第21話 前途多難なバトルロイヤル
バトルロイヤルが始まりましたが、最初から天音は前途多難です。
ギャグにしようと思いましたが、ぶっちゃけ微妙な感じになってしまいました。
人間は人生で一度に必ずモテ期が訪れると聞いたことがあるが……。
「蓮宮君!好きです、私と付き合って!!」
「天音君!愛しています。だから、私の嫁になって!!」
「天音様!どうか私の将来の伴侶になってください~!!」
どうやら俺にもその人生に一度のモテ期が来たようだ。非公認だけど俺のファンクラブである“天音ファンクラブ”のメンバーである数十人の女子がに俺に向けて一斉に愛の告白を送ってくる。まさかこんなに俺に対して好意を持つ女子がいるとは思いも寄らなかった。正直嬉しいかどうか言われると、一応男としては嬉しい。しかし、愛の告白は何も女子だけではなかった。
「蓮宮!大好きだ、俺と付き合ってくれ!!」
「天音!俺と一緒に同姓結婚が認められているヨーロッパに行こう!」
「蓮宮天音!貴様の全てを俺にくれ!!」
一体どこで道を大きく踏み間違えたのか知らないけど、十数人の男子が女子同様に告白してくる。告白する相手を間違えていると思いたかったが、目が本気だった。やはり母さん似の顔と黒髪ロングが事の全ての元凶だと改めて思い知らされた。俺は一生この顔と髪で人生を翻弄されるのだと同時にショックを受けてしまった。そして、俺に向けられた男女の告白により、やはりと言うか当然と言うか一人の少女からこれまでに感じたことのない凄まじい殺意の波動を放つのだった。
「アンタ達……私という存在がいながら、私の天音に告白するなんて良い度胸をしているじゃない……」
鬼や悪魔が何もせず、すぐに逃げ出すような殺意の波動を俺の婚約者である千歳は体全体から惜しみなく出している。その殺意の波動に一応慣れている俺は額に手を当ててため息をつくが、恭弥と雷花さんは恐ろしさの余りビクビクと体が震えている。千歳の手の中にある清嵐九尾の銀羅も恐らく今頃は殺意の波動をまともに受けて恐がっているに違いない。すまない、銀羅。俺には今の千歳を止めることが出来ないんだ……。
「出たわね、私達ファンクラブの宿敵!」
「否、悪の根元である爆弾魔、天堂千歳!!」
「あなたを倒して天音様は私達が頂くわ!!」
「お前と一緒だと蓮宮は幸せになれない!」
「天音、俺がお前に一生尽くしてやる!」
「だから、蓮宮天音よ。こっち側に来るんだ!!」
何だか好き勝手なことばかり言ってくるな……。ここは正直に俺の気持ちを話した方が良さそうだな。
「悪いけど、俺は千歳を愛しているんだ。だから、あなた達の気持ちには応えられない」
これで諦めてくれれば良かったのだが、現実はそう上手くはいかないのだった。
「くっ、やっぱり蓮宮君は天堂千歳に懐柔されていたのね!」
「幼なじみという立場を利用して洗脳をしていたという噂はやはり真実みたいね……」
「そこまでして天音様が欲しいか!天堂千歳はやはり人の皮を被った悪魔だわ!!」
「こうなったら我々天音ファンクラブの総力をあげて悪鬼千歳から蓮宮を奪い返すしかない!」
「俺達は敵同士だが、今は共に戦う時だ!!」
「待っていろ、蓮宮天音!今すぐに助けてやるからな!!」
ちょっと待て……黙って聞いていれば好き勝手言いやがって。お前達に千歳の何が分かる? 小さい頃から孤独だった俺に大切な居場所をくれた千歳をそんな風に罵倒する権利なんてお前達には無い!
「おい……お前達……」
俺は体から抑えきれない怒りを放出しながら千歳を侮辱した奴らを睨みつけて鳳凰剣零式を向ける。そいつらはビクッ! と体が震えた。今更許しを乞うても絶対に許さない……。
「天音ファンクラブだが何だか知らないけど……これ以上千歳を侮辱するなら容赦しない。今からお前達全員は俺の敵だ!!!」
こんなに怒りに満ちたのは小学校以来だ……確かあの時は同級生が俺や千歳を馬鹿にしたときだったな。あの時はまだ幼くて心の制御が出来なくて暴走して大暴れしたな……。
「雷花!このまま天音と千歳を暴走させると被害が甚大になる!手伝ってくれ!!」
「わかった……こうなったのも元を辿れば私が原因だから……」
暴走しかけている俺と千歳を止めるために今までビクビクと待避していた恭弥と雷花さんが動く。
「恭弥……二人をお願い」
「任せろ! 如意棒!!」
恭弥は如意棒を伸ばすと、歪みのない真っ直ぐな棒ではなく、蛇のようにふにゃふにゃに柔らかくなった。ロープのように俺と千歳の体に巻き付き、そのまま宙へ持ち上げた。
「恭弥!!何をする!?」
「早くアイツらに制裁を喰らわせなくちゃ!!」
「取りあえずお前達二人は落ち着け!雷花っ!!」
「うん……」
雷花さんは跪いてトールハンマーを掲げる。トールハンマーからバチバチと雷電が迸る。
「雷光激震……サンダー・インパクト!!」
トールハンマーで地面を叩き、トールハンマーの内部に蓄えられている雷電が一気に放出され、四方八方に飛ぶ。
「「「キャアアアアッ!!?」」」
「「「ギャアアアアッ!!?」」」
四方八方に飛んだ雷は天音ファンクラブの馬鹿共に直撃し、ガーディアン・アクセサリーの結界エネルギーを大量に奪い、更に雷光によって視界も奪う。
「ふぅ……こんな感じかな……?」
一仕事を終えた様子で立ち上がり、トールハンマーで肩を軽く叩く。
「数十人相手に、一斉に……?」
「雷花。かっこ良くて、綺麗……」
雷花さんとトールの美しさと攻撃力を兼ねた見事な雷撃に見取れてしまい、暴走で熱くなった俺と千歳の頭も一気に冷やされる。
「おっ?やっと落ち着いたか?じゃあ下ろすぞ」
恭弥は頭が冷えた俺と千歳を見ると、如意棒を元に戻して俺達を地面に下ろした。
「少しは頭冷えたか?」
「……ああ」
「ちょっと熱くなりすぎたわ」
「よし。それじゃあ、頭が冷えたところであいつらを退治しますか?」
「わかった」
「了解よ」
「じゃあ、天音は俺と、千歳は雷花とでタッグを組もうぜ。お前らが一緒だと狙いが集中することは目に見えてるからな」
珍しく恭弥がリーダーシップをとり、俺と千歳に指示を出した。
「そうだな。承知したぜ」
「恭弥にしては珍しくマトモね」
「おいコラ。千歳、それはどういう意味だ?」
「雷花ー! 一緒に邪推をするあいつらを撲滅しましよー!」
千歳は恭弥を無視して雷花さんと一緒に向かった。
「聞けやコラァーッ!!」
「おいおい。恭弥が熱くなってどうすんの?」
暴れようとする恭弥を羽交い締めで抑える。うーん、千歳と恭弥は相性が良いのか悪いのかよく分からないな。喧嘩するほど仲が良いと言うけど、実際はどうだろうか?
羽交い締めから抜け出した恭弥は悔しそうに手を握る。
「くっ。己……あの身勝手な爆弾娘め……」
「はいはい。怒るのは後にして、先に……」
睨んだ視線の先には雷撃から立ち直ったファンクラブの馬鹿共がアーティファクト・ギアを構えて襲ってきた。
「わかってる。まずは、あいつらを倒すのが先だな!!」
恭弥は孫悟空直伝の華麗な棒術で敵のアーティファクト・ギアの攻撃を捌いていく。そして、恭弥は親友として嬉しいことを俺に行ってくれた。
「天音。俺はお前と千歳の親友としては、絶対にお前は千歳と結ばれてほしいからな。こいつらなんかにお前を渡すわけにはいかねーな!」
恭弥の言葉に思わず目に小さな涙の粒が浮かぶ。そう言ってくれるのはお前だけだよ。
「恭弥……サンキュー。お前との友情に感謝するぜ!」
「応よ! お前の背中、この浅木恭弥が預からせてもらうぜ!!」
「ああ。俺の背中、任せたぞ、恭弥!!」
深い友情で繋がれ、背中を預けた同士である俺と恭弥はこの状況を打破するために奮闘する。まずは、白蓮の炎の力で複数の敵に向けて爆発させる。
「蓮宮流、紅蓮爆炎波!!」
白蓮の炎の力を鳳凰剣に収束させて横に薙ぎ払い、紅蓮の如き炎を一気に爆発させたことで前方の広い範囲に爆炎が迸り、敵の動きも驚いて一瞬止まる。その隙に間合いがかなり広い最強の物理攻撃とも言える恭弥の如意棒が輝く。
「如意棒、龍牙轟閃!!」
まるで龍が牙を突き立てて襲い掛かるように如意棒が高速で伸び、敵を突いて吹っ飛ばす。一人を突くとすぐに短くなってすぐに別の敵を突く。その繰り返しを目では追えない高速で行い、あっという間に数十人の敵を吹っ飛ばしていく。
「よっしゃあ! さあ、この調子でどんどん行こうぜ、相棒!!」
「相棒か……悪くないな。なら、とっとと片付けますか!!」
お互いのテンションが上がり、息の合ったコンビネーションで敵のGAの結界エネルギーを奪っていく。しかし、その上がったテンションを一気に暴落させていく複数の声がこの場に響いた。
『『『天恭キタァーッ!!!』』』
ズサササーッ!!!
お笑い芸人も真っ青な見事なずっこけをして地に伏せる俺と恭弥。
な、何だ? 今の黄色い声は……?
俺と恭弥はその声のする方へすぐに振り向くと、この戦場から少し離れた場所で十数人の女子がこっちを見ながら戯れていた。
「やはり、天音×恭弥は素晴らしい!! 男の娘とイケメンの組み合わせはどうしてこんなにも舌が蕩けるように甘い物なのかしら!!」
「どっちが攻めで受けでも申し分なし! 基本やっぱり天音君が受けだと思ったけど、意外にSなところがあるから需要は十分あるわ!!」
「そして……仲の良い親友の関係から二人は禁断の甘い関係に堕ちるのです!! いえ、寧ろ堕ちてください!!」
それはさっき雷花さんが言っていたBL好きで、俺と恭弥のカップリングを無理やり作った天恭派の女子たちだった。あっちはあっちであの馬鹿共とは別の方向性で好き勝手なことを言っている。俺と恭弥はそんな関係でもない普通の健全な男子なのに、どうしてこう言う女の子――確か、腐女子と言ったか? その腐女子がどうしてそんな危ない妄想力が膨らむのか俺には全く理解が出来なかった。腐女子たちは「キャーキャー!」と騒ぎながらアーティファクト・ギアではなく、スケッチブックとペンを手に何かを書いている。恐らく俺と恭弥の何かをした絵を描いているのだろう……もう何か、天音ファンクラブのメンバーが色々と嫌になってきた……。
「Get Lost!!!」
すると突然、聞き慣れた英語が響き、狐の姿を模した青い炎の弾が飛んだ。そして、腐女子たちのスケッチブックに直撃し、灰も残さずに跡形もなくあっという間に燃やし尽くした。
「あああああああああっ!! 何をするんですかぁあああああ!?」
「私たちの欲望を詰め込んだスケッチブックがぁああああああ!!?」
「天恭の全てを描いた命より大切な絵がぁああああああああ!!!」
目の前で無残に燃やされたスケッチブックを見て腐女子たちは絶望しながら絶叫した。その炎の弾を出したのは言うまでもなく千歳だった。
「はいはい。消毒完了」
「何が消毒ですか!? 私達の想像の結晶を!!」
「酷過ぎる妄想の間違いでは?」
「それに何よ、消毒って! 私たちの書いた天恭は汚物だって言いたいの!?」
「あれは目に毒よ。少なくとも、私の身近な人をそんな風に妄想させられて卑猥な表現で描かれるなんて堪った物じゃないわ」
「燃えたスケッチブックの責任、どう取ってくれるんですか!?」
「スケッチブックなら弁償するわ。でもね……こっちは天音と恭弥のあんな事やこんな事を書かれるだけでも虫唾が走ってるのよおおおおおおおっつ!!!」
あーあ。せっかく頭を冷やしたのにまた熱くなっているよ。虫唾が走るほどにあの同人誌にヤバい内容が書かれていたのか……。雷花さんもトールハンマーで肩を叩きながらため息をついている。
待ちに待ったせっかくのバトルロイヤルなのに俺は全然楽しくなかった。寧ろ不快でいっぱいだった。最初からこんな調子だと前途多難な気がしてならなかった。
☆
一方、学園全体で白熱しているバトルロイヤルを行っている中、複数の影が学園に忍び込んでいた。
「さーて……作戦開始まであと数十分か……くっくっく……楽しみだねぇ……」
真紅に染まったワイヤーを手に持った女はバトルロイヤルで人が大勢外に出ていて、人気が少なくなっている数多くの学園の建物に隠れていた。
「久々の大仕事だからな……“人形”もたまには動かしてやらないとなぁ……くっくっく……」
人形と称してポケットから出したそれは手のひらサイズの青い宝玉だった。しかし、その宝玉は綺麗とは呼ぶには遠いほど中身が黒色と灰色の二色によって汚れていた。
「良いねぇ、この汚れ具合。お前を暴れさせてもっと、もっとこの輝きを汚してやるぜ……」
その宝玉の汚れ具合に女は満足していたが、その青色を埋め尽くす黒色と灰色の汚れはまるで宝玉に眠る“何か”の恨み、憎しみ、悲しみ、嘆き、怒り、絶望、そして殺意を現しているかのようだった。
だが、その事を女は知らない。
否。
女にとって“そんな事”は知る必要が無かった。
何故なら女はその宝玉に眠る存在を人間と聖獣を狩る道具、もしくは人形として操っていたからだ……。
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次回の前半でファンクラブと決着をつけて後半から本格的なバトルを突入しようと思います。




