第20話 雷神の申し子
今回からバトルロイヤル開催です。
そしてお待ちかねの新キャラ登場です。
深夜の璃音兄さんとの激烈な特訓を続け、神子剣士として格段と強くなっていき、あっという間にバトルロイヤル当日となった。しかし、俺は特訓による疲労と睡魔に襲われてまともに戦える状態ではなかった。白蓮は聖霊樹ですぐに回復できるが、あいにく人間の俺はそう簡単に体力が回復できる事は出来ない。
だが、そんな時に花音姉さんが天星導志で世界をあちこち回っていた間に会得していた生物の失ったエネルギーを充填させ、肉体を活性化させる魔法である“回復魔法”で俺の体力を回復してくれたお陰で万全の状態でバトルロイヤルに臨むことができる。
「姉さんには感謝だな……」
『そうだね。ねえ、ちちうえ』
白蓮は雛から成鳥の姿で俺の隣にいる。特訓の度重なる戦いでで聖獣として大きく成長し、長い時間この姿を保つことができている。
「ん? 何だ?」
『ところで、ここはどこ?』
白蓮は見慣れない場所に周囲を軽く飛びながら見渡す。
「えっと……確かこの場所は“図書館城”の近くだな」
俺が見上げると小さいが見事な西洋風の城があった。その城は天聖学園・関東校の名物施設で文字通り“図書館の城”である図書館城だ。昔、どこかの国の王様が日本のこの地に城を建てた。その王様は大の本好きで、その城を住まいではなく自分が世界中から集めた貴重な本の倉庫にし、次々と本を入手しては城に保管していった。それは王様の死後も城には世界中から本がどんどん集められ、やがて城を含めた広大な土地にこの天聖学園・関東校が建てられ、既に数え切れない数の本が蔵書されたその城は図書館となり、現在にいたる。
「指定された場所がまだ知っている所だったから良かったよ」
俺と白蓮が此処にいる理由は、バトルロイヤルに参加する戦技科の選手全員はまず学園からランダムに選び出されて指定された場所に向かう。指定されたその場所からバトルがスタートすることになる。俺の場合は図書館城の近くだが、千歳と恭弥が今何処にいるか分からない。でもあの二人になら探さなくてもすぐに会えるだろうと思う。
すると、学園全体にバトルロイヤルを主催する大会本部から放送が入る。
『では……これより天聖学園・関東校主催、バトルロイヤルを開催する前に、参加する戦技科の生徒全員はガーディアン・アクセサリーを今すぐ着用するように』
放送用のスピーカーから学園長の声が響き、俺はガーディアン・ガードを取り出して上へと投げた。
「起動!」
ガーディアン・カードが一瞬光って髪留めのガーディアン・アクセサリーとなり、俺の長髪をあっという間にポニーテールに纏めて体に結界を張る。
『ふむ……全員無事に起動したな。では、皆の者、準備はよろしいかな?』
大会本部で生徒達のガーディアン・カードの起動を確認したらしく、学園長は満足したような声を出していた。さあ、いよいよ始まるぞ……。
『これより……第17回天聖学園バトルロイヤルの開催を宣言する!!!さあ、我が可愛い生徒諸君よ、この天聖学園で派手に暴れるがよい!!!』
学園全体のあちこちから祭りが開催された時のような大きな歓声が響き渡る。俺はその雰囲気に呑み込まれそうになったが心を静かに落ち着かせてその雰囲気からすぐに脱して蓮煌を手に取る。
兄さん達の追っている聖霊狩りの連中が開幕早々来るとは考えられない。襲撃するとしたら本格的にバトルロイヤルが始まって選手たちが戦いに夢中になる頃が一番妥当だ。それまで警戒しながらこのバトルロイヤルを戦っていく。
バトルロイヤルはフィールドが天聖学園全体で非常に広大となり、対戦相手が大勢になった以外は通常のAGバトルとほぼ同じルールだ。しかし、天聖学園の全学年の戦技科の生徒対象なので参加選手の人数が余りにも多く、しかも天聖学園には教室などの施設の建物が多いのでバトルロイヤル専用の特殊ルールがある。
一つ目はバトルロイヤルの制限時間が9時から17時まで。ただし、12時から13時までは選手達の昼食休憩を取るため、この時間の間は戦闘を禁止している。
二つ目は選手が建物に隠れて時間を潰すのを防ぐために30分に一度は敵と交戦、または接触しなければならない。もし誰にも会わずに30分以上が経過した場合は即刻失格になってしまう。しかし、広大な学園で道に迷い、本当に運がなく戦う意思があっても誰にも会わずに失格で終わってしまう事も過去のバトルロイヤルでは何回も起きたので、自分の今いる位置から一番近い選手のガーディアン・アクセサリーの結界の波動を受信して瞬時にその場所を知らせ、現在の参加人数などの情報を知らせる腕時計型端末の“デバイスウォッチ”が選手全員に支給され、これを必ず装着しなければならない。
三つ目は戦闘による得点や評価だ。バトルロイヤル故に全員が敵同士となるわけだが、選手同士の協力プレイが認められている。独りで戦うのも一向に構わないが、基本は一人でも多くの仲間をつくって戦うのが天聖学園バトルロイヤルの基本となっている。一人でも多くの敵を倒すことでデバイスウォッチに得点が加算され、戦闘終了までに一番得点が多い人が優勝となる。しかし、仲間同士の連携や作戦で敵を倒すことによって得点が倍になって上がってくる。他にも、学園長を中心とする天聖学園の教員たちによる審査員の評価によって優勝はできなくても特別賞を授与される。
とにかく、簡単に要約すれば即興で仲間を集めて連携や作戦で敵をバンバン倒して得点と評価を稼いで優勝を目指すという事。だが、俺には仲間や友人と呼べる人は恭弥ぐらいしかいない。何故なら俺は昔から女顔や長髪で同級生から苛められていた(何度か本当にブチ切れてボコボコにしたことがある)から友達の作り方はイマイチよくわからない。恭弥の場合は中学の時にアイツから近づいて「俺と友達になってくれ。そして、一緒に冒険しようぜ!」と強引に迫ってきたので当時の俺は頷くしかなかった。
「さて、どうするか……」
腕を組み、まずはどうするかと空を見上げながら悩んでいると、
「天音ぇ~!!」
俺の幼馴染で先日婚約者になった千歳の声が聞こえる。しかも、
「ぎゃああああああああ!! 助けてくれぇええええええええ!!」
先ほど出会った時のことを思い出していた恭弥の声、しかも助けを呼ぶ絶叫の声も同時に聞こえる。
「……うん。来るとわかっていたよ……」
長年千歳のあり得ない行動で磨き上げられ、蓄積されてきた直感で何となく千歳が来ることは分かっていた。上空から銀色の一筋の光が俺の前に突然舞い降り、その正体が銀羅だとすぐに分かり、俺の前に降り立つ。
『よし、10点!』
「おー……」
『あねうえ、おみごとー』
見事に着地した銀羅に俺と白蓮はパチパチパチと拍手を送った。
「天音、お待たせ! 恭弥と悟空を連れてきたわ!」
「何が『連れてきたわ』だ! 始まってそうそう俺たちを無理やり拉致しやがって!!」
『時間を全くかけない無駄のない動きで俺たち二人を拘束し、そのまま拉致……やはりこの娘は只者じゃないな……』
千歳に拉致された恭弥は怒りをあらわにして、悟空は千歳を只者ではないと評価していた。バトルロイヤルでも何時もと変わらない騒がしい雰囲気だった。
しかし、ここである不安が出てくる。千歳と恭弥は今日襲撃するかもしれない聖霊狩りの事を知らない。兄さんに口止めされているからだ。もし……聖霊狩りの連中が本当に来たなら、俺はこの二人をすぐに安全な場所に避難してすぐに兄さんと姉さんと一緒に戦うかもしれない。他人が聞いたら馬鹿な行為だと言われるかもしれない。後で千歳と恭弥に酷く怒られるかもしれない。だけど、俺はたった一人の幼馴染と友人である千歳と恭弥を失いたくない。例え、自分を犠牲にしてでも俺は二人を守りたい。そう思うほど俺は二人が大切な存在だから……。
「……ねえ、天音」
考え事をしていると、千歳の顔が俺の目の前まで近づけていた。余りにも顔が近かったので一瞬ドキッとなったが、千歳は少々不機嫌な表情だった。
「何か……私達に隠していない?」
「えっ? 何を?」
「全く……十五年幼馴染をやっている私の目を誤魔化せると思っているの?」
大きなため息を吐きながら千歳は俺から離れた。不味い……千歳は俺の事を知り尽くしているから天星導志や聖霊狩りの事とかの隠し事がバレテしまうかもしれない……。
「まあ、今すぐに問い質したいけど、バトルロイヤル中だから止めとくわ」
「そ、そうか……」
「でも、バトルロイヤルが終わったら覚悟してね。ベッドに縛り付けて、天音全部吐くまで尋問するんだから。あ、でも尋問と言っても気持ちいい事だからね♪」
「それはもう犯罪だろ!!?」
このバトルロイヤルが終わったら千歳にかなりヤバい方法で尋問させられる……兄さんたちに助けを乞うかとそう思っていると……。
コツン……コツン……。
耳に学園のこの地域の地面に敷き詰められた石畳の道を歩く足音が聞こえる。
「誰だ!?」
早速敵が現れたと思い、蓮煌を構えて振り向くが、恭弥が肩に手を置いて止めた。
「待て、天音。あの子は……」
「知っているのか?」
「ああ。まぁな……」
恭弥の知り合いと分かり、俺は取りあえず蓮煌を下ろしてその子を見ると、物静かな感じの女の子だった。
「初めまして……」
ぺこりと頭を下げた女の子は非常に落ち着いた雰囲気で、いわゆる可憐な少女だ。身長は千歳より低めで、セミロングの金髪をリボンでツインテールに纏めていた。一見すると可愛い女の子だが、服装は凄く独特だった。フリルのついたメイド服のような服を身につけているが、白色をベースに黄色と黒色で飾り付けられているという何ともアンバランスな色の組み合わせだった。一番気になるのは所々に雷のマークを模した飾りが付けられており、もしかしたら彼女は“雷属性”の聖獣と契約しているのかもしれない。
「私は1-Bの“鳴神 雷花”……」
少女――鳴神雷花は頭を上げて微笑んだ。
「えっと、鳴神、さん……?」
「私達と戦いにきたの?」
一応バトルロイヤル中なので俺と千歳は武器を構えて応戦準備をする。
「雷花で良いよ。蓮宮天音さん、天堂千歳さん……私は戦いに来たわけじゃないから」
じゃあ何しに来たんだと尋ねようとしたが、それよりも先に恭弥が口を開いた。
「そりゃあそうだよな。雷花は“天音ファンクラブ”の会長だからな」
ピシッ!!!
恭弥の爆弾発言により俺の心と体が凍結された。え?え?俺のファンクラブの会長がこの子と言うことはつまり……タッグバトルの後に俺のファンクラブを結成したのは雷花さん!? 千歳が言っていたファンクラブが本当に実在するとは思わなかったため、俺のショックは大きく硬直状態に陥っている。
「まさか、このバトルロイヤルの騒ぎに乗じて天音を奪うつもり!?」
千歳がレイジングを構えて硬直している俺の前にでる。しかし、雷花さんは首を横に振った。
「私は天音さんを奪うつもりなんてない。ただ私は天音さんのファンとして応援したいだけ……それに、天音さんが千歳さんを誰よりも大切にしているって知っているから、寧ろ私は千歳さんを応援する……」
「そう、なの?応援してくれるんだ……」
「うん。だから、天音さんといつまでも幸せになってね」
「えっと、その……あ、ありがとう……」
思わぬ応援者の登場に千歳は少し恥ずかしそうに頬を指で掻く。
「あ、そうだ……雷花!せっかくだから千歳と友達になってくれないか?」
突然恭弥は雷花さんにそんなお願いをし、千歳は目を見開いた。
「恭弥、いきなり何を……」
「うん、良いよ」
「えっ、早っ!?」
雷花さんは戸惑う千歳の手を掴んで握手をする。
「これからよろしくね、千歳さん。私の事は呼び捨てで良いからね」
「あ、う、うん。じゃあ、私も呼び捨てで……」
あっさりと千歳にとって初めての友人が出来て少し離れた俺と恭弥は微笑ましく思いながら見ていた。
「いやー、千歳にも友達が出来て良かったなー」
「意外にもあっさりとね。ところで恭弥。雷花さんとはいつ知り合ったんだ?」
「ああ。タッグバトルから少し経った後にお前の事を知りたいって雷花が訪ねてきたんだよ。天音の唯一の友人は俺だからな」
「どの程度まで話した?」
「まあ、お前の許可を取ってなかったからあまり多くは話さなかったよ。例えば、実家は神社とか、料理好きとか、千歳とは小さい頃からの幼なじみとか、話した内容はそんな感じだ」
「ふーん。まあ、それぐらいなら良いけど」
「ちなみに雷花は俺達の冒険部のメンバーだからな」
「はぁっ!? お前、いつの間に!?」
「はっはっは、ちょっと前にな。ちなみに、千歳もメンバーの一人だぜ」
「千歳も!?」
俺の知らないところで何か色々と決められていたようだ。
「後はお前が入れば完璧だ……天音、いい加減に腹を括ってもらおうか……」
ホラー映画の恐怖の根元みたく不気味に迫り来る恭弥に思わず後ずさりしたくなる。
「わ、わかったから……怖いから止めてくれ……」
もう頷くしか俺の道は残っていなかった。
「よっしゃあ!これで冒険部の欲しいメンバーは取りあえず揃ったぜ!」
不気味な雰囲気からいつもの恭弥に戻り、念願だった俺と千歳を冒険部に入れられて余程嬉しかったのか腕を高く上げて喜んでいる。
「そうだ……天音さん。天音ファンクラブについて言っておきたいことがある……」
「言っておきたいこと……? 雷花さん、それって何?」
俺のファンクラブの活動内容とかを聞かされると思っていたが雷花さんの口からは全く違うものだった。
「実は……天音ファンクラブではいくつかの派閥がある……」
「は、派閥?」
「何よ、それは?」
「詳しく聞かせてくれねーか?」
千歳と恭弥も話に割り込み、雷花さんはこくんと頷いた。
「うん。まずはね……私みたいに、純粋に天音さんを影から応援する派……」
「は、はぁ……?」
ま、まあ、それは取りあえず良いとしよう……。俺が顔も名前も知らない他人だけど、応援してくれる人がいるのは悪い気分じゃないから……。
「次に、天音さんを自分の嫁にしたい派……」
待ってください。俺は漫画かアニメのキャラクター扱いか何かですか?
「ちょっと待ってよ!天音は私の嫁よ!!」
そこは婿の間違いじゃないんかな? と思ったが次の言葉の所為でそれどころではなくなった。
「後は、天音さんと仲の良い恭弥さんとのBLカップリングで、天音×恭弥派。略して“天恭派”……」
「「待て待て待てぇぃ!!!」」
何だそれ! BLカップリング!? どうして俺と恭弥がそのカップリングの対象になっている!? 当たり前だが千歳を愛している俺にはそんな趣味は無い!!
すると雷花さんは小さなバッグから白色と黄色のマーブルが表紙の薄い冊子を取り出して俺達に見せる。
「これがその派閥のメンバーが書いた同人誌です……」
何だ……その同人誌を見たら俺の中で何かが崩壊して大切なものを失うような気がするんだが……。
「と、取りあえずは私が呼んでみるね……」
料理の毒味に近い感じで試しに千歳がその同人誌を恐る恐る手に取ってページをゆっくり開いた。
「えっと……絵は意外に上手いわね……天音と恭弥を上手に書かれているし。あ、あれ?な、何で二人がこんな変な展開に……や、止めて天音、恭弥……そ、それは流石に洒落にならな――キャアアアアアアアアアアアッ!?!?」
一体そこに何が描かれていたのか、開かれた同人誌を強く閉じて雷花さんに返却した。
「むむむ、無理、無理!! 私にはこの本をこれ以上読む勇気がないわ! 天音と恭弥がそんな事をしているシーンなんて想像でも嫌よ!!」
「「そんな事って何が書かれていたんだ!?」」
意外に図太い神経をしている千歳でさえこのダメージ。俺と恭弥が何をしたのかわからないが、俺には想像出来ないただならぬ内容がその魔の同人誌に描かれていたのは確か。
「そのような内容の展開を天恭派のみんなは望んでいる……」
「こ、恐いわ……私の知らない世界が……」
「一応そう言う世界の人は“腐女子”と呼ばれています……」
「嫌ぁっ……天音は私の旦那様、天音は私の旦那様、天音は私の旦那様……」
同人誌一冊だけであの千歳にトラウマを植え付けるとは……。
「恭弥、あれを絶対に見るなよ……」
「当たり前だ。俺は中学の時にお前に一目惚れした事があるが、それはお前を女の子と見間違えただけだ。俺は至って普通のノーマルだ」
「ちなみに、お前の好きな人は?」
「……今は黙秘させてくれ」
「了解。じゃあ、バトルロイヤルが終わった後に酒じゃなくて、炭酸飲料で飲み会をする時にでも話してくれ」
「わかった」
バトルロイヤルが終わった後に俺と恭弥の男同士の飲み会の約束をした。そうだ、せっかくだから迅先輩と璃音兄さんも呼ぼう。そう考え、飲み会での料理のメニューを思い浮かべていると……。
カァン! キィン! バチバチバチッ!!
『やるじゃねえか、赤髭のおっさん!』
『お主こそ、猿のくせにやりおるわ!』
気がつくといつの間にか孫悟空が燃えるような瞳と赤髪を持つ赤髭の大男と戦っていた。大男の手には雷を発している鎚を持っていて、孫悟空の如意棒と互角に渡り合っていた。ちなみに白蓮と銀羅はその光景を離れた場所から観戦していた。
『舐めんじゃねえ! こう見えても俺は妖魔退治のスペシャリストで、昔っから人間を喰らう妖魔からか人間達を守ってきたからな!!』
孫悟空は華麗な棒術を使うが、如意棒は異常なほど重いので必然的に一撃一撃が破壊力のある攻撃となる。
『ほほう、奇遇じゃのぉっ! ワシも戦神として神々と人間を守っていたわ!!』
対して赤髪の大男は雷の鎚で豪快に振り回している。大男の持つ鎚は柄が短く、攻撃範囲は限られているが、無駄のない動きで攻撃を与える隙を無くしている。素人でも理解できる高度な戦いを孫悟空と赤髪の大男が繰り広げていた。
赤い瞳と髪と髭の大男、雷の鎚、戦神。このキーワードで思いつく聖獣は一つしかない。
「……“トール”、何してるの……?」
戦いに気づいた雷花さんがその大男――トール話しかけた。トールとは日本で有名な雷神で、北欧神話最強の戦神の事である。
『む? おお、ライカよ。見ての通り我はこの猿と戦っておるのだ!こやつ、なかなかの実力でな。久々に心が踊るわ!』
「……それはまた後日にして。今はバトルロイヤル中だけど私達の敵は別だよ……」
『な、何と!? ま、待つのじゃライカ!こんな場面で戦いを止めるなんて無粋ではないか!』
心が踊る戦いを止めさせられそうになり、トールは精神的ショックを受けた。トールよ、あなたのその気持ち、凄くわかるよ。
「トール。気持ちは分かるけど、今はそれどころじゃないよ……複数の電磁波が近付いてくる……だから」
眼を細めて鋭い視線となり、雷花さんは中が空洞になっているプラスチック製の玩具のハンマー、ピコピコハンマーを取り出した。何でピコハン? と思ったが、トールの武器を見てすぐに納得した。
「契約執行……雷神、トール」
ピコハンをトールに向けて契約を執行する。
「ぬぉおおおおおっ!? ま、待つのじゃあ! 待つのじゃ、ライカァアアアアアッ!!」
「ダメ、いつもあなたは自由奔放に遊ぶから、今日ぐらいは言うこと聞いて……」
トールの意志を雷花さんは切り捨てて契約を続け、トールの肉体が光の粒子となってピコハンの中に入る。
「雷電招来……」
上空に突然雷雲が現れ、雷雲から一筋の凄まじい光を放つ落雷が雷花さんにかって落ちる。
「ら、雷花さん!?」
「雷花!避けて!」
「あー、心配しなくて良いぞ」
落雷に俺と千歳は叫んでしまうが、恭弥はのんびりとしていた。落雷は雷花さんに直撃し、その周囲に電撃が放出されて煙が舞う。そして煙が止んだ次の瞬間、俺と千歳は信じられない光景を目の当たりにする。
「アーティファクト・ギア……“ライトニング・トールハンマー”……」
バチバチバチ……と電撃を体に纏い、金色に輝く雷の鎚を手に持つ雷花さんの姿があった。落雷の直撃を受けながらも雷花さんは無傷だった。
「雷花は電撃を自由自在に操ることが出来る特異な体質を持っているんだ。だから、あんな落雷を喰らっても平気なんだよ。寧ろ、あの落雷で雷花の体内に蓄積できる雷電を電池のように充填できるんだよ」
恭弥の説明で謎が解けたが、開いた口が閉じなくなってしまった。雷を自由自在に操ることが出来る人間の存在に驚愕してしまったからだ。
「雷花、凄い……」
「凄いと言うか、凄すぎるよ……」
「そりゃあ、誰でも驚くさ」
聖獣の中でも召喚する事が出来るのは本当に稀と言われている神々の存在である“聖神”、しかも北欧神話の雷神トールを雷花さんが召喚して契約することが出来た理由が理解できた。聖獣は召喚する人間の潜在能力に反応して相性の良い存在を呼び出すこともある。雷を自由自在に操ることが出来る雷花さんだから最強の雷神であるトールを呼び出せたんだ。
「三人共、気を付けて……百人に近い敵が私達の周りを囲むように近付いている……」
「「「はぁっ!?」」」
突然の雷花さんの忠告に俺たちは声を上げて同時に驚いた。どうしてそんな事が分かるか疑問に思ったが、すぐに話してくれた。
「私は人間が体から発する僅かな電磁波を感じる事が出来る……だから、早く三人もアーティファクト・ギアを……」
「わ、わかった! 白蓮!」
「出番よ、銀羅!」
「頼むぜ、悟空!」
俺達はそれぞれの聖獣を呼び、契約媒体を持って契約執行を行う。
「「「契約執行!!!」」」
契約執行により三体の聖獣が瞬時に契約媒体に入り込み、人間との絆の神器、アーティファクト・ギアとなる。
そして、雷花さんの言う通りいつの間にか約百人近い選手が俺達を囲むように近付いてきている。ちなみに敵勢力の男女の割合は大体2対6といったところだった。女子が多いのは気になるが、どうして百人近い敵勢力が俺達四人を囲んで近づいているのか理解できなかった。しかし、その理解できない疑問を雷花さんが答えてくれた。
「気をつけて……この人達全員、天音ファンクラブのメンバーだから……」
「「「……えっ???」」」
俺と千歳と恭弥は雷花さんの言葉にほぼ同時に疑問符を頭に沢山浮かべて呆然としてしまい、首を大きく傾げた。
まさか、バトルロイヤルの最初に戦う敵が俺のファンクラブのメンバーだとは思いも寄らずこれからどうなるか不安でいっぱいだった……。
.
新キャラ、雷花ちゃんはどうでしたか?
契約媒体がまさかのピコハンでした(笑)
トールは個人的にも好きな神様なので出せてよかったです。
そして、次回は天音達VS天音ファンクラブです(爆)
ギャグ全開で頑張って執筆します!