第3話 召喚と契約
今回から三話かけて召喚と契約を行います。
第三話は恭弥です。
聖獣は皆さんも予想外なものだと思います。
聖獣を召喚する場所である聖霊樹は樹齢数千年と言われている巨大な樹である。その聖霊樹の前には今年入学した一年生全員と担当の教師がすでに集まっていた。特に一年生達は聖獣との契約に心を躍らせている。
しかし、一人だけ違っていて、それは俺の目の前にいる。
「うぅ……痛いよぉ……」
頭に小さなタンコブが出来た千歳は涙を流してさすっている。
「あはは! そりゃあ災難だったな!」
「自業自得だよ。ったく……」
話を聞いた恭弥は日頃のお返しにと千歳に向かって豪快に笑い飛ばし、俺は千歳の行動に思わず頭痛が頭に響き、こめかみを指でグッと押さえている。あの後、俺は千歳を数十分間じっくり時間をかけて説教し、反省したところでお互い制服に着替えて学生寮にある食堂で朝食を食べ、それから急いで聖霊樹の前に訪れて今に至る。
「さてと、二人とも。ちゃんと媒体は持ってきたか?」
「もちろんよ、ほれ」
千歳が上着を肌蹴させて左腰のあたりを見せると、そこにはホルスターに収まれた回転式拳銃、いわゆるリボルバーが備えられていた。このリボルバーが千歳の愛用する武器のレイジングである。しかし、リボルバーと言っても銃身は自動式拳銃のオートマチックに似た分厚くて長い物になっている。千歳曰く、この銃はアメリカ産の特注品でリボルバーとオートマチックのカッコいい部分を兼ね備えた最高の銃らしい。ちなみに、千歳の銃好きのきっかけは西部劇やアメリカのアニメが発端である。
「やはり千歳はレイジングで、天音はその刀だな」
「ああ」
俺が持ってきた愛刀は鍔や紐などの飾りが一切無い白木拵えの刀だ。名は“蓮煌”。何故その名が付いたかというと、刀身には俺の好きな花であり、実家の蓮宮神社が名前の由来である蓮の彫刻が刻まれているからだ。
「そういう恭弥は金剛棒か?」
「当ったり前よ! 俺の旅人生の象徴だからな!」
意気揚々と出したのは金剛棒と呼ばれる長めの棒である。これは恭弥が小学生の時に日本を代表する霊峰、富士山に登頂する時に購入したものである。その富士山の登頂をきっかけに恭弥は両世界を旅したいと思い始めたのだ。そう思うと、確かに恭弥にとっては旅人生の象徴ともいえる。
「さあー、皆さん。いよいよ契約を始める時間ですよー」
待ってました! と、言わんばかりにクラスメイト全員の視線が焔先生に集中する。
「では、出席番号順に召喚を行います。皆さん、ちゃんと媒体は持ってきましたねー? それでは、浅木君からどうぞー」
「よっしゃあ! 俺が一番乗りだぜ!」
羨ましいことに、恭弥から召喚及び契約が始まる。他のクラスも少し離れた場所ですでに始めている。
「がんばれよ、恭弥」
「恐かったり、不気味な聖獣を出さないでね」
「わかってるよ!」
とりあえず俺と千歳で恭弥に声援を送る。
「浅木君。この魔法陣の上でこの呪文を詠唱してくださいね。ゆっくりでもいいので、間違えないようにお願いしますね」
「了解っす!」
焔先生から紙を貰い、すでに地面に描かれている魔法陣の上に立つ。紙には人間界と聖獣会を一時的に繋ぎ、聖霊界から聖獣を呼び出すための召喚魔法の呪文が書かれている。ちなみに魔法とは、森羅万象の自然が作り出すエネルギーを利用して神秘の術を発動させることであるが、俺たちはまだ魔法の勉強などしたことないので使えない。
ただし、聖獣を召喚することに関しては聖霊樹に秘めた魔力を借りて行うので難なく発動することはできる。恭弥は金剛棒を握りしめながら呪文を詠唱する。
「我が名は“浅木恭弥”」
足もとに描かれた魔法陣が眩い輝きを放つ。
「人の世界と聖なる獣の世界、二つの世界を結ぶ架け橋をこの聖なる樹の下に繋ぐ。我は夢を追う者也。共に往かん、永遠の地へと。我が純粋なる魂と共鳴せし者よ。我の声、思いに応えよ!」
魔法陣が更に輝きを増し、人間界と聖霊界の二つの世界が一時的に結ばれる。
「来たれ、我と共に契約を望むこの時を!!」
恭弥の呪文を唱える声が強まり、遂にその時が迫る。
「聖獣、召喚!!!」
ドガァン!
千歳のダイナマイトとは違う爆発が恭弥の目の前で起きる。土煙が舞い、その中から人の形をした何かがいる。
『ああん? 何だこれは?』
荒っぽい男の声がし、土煙を払うように手で仰ぎ、その姿が現れる。
「…………お猿さん?」
恭弥は目をぱちくりさせながら自分が召喚したであろう聖獣を見つめる。最初は誰もが人だと思ったが、それは違っていて、その正体は人並みに大きい猿だった。しかも、ただの猿ではなく、体に服を着用しており、赤や朱色を基調とした鮮やかな服を身に包んでいた。
『お前……人間だな? もしかして……俺はお前に召喚されたのか?』
その猿は理解力や察知力が高いらしく、きょろきょろと周囲を見渡す。
「そうだ。俺がおま――君を召喚した」
最初は猿の事を「お前」と言いそうになったが、さすがにそれでは失礼だと思ったのか、恭弥は慣れない「君」と呼んだ。
『ふーん、そっか。それじゃあ、取りあえず名乗っとくかな?』
猿は耳の穴に指を入れると、とても小さな赤色の棒を取出し、空に向かって投げた。
『如意棒!!』
次の瞬間、棒が巨大化して猿の身長ぐらいの長い棒となった。猿はその棒を華麗に振り回してかっこよく構えを取る。
『おい、耳の穴かっぽじってよく聞きな。俺様の名前は、斉天大聖、“孫悟空”様だ!!!』
その名前に恭弥だけでなく、俺たちも思わず耳を疑ってしまう。孫悟空って、確か……。
「孫、悟空……? それって、あの“西遊記”の……?」
『んあ? そういえば確か、人間が書いた俺とお師匠様の冒険記の題名がそんなだったな……確かに俺はその冒険記の主人公だぜ?』
その事実に恭弥や俺たちも口をあんぐりと開けて驚いている。西遊記とは千年以上前の中国大陸を舞台に、孫悟空が三蔵法師という僧侶と共に遥か西にある天竺と呼ばれる場所でありがたい経を受け取り、都まで持ち帰るという長い冒険の話である。その話は後に人の手で物語として描かれ、現代でも多くの人が読んでいる人気の長編物語だ。俺も一度西遊記を見たことがある。恭弥はその物語の主人公である孫悟空を召喚したのだ。当然、恭弥の反応は……。
「うぉおおおお! 感激だぁああああ!!」
『な、何だ? 何だ? どうしたんだよ、一体……』
突然の恭弥の反応にさすがの悟空も戸惑いを隠せない様子だった。
「西遊記、小さい頃からずっと見ていました! 俺、孫悟空さんのファンです!」
『そ、そうか? そいつは嬉しいぜ。ところでよ……』
「はい?」
『お前は俺と契約したいんだよな?』
悟空の表情が真剣そのものになる。
「勿論っす!」
『なら、お前の夢を教えろ。』
「夢?」
『契約するなら俺はでかい夢を持つ奴としたいからな。さあ、お前の夢は何だ?』
「俺の夢、それは……人間界と聖霊界、二つの世界を旅することだ!!」
『ほう……人間界と聖霊界を旅か。はっはっは! なかなかでかい夢じゃないか。気に入った、お前の名前は何だ?』
「俺は恭弥! 浅木恭弥だ!」
『恭弥、俺はお前を気に入ったぜ。俺は旅に慣れているからな。おすすめだぜ?』
「よっしゃあ、それでは!」
恭弥は金剛棒を軽く振り回して、地面に突き立てる。そして、紙に書かれた召喚の呪文の次に書かれている契約のための呪文を唱える。
「我は汝と契約を望む者也。この万物に連なる器具に汝の肉体と魂を一つに……」
孫悟空の足もとに魔法陣が現れると同時に、孫悟空の体と服が崩れていき、光の粒子となる。その粒子が恭弥の金剛棒の中に入り込み、光と魔法陣を帯びる。
「汝と我が魂を繋ぎ、新たな姿となれ」
孫悟空の体の全てが粒子となって完全に金剛棒の中に入り、金剛棒自体の姿が変化していく。
「人獣契約執行……神器、“アーティファクト・ギア”!!」
光と魔法陣が消え、金剛棒の加工された木の棒の姿が一変して真紅の綺麗な色彩と金の輪の装飾が施された美しい棒となる。
恭弥が叫んだ“アーティファクト・ギア”とは、人間と聖獣が契約した証ともいえる道具――奇跡の神器の総称である。人獣契約はこのアーティファクト・ギアを生み出すことで契約完了となる。名前の“アーティファクト”は道具、“ギア”は歯車であり、“人間と聖獣を繋ぐ道具の歯車”と言う意味からその名前が付けられた。しかし、アーティファクト・ギアと言う名前は少々長い名前なので、一般的にはアルファベッドの頭文字を取って“AG”と呼んでいる。また、AGには宿した聖獣の力が込められており、聖獣を宿す道具や契約した聖獣などによって、その姿形や秘められた能力はかなり異なっていく。
恭弥の金剛棒に悟空の肉体と魂が融合したその形は、悟空が名乗る時に最初に見せた如意棒にそっくりであった。
『はっはっは! やっぱり俺と言ったらこれだよな!』
突然、棒から悟空の声が聞こえる。AGに融合した聖獣はその姿でも声を発することが出来る。
「あ、悟空さん」
『悟空さんなんて止めな! 呼び捨てで構わねぇぜ、恭弥。それから、敬語とかなしでお前の話しやすい口調で話せよ』
「……わかったぜ、これからよろしくな。悟空!」
『おうよ!』
こうして恭弥と悟空の二人の人獣契約が無事に完了し、AGの融合が解除されると棒から悟空が飛び出て、元の金剛棒へと戻る。
.
如何でした?
恭弥の契約聖獣は西遊記の孫悟空でした!
伝説の聖獣で旅をしたのはあまりいないので不死身&最強レベルで旅なれている孫悟空を選びました。
次回は千歳ちゃんです。
しかし、恭弥と違って一筋縄では行かないかも?