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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第3章 図書館城の魔女編
32/172

第32話 魔女との不思議な縁

お待たせしました、久しぶりの投稿になります。


今回は神書の魔女、アリスさんと主人公達の意外な縁が判明します。

図書館城の地下深くにある巨大な部屋に山積みされた本の上に座っている銀髪の美女――アリスティーナ・D・クレイプスコロ。この美女こそが俺達冒険部が探していた図書館城に住む不老不死の魔女本人だと知り、俺達は驚愕した。

「あ、あんたが図書館城の魔女なのか……?」

尋ねた本人である恭弥は開いた口が閉じられなかった。

「あら?あんたとは初対面の癖に失礼ね。そう言うあんたは誰なのかしら?」

あんた呼ばわりされた魔女――アリスティーナさんは少しムッとなって恭弥に尋ね返した。

「お、俺は天聖学園一年で冒険部部長、浅木恭弥だ!」

「…………浅木、恭弥?」

アリスティーナさんは恭弥の名前を聞くと、眉を寄せながら何かを思い出すような表情をし、唐突に本の山の頂上から滑り落ち、スタッと華麗に恭弥の前に着地する。そして、恭弥の顔をじっと見ながら言った。

「ねえ、あんた……もしかして“恭介”の親族が何かかしら?」

恭介と言う名を聞いて恭弥は驚いた。恭介って確か……。

「え?じーちゃんを知ってるの?」

「じ、じーちゃん!? あんた、あの恭介の孫だったのぉ!?」

魔女のアリスティーナさんは恭弥の口から語られた事実に酷く驚き、目を見開いている。すると、千歳がちょんちょんと俺を指で突いて小さな声で話しかける。

「ねえ、天音。恭弥のお爺さんって何者なの?」

「俺も詳しくは知らないけど、恭弥のお爺さんの恭介さんってかなり有名な冒険家らしいよ。人間界の世界各地で秘境を発見したり、誰も成し遂げなかった聖霊界の世界一周を達成したらしいよ」

「ウソッ!? そんなに有名ならテレビとか本に出てもおかしくないのに……」

「恭弥から聞いた話によると、恭介さんってあまり目立ちたくない性格らしくてテレビ出演とか全部拒否しているらしいよ。ただ、冒険関係の人間には恭介さんは神様として崇められて要るみたいだよ」

「なるほど……恭弥の冒険馬鹿はお爺さんの血で、冒険に関する知識と直感は小さい頃から受けた英才教育のお陰って事だね」

「まあ、そんなところだな」

恭弥が冒険にこだわる理由はそんな偉大なお爺さんを越えたいという大きな目標でもあるからだ。以前、恭弥は俺にこう言っていた。

『俺はじーちゃんよりスリリングでエキサイティングな冒険をして、いつか必ずじーちゃんを越える!もちろん、その時は天音と千歳も一緒にな!』

ただの楽しいお遊びではなく、きちんとした目標を持って冒険をするという恭弥の姿勢に、俺はその時にふざけていると思った恭弥を見直した。

「あの冒険野郎、いい歳してまだ冒険を続けているのかしら?」

「いやー、周りは危ないから止めろって、言ってるんですけど……『冒険はワシの生涯のロマンだ!誰も邪魔させないぞ!!』ってな感じで叫んで、今は世界中の遺跡を調査中です」

「あはは!恭介ったら、爺さんの癖に少年時代と全く変わらないじゃない。ま、変わらず夢を追い続けることは良いことだわ。後で久し振りに連絡してみようかしら?」

「あ、手紙なら俺が送りますよ」

「そう?じゃあ、後でお願いね」

「うっす!」

気が付いた時にはいつの間にか恭弥とアリスティーナさんが仲良く話していた。お爺さんの話経由で馬が合ったのかもしれない。

「さてと、そこにいる5人の内、何人かは見覚えがあるのだけど、気のせいかしら?」

恭弥と話が終わったアリスティーナさんは俺達に顔を向けると、

「ん?」

今度は雫先輩の顔をじっと見つめた。

「その顔……もしかして、あなたは“紅”の娘かしら?」

「お母様を御存知なのですか!?」

「知ってるも何も、紅は私の治癒魔法の弟子みたいなものよ。紅の使っている治癒魔法の基本は全て私が叩き込んであげたのだからね」

「そう言えば、昔お母様が最高の魔法使いから魔法を教えていただいたと言っていましたが、それはアリスティーナさんだったんですね!?」

「最高の魔法使いって……私はそんな柄じゃないのにあいつは……」

雫先輩は嬉しそうに話を聞き、アリスティーナさんは頬を指でかきながらちょっと照れていた。俺は迅先輩に雫先輩のお母さんについて話を聞くことにした。

「迅先輩、雫先輩のお母さんってどんな人ですか?」

「……雫の母君、雨月紅様は医学に対する他にも負けない膨大な知識を持ち、最先端の治療法を多く発見し、手術の腕は世界一で治癒魔法の能力も随一と言われている。そして……医学界で神と称され、紅様は“医神”とも呼ばれている」

「おおっ! 凄いですね、雫先輩のお母さんって!!」

紅さんの凄さに千歳は驚きの声を漏らす。確かに紅さんは凄いと思う。医学については素人だけど、医神と言われるからには恐らく契約している聖獣も医学関連の能力を持っているに違いない。

「ああ、そうだ……紅様は素晴らしいお方だ……」

迅先輩は珍しく僅かな笑みを浮かべて、雫先輩のお母さん――紅さんの話を丁寧な口調でとても誇らしく、そして嬉しそうに話していた。

「それで、そこにいる御剣一族の末裔の執事君が、紅が認めた君のフィアンセなのかしら?」

「はい♪」

「……は?今、何と……?」

どうやら、迅先輩が尊敬している紅さんが、自分の娘の婚約者として迅先輩を指名していたらしい。その突然告げられた衝撃的な真実に迅先輩はこれはまた珍しく、表情が恐怖で顔が引きつった状態となってしまった。

「ちょ、ちょっと待て……!そ、それは一体、どう言う事だ……?」

「そう言えば、迅は知りませんでしたね。お母様は迅を雨月家で引き取る時、既に迅を私の婚約者にするつもりだったんですよ♪」

ガーン!!!

「な、何、だと……!?」

更に衝撃的な事実の発覚に迅先輩は膝をついて、ガクッとうなだれた。

「えっと、取りあえず……雫先輩、迅先輩。おめでとうございます」

「結婚式には呼んでくださいね!」

俺と千歳は雫先輩と迅先輩の二人を祝福した。ただ、迅先輩の崩れ倒れる姿を見て、俺自身の若干のデジャヴを感じるのは絶対気のせいじゃない……迅先輩、ファイトです。

心の中で崩れ倒れる迅先輩を応援すると、アリスティーナさんは次に俺と千歳に視線を向けた。

「さーて、次は……厳武爺の孫娘とそのフィアンセね」

「おじいちゃんを知っているの?」

「そりゃあそうよ。私はこの図書館城を収める“司書長”でもあるからね。ようするに、天聖学園創設時からのいるわけで、厳武爺は教師からの馴染みよ」

「恭弥のお爺さんや雫先輩のお母さん、更には厳武爺さんとも知り合い……世間が狭いというか、不思議な縁ですね」

「そうね……長生きしていると意外に不思議な出会いがあるから縁って面白いのよね。縁と言うと……あなたは蓮宮の人間ね?」

まだ名前も名乗っていないのにアリスティーナさんは俺を蓮宮家の人間と見抜いた。

「え?ええ、そうですが……」

「そう……やっぱりね……」

アリスティーナは誰かを懐かしむような表情をすると、右手で俺の頬に触れた。

「アリスティーナさん……?」

「……あれから、数百年。しっかりと“蓮姫”の血は受け継がれているのね……」

蓮姫。その名前に聞き覚えがあった。蓮宮神社に残されている古い文献にその名前が……。

「蓮、姫……?それって――」

俺が言い掛けると、アリスティーナさんはパッと俺の頬から手を離した。

「ごめんなさい、つい懐かしくてね。私は……その子と――蓮姫と友達だったから」

アリスティーナさんは一瞬だけとても悲しそうな表情を浮かべると、俺から視線を反らした。

「ねえ、天音。蓮姫って誰なの?」

千歳が再び聞いてきて、他のみんなも耳を澄ませて聞いている。

「……俺も詳しくはわからないけど、蓮宮神社にある古い文献には蓮宮神社の初代当主と書いてあった」

「つまり、天音のご先祖様で、蓮宮神社を作った人って事?」

「そう言う事になるな。蓮姫は霊力が非常に高く、女性ながらも剣士としての腕も超一流らしいぞ」

「へぇー、そうなんだ」

「そう……そうなのよ!!!」

ビクッ!?

大声を出したアリスティーナさんは千歳の発言に同意すると、俺のご先祖様で蓮宮神社初代当主である蓮姫様について語り出した。

「私の愛しの蓮姫は、美しき日本人女性の代名詞である“大和撫子”という名を正に体現したかのような素晴らしい存在だったわ。心は清らかで誰に対しても優しく接し、可愛らしい顔に絹のような白い肌で綺麗な黒髪ロング……容姿端麗で最高に美しい。そして、巫女剣士として……剣術の達人として、最強に強かったわ!!!」

「は、はぁ……?」

よっぽどご先祖様の事が大好きだったらしく、これでもかと言うぐらいに蓮姫を熱く語っていた。

「だが!それを、それを……!!」

しかし、その熱い語りも一変し、アリスティーナさんは豹変するかのように憎しみを込めた表情を浮かべた。

「あの阿呆が、あの馬鹿野郎が……私から蓮姫を奪ったのよ!!!」

「えっと、誰のことですか……?」

「決まっているわ!蓮姫の夫になった野郎……“波音”の事よ!」

「波音……?それがもう一人の俺のご先祖様?」

「そうよ!武術は全く出来ないひょろひょろの雑魚野郎の癖に、料理、家事、洗濯はしっかり出来て、人付き合いが得意な主夫の鏡みたいな男よ!!!だけど、蓮姫が選んだ男で、死ぬまで幸せにしたから良かったけど……それでも、それでも……ああっ、やっぱり今でも波音だけは許せん!!!」

アリスティーナさんのキャラが崩壊するほどもう一人のご先祖様の波音様に対して怒りを露わにしている。何があったかわからないけど、アリスティーナさんはそれほど蓮姫様の事を大切にしていたかよくわかった。それと、俺や璃音兄さんや花音姉さん、そして蓮宮家に生まれた人間に付けられる名前に必ず“音”の漢字が入る起源が何となくわかった気がする。

恐らくは波音さまと蓮姫様の間に生まれた子供の名前に音を使い、それが何代にも渡って蓮宮家に生まれた子の名前に音を使うのがいつのまにか伝統になったのだろう。実際におじさんや、俺の親父にも名前に音がついているし。

「ふーん……大和撫子の蓮姫に主夫の鏡の波音か……」

「なあ、千歳。何か、今の話を聞いて天音はそのご先祖二人を足して割ったような存在に思えるんだが……」

「あ、やっぱり恭弥もそう思った?天音って料理だけじゃなくて家事とか洗濯もしっかり出来るからね。見た目は言わずもがな大和撫子だし♪」

「これはやはり……“血”なのか?ご先祖からの容姿や能力が遺伝子レベルで子孫に受け継がれているのか!?」

「こら、そこのお二人さん。変な話は止めなさい」

千歳と恭弥が俺とご先祖様の事で変な話をし始めたので、収拾がつかなくなる前に止める。そして、俺のご先祖様の波音様に対する鬱憤を悪口にして吐き出したアリスティーナさんは元の性格に戻ってキョロキョロと周りを見渡している。

「あら? そう言えばあの金髪の女の子はどこに行ったのかしら?」

「雷花さん? 雷花さんは……あれ?」

さっきまですぐ近くにいたのにいつのまにか消えている。周囲を見渡すと、すぐに雷花さんは見つかったが、少々混沌に近い状況になっている。

雷花さん自体はこの部屋に山積みされている本の内の一冊を読んでいるので特に問題ないが、その周りにいる六つの聖獣達が問題なのだ。

『がっはっはっは!見よ、これが神話時代のワシの武勇伝だ!』

『おっと、俺様の武勇伝も負けちゃいないぜ!俺とお師匠様や弟達の絆を見な!』

トールと悟空は北欧神話と西遊記の本を片手に自分の武勇伝を自慢し合っている。

『ヒヒーン?』

『ブルゥ?』

ソフィーとクラウドは百科事典を開いてでユニコーンとペガサスの項目を見ている。

『ううっ、何故だ?どうして、どうして、九尾はどれもこれも悪役ばかりなんだ……』

『ピ、ピィ……!』

そして、銀羅は漫画や小説に出てくる同朋の九尾の狐のあまりの悪役の多さに涙ぐんで、それを白蓮が慰めている。いつのまにアーティファクト・ギアの契約を解除したと思ったら本を呼んでいて混沌な状況と化してしまっている。

「こらこら、雷使いの鳴神一族のお嬢さん。本を読むのは良いけど、私に一言言わなきゃだめでしょ?」

「あ、ごめんなさい……面白そうな漫画があったから……」

雷花さんが読んでいた本は料理・グルメの漫画で、お菓子作りが好きな主人公がパティシエを目指す内容だった。

「あー、この漫画ね。確かに面白いわよね。確か、全巻あるはず……でも、その前にいい加減これを片付けないとね」

パチン! と、良い音を指で鳴らすと、有り得ない驚きの光景が目に入った。

富士山のように山積みされた無数の本が一斉に宙に浮きだし、螺旋を描きながら舞う。そして、この部屋の全ての壁が動き出して大量の本棚が出現し、無数の本が全て本棚の中に収まってしまった。

「す、すげぇ……」

 その不思議で壮大な光景に恭弥は感動の声を漏らした。アリスティーナさんは得意げな表情をして

「当然よ。伊達に千年も生きていないからね。これくらいの魔法は朝飯前よ♪」

『『『せ、千年!?』』』

 不老不死の魔女とは聞いていたが、まさか1000年も生きているとは予想外で俺たち全員は驚いてしまった。しかも、指を鳴らすだけで呪文詠唱や魔法陣を必要なくあれほどの量の本をいとも簡単に本棚に片づけたその魔法を扱う実力は只者ではないとすぐにわかる。

「こ、これは……いける! アリスティーナさん――いや、アリスティーナ先生!!」

 恭弥は何かを閃いたようでシャルロンさんを先生と呼んだ。

「ん? どうした、恭弥?」

「お願いがあります! 俺達の……冒険部の顧問になってください!!」

「恭弥!?」

 何を言い出すかと思えばアリスティーナさんに冒険部の顧問をお願いしてきた。幾らなんでもそれは無茶ぶりすぎるだろうと思った矢先……。

「別にいいよー」

「いっ、よっしゃあ!!」

「そ、即答ですか!?」

 悩む暇もなくアリスティーナさんの即答に思わず驚いてしまう。

「暇だから私は別に構わないよ。それに、何だか面白そうだし」

「そ、そうですか……」

「だけど、タダって訳にもいかないから条件が一つあるわよ」

「条件!?」

 魔女が対価を要求するという事は、もしかしたら何かとんでもない物を対価として要求されるかもしれない。そう思うと咄嗟に身構えてしまう。

しかし、俺の考えとは裏腹にアリスティーナさんの要求はあまりにも想定外な内容だった。




「冒険部顧問にさせるための条件、それは……私の舌を唸らせる絶品のお菓子を作る事よ!!!」




 何だかよくわからないけど、取りあえず対価が意外に簡単な内容で安心した。

そして、同時に俺の中で何かがざわめき、脳裏に今まで覚えた全てのお菓子のレシピがズラリと並んでしまう。



.

お菓子を要求された天音達はどうなるのか!?


そして、天音の隠された意外な実力が判明します(笑)

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