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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第2章 バトルロイヤル編
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第29話 別れともう一波乱?

今回は澪との最後の別れとその後に千歳ちゃんが天音にとんでもない事をしてしまいます(笑)

俺が眠っている僅かな時間で天聖学園では色々な事が起きていた。

国際犯罪組織の一端である聖霊狩りが天聖学園に襲撃した事で、聖獣を使った悪質な犯罪者――“聖霊犯罪者”から人間界の平和を守るために世界各国で同盟を結んだ巨大警察組織、“国際聖霊警察機構(International Spirit Police Organization)”が動き、日本支部の“聖霊警察官”が天聖学園に駆けつけた。しかし、学園を襲撃した聖霊狩りの大半は天星同志の兄さんと姉さん、生徒会の雫先輩と迅先輩、更には教師陣によって鎮圧し、聖霊警察官は倒れている聖霊狩りの逮捕に追われることとなった。

そして、第一級犯罪者である瑪瑙とその契約聖獣の鬼那は聖霊警察官による魔術の一種である厳重な“封印術”によって動きと力を完全に封じてそのまま連行された。

瑪瑙は事情聴取の後に“国際聖霊裁判所”と呼ばれる裁判所で法の下に判決を言い渡される。兄さんが言うには刑務所による数十年の牢獄暮らしは確定。最悪、その罪の重さから死刑になるかもしれない。また、女郎蜘蛛の鬼那は瑪瑙との契約を強制解消され、聖霊界に強制送還されるらしい。

俺が目を覚ました後、別れの時が訪れていた。その別れの相手は言うまでもなく、瑪瑙に殺された龍神の澪だ。既に骸となっていた澪の前で花音姉さんは泣き崩れ、璃音兄さんは姉さんを後ろから抱き締めながら涙を流していた。俺達は二人にかける言葉が見つからず、何も言えなかった。すると、四つのアーティファクト・ギアから契約を解除した白蓮が二人の前に飛んで降り立った。

『しずかに、ねむらせよう……』

白蓮の言葉に二人は泣くのを止め、腕で涙を拭いて静かに頷いた。そして、兄さんと姉さんは白蓮にこの場で澪の骸を火葬して欲しいと頼んだ。白蓮は一つ返事で頷き、自らの体から聖なる炎を生み出した。

『いくよ……』

「ええ……」

「頼む……」

二人の了解を得て、白蓮は聖なる炎を澪の骸に被らせて火葬を始めた。炎はゆっくりと澪の骸を焼いていき、少しずつ灰にしていった。火葬されて骸が灰になっていく中、俺は蓮煌を抜いて蓮宮神社に伝わる剣舞を踊り始めた。

あの世へ旅立つ澪の為に捧げる剣舞を俺は誠心誠意を込めて舞った。俺の剣舞を見た兄さんと姉さんはお互いの顔を見て頷くと、氷蓮と蓮月を構えて俺と一緒に踊り始めた。

初めて二人と一緒に踊る舞だったが、澪の為に捧げる舞を踊る俺達の気持ちは一つとなり、それが三人の息を絶妙に合わせて、美しい舞を見せていた。そして、澪の骸が聖なる炎で燃やし尽くされて全てが灰となり、俺達の舞も同時に終わった。

「……ありがとう、天音」

「澪に綺麗な舞を捧げてくれて……」

兄さんと姉さんは俺に感謝の言葉を述べ、俺は蓮煌を鞘に収めて頷いた。灰となった澪の骸は突然吹いた風に乗り、四方八方の遙か彼方へと飛んでいく。空を見上げながら飛んでいく灰を見送ると、千歳は何かに気が付いて俺の体を揺さぶる。

「天音、あれを見て……」

「あれって……何を……?」

千歳が指差した先には山積みになっている澪の灰があり、その灰の山のてっぺんに小さな玉が隠れていて、灰の山が風で吹き飛ばされると、小さな玉は俺の所まで転がってきた。

「何だ、これは……?」

拾い上げて付着した灰を払いながらよく見ると、それはとても綺麗な玉だった。水晶玉のように透き通った透明な玉で、玉の中には何かが陽炎のように揺らめいていた。

「それは“龍玉”じゃないか!?」

兄さんは声を上げて驚いた。

「龍玉?」

疑問符を浮かべ、知識のない俺に姉さんは簡潔に説明する。

「龍玉とは東洋龍の持つ不思議な玉の事よ。龍玉に秘められた力の説は諸説あるけど、それは間違いなく澪の龍玉よ」

「これが澪の龍玉……?」

龍玉を思わず少し強く握ってしまうと、突然龍玉が輝きだして中から何かが飛び出してきた。それを見た兄さんと姉さんは呟くように言う。

「「澪……!」」

龍玉から出て来たそれは澪の魂、霊体だった……。

『花音、璃音、そして天音よ。私の為に捧げてくれた三人の舞、実に美しかった。感謝する』

「澪、ごめんなさい……あなたを助けられなくて……」

「せっかく、再会出来たのによ……情けないぜ……」

花音姉さんと璃音兄さんは助けることが出来なかった澪へ謝罪の言葉を述べるが、澪は顔を左右に振って微笑んだ。

『謝ることはない。私は立派に成長したお前達を一目見ることが出来た。それだけで充分だ……』

目を閉じた澪の霊体が徐々に分解されて天に登っていく。いよいよ別れの時が訪れたらしい。

『これで、詩音と弓子の元へ行ける……天音よ!』

「は、はい!」

『詩音と弓子、そして私が愛した蓮宮の未来をお前に託した。頼んだぞ……』

「……はい、任せてください!」

俺は蓮煌を澪に見せ、澪の強い意志と共に蓮宮の未来を託された。約束するよ。次の世代が俺の後を継ぐまで必ず蓮宮を守っていく。

そう心に誓うと、澪は満足した表情を浮かべた。

『これで、私の思い残す事は何一つ無い……勇敢なる、小さき人の子達よ!!さらばだ!!!』

澪は最後の別れの挨拶を堂々と俺達に送ると、澪の霊体は天に登りながら分解されて、あの世へと旅立ち、俺達はその光景を見送り続けた。


   ☆


天に登った澪を見送った後、聖霊警察官から事件についての事情聴取を受けることとなった。幸いな事に、聖霊警察官の中に兄さんや姉さんと同じ天星導志のメンバーがいるらしく、事情聴取はあまり長引かずにしてもらい、すぐに終わらせてもらった。

中止となってしまった天聖学園バトルロワイヤルは後日にまた開催されるかどうかは決まっていないらしく、そこは気長に待って今度こそ楽しんで参加したいと願う。

そして、色々な出来事が起きたとても長い一日がようやく、終わりを迎えようとしている。

「ふぃー……疲れた」

夜の十時過ぎに学生寮にある大浴場で今日一日の疲れを癒した後、俺は自室のベッドに倒れ込んだ。

『ピィー……』

白蓮も俺と同じように「疲れた……」と鳴きながらバスケットの寝床に横になった。何というか、白蓮が俺に少しずつ似てきたような気がする。まあ、白蓮は俺を契約者であると同時に父と慕うのだから、当然と言えば当然だが。

「疲れたな、白蓮。今日はお疲れ様」

『ピィ、ピィー……』

「ん?寝るのか?わかった、お休み」

指で白蓮の頭を撫でると、今日一日頑張ってくれた白蓮はスヤスヤと眠り始めた。それと同時に部屋のドアが開き、大浴場に行っていた千歳と銀羅が戻ってきた。

「ただいま。あら?白蓮ちゃん、眠っちゃったの?」

「ああ。今日頑張ってくれたからな」

「ふふっ、そうね」

『千歳、私も寝るぞ……』

風呂上がりの銀羅は眠たそうな表情を浮かべている。

「ええ、わかったわ。お休みなさい、銀羅」

千歳は銀羅の額に軽くキスをした。そのお返しに、銀羅は千歳の頬にキスした。

『お休み、千歳……』

銀羅はその場から軽く飛ぶと、そのまま千歳のベッドにダイブした。そして、僅か数秒であっという間に眠りに入った。

「寝ちゃったわね、二人共」

千歳は俺のベッドに座り、白蓮と銀羅を起こさないように小さな声で俺と話す。風呂上がりの千歳からシャンプーの良い香りが漂い、俺の鼻をくすぐる。

「あ、ああ……今日は二人共頑張ってくれたからな」

俺は若干緊張しながら応えた。それを知ってか知らないか不明だが、千歳は笑みを浮かべながら俺にぴったりと寄り添うようにくっついた。正直この状況は青少年の俺の心臓にとても悪い。だが、千歳を無理やり引き離すわけにはいかないので我慢するしかない。

「……そう言えば、天音は“決め台詞”を叫んでたよね」

「決め台詞……? ああ、瑪瑙にトドメを刺すときの? あれは頭にふと思い浮かんで叫んだからな」

双翼鳳凰剣の鳳凰光翼剣で瑪瑙にトドメを刺す時に“Break The Fate”と叫んだ英文。直訳すると“運命をぶっ壊す”で、英語が苦手な俺が一番好きな英文だ。

「まあ、俺が一番好きな映画の決め台詞だからな」

海外のアクション系の映画好きな千歳と見た数々の映画の中で、俺が一番心が惹かれた映画がある。その映画のストーリーは定められた運命に翻弄される主人公が愛するヒロインを助ける為に戦うものだ。特に最後のクライマックスシーンで主人公が「Break The Fate!!!」と叫びながら宿敵を倒したシーンが一番心に残り、俺のお気に入りの言葉となった。

「あの時は瑪瑙が起こした蓮宮家の呪われた運命をぶっ壊したい気持ちで鳳凰光翼剣を振り下ろしたからな。無意識にあの主人公と自分を重ねていたのかもしれない……何か、馬鹿みたいな話だな……」

戦いの最中で無意識に物語の主人公になりきっていた自分の行いに苦笑を浮かべた。

「そんな事はないよ」

俺の話に千歳は真剣な表情を浮かべてスパッと言い切った。

「千歳……?」

「だって、天音は私にとって物語の主人公だもん。天音がいつも側にいてくれたから私の“死の運命”を壊してくれて、今こうしてここにいる事が出来た」

「……俺はただ側にいて手助けをしただけで、頑張ったのはお前自身だろ?」

「……違う!!」

「おわっ!?」

声を張り上げて俺の言葉を真っ向から否定した千歳は俺の肩を掴んで無理やり押し倒した。

「ちょっ、ち、千歳!?」

「私はね……天音が側にいてくれるだけで自然と心と体が元気になっていくんだよ。努力したのは確かに私自身だけど、天音がいなければ頑張れなかった。勉強や運動、私に大切な必要な事全ては天音がいなければ手に入れることは出来なかった……。私にとって、天音は物語の主人公。そして、私が生涯ずっと愛すると誓った、私だけの“王子様”だよ……」

千歳にとって俺と言う存在がどれほど大きいかを告白し、俺はもの凄く恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてしまう。その所為で千歳の顔をまともに見られなくなり、視線を反らして最後の言葉について少し反論する。

「王子様、か……こんな女顔で長髪の俺には全く似合わない気がするけど……」

「そんな事は無いよ。天音は私の知る誰よりもカッコイイ男の子だよ」

「うっ……あ、ありがとうな……」

この大和撫子風の容姿故に可愛いとはよく言われるが、カッコイイとあまり言われた事がない俺は更に顔を赤く染めて頭が沸騰しかけている。

だが、その沸騰も持ち前のツッコミスキルのお陰で自然と精神が冷静になっていく。何故なら、俺は今、千歳に押し倒されて馬乗りにされている。他人が見たら間違いなく勘違いをしそうな状況となっている。

「あのー、千歳さん……?そろそろ、降りてくれますか……?」

「え……?あっ……」

無意識のうちに俺を押し倒したらしく、ようやく自分の現状に気付いた千歳。すぐに降りると思ったが、何故か顔を真っ赤にし、体をくねくねと動かしながら何かを言いたそうな様子だった。

「千歳……?」

「ねぇ……天音……」

「何……?」

早く降りて欲しいなと思っていた矢先、千歳と一緒に過ごしてきたこの十年間の人生で過去最高のとんでもない発言を口にした。




「このまま、私と……エッチな事……しちゃう?」




その大胆すぎる発言に俺の思考は今までに無いくらいに停止した。

「はい…………?」

思考停止をしてしまった俺を余所に、千歳は俺の上でパジャマのボタンをゆっくり外していく。

「…………ハッ!? 待て待て待て! は、早まるな、千歳!!」

「あっ、やぁん……」

停止した思考が直ぐに通常運転し、パジャマのボタンを外す千歳の手を押さえる。既に胸元のボタンが外れ、歳相応のそれなりの大きさがある千歳の胸の谷間が露わになっている。それと、今とても色っぽい声を出したがそれは聞かなかった事にして無視した。

「な、何してるんだよ!」

「何って……天音とエッチな事をする準備……」

「お前はアホか!? もっと自分を大切にし――ムグッ!?」

俺はこのまま千歳に説教をしようとしたが、その前に口を千歳の手で塞がれてしまった。

「自分を大切にって……私は前からこの心と体を天音に全て捧げようと思っていたんだよ?」

千歳は空いている手を自分の胸に当ててそう言った。正直、千歳の気持ちはとても嬉しかった。だけど、それとこれとは話は別だ。

「……そうだとしても、俺は千歳としない。気持ちは嬉しいけどな」

「……どうして?」

「決まっているだろ?心配なんだよ、お前の体が……」

「私の体……?」

「虚弱体質だったお前にリスクがある無理をさせられないからだ。せめて……お前の体が今より成熟して、体力をもっと増やしてからだ」

今の千歳には少し厳しい事を言ってしまったかもしれないが、もし過ちを犯して千歳にもしもの事があったら、学園長のじいさんや千歳の両親に顔向け出来ない。俺はそんな大きなリスクを犯してまで千歳を失いたくない。

俺の気持ちを理解してくれた千歳はシュンと反省しながら俺から降りてくれた。

「……ごめんなさい、天音。私、軽薄だった……」

「……わかってくれればそれで良いよ」

反省した子供をあやすように千歳の頭を撫でた。

でも、内心では俺も千歳とはそういう事をしたいという気持ちはある。これでも一応男だからな。だけど、小さいころから蓮宮流剣術を学ぶ際に肉体と同時に鍛えてきた精神で何とかその欲望を抑えることが出来た。その蓮宮流剣術を教えてくれた親父に俺は心の中でそっと感謝した。

「ねえ、天音……」

「ん? どうした?」

「その……エッチな事は我慢するけど、添い寝はダメかな……?」

「今度は添い寝か……ってか、千歳はたまに俺のベッドに潜り込むじゃないか」

 その願いは今更な気がするが千歳の様子を見ると勇気を出して言った様子だった。

「……良いよ」

「えっ!? 本当に!?」

「ただし、添い寝だけだからね」

「うん! うん!!」

 千歳は嬉しそうに何度も何度も頷いた。そこまで喜んでくれるとは少し予想外だった。まあ、俺もそろそろ寝たかったし、千歳がそれで満足するならそれでいいか……。

そう思った俺は部屋の電気を消し、すぐにベッドに潜り込んで毛布を持ち上げた。

「ほら、入れよ」

「それでは、お邪魔しまーす……」

 若干遠慮気味に千歳は俺のベッドに入り、毛布を掛けると俺と千歳は互いの体がかなり密着した添い寝状態となった。毛布の中で二人の体温が心地よい温かさを作り、密着することで互いの心臓の鼓動が伝わっている。

「暖かいね……天音」

「そうだな。添い寝なんて、小さい頃にお袋と寝た時以来だな……」

「やっぱり、人間は他人の体温の温もりを感じながら眠るのが一番よく寝られるかもしれないね」

「確かにそうかもしれないな。偶には悪くないかもしれないな……」

「じゃあ、明日から毎日一緒に添い寝して寝る?」

「馬鹿……そんな事になったら俺の精神が持たないよ……偶にだよ、偶に」

「むぅー、わかったよ。その代り、いっぱい天音に甘えるからね♪」

 そう言うと千歳は俺の背中に両手を回してギュッと強く抱きしめてきた。

「はいはい……それでお前が満足するならいいよ。さて……もうそろそろ寝るぞ……」

「うん。お休みなさい、天音」

「ああ。お休み、千歳」

 眠る前の挨拶を交わすと、俺は千歳を軽く抱きしめてゆっくりと眠りについた。

 とても長く、慌ただしい一日がようやく終わり、俺達の新しい一日が迎えるのだった。



.

ちーちゃんが暴走してしまいました(笑)


いつでもあんな事やこんな事をしてもいい覚悟をお持ちでした……。


まあ、ちーちゃんは元虚弱体質だったので天音はそれを考えて断りました。


多分、次回でバトルロワイアル編が終了すると思います。


年内には何とか書き上げたいです。

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