で作られた刃だとすぐに分かった。

そして次に目に映ったのは千歳達の持つアーティファクト・ギアの属性の弱点で作られた小さな牢屋に閉じこめられて動きを封じられている光景だった。

雫先輩は土、迅先輩は火、雷花さんは土、恭弥は木、そして千歳は水……全員意識を失っていてアーティファクト・ギアも牢屋と同様のそれぞれの弱点の属性から作られた鎖で縛られていて中の聖獣が契約の解除が出来なくなっていた。

「闇を切り裂く光の斬撃か……やるではないか、刹那よ」

自ら生み出した闇を切り裂かれ、尚且つ攻撃を防がれた爺さんは刹那を誉めた。

「……長、もうお止めください。拙者の、拙者の首を差し出すでござる」

「刹那!?」

「ほぅ、観念して自ら首をワシに差し出すか?」

「これ以上、恩人達の傷つく姿を見たくないでござる。だから、彼らにはもう手を出さないで欲しいでござる」

「……良かろう」

爺さんは折れた忍者刀に生えた水の刃を消して数歩下がる。

「首はどうする?」

「拙者自ら切り落とすでござるよ……それから、麗奈の事を頼むでござる」

「ふむ、承知した」

刹那はその場に正座で座り、首に懸けていた忍獣石を外して床に置く。

「刹那!お前、どうして……」

「天音殿。先程そなたが仰った言葉、とても嬉しかったでござる。もし、もし、来世で会うことになったら、また美味しいご飯を作ってくださいでござる!」

「刹那ぁっ!!」

そんなことを約束しなくてもいつでも作ってやるのに、どうしてこんな事に……。

刹那は愛刀の忍者刀を首に当て、涙を浮かべ……。




「さようならでござる!」




笑っていた。




「あぁっ……あああぁああああぁああああああああぁあああああっ!!!」




気付けば俺は腹から声を出して叫び、鳳凰之羽衣で動ける最大速度で動いて、

「馬鹿野郎!!」

「うぐぁっ!?」

首を切り落とそうとする刹那の頬を思いっきり殴り飛ばしていた。

その際首を切り落とそうとした忍者刀は床に突き刺さり、刹那は壁を転がった。

「あ、天音殿……?」

「こんの、馬鹿刹那が!そんな事をして良いと思っているのか!?」

「し、しかし、この場を円滑に解決するには拙者の命を差し出すしか……」

「自己犠牲しかないだと?そんなこと俺が許さない!!」

鳳凰剣零式を地面に突き刺すと、右手を左手の掌に刻まれている顕現陣を叩く。

俺の脳裏に思い出されるのは亡くなった叔父の聖獣、龍神・澪を救うことが出来なかった光景……。

「もうこれ以上……俺の目の前で、誰かが死ぬのは嫌なんだよ!!」

数年に及ぶ魔の呪縛から解き放たれた澪を助けることが出来なかった。澪の魂自体は救われたが、今でもその時の光景が俺の心に刻まれている。

始めて目の当たりにした死の光景が俺自身に死の恐怖を与えていた。

「来い、氷蓮!!」

顕現陣から璃音兄さんから譲り受けた氷の如く美しい神剣・氷蓮を呼び出してそのまま左手に持ち、右手で床に突き刺した鳳凰剣零式を引き抜く。

「契約執行! 鳳凰剣百式!!」

そして瞬時に氷蓮を契約執行させて氷の大剣、鳳凰剣百式を生み出して二刀流の鳳凰剣である双翼鳳凰剣を構える。

「来いよ、爺さん。こいつでさっきの闇を切り払ってやる!!」

「愚かな……刹那の覚悟を踏みにじったその罪は重いぞ!深き闇に墜ちよ、深淵の暗闇!!」

再び爺さんの体から光を灯さない深き暗闇を生み出して周囲の空間を包んだ。だけど爺さん、俺は言ったよな……闇を切り払ってやるって!

「行くぞ、白蓮!」

『うん、ぜんりょくぜんかいだね!』

「アーティファクト・フォース!!」

俺の霊力と白蓮の天力が双翼鳳凰剣で混ざり合い、膨大な力が俺の体の中を駆け巡り、鳳凰剣零式と鳳凰剣百式を重ねてアーティファクト・フォースの光を纏わせた。

「光り輝け、鳳凰の光!!」

重ねた双翼鳳凰剣から聖なる光が放たれ、晴らす事が出来なかったこの暗闇の空間を薙ぎ払った。

「何!?」

爺さんは俺の僅か数歩前にいた。自らの闇をいとも簡単に払われたことに酷く驚いていた。重ねた双翼鳳凰剣の聖なる光は巨大な剣の形を成して、鳳凰の羽を模した光が幾重にも重なり、俺が放つ事が出来る最強の剣が煌めく。

「蓮宮流、鳳凰光翼剣!!!」

 天を貫く光翼剣が天井を突き破り、真上には見事な満月が輝いていた。

「はぁああああああ、せいやぁあああああああああっ!!!」

 光翼剣を横に薙ぎ払うように動かし、捕らわれている千歳達を助けるためにまず五つの属性の檻を破壊した。檻を破壊したことにより千歳達は解放され、その場に倒れかけるが、

『千歳!!』

 銀羅を初めとするそれぞれのアーティファクト・ギアも属性の鎖から解放され、自ら契約を解除して自分の契約者を受け止め、そのまま安全なところまで下がる。

『旦那、一気に攻めたてろ!!』

「任せろ!!」

 光翼剣を薙ぎ払った状態から床を蹴り、再び光翼剣を天に向けて振り上げる。

「むぅん!! はあっ!!」

 逃げられないと判断した爺さんは折れた忍者刀に忍力を込めて正面から光翼剣を受け止めた。

「ぬっ、ぬおおおおおおおおおおおおぅ!!?」

だが、俺の最大威力を誇る鳳凰光翼剣をその程度で防がれるわけもなく、その薄い防御を突破して切り払い、爺さんを壁に叩きつける。

「ぐっ……このわしが、まさかこんな餓鬼に……」

叩きつけられた爺さんは呼吸を整えてすぐに立ち上がるが、光翼剣の一撃とは言え、体には相当のダメージを負っていた。

「す、すごいでござる……」

 今の攻防を見た刹那は目を丸くして驚いていた。そして時間が大分経過したことにより時間切れとなった鳳凰光翼剣の光が消え、重ねた双翼鳳凰剣を離して俺は刹那の方を向いた。

「刹那」

「は、はいでござる!」

「お前をこんなところで死なせない。生きろ!!」

「天音殿……」

「生きて、お前の信じる道を歩め。そうじゃなきゃ、俺達が戦う意味が無くなっちゃうからな!」

 ニッと笑みを浮かべる俺に刹那は何かに気付いたかのように目を見開いていた。

「見つけた……」

「は? 何を?」

「拙者はどうしてこう鈍感なのでござろうな……自分の探し求めていたものがすぐ目の前にあるのを気づかずに……」

 そう言うと刹那は俺の前で忍者刀を床に置いて跪いた。

 そして、まさか自分がこんな言葉を向けられるとは思いもよらない言葉を口にするのだった。




「天音殿……否、“天音様”! どうか、拙者を貴方様の配下にして欲しいでござる!!」




「…………はぁあ!? ちょっ、刹那君、それはどういう意味なのかな!?」

「要するに、拙者の命を含む、全てを捧げられる存在――拙者の(あるじ)になってもらいたいのでござる!!」

「いやいやいや、どうしてそうなった!? 俺なんかよりもっといい主になる人間がいるって!!」

「そんな事はござらん! 拙者の主は天音様しかおりません!!」

「天音様って、様は止めろ! 恥ずかしいから!」

「なら、昔風に親方様で!!」

「なお悪いわ!!」

 どうしてこうなったのかわからないけど、刹那の目は本気そのものだった。頭を抱えて悩んでいると月の光が天井の穴から差し込んで床を淡く照らした。

 そして、その時だった。

ドクン……ドクン!!

 大きな心臓の鼓動が響き、床から眩い翡翠色の光が放たれた。

「何だ!?」

「忍獣石が光っている……?」

刹那が床に置いた忍獣石から翡翠色の光を放ち、俺は忍獣石を拾うとそのまま刹那に投げ渡した。

「刹那、遂に念願の時が来たみたいだ。お前の忍獣を召喚しろ!!」

 白蓮を召喚した俺には分かる。忍獣が刹那の召喚を待っている!

「了解でござる、親方様!」

「だから親方様止めいっ!!」

刹那は忍者刀を床に突き刺して受け取った忍獣石を首に懸けた。

「さあ、行くでござるよ!!」

麗奈が大蝦蟇の幸助を呼び出した時と同じ忍獣を召喚するための印を結び、床を強く叩いた。

「忍獣召喚!!!」

煙が舞い、今まで召喚出来なかった刹那の忍獣が御披露目となり、煙の中から現れた忍獣の姿に俺達は目を奪われるのだった。

「「白銀の狼……?」」

刹那の前に現れたのは夜空に煌めく月の如く、美しい輝きを放つ白銀の毛皮を持つ狼だった。白銀の狼は刹那の前で座ると口を開いた。

『漸く会えましたね、刹那』

「しゃ、喋った!?」

『ええ、私は人語を喋りますよ』

「そ、そうでござるか」

『今まで、召喚を拒んでいたことをお許しください。あなたの持つ闇の力が私を蝕むことを恐れて召喚に応えなかったのです』

まさかの衝撃の事実が判明した。刹那の常闇の忍力がこの狼自身の命を削るとは思いもよらなかった。

「そうだったのでござるか!?しかし、何故今出てきたのでござるか!?」

刹那がそう尋ねると狼は俺の方を向いた。

『あなたの主である蓮宮天音の強き想いに私自身も覚悟を決めなければならないと感じ、召喚に応じました。例え、この身が闇に蝕まれて滅んでも構いません。刹那、共に戦いましょう!』

闇から恐れていた狼は俺の言葉で覚悟を決めたらしく、自らの命を懸けて刹那と共に戦うことを選んだ。

「……わかったでござる。拙者もこの命を懸けて戦うでござる! それで、狼殿。お主の名前は何と言うのでござるか?」

『私は“銀狼の月姫(つきひめ)”。よろしくお願いします、刹那』

「よろしくでござるよ、月姫!!」

 忍獣・銀狼の月姫を無事に召喚した刹那だったが、気を緩む暇はなかった。

「遂に刹那も己の忍獣を召喚したか。よかろう、二人同時に掛かって来るがよい!!」

 爺さんは折れた忍者刀を捨てて無手で構える。

 俺達は武器を構えて戦闘態勢に入るが、

「麗奈流、五遁捕縛陣!!」

突如として凛とした高い声がすると共に爺さんの足元から様々な属性の鎖が現れた。

「こ、この術は!?」

複数の属性の鎖は一斉に爺さんの体を縛り上げた。

「おじいさま、少しそこで大人しくしていてください」

「麗奈!?」

あの鎖を作り上げて爺さんを縛ったのは気絶から目覚めた麗奈だった。麗奈の表情は先ほどと違ってまるで憑き物が落ちたように爽やかなものだった。

「刹那、私は自分の意志に従うことにしました。私は……里の掟に反し、愛するあなたを守ります!!」

「れ、麗奈ぁ!? 一体どうしたのでござるか!?」

 麗奈の変わり様に刹那は目を見開いて驚いていた。麗奈は忍者刀を軽く振り回してから構えて小さく笑みを浮かべながら俺達の方を向いた。

「さあ、お二方。準備はいいですね?」

 ついさっきまで敵だった筈なのに何故か仕切り始めた麗奈に苦笑しながらも俺と刹那、そして共に戦う新しい仲間の銀狼の月姫と共に神影流忍者の長と再び対峙する。

 左手の鳳凰剣百式を肩に担ぎ、右手の鳳凰剣零式の切っ先を爺さんに向けて言い放つ。

「さぁて、第2ラウンドのStartだ!」



.

刹那の忍獣、銀狼はいかがでしたか?


次回、長との戦いに決着が付きます。


そして、刹那と銀狼に新たな力が……?

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