第31話 無限神書の魔女
新年最初の投稿になります。
今回から第3部のスタートで、新キャラ登場です。
突然だが、俺は料理が好きだ。
小さい頃から母さんに習っていて最近では料理本を見て色々な料理を会得している。
特にお菓子作りは俺自身は大好きで週に一回は必ず作っている。
自慢じゃないけど、その味は料理を作るのがとても上手な現役執事の迅先輩も認めてくれるほどだ。
だから料理を作るのは別に問題は無いんだけど……。
「千歳、そのフルーツを一口サイズに切って」
「うん!任せて!」
「恭弥はお皿とシルバーを用意して!」
「あいよ!」
「雷花さんはそのクリームを泡立ててください!」
「うん……わかった」
「迅先輩はそっちの生地をお願いします!」
「任せろ……」
「雫先輩は完成したケーキを皿に盛りつけてください」
「ええ、わかりましたわ!」
新しく入った生徒会メンバーの雫先輩と迅先輩を入れた計六人の冒険部のメンバー全員でお菓子作りに励んでいたが、作っている場所は天聖学園の調理場ではなく何故か図書館城の地下だった。
そして、俺達の作るお菓子をワクワクしながら待っている一人の女性がいた。
「ふふっ……楽しみだなぁ、誰かが作るお手製お菓子は♪」
ミステリアスな黒のロングドレスを着て、妖艶な雰囲気を醸し出す銀髪の美女が優雅な態度で椅子に座っていた。
この美女こそ俺達冒険部の今回の目的の主で、名前は“アリスティーナ・D・クレイプスコロ”。
図書館城に住まう主にして、天聖学園の伝説の一つとして語り継がれている不老不死の魔女である。
どうして俺達がその魔女さんの為にお菓子を作っているのかと言うと、それは少し前の時間まで遡る。
☆
冒険部の最初のミッションとして図書館城の秘密を明かし、そこに住むと言われる不老不死の魔女を見つけだすことだ。
ファーストミッションにしてはランクが高いと俺は行ったが、みんなはすでに乗り気でもう諦めて行くしかない状況だった。冒険に必要な道具は恭弥が用意し、俺と完全に雫先輩のノリに巻き込まれた迅を除く四人は意気揚々と図書館城に向かうのだった。
図書館城に入るとその光景に思わず声を漏らした。
「相変わらず凄いな……この図書館は……」
膨大な数の本棚や壁一面に敷き詰められた無数の本……城に余すところなく仕舞われた数え切れない数の本が並ぶ壮観な光景だった。
世界でも他に類を見ない規模の巨大な図書館である図書館城はその広さ故に城の内部や本の数などを全て把握し切れていない。
「それで、恭弥。この広い城からどうやって魔女を探すんだ?」
「ふっふっふ……心配するな。これを見な!」
得意げなドヤ顔で取り出したのは如何にも古そうな地図だった。
「つい先日この城で見つけた地図さ。この地図によると、この城の地下深くに魔女はいるらしい」
「これ、読めるのか?」
誰が書いたかわからない古い地図には図書館城の内部が事細かに描かれていたが、その周りにはよくわからない形の文字とかが書かれていて素人の俺には理解不能だ。
「まぁな。世界の古代文字とかは読めるように小さい頃から勉強していたからな」
「流石は冒険部部長だな」
「それじゃあ、今から地下への扉を案内するぜ」
「そんなのあるの!?」
「それじゃあ、Let's Go! Everyone!!」
「それ私の台詞!奪わないでよ、恭弥!」
「おっと!先に行こうぜ、雷花!」
「うん……!」
お得意の英語の台詞を恭弥に奪われた千歳はダイナマイトを取り出すが、それよりも先に恭弥は雷花さんを連れて先に行ってしまった。
「ほら、そんな物騒な物は仕舞って俺達も行こうぜ」
「アーティファクト・ギアを持っている時点で物騒だと思うけど、まあいいわ。早く恭弥を追いかけなくちゃ!」
「そうだな」
俺の背中には白蓮と蓮煌を契約執行させた鳳凰剣零式がある。だが、今は戦いの時ではないので、普段は余っている蓮煌の鞘を契約執行をさせて、凰剣零式の巨大な刃を収める巨大な鞘と持ち運びのために俺の体に括り付けるためのベルトを生み出して、今は俺の背中に背負っている。これで何が起きても鳳凰剣零式を引き抜いて対処することが出来る。ちなみに、千歳の清嵐九尾は元の契約媒体であるレイジングを収めるホルスターに仕舞われている。意外に清嵐九尾がそのホルスターにフィットするらしい。他の四人も既に契約聖獣と契約執行をしてアーティファクト・ギアを携えている。
「さあ、私達も行きましょうか、迅」
「……あまり乗り気ではないが、仕方ない」
雫先輩に巻き込まれて入部してしまった迅先輩はため息をつきながら俺達と一緒に恭弥と雷花さんを追う。
☆
恭弥について行った先には人気が少ない薄暗い場所で、壁一面に本棚が敷き詰められている図書館城には珍しく、小さな木製の壁画が飾られていた。
「ここか?」
「ああ。この壁画自体が扉なんだよ。こいつは謎解きのパズルになっていてな」
恭弥の指摘通りこの壁画はパズルになっていて絵柄がバラバラになっていた。
「取りあえず、みんなで冒険するために俺が既に解いてあるんだよな♪」
そう言うと恭弥は慣れた手つきでガコン!ガコン!とパズルを動かして解いていく。
「ここをこうで、あれを、ほいっとな!」
僅か数分であっという間にパズルを解いてしまい、一つの絵が完成した。すると、その完成した壁画が開いて地下への扉となった。
「「「おぉ~っ!」」」
パチパチパチ!と、迅先輩以外の俺達四人がパズルを解いた恭弥に拍手を送る。
「さあ、これからが冒険のスタートだ。みんな、準備はいいか?」
「ああ、いつでも良いぜ」
「準備All OKよ!」
「大丈夫です……」
「私も大丈夫ですわ。迅も良いですわね?」
「……ああ」
遂に冒険部のファーストミッションがスタートする。俺達は緊張と期待を胸にそのパズルの扉を開いて中に入る。
しかし、ここからが冒険の醍醐味と言うかお約束で俺達の行く末を立ちふさがる罠の数々があった。
地下に入ると早速……。
『『『ニュルニュル~!!!』』』
「うわぁあああああああああああーーーっ!?」
「ヌルヌルしていて気持ち悪いよ~!」
「何で“スライム”がこんな地下に大量出現しているんだよ!?」
「倒しても、倒しても一向に減らない……」
「迅、このスライムを全て斬り伏せてください!」
「む、無理だ……こんなの意味不明な生命体を切って、俺の刃を汚したくない……」
地下道に聖霊界でも未知の生物と言われるゼリー状の生命体である“スライム”が大量に増殖しながら襲いかかってきて俺達は全力疾走で逃げている。スライムの体からヌルヌルとした触手を伸ばして来るので更に気持ち悪い。
「何で冒険ファンタジーのダンジョンでお馴染みのスライムが最初っから登場しているんだ!?」
「恭弥、いくら私達を歓迎するとは言えこれは要らないよ!!」
「馬鹿言え!冒険馬鹿の俺でもこんな気持ち悪いのを用意するわけないだろ!」
「でもこのままじゃ私達はスライムの触手攻めに……」
「そ、それは嫌です! 私に屈辱を犯していいのは迅だけですから!」
「馬鹿が、今そんな事を言っている場合ではない……蓮宮!!」
迅先輩はイージス・オブ・ペガサスを構え、鋭い声で俺を呼んだ。
「は、はい!」
「イージス・オブ・ペガサスの風で……お前の鳳凰の炎を倍増させて此奴等を焼く……手伝え!!」
「わかりました! 一掃します!!」
巨大な鞘に収めた鳳凰剣零式を抜き、白蓮の炎の力を収束して一気に紅蓮の炎を放出する。
「蓮宮流、紅蓮爆炎波!」
鳳凰剣零式から炎が放出すると同時に迅先輩がイージス・オブ・ペガサスから旋風を生み出す。
「巻き込み、力を増せ……ローリング・ストーム!!」
巻き起こされた旋風が炎を巻き込んで力を何十倍にも増し、地下道いっぱいにまで増殖して襲いかかって来ているスライムを全て焼き尽くした。
ゼリー状の生命体が炎で焼かれたので、蒸発するように消滅した。
「はぁ、はぁ……お、恐ろしい……」
「こんなモノがこの先にたくさんいるの……?」
「気持ち悪いのはもう御免だぜ」
「ヌルヌル、嫌……」
「しかし、あのスライムから生気が全く感じられません。まるで機械のように造られた存在みたいでしたわ……」
「だが、あれだけ何十倍の数にも増殖する生命体を生み出すのはそれ相応の魔力が必要になる……誰がこのスライム達を作った?」
この疑問に数秒間の沈黙の後に全員の考えが一致した。
「「「「「「図書館城の不老不死の魔女!」」」」」」
要るかどうかは分からないけど、スライムによってその魔女の存在の可能性が高くなってきた。
俺達は魔女の存在に期待を膨らませながら更に地下へと進んでいったが……。
『『『ゴォオーーーッ!!!』』』
「今度は土人形の“ゴーレム”かよ!?」
次に現れたのはスライム同様生気の無い大きな土人形であるゴーレムだった。俺達が地下道から広い部屋に入った途端、部屋中からわんさかと出現してまたもや俺達に襲いかかってきた。
「もう、後はドラゴンとかが出ればダンジョンの定番モンスターが一気に揃うよ!」
「止めんか!その台詞はフラグにしかならないから!」
「土だから私の雷があまり効かない……」
土属性のゴーレムには雷花さんのアーティファクト・ギアのライトニング・トールハンマーが全く効かず、放たれた雷はすべて受け流されてしまう。しかし、それだけではなかった。
「斬っても、砕いても、貫いても、再生します……これもスライム同様に魔女が作り出したものでしょうか?」
「その可能性は高い……だが今はこの状況を打開する策を作らなければ……」
ゴーレムの驚異的な再生力の所為で、徐々に俺達が追いつめられていく。
このままではジリ貧になるのは確か。何か手を打たないとヤバい。
「こうなったらごり押しで行くしかないな」
我らが冒険部部長の恭弥はかなりぶっちゃけた作戦を言い切った。
「下手にアーティファクト・ギアの属性の力を使わずに物理的攻撃でゴーレムに攻撃する。そして、向こうに見える次の扉までゴーレムを攻撃しながら全力で走る。どうだ?シンプルだが効果的な作戦だと思うが……」
シンプルで大胆だがこの状況で一番効果的な作戦を思いついた恭弥に賞賛を送るしかなかった。
「ナイスよ、恭弥!流石は根っからの冒険馬鹿ね!」
「……一応誉め言葉として受け取る」
「それでは、私のダイナマイトで活路を開くわ! みんな、準備はOK?」
千歳は清嵐九尾をホルスターに仕舞い、代わりに制服の上着から大量のダイナマイトを取り出した。
「A Way Out!!」
英語の台詞と共に投げた大量のダイナマイトは一瞬で狐火で点火され、床にバウンドした瞬間に大爆発してゴーレムを爆発と爆風で一気にぶっ飛ばした。
「今だ!!」
恭弥の合図で俺達は扉に向かって走った。復活したゴーレムは頭を重点的に狙ってそれぞれのアーティファクト・ギアで物理的に破壊し、作戦通りに一気に扉までたどり着き、すぐに扉の向こうへと入り、ゴーレムの部屋の扉を閉めた。
「はぁ、はぁ……と、取りあえずみんな無事か……?」
恭弥は荒い息をしながら部員の無事を確かめる。
「なんとか大丈夫だ」
「同じく~……」
「ちょっと、疲れた……」
「私も大丈夫ですわ」
「俺も……」
流石に全員若干の疲れがあるが、取りあえずは無事だ。
「よーし、まだまだ先は長いからな。頑張って行こう!」
恭弥は志気を高める為にこう行ったのだが、ここからが大変だった……。
例えば、落とし穴が盛りだくさんの通路だったり……驚かすのが好きな幽霊がたくさん出たり……とにかく色々の罠が俺達に襲いかかった。
そして、度重なる罠の連続を潜り抜け、精神と肉体疲れ切った俺達はようやく……。
「つ、着いた……」
恭弥が地図と見比べた先には芸術品とも言える見事な装飾が施された巨大な扉が聳えていた。
「恭弥、本当にここに……?」
「ああ、間違いない……ここに魔女がいる!」
長かった道のりの末、遂に魔女が要ると思われる部屋の扉へと辿り着いた冒険部。恭弥は扉に手を置き、俺達の顔を見る。
コクリと俺達は頷いて反応し、恭弥は決意をして手に力を込めて扉を開く。
「行くぞ!」
ギィーッ……。
重い扉がゆっくり開き、魔女の住む部屋の全貌が明らかになる。
部屋の全貌が明らかになり、その見たことのない光景に俺達は唖然とした。それは、恐らく世界中どこを探しても見ることのできない不思議な光景でもあるからだ。
「本の……山?」
千歳が思わず呟いた一言だが、それがその光景に一番適している表現だ。地下とは思えない程の広い部屋に、本が文字通り何千……否、何万冊の本が本当に山積みに積まれていて、まるでそれは日本を代表する富士山を思わせる物だった。
その本の山をよく見ると、雑誌や漫画、果てには海外の論文まで多種多様のジャンルや語源が異なる本がとにかく山積みにされていた。
そして、天井からは太陽とはまた違う不思議な青白い光を放つシャンデリアが飾られていてこの部屋を明るく照らしていた。
ここは一体何の部屋なのか?そう思った矢先にとんでもない場所から声が響いた。
「ふぁ~っ……騒がしいわね、誰なのよ、もう……」
『『『ん!?』』』
上から何だか妙に色っぽい女の人の寝起きの声がし、俺達は視線を上に向けた。
そこは山積みにされた本のてっぺんで、そこに黒い影があった。
ムクッと起き上がったその影は、シャンデリアの光に照らされてその姿が現れる。
「ん~っ?珍しいわね……こんな地下深くのこの部屋に子供が入ってくるなんて……」
本の山の頂上で寝ていた女性は妖艶な雰囲気を持つ綺麗な銀髪の美女だった。ミステリアスな黒のロングドレスを着ていて、女性の美しさを更に引き出していた。
俺の隣にいた恭弥はその女性の美しさに見取れていたが、すぐに頭を左右に振って正気となって大声を出して尋ねてみた。
「あのー、すいませーん! あなたはどなたですかー!?」
恭弥に名前を聞かれた女性は本の山の頂上を椅子代わりにして優雅に座りながら顎に手を添え、恭弥の質問に応えた。
「私?私の名前は“アリスティーナ・D・クレイプスコロ”。またの名を“無限神書の魔女”よ……」
この女性が俺達の目的である“図書館城に住む魔女”本人であることに俺達は驚愕するのだった。
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新キャラのアリスティーナさんは今作品最強のチートキャラです(笑)
ネギま!で言うエヴァちゃんやラカンポジションで、天音達の師となります。