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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第2章 バトルロイヤル編
27/172

第27話 惨劇の涙

タイトルから既に不穏な空気が……。


若干グロな展開なので、あまり無理しないで見てください……。


気分を悪くしたら申し訳ありません。

m(_ _)m

「澪……俺だ、璃音だ。わかるか?」

「私は花音よ、澪!」

兄さんと姉さんは澪に自分達を気付かせるために名前を明かす。澪は自分の契約者の息子と娘の名前を聞き、耳を疑って目を見開いた。

『璃音と花音だと……? 待て、あの二人はまだこんなに大きくは……』

「お前が操られてもう五年以上経っているんだよ」

 語られたそのたった一言の事実に、澪が操られていた長い時間を重く乗っかっていた。

『五年、だと……!? じゃあ、“詩音(しおん)”は? “弓子(ゆみこ)”は? 二人はどこにいる!?』

詩音とは蓮宮神社の先代当主の名前で、弓子とはその当主の妻の名前。つまり、兄さんと姉さんの父親と母親で、俺の叔父さんと叔母さんの名前だ。

璃音兄さんは辛い表情を浮かべ、爪を手に食い込ませて話した。

「……親父は死んだよ。お前を奪いに……お袋と一緒に……」

『そんな……詩音と弓子が……? 私は……私は……うっ!?』

知らなかった事実を聞いた澪は頭を手で押さえて苦しむ。

「澪!?」

「もしかしたら、記憶が混乱しているのかもしれないわ……」

五年以上も操られていたのだ。記憶が混乱しても不思議ではない。しばらくすると澪は頭から手を離し、目を見開いた。

『そうだ……思い出した……』

混乱した記憶を整理した澪は全てを思い出した。

『私はあの日聖霊狩りに襲われ、詩音と共に戦ったが“弓子”を人質に取られ……そして、詩音を殺して、あろうことか弓子も……あっ、ああっ……あああああああああああああああああああああああああああっ!!!』

大切な人を奪われた悲しみが一気に溢れ出し、澪は涙を流し、それに共鳴するかのように空を覆う雲が一瞬で雨雲へと変わる。そして、澪の悲しみの大きさを現すかのように大粒の雨を降らす。

「……嘆きの、雨か……」

力を使い果たして眠ってしまっている雫先輩に雨で塗れないように自らの執事服の上着を掛けた迅先輩はそう呟いた。

「落ち着け、澪! 泣いたって親父とお袋は帰ってこない!」

「悲しいのは私達も同じよ! だけど、今だけは我慢して、澪!」

悲しみが癒えていない澪だが、二人の説得により取りあえず落ち着きを取り戻して雨を止ませた。

『すまない……乱してしまって……』

「良いさ。気持ちはよくわかるから」

「澪、ずいぶん遅くなったけど、お帰りなさい」

『璃音……花音……ただいま』

数年越しにようやく再会し、二人の元へ帰ってきた澪。今度は嘆きではなく、喜びの涙を一つだけ流した。

「おっと、そうだ。天音、ちょっと来い」

「え?あ、うん」

何かを思いついた兄さんに呼ばれ、俺は小走りで駆け寄る。

「紹介するぜ、澪。こいつがこれから蓮宮を支える未来の当主だ!」

兄さんは俺の肩を抱き、嬉しそうに俺の事を紹介する。そう言えば俺は澪の事は話に聞いていたけど、実際にこうやって面と面が向かって話したことはなく、これが初めてだった。

『お前は確か、詩音の弟の息子か……?』

「俺は蓮宮天音。兄さんに代わり、蓮宮神社の次期当主となりました」

『お前が蓮宮の次期当主? 璃音、お前は……?』

 本来の次期当主であった璃音兄さんは息を一つ吐いて笑みを浮かべた。

「色々あったんだよ。だがな、心配はいらない。天音は俺と花音の最高の弟だ。当主としての器と相応の力を持っているからな!」

兄さんにそう言われ、少し恥ずかしくもあったが同時に嬉しくもあった。

『……そうか。私が操られている間に、時代を背負っていく次の世代が現れてきているのだな……』

かなり大袈裟な事を言うが、長い時を生きて人間を見てきた龍神である澪はそう感じたのだった。俺達は力を合わせて無事に澪を取り戻し、これで全てが終わったと思った。

しかし、

『うっ……?』

「澪?」

「どうしたの?」

『うっ……うぉおおおおおおおおおおおっ!!』

澪は突然体を抑えて苦しみだし、俺達は騒然とする。

『がぁああああああああああああっ!!』

次の瞬間、澪の腹が引きちぎられ、中から無数の糸が飛び出す。

「「澪!!」」

腹から大量の血が流れて地面を赤く染めながら澪は倒れ、兄さんと姉さんが叫んだ。千歳達はあまりの光景に血の気が引いて言葉を失った。

「まさか!?」

俺の脳裏に一人の女の姿が浮かんだ。そして、案の定、澪の血で染まった無数の糸の中から血の衣を羽織ったかのような一人の女が出てきた。女は体中に被っている血を振い落しながら暴言を零した。

「ちっ……屑の所為で汚れちまったじゃねえか……」

「瑪瑙……!!」

 それは逆鱗で暴走した澪に食われた全ての元凶である瑪瑙だった。

「結界が無かったら正直ヤバかったな……こいつを失うのは痛いが、死ぬのはごめんだから糸で腹を引き千切らせてもらったぜ」

 その言葉で全てを理解した。瑪瑙が張っていた結界は澪の持つ力をエネルギー源にして張っていたもの。喰われた後でも結界が発動したままで、このままでは拉致が明かないと感じ、思い切って澪を捨てることにした。そして、アーティファクト・ギアの骸操死糸で内側から澪の体を引き千切った……。


   ☆


「澪……澪ぉおおおおおおおおっ!!」

「いや……いやああああああああああああっ!!!」

 やっと取り戻したはずの龍神の澪を目の前で無残に殺され、兄さんと姉さんは悲しみのあまり涙を流して泣き叫んだ。瑪瑙は自分の体についた澪の血を舐めながら信じられない暴言を吐くのだった。

「もうてめぇには用はねえ……あの世で契約者に自分の無能を詫びるんだなぁっ!!」

 散々自分が利用しておいてその言い草。余りにも酷過ぎるものだった。

「許さない……」

 こんな腐った奴の所為で、兄さんと姉さん……そして俺達蓮宮家を大きく狂わせた。

「てめぇだけは!!!」

 俺は今まで感じたことのないほどの怒りを沸騰させ、鳳凰剣零式を手に瑪瑙に斬りかかるために走り出した。

「天音! 待って!」

 千歳の制止の声が聞こえたが今の俺にはそれはすぐに頭の中からすぐに排除された。俺が向かってくるのを知ると、瑪瑙は澪の血で染めたばかりの骸操死糸で空を切る。

「ひゃひゃひゃひゃあ!! 消えろ! 消えろ! 私に楯突くクズは全部消えろぉおおおおおおおおおお!!」

 瑪瑙は狂い笑い、骸操死糸から膨大な量の死糸を作り出して向かってくる俺を撃墜しようとする。

「天凛蓮華!!!」

真正面から襲い掛かる無数の死糸を、炎を放出させながら鳳凰剣零式で焼き斬っていく。

死糸を焼き斬りながら一歩でも前に近づき、間合いに入った所で瑪瑙を斬る! その事だけが俺の全てを支配していた。

 しかし、乱撃の天凛蓮華で死糸を次々と焼き斬っていくが、それよりも早く骸操死糸の死糸を作り出すスピードは予想以上に早く、遂には焼き斬り損ねた何本もの死糸が俺の体を襲っていく。

『蓮宮天音。結界エネルギー、5パーセント、3パーセント、9パーセントダウン!』

俺の身を守っているガーディアン・アクセサリーの結界エネルギーが死糸によって徐々に削られていき、結界エネルギーが切れるのも時間の問題だった。

 でも、だからと言って今更後に引くことはできない。俺は必ずこの腐りきった女を必ず倒す。それが……蓮宮神社次期当主としての俺の使命だ!

 そう心の中で何度も言い聞かせて俺は鳳凰剣零式を振るい続けて死糸を焼き斬っていく。


   ☆


「天音! 天音!!」

瑪瑙を倒しに無謀にも一人で突撃してしまった天音。助けに行きたかったが、瑪瑙の放った骸操死糸の無数の糸が私達の方にも迫ってきている。私たちはそれを迎撃していてなかなか天音の助けに向かう事は出来ない。

「あのバカ……無茶しやがって……」

璃音義兄様は苦い表情を浮かべながら霊閃氷帝剣で死糸を凍らせる。しかし、ふと義兄様の動きが止まり、霊閃氷帝剣を手放してしまう。

「がっ……くっ……?」

 体中から突然血を吹き出し、その場に倒れてしまう。

「璃音!?」

「義兄様!?」

「やべぇ……傷口が開いちまったみてぇだ……」

「「ええっ!?」」

璃音義兄様の傷口は実は完全には癒えておらず、無理に体を動かしたせいで傷口が開いてしまった。その事に驚いてしまった私と花音義姉様はこの時に隙が出来てしまった。

「千歳! 危ねえ!!」

「はっ!?」

恭弥の叫び声に気付くと、死糸が私達の目の前まで襲い掛かってきた。

「吹き荒れ、我らに暴風の加護を! ストーム・フィールド!!」

 死糸が私達に触れるか触れないかのギリギリのタイミングに迅先輩の声が響き、凄まじい暴風が死糸を吹き飛ばした。

「すまない……少し時間が掛かった……」

 迅先輩は右腕の破魔之御剣で、左腕に寄りかかっている雫先輩を無数の死糸から守りながらイージス・オブ・ペガサスに力を込めて、時間が掛かったが私達を死糸から守る暴風の壁を生み出してくれた。

「ふぅ……これで一息つけるぜ……」

「助かりました、副会長……」

 死糸と奮闘していた恭弥と雷花は暴風の壁が作り出されると同時に気が抜けてその場にへたり込んだ。

「雫だけじゃなく、この学園の生徒を守るのが副会長としての使命だからな。だが、蓮宮天音が……」

 迅先輩は天音の身を案じた。先輩自身も今すぐ助けに行きたい気持ちだったけど、あの大量の死糸の前では迂闊に近づくこともできない。天音は今、鳳凰剣零式で必死に死糸を切っているが、目的であるなかなか瑪瑙に近づくことすら出来ていなかった。

「せめて……せめて、天音にもう一本“剣”があれば……」

「……剣?」

私が呟いた一言にあまり動くことが出来ない璃音義兄様は歯を食いしばって地面に落ちている霊閃氷帝剣を手に取る。そして、何かを思い付いたかのように目を見開いた。

「……花音」

「何? 何かいい案でも思いついたの!?」

「こいつを……氷蓮を天音の所まで届けることは出来るか?」

「はぁ?」

花音義姉様は耳が一瞬可笑しくなったかと思い、義兄様に聞き直した。

「何で氷蓮を天音の所に? 何を考えているのよ、璃音!」

「確か、白蓮は天音の関わった“モノ”を契約媒体として契約執行を出来るんだよな?だったら、氷蓮を天音が手にすれば……」

「氷蓮を天音に渡して、白蓮ちゃんに氷蓮を契約執行をさせて鳳凰剣零式と一緒に二刀流で戦わせる……」

「そんな事、出来るの?」

「千歳ちゃん。とっさの思いつきだが、出来ると思うか?」

大きな疑問を浮かべる内容に私は頷いた。

「可能です。少なくとも、天音が直接触れれば契約媒体にする事は可能です。既に実証済みですから……」

約一ヶ月前、白蓮ちゃんの能力を確かめるために天音が触れたもので契約執行を行った。まずはシャーペンや本などで試したが、結果的に契約は成功したのだが、能力がよくわからない不思議なアーティファクト・ギアになってしまった。しかし、武器なら使用方法が明確なため、普通の道具よりは使えることは確か。仮に氷蓮で契約執行を行うとしたら、鳳凰剣零式と同等の力を持つ剣が誕生する可能性が非常に高い。

「それなら、善は急げだ! 花音、頼む!」

「……わかったわよ。天音を助けるためだからね。流星、切り札を出すわよ!」

花音義姉様は蒼穹麒麟弓の流星に呼び掛けると、義姉様は体から霊力を放出させた。

「アーティファクト・フォース!!」

それと同時に流星の天力が放出されて義姉様の霊力と一つに交わり、アーティファクト・フォースの力が爆発する。

やっぱり、義姉様もアーティファクト・フォースを会得していましたか……。

そう思ったのも束の間で、その直後に義姉様は驚きの一言を発した。

「ギアーズ・オーバー・ドライブ!!!」

アーティファクト・ギアの奥義であるギアーズ・オーバー・ドライブが発動し、アーティファクト・フォースの力が更に増幅される。義姉様は蒼穹麒麟弓を上へと投げた。

「蒼穹麒麟弓、形態変化!!」

麒麟が宿った神弓、蒼穹麒麟弓は義姉様の“形態変化”という言葉に反応して姿形を大きく変える。義姉様の身長より少し長めだった弓は何倍にも巨大化しながら黄金の装飾も更に煌びやかに変化し、通常の弓より威力抜群の巨大弓である“弩弓”へと進化した。

「蒼穹麒麟弓……“天壌弩弓之型(でんじょうどきゅうのかた)”!!」

これが、ギアーズ・オーバー・ドライブによるアーティファクト・ギア“蒼穹麒麟弓”の進化した姿。しかし、これではあまりにも巨大過ぎて義姉様の体では扱うことは出来ない。しかし、そんな事は既に分かり切っている義姉様は射るための次の段階に入った。

義姉様の纏うアーティファクト・フォースの霊力と天力が混ざった金色の光を背中から大量に放出する。そして、放出された光が徐々に人の形へと変化する。

「顕現せよ、我が魂に宿る前世の姿!今こそ蘇れ、我が神霊の化身!!」

呪文を詠唱すると、黄金の光が巨大な鎧姿の武人へと姿を変えた。

「な、何ですか、あれは……?」

「あれは花音の前世の姿だ」

「前世!?」

「ああ。あれは神弓を使う名も無き武神……花音の魂に刻まれた前世の姿だ。ギアーズ・オーバー・ドライブで魂の力を解放させて、化身として具現化させたんだ!」

義姉様が弓を射る動作をすると、具現化した武神の化身は義姉様と同じ動作をして蒼穹麒麟弓・天壌弩弓之型を持ちながら構え、弦を右手の指に引っかけて力強く引いた。

具現化した化身は義姉様の動きに同調しているようで、後は放つ“矢”を用意して弓に添えるだけだった。

「璃音、氷蓮を!」

「おうっ!」

璃音義兄様は全身から霊力を放出し、予め契約聖獣の轟牙と契約を解除しておいた氷蓮に自分の今ある全ての霊力を込めた。氷蓮は義兄様の霊力に包まれ、覆った霊力は蒼穹麒麟弓・天壌弩弓之型に見合う巨大な矢へと変化した。

「名付けて……“霊閃破魔矢”、完成だ。後は頼むぞ、花音!!」

霊力を殆ど使い果たして作り出した霊閃破魔矢を蒼穹麒麟弓・天壌弩弓之型に向けて投げると、霊閃破魔矢は自分から勝手に蒼穹麒麟弓・天壌弩弓之型に添えられる。

弓で最高峰の威力を持つ弩弓の姿をした蒼穹麒麟弓・天壌弩弓之型に、それを射る義姉様の武神の化身。そして、膨大な霊力で氷蓮を包み込んだ巨大な破魔矢の霊閃破魔矢……これで全てが揃った!

「受け取りなさい、天音。私と璃音の全てを!!」

 義姉様も天音に全てを託す気持ちで自身の持つ全ての力をこの一射に賭けた。

「蒼穹麒麟弓裏式、天壌光塵破(てんじょうこうじんは)!!!」

 放たれた渾身の一射は光を放ちながら天音に向かって飛んで行った。

「天音ぇっ!! 受け取ってぇーっ!!!」

 私は氷蓮が入った破魔矢が無事に天音の所まで無事に届くように、そして……天音が私達の元へ必ず帰ってくるようにと祈るように思いっきり叫んだ。



.

天音が暴走してしまい、それを千歳達が何とかするためにがんばりました。


次回、天音の新しいアーティファクト・ギアの誕生となります。

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