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アーティファクト・ギア  作者: 天道
第2章 バトルロイヤル編
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第18話 天星導志(てんせいどうし)

今回はいつもより文章量は長いです!


璃音兄さんと天音の関係について詳しく話されます。

花音姉さんと璃音兄さんには俺が小さい頃から大切に可愛がってもらっていた。姉さんのスキンシップが激しいのはたまに傷で、再会するたびにこうやって俺にダイブしてくる。

「ほらほら、天音のスキンシップは後にしろって。いつまでもその状態はまずいって」

「うーん、それもそうね。ごめんね、天音。今退いてあげるから。よいしょっと!」

花音姉さんが軽やかな動きでひょいと俺から退いて立ち上がる。

「天音、大丈夫!?」

「おいおい、これはまた大物の登場だな」

「迅、分かりますか?」

「ああ……あの身に秘めた力はとても強い……」

千歳達が駆け寄り、花音姉さんと璃音兄さんは千歳を見てすぐに再会の挨拶をする。

「およ? おお、千歳ちゃん、久しぶりだね!」

「お久しぶりです、花音さん、璃音さん!」

俺の幼なじみでもある千歳は二人とも面識はあり、俺と同じく小さい頃に可愛がってもらった。

「元気そうだな。で、どうだ?うちの天音との進展は?」

璃音兄さんは再会して早々に俺と千歳の関係を聞き出した。

「え? えっと……その……」

関係を聞かれ、千歳は顔を赤く染めながら俯いて言葉が出なくなっている。その様子に花音姉さんは衝撃を受けた表情を浮かべる。

「ま、まさか……遂に二人は堕ちるところまで堕ちたの!?」

「何だとぉ!? そうなのか、天音!!」

「……姉さん、兄さん。ちょっとお耳を拝借」

「およっ?」

「ほいほい」

姉さんと兄さんを引き寄せ、耳元で俺と千歳の関係を簡単に話した。この事は出来るだけ秘密にしておきたかったが、ただでさえ暴走しやすい花音姉さんに誤解されるのは面倒だし、後で二人に口を割って話すまで尋問されるのが目に見えているので今のうちに話しておく。

「実は――――」

「「……ええええええええええええええええっ!?!?!?」」

話した瞬間、二人は驚きの絶叫を上げた。

「な、何と!?恋人の過程を見事にすっ飛ばして千歳ちゃんと婚約者の関係になったの!?」

「流石は俺の自慢の弟だ! これは尊敬に値するぞ!!」

「千歳ちゃん、うちの天音を大切にしてあげてね!!」

「そして千歳ちゃん。今日から俺達の事は“お義兄さん”と“お義姉さん”と呼んでくれ!!」

「は、はい!“璃音義兄様”!“花音義姉様”!!」

「「グハッ!?」」

千歳に敬意を込めた新しい呼び名に二人は精神的に大ダメージを受けたらしい。そんなにダメージを喰らうものなのか? と疑問を浮かべるところだが、吐血したようなリアクションを取って倒れているのでよほど嬉しいと見える。

「天音ぇ……」

「んぁ?」

「そうか……漸くお前も覚悟を決めたんだな……」

「きょ、恭弥?」

し、しまったぁっ!?恭弥の存在をすっかり忘れていた!!恭弥は悪霊に憑依されたかのような黒いオーラを纏っていて、俺の肩にそっと手を置いた。くっ!?まるで怨念のような邪悪な力で体が動かない!?

「幸せに……」

「へっ?」

「……千歳と幸せになれよ、バカ野郎ぅっ!!」

「恭、弥……?」

「うわぁあああああああああっ! 俺も幸せになりてぇええええええええっ!!」

恭弥はバカ野郎と言いながらも俺に祝いの言葉を送ると、涙を流してこの場から走り去ってしまった。

『ちょっ、待てよ、恭弥! 俺を置いていくな!!』

置いてきぼりにされた如意棒から契約を解除した孫悟空が出て来て、金剛棒を持って恭弥の後を追いかけた。

「えっと……ありがとう、恭弥……」

取りあえず、後で改めて恭弥に礼を言おう。そして少し違う方向を見たらちょっと凄い現場を見てしまった。

「ねえ、迅……」

「雫……どうして顔を朱に染めながら俺に近づく……?」

「言って……」

「何を、だ……?」

「プロポーズの言葉……天音さんが千歳さんにしてみたように、私にプロポーズして……」

「……断る!」

バッ!!

迅先輩は陸上選手顔負けの見事なフォームで走り出して雫先輩から逃げ出した。

「あぁん! 待って下さい、迅ー!!」

雫先輩も走って迅先輩を追いかける。後ろにユニコーンのソフィーが付いてきているから、迅先輩が追い付かれるのも時間の問題だろう。でもまさか先輩達がそんな関係だったなんて……主と執事、まさに禁断の関係だな……。

『ピィー……』

「白蓮?あっ、ゴメンな」

白蓮は待ちくたびれて鳳凰剣零式の契約を解除して、いつものように雛の姿で俺の頭に乗る。そうだ、姉さんと兄さんに白蓮を紹介しなくちゃな。

「姉さん、兄さん。俺の聖獣を紹介するよ」

 契約が解除された蓮煌を鞘に仕舞い、俺は白蓮を二人に紹介しにいく。




 この時の俺はこの大切な日常を壊しに来る闇の組織の存在をまだ知らなかった。




 そして、その闇の組織との戦いは、すぐそこまで迫っていた……。




   ☆




 天聖学園から少し離れた場所のビルの屋上から一人の女が見下すように眺めていた。

「ここが今回の“狩場”かぁ……」

 舌で唇を舐め、人間なのに狩りをする前の肉食動物のような態度だった。

「くっくっくっ……楽しみだなあ、久しぶりの“狩り”は!」

 女はこれから起こそうとしている狩りに心を躍らせている。

「待っていろよぉ、天聖学園のクソ餓鬼ども。てめぇらの大切な聖獣を奪って、私らの“糧”にしてやるからよぉ……」

 そして、女の手には自分の獲物である赤いワイヤーが握られていた。しかし、そのワイヤーは金属製で色は元々は金属特有の銀色だったが、あるもので色づけられている。

 唇を舐めていた舌はそのワイヤーの赤いものを味わうように舐め、そして女は狂ったように笑い出した。

「さあ、こいつをもっと綺麗な真っ赤に染めてくれよ。くっくっくっ……あっははははははははははははははははは!!!!」




女の持つワイヤーの赤い物の正体、それは……人間と聖獣の血だった。


  ☆


「兄さん!」

「おお、来たか」

夜中、俺は璃音兄さんに呼ばれて学生寮を抜けて訓練場に来ていた。

「どうしたの?こんな夜中に、ここで……」

「まあ、その前に少し話をしよう」

「あ、うん」

兄さんに勧められ、俺は訓練場に設置されているベンチに座る。

「白蓮は連れてきたか?」

「ここにいるよ」

持ってきたバスケットのベッドの中には白蓮がすやすやと眠っている。それと蓮煌も一応持ってきていている。

「はははっ! 鳳凰と言ってもやっぱりまだ雛だな」

「当たり前だよ。産まれてまだ二ヶ月近くしか経っていないんだから」

「まあ、どんな形にしても、まさかお前が鳳凰を呼び出すなんてな。お前、王の器があるんじゃないか?」

「止してくれよ。俺は蓮宮神社の神子だから王の器なんてないよ」

「そうか……そう、だったな……」

豪快な性格の兄さんが珍しく暗い表情を浮かべた。

「兄さん?」

「悪かったな、お前に蓮宮神社の全てを押し付けて……本当なら、俺が蓮宮神社を継ぐはずだったんだけどな……」

「兄さんにはどうしてもやりたい事が出来たんだろ?」

「だとしても、弟に――従兄弟のお前に全てを押し付けるなんて、俺は最低の兄だよ……」

璃音兄さんと俺は本当の兄弟ではない。双子の姉の花音姉さんも含めて、俺達は従兄弟同士の関係だ。同じ名字なのは俺の親父と兄さんの親父さん――つまり、俺の叔父さんが兄弟だったためであり、叔父さんが当時の蓮宮家の長男で蓮宮神社の先代当主だった。

しかし、数年前に叔父さんと叔母さんが事故で亡くなり、長男の璃音兄さんが次期当主となることになっていた。だが、璃音兄さんは次期当主になることを拒んだ。理由はまだ教えてくれないが、どうしてもやりたい事があるので当主にはならないと言った。そこで俺が名乗りを上げた。兄さんの代わりに蓮宮神社の跡を継いで当主になると言った。親父を含めた親族は全員驚いたが、俺にはもともと当主になる器や能力が備わっていたため、親族同士の言い争いも特になく兄さんの代わりに俺を次期当主として認めてくれた。そして、現在の蓮宮神社は俺が成人になるまで今は俺の親父が当主代理を勤めている。

「俺は確かに兄さんの為に蓮宮神社の次期当主になったけど、別に悪くないと思っているよ。まあ、他人に女の子に見られたり、この長い髪が面倒だけどね」

苦笑いを浮かべながら出来るだけ兄さんの暗くなった心を明るくしようとする。

「俺は、お前の夢ある未来を奪ったんだぞ? どうして、俺を責めないんだ?」

「責めるなんてとんでもない。寧ろ、兄さんには感謝しているからね」

「感謝している……?」

「俺は小さい頃からこの顔や髪の所為でいじめられていた。自分の生まれた家――蓮宮家を怨んでいたよ。だけど、千歳が言ってくれたんだ」

「千歳ちゃんが?」

「うん。『私は天音の綺麗な顔と長くて綺麗な髪が大好きだよ。だから、天音も嫌いにならないで』ってね。それに、千歳は最初は嫌々でやっていた俺の舞とかも大好きって言ってくれた。少しずつだけど、俺は大嫌いだった蓮宮を好きになることが出来たんだ」

「そうか、千歳ちゃんがそんな事を……」

「ちょうどその時に叔父さん達が亡くなって……親父達親族で次期当主の話をしている時に、兄さんは当主になりたくないって言ったよね?」

「……ああ」

「その時に思ったんだ。俺には特に夢や目標が無かったから、兄さんの俺が代わりに蓮宮神社を継いで、もっと蓮宮を好きになっていこう。そう思って俺が次期当主になるって言い出したんだ」

変な動機かもしれないけど、俺は蓮宮神社の次期当主になるこの選択を後悔していない。何故なら、俺と一緒に未来を歩んでくれる大切な人が側にいるから……。

「そうだったのか……お前はそんな気持ちで次期当主になると……」

「俺が好きでやっているから、兄さんが悩む必要はないよ。でも、そろそろ教えて欲しいな。兄さんと姉さんが世界を飛び回って何をしているのか……」

流石にそろそろ兄さん達が今何をしているのか教えて欲しかった。そして、俺の要望に応えるように兄さんはベンチから立ち上がって何年ぶりかに見る真剣な表情を浮かべていた。

「……わかった、天音に教えよう。お前のお陰で今の俺があるからな。だが、これだけは約束してくれ。今から話すことは誰にも内緒だ。良いな?」

兄さんは拳を前に突き出して俺に向ける。これは子供の頃からの俺達の約束の印で、小指で行う指切りの代わりにお互い拳をぶつけ合う男同士の小さな儀式だ。

「もちろん、兄さんとの約束は絶対に破らない!」

俺はすぐに拳を作って兄さんの拳をぶつけ合い、約束の儀式を行った。

「よし。では、話すぞ」

遂に兄さんが話してくれる時が来たので、思わず緊張して体が少し固まってしまう。

「俺と花音は……はある組織に属している」

「ある組織……?」

「その組織は世界中で平和に暮らしている人間と聖獣に非道な行為をする者達、もしくは闇の組織を片っ端から潰して正義の鉄拳をぶちかましている」

「つ、潰して正義の鉄拳?」

「“天星導志(てんせいどうし)”。それが、俺と花音が属している組織の名前だ」

「えっと……簡単に言えば正義の秘密結社?」

「そんなところだ」

まさか、璃音兄さんと花音姉さんが秘密結社に所属して正義の味方をしているなんて思いもよらなかった。ってか、そんな事を急に言われていてもすぐには信じられなかった。

「それ、本当なの? 嘘じゃないよね」

「まあ、天音の反応は当たり前だな。だが、俺は嘘をつく男じゃないって昔から知っているだろ?」

「そりゃあそうだけど……」

「天星導志は“天の星に導かれし同じ志を持つ者達”って意味がある。組織とは言っているが、実際は同じ志を持つ人達の集まりだな。ちなみに志は単純に“悪から人々を守る”だ。俺たちはその志の元、世界中にいる大勢の同志達と共に日夜悪人達を懲らしめている。秘密結社だから権力や法にも縛られない、ある意味で最強の正義の組織だと俺は思う」

 秘密結社と言うだけあって世界中に組織の同志がいることには驚きを隠せない。だけど、どうして二人がその天星導志に入ってのかまだ理由が分からない。

「兄さんと姉さんはどうして天星導志に入ったんだ? 確かに二人は昔から正義感は強かったけど、理由はそれだけじゃないよね?」

「……鋭いな。確かに天音の言うとおりだ。全ての始まりは、親父とお袋が死んで葬式の後に天星導志の“ボス”に会ったあの日から全てが始まったんだ……」

「天星導志のボス……?」

「ボスに初めて会った時の最初の一言。あれから俺と花音の人生が大きく変わったんだ」

「一体、何を言われたんだ……?」

 璃音兄さんの口から語られる兄さん達の人生を変えた始まりの言葉に俺は言葉を失ってしまった。


「ボスはこう言った――“君達のお父さんとお母さんはただの事故死じゃない、殺されたんだ”。ってね」


殺された? 叔父さんと叔母さんが? しかも、叔父さんの聖獣を奪うために? どういう事か全く理解できずに頭の中で色々なものがぐちゃぐちゃに混ざってしまう気分だった。

「親父は……実は天星導志のメンバーの一人で、日本に巣食う悪人達を懲らしめていた」

「叔父さんが!?」

「ああ、俺達には当然内緒でな。そして、親父の聖獣――“龍神”は聖獣の中でもトップクラスの力を持っていた。その龍神の力があったからこそ圧倒的な力で悪人達を次々と捻じ伏せる形で懲らしめていた。だが、その龍神の力が何者かの手によって封じられ、親父とお袋を事故の形に見せかけて殺害し、力を封じた龍神を連れ去ったんだ……」

「そんな……」

 他人の聖獣を奪うために契約者を殺すなんて……そんな酷いことを事をする人間がいるなんて信じられない気持ちだった。そして、それと同じくらいに叔父さんと叔母さんを殺した人間を許せなかった。

「俺と花音が天星導志に入ったのは、親父とお袋を殺した奴らを見つけてぶっ潰して、囚われた龍神を解放するためだ」

 今までわからなかった兄さんのやりたかったことがようやく分かった。

それは殺された自分の両親の敵討ち。俺がもし兄さんの立場だったら迷うことなく同じ道を歩いていたかもしれない。

だけど、俺は兄さんに人殺しになって欲しくない。偽善かもしれないけど、俺のたった一人の兄さんに憎しみで生きてほしくないから……。

「兄さんは……叔父さんと叔母さんを殺した奴と対面した時、復讐の為にそいつを……殺すの……?」

額と頬に汗が流れ、同時に手を強く握りしめて、璃音兄さんの眼を見つめながらそう尋ねた。すると、兄さんは俺を安心させるようなに俺の頭に手を乗せた。

「……殺さねぇよ、大丈夫だ」

「兄さん……」

「残された家族としては、そいつを殺したいって気持ちは勿論あるけど……そんな事をしたらあの世にいる親父とお袋に怒鳴られてしまうし、お前や叔父さんにも一生顔向け出来ないからな。でも……復讐の代わりに俺らなりの“ケジメ”だけはきっちり付けるつもりだ。俺と花音が未来に向かうためにな……」

「未来に向かうため……」

「それによ、天星導志は人殺し集団じゃない正義の組織だからな。倒してケジメを付けたら警察に突き出して刑務所にぶち込んでやるさ!」

兄さんの想いに俺の不安は杞憂に終わり、ホッとした。だとすると、次の俺の言葉は決まっていた。

「ケジメ、か……兄さん、俺にそのケジメの手伝いをさせてくれないか?」

「何だと?」

「俺も小さい頃から叔父さんと叔母さんには可愛がってもらったんだ。俺だって二人の仇を取りたい!」

「天音……!」

「俺は兄さんに比べて剣の実力は下だけど……それでも兄さんの役に立ちたい!兄さんの弟として、蓮宮神社の次期当主として!!」

俺の気持ちを全て兄さんに吐き出すと、兄さんは小さい笑みを浮かべた。

「……あんなに小さかった弟がいつの間にか“漢”になっていたんだな。良いだろう……俺はお前の勇気ある気持ちに応えよう!!」

パァン! と兄さんが掌を合わせると、合わせた掌から小さな光が零れ出す。

「顕現……!」

手をゆっくり離すと、左手の掌には小さな魔法陣が出現し、魔法陣の中から一太刀の剣が出現する。手の甲に現れた魔法陣の正体は術者の肉体の一部を例えるなら倉庫の扉扱いにして術者のみの所有する異空間から魔法陣を通じて物を何でも出し入れ出来る空間系の魔法である。

「神剣、氷蓮(ひょうれん)!!!」

右手で剣の束を握り、掌から剣――氷蓮を引き抜いた。璃音兄さんの持つ剣は俺の持つ蓮煌と同じく蓮宮の一族が15歳になった時に贈られる神具の一つだ。鞘から引き抜いた氷蓮はまるで氷、もしくは水晶のような透明感のある美しい両刃を持つ剣で、神刀の蓮煌と対を成している存在だ。そして、璃音兄さんは地面に手を置くと、地面に巨大な魔法陣が展開させる。

「来い、轟牙(ごうが)!!」

魔法陣から巨大な何かが召喚され、魔法陣の上にいた璃音兄さんは召喚と同時にそれに乗った。

『ゴォオオオーッ!!!』

召喚された何かの正体は聖獣で、俺はそれに心当たりがあった。

「あれは確か、兄さんの聖獣……確か名前は“霊亀(れいき)”……」

霊亀とは千年以上生きて膨大な霊力を手に入れて巨大化した亀で、甲羅には中国神話で不老不死の仙人達が住まう伝説の島、“蓬莱島”を背負っていると言われている。

しかし、兄さんの霊亀は聖獣でも最高クラスの巨体な為、普段は地球の何処かの海をさ迷い、必要な時に魔法陣で召喚している。更には甲羅の蓬莱島に住まう仙人の力かどうか分からないけど、召喚された場所によって霊亀の大きさを調節していて。

「契約執行! 霊亀、轟牙!!」

『ゴォオオオオオオ!!』

兄さんは氷蓮を掲げて霊亀の轟牙と契約を執行した。轟牙の体が蓬莱島ごと光の粒子となって氷蓮に入り込み、光を発しながら形を変えた。

聖獣最高クラスの島と言う名の巨体に千年を掛けて蓄積された膨大な霊力が氷蓮と一体化する。

「アーティファクト・ギア、“霊閃氷帝剣(れいせんひょうていけん)”!!!」

現れたのは俺と白蓮の鳳凰剣零式の1.5倍の大きさはある氷属性の巨大な大剣と、璃音兄さんの周囲を踊るかのように回る十本の氷の小刀だ。轟牙の力が強すぎるために大剣だけでは抑えることを出来ない力を十本の小刀を別に造ることで漸くアーティファクト・ギアとして安定したのだろう。話には聞いていたけど、実際に見るのは初めてだった。

「天音、よく聞け! 親父とお袋の敵討ちの相手が二週間後の“天聖学園バトルロイヤル”に来るかもしれない!!」

「何だって!?」

 天聖学園バトルロイヤルとは天聖学園の広大な敷地全てがバトルフィールドに設定され、全学年の戦技科の生徒全員総出でハチャメチャな大乱闘を繰り広げる天聖学園の名物イベントの一つである。そのバトルロイヤルに叔父さんたちの仇が来るなんて思いもよらなかった。

「俺と花音がここに来たのもそのためだ! 世界中にいる裏世界の情報収集に長けた同志達からの確かな情報だ! 例えそいつじゃなくても、バトルロイヤルの混乱に乗じてこの学園の生徒たちの聖獣を奪いに来る聖霊狩りの馬鹿野郎どもが来る可能性が高い!! 俺と花音は学園長の爺さんや学園の先生たちに協力してもらってそいつらを一人残らず潰す!!」

 例え仇じゃなくても天星導志のメンバーとして悪を倒そうとする兄さんの心意気。やっぱり兄さんはカッコいい! そして、兄さんは俺の永遠の目標だ!

「天音! 白蓮を起こして契約執行をしろ! バトルロイヤルまで俺がお前と白蓮を鍛えてやる!!」

「俺と白蓮を鍛える!? 本当なの、兄さん!!」

 兄さんは蓮宮流剣術で免許皆伝の実力を持っている。そんな兄さんから稽古を受けられるなんて、剣士としてこれはとても嬉しいことだ。

「ああ、勿論だ!! お前の兄である俺の思いと、蓮宮神社先代当主である親父の思いをこの零閃氷帝剣に込めてお前の蓮宮流剣術を更なる高みへ導いてやる!!」

「兄さん……白蓮!!!」

『……ピッ?』

俺の大声に反応して目覚めた白蓮はバスケットから出て来て、「ここは何処?」と周りをキョロキョロと見ている。

「さあ、我が子よ。今から秘密の特訓だ!!」

『ピョォッ!?』

白蓮は眠たい目を見開いて「どういう事!?」と驚いた。

「これから毎晩、兄さんとの秘密の特訓が始まる。白蓮、準備は良いか!?」

『ピ、ピィーッ!!?』

「行くぞ、白蓮! その小さな体に似合わないブラックホールの腹は満腹か!? 満腹なら成長して真の姿となるのだ!!」

 今の俺はとにかく燃えている。大好きで尊敬している兄さんから思いを託され、俺の蓮宮流剣術を更なる高みへと導いてくれる。蓮煌を鞘から抜き、紅蓮の刃が月光の淡い光に冴える。そして、俺の燃えている心を何となく理解した白蓮は成長した姿となり、俺に離しかける。

『なんだかよくわからないけど、ちちうえがもえているならわたしもそれにこたえるよ』

「ありがとう、白蓮……行くぞ!!」

『うん!!』

「契約執行! 鳳凰、白蓮!! アーティファクト・ギア……鳳凰剣零式!!!」

 瞬時に白蓮と契約執行を行い、鳳凰剣零式を構える。普段は鳳凰剛柔甲が無いと重くて振るうことはできないが、不思議と今は鳳凰剣零式のいつもの重さが軽く感じ、難なく操ることが出来る。

「準備はOKだな。さあ、とっとと始めるか、天音!!」

「行くぜ、璃音兄さん!!」

 俺と兄さんが同時に鳳凰剣零式と零閃氷帝剣を同時に振り下ろすと炎の斬撃と氷の斬撃が互いを狙って飛び、衝突して衝撃波を生んだ。それが特訓の開始の合図となり、俺たちは太陽が昇り、夜の世界を明るく照らすまで激しく打ち合った。それは数週間後のバトルロイヤルまで毎晩続き、俺と白蓮は確実に強くなっていった。



.

次回か、もしくはその次には早くもバトルロイヤルがスタートします。


訓練によって強くなった天音ががんばります!

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