第17話 突然の再会
今回から新章突入です!
更に新キャラが二人登場となります!
日本とは異なる国で二人の男女が神聖な山々が連なるいわゆる“聖域”と呼ばれる場所にいた。
「さーて、それじゃあ行くか」
鍛え抜かれた肉体の長身に、黒い長髪を三つ編みに纏めた一人の男がそろそろと言った様子で隣にいる女に言う。
「そうね。準備は完了よ!」
男よりは背が低いが、それでも女ではかなりの長身に黒い長髪を持った女が応える。二人は共通した点が二つもあった。一つは黒髪の長髪で、もう一つは着用している服装である。それは、蓮の刺繍が施された“神子装束”である。
女は右手の指を口に含め、息を吹いて指笛にする。ピィーッ! と、高い音が山々に響く。すると、天空から一筋の黄金の光が輝いて真っ直ぐ女の元へと走った。
「“流星”!」
女が凛とした声で呼ぶと、黄金の光に包まれたそれは姿を現して降りたった。黄金と白銀の毛皮に鹿のような二本の角を持つ馬に似た聖獣だった。流星と呼ばれたその聖獣からは神聖な黄金と白銀の輝きを放ち、見る者全てをひれ伏させるような威厳を持っていた。しかし、女はそんな事を気にせずに流星の首に抱きついて頭を優しく撫でた。
「さあ、流星。お出かけだよ。今回は久しぶりの日本だからね」
『ブルゥ……?』
流星は「本当に……?」とただでさえ輝いている顔を更に輝かして女を見つめている。
「本当よ。だから、早速行きましょう。善は急げ、だよ!」
『グルゥーッ!』
女の呼びかけに流星は頭を下げて背中を見せた。
「出発よ!」
「了解。流星、失礼するな」
流星の背にまず女が乗り、その後ろを男が続いて乗る。二人が乗るのを確認すると、流星は頭を上げてこれから自らを操る女の指示を待った。
「方角はここから東へ。目的地は――“天聖学園・関東校”!!!」
方角と目的地を指定し、流星は山から宙に浮いて天空を走り出し、文字通り流星の如く天空を駆け抜けた。
「さあ、待っていてくださいな、“天音”!!」
「今すぐにお前の元へ突進、突撃、特攻をしに飛んで行くからな!!」
男と女の目的は日本の地にある天聖学園・関東校の生徒、蓮宮天音だった。
☆
タッグバトルトーナメントから数週間の時間が流れ、暖かい日が続く六月の頃。無事に白蓮と契約を結ぶ事が出来た俺は今まで参加できなかった千歳やクラスメイト達、そして聖獣と行う授業に参加することが出来た。しかし、当然のことながら1ヶ月以上も授業に参加できなかったので、最初は俺と白蓮が授業に付いていけなかった。
だが、タッグバトル後の翌日に雫先輩と迅先輩が一緒に稽古をしないかと俺を誘ってくれて、放課後にはアーティファクト・ギアの使い方やアーティファクト・フォースのエネルギー運搬のやり方などを教えてくれた。そのお陰で今ではちゃんと授業にもついて行く事が出来ている。ちなみに、稽古には当然といった感じで千歳も一緒に参加していて、更には恭弥も参加している。
恭弥は俺と千歳の友として強くなりたいと言い、土下座をしてまで雫先輩に頼み込んだ。雫先輩も恭弥の熱意を認めて共に稽古をする事を認めたのだった。
そして、
「これより、AGバトルの模擬戦を始める……」
迅先輩を審判役に俺と恭弥の模擬戦が行われる。対峙する俺と恭弥はガーディアン・カードからガーディアン・アクセサリーを装着する。俺は髪留めで長髪をポニーテールに纏め、恭弥は孫悟空が天竺への旅の際に頭に無理矢理着けられた金の輪の法具である“緊箍児”を模した輪を頭に装着する。
緊箍児も孫悟空を象徴する物であり、恭弥がガーディアン・アクセサリーで最初にそれを作りだした時には孫悟空は当時に受けた痛さを思い出して頭を押さえたらしい。
ガーディアン・アクセサリーを装着すると、俺は獲物である蓮煌を鞘から抜く。しかし、この蓮煌は当初の姿とは大きく違っている。それは、刀身が刀独特の銀色の光を放っておらず、代わりに真紅色の光を放っていた。タッグバトルの時、雫先輩のユニコーン・ザ・グングニールの攻撃を蓮煌で受け止めた際、刃が半壊してしまったが、白蓮と契約をした後に今の姿へと生まれ変わった。これは、契約の時に白蓮の肉体と魂の一部が半壊した蓮煌の刃と融合して混ざり合い、無意識の内に修復してしまったのだ。つまり、この蓮煌の真紅色の刃は白蓮の分身と言っても過言ではない。最初は蓮煌のこの姿に驚いたが、白蓮の肉体と魂の一部が融合していると知って、今までよりも白蓮と一緒にいられる気がして嬉しかった。俺は定位置である頭に乗っている白蓮に話しかける。
「行くよ、白蓮!」
『ピィーッ!』
白蓮は小さな翼で軽く飛ぶと、体が光って数秒時間をかけて成長した鳳凰の姿となる。
「さあ、行こうぜ、悟空!」
『おうよ!俺達も負けてられないからな!』
恭弥と孫悟空は気合いを入れて戦いに望んだ。そして、俺と恭弥はそれぞれ蓮煌と金剛棒を前に突き出すように構えて契約を執行する。
「契約執行! 鳳凰、白蓮!」
「契約執行! 闘戦勝仏、孫悟空!」
契約執行と共に白蓮と孫悟空の体が輝き、それぞれの契約者の媒体に入り込む。俺に関しては戦闘装束でもある神子装束と手甲を装着しているので、そちらにも契約執行が発動されて姿形が変化する。
「アーティファクト・ギア、“鳳凰剣零式”!“鳳凰之羽衣”!“鳳凰剛柔甲”!」
蓮煌、神子装束、手甲は白蓮を宿して千歳命名の“舞姫形態”となる。ここで鳳凰之羽衣と鳳凰剛柔甲の能力の説明をする。鳳凰之羽衣は天音の脚力を大幅に強化して体を軽くして速力を高め、装束には高い防御力が付加された。対する鳳凰剛柔甲は天音の腕力を大幅に強化する。これにより、重量級武器の大剣である鳳凰剣零式を自由自在に操ることが出来る。
「アーティファクト・ギア、“如意金箍棒”!!」
そして、恭弥の金剛棒が孫悟空を象徴する武器である如意棒へと変化する。互いの準備が完了すると、審判役の迅先輩が右手を上げ、勢い良く振り下ろす。
「バトル……スタート!」
AGバトルの模擬戦が始まり、先手を切ったのは恭弥だった。
「伸びろ、如意棒!!」
如意棒を前に突き出すと、如意棒は俺に向かって一直線に伸びてきた。しかし、そんな単調な攻撃を避けられない道理は無く、地を横に蹴って回避する。
「ええい、まだまだぁっ!」
伸びたままの如意棒を操り、そのまま横に振るって今度は横からの攻撃に転ずる。
「それなら……よっと!」
とっさの思いつきだが、実に効果的な対策法だった。伸びている如意棒の上へ上手に乗り、そのまま平均台のように走って持ち主である恭弥の元へ行く。
「んな、アホなあぁっ!?」
予想外過ぎる俺の行動に恭弥はツッコミを含めた叫び声を上げた。
「神子を舐めるな!舞を踊るときに倒れないようバランス感覚も小さい頃から養われているからな!」
神に捧げる舞を踊る際、片足で回ったり、倒れそうな無理な姿勢をする事があるのでバランス感覚は養われている。
「退きやがれ!この絶世の男の娘が!!」
恭弥は如意棒を元の長さに戻して俺を強制的に如意棒から下ろした。それにしても今聞き捨てなら無い言葉を聞いて僅かに怒りがこみ上げてくる。
「誰が絶世の男の娘だよ、誰が!!」
「うるせえ! お前みたいに大和撫子の女の子みたいな男がいるわけないだろ!」
「大和撫子言うなぁ! やっぱりお前も俺を女だと思っていたんだな!?」
「当たり前だろ! 中学の時に初めて会ったとき、お前に一目惚れしちまったんだよ!!」
思わず体と心がドン引きしてしまうほどの事実が発覚してしまった。まさか、恭弥が俺を女の子だと思って一目惚れしていただなんて……お前だけは友人だと思っていたのに……!
「……殺す! 今ほど他人にこれほど殺意を湧いたのは初めてだよ!! お前を友人と思っていた俺が馬鹿だった!!!」
「心配するな、今はお前にちっとも惚れてないし、ちゃんと好きな女の子がいるからな!」
「だとしても、お前をまずはボコボコにしないと俺の気が済まない!」
「良いぜ、良いぜ! まずは互いの力と力を全てぶつけ合い、その後に改めて友情の証として握手だ。掛かって来いや、天音!!」
「上等だ! 白蓮の聖なる炎でその汚れた魂ごと恭弥を火達磨にしてやるぜ!!」
如意棒から降ろされた後に走っている俺に恭弥も走り出し、互いの間合いに入った瞬間、鳳凰剣零式と如意棒が同時に振られて刃と柄が交差して火花が散った。
一方、少し離れた場所で千歳と雫先輩が模擬戦を観戦していた。二人は俺と恭弥の叫びを聞いて何ともいえない気持ちになっていた。
「うーん、なんと言いますか、男の友情って……」
「ちょっと分かりませんね……」
女の子には男の友情(?)があまり理解できないらしい。
「まあ、とにかく。模擬戦が終わって恭弥が帰ってきたら……」
不気味な笑みを浮かべながら戦闘装束である黒のロングコートの下から大量のダイナマイトを取り出すと、
「取りあえず恭弥には一度死んでもらいますか♪」
とても気持ちのいい笑顔で恭弥の死刑宣告をするのだった。
「まあまあ、せいぜい半殺し程度に抑えて下さいね。死んでしまったら元も子もないですから」
雫先輩は千歳の暴行を止めようとせず、殺しのレベルを半分に抑えるだけだった。それが唯一の救いであるが、恭弥はその事をまだ知らない……。すると、千歳の近くでいつものように寝そべっていた銀羅が目を覚まし、九本の尾を立てて千歳に近づいた。
『千歳、何かが来る……!』
銀羅は迫り来る何かの力の波動を感じ取っていた。
「何かって、何?」
『わからない。だが、西の方角から猛スピードで何かがこちらに向かって来る……』
「もしかして、精霊狩りがもう……」
「精霊狩り?」
「迅! すぐに模擬戦を中止して下さい!」
執事である迅先輩は主の雫先輩の命令を聞くと、頷いてすぐにそれを実行する。
「わかった。二人とも、緊急事態だ。模擬戦は――」
「うぉおおおおおおおっ!!!」
「おらおらおらぁああっ!!!」
俺と恭弥は白熱した戦いにお互いの相手以外の何も見えておらず、
「……おい。お前たち……」
近くにいる迅先輩の声すら俺たちの耳には一切耳に届いていなかった。
鳳凰剣零式の鋭い斬撃と如意棒の打撃が俺と恭弥の前で激しくぶつかり合い、その余波によって二人のガーディアン・アクセサリーの結界エネルギーが少しずつ削られていく。このままでは拉致が明かないと思い、俺は必殺技で一気にケリをつけることにした。
「ここで終わりにしてやるぜ、恭弥!!」
「面白れぇ! やってみろ、天音!!」
「霊力、解放!!!」
体から青白い霊力が溢れだし、ポニーテールに纏めた黒髪の長髪が上下に揺らいだ。
さて、そもそもどうして俺が霊力を使えるのかと言うと、それはこのあまり好きではない長い髪のお蔭だ。古来より髪には生命が宿り、霊力があると言われている。そこで、蓮宮神社の神子と巫女は幼いころから髪を長く伸ばして出来るだけ多くの霊力を蓄えるようにしている。そして、同時に霊力を操る訓練を幼いころから親父から受けていたから、こうして霊力を自由自在に操ることが出来る。
霊力に反応した白蓮が自らの力である天の存在が扱える神聖な力である“天力”を放出し、鳳凰剣零式に霊力と天力が混ざり合う。
「アーティファクト・フォース!!」
今では雫先輩と迅先輩のお蔭で完全に会得したアーティファクト・フォースで、その状態から繰り出す必殺技のギアーズ・ブレイクを発動する。
鳳凰剣零式から生まれた聖なる炎を球体の形にして、そこにアーティファクト・フォースのエネルギーを送り込んで力を蓄える。
「煌めく鳳凰の魂を今ここに具現し、不浄の力を聖なる炎の力で浄化する!」
頭の中に流れる呪文を詠唱すると、ギアーズ・ブレイクの技の力を極限まで高めることが出来る。さあ、恭弥。俺の全力の攻撃を受けてみろ!!!
「焔翔鳳凰穿!!!」
球体に鳳凰剣零式を振り下ろすと、タッグバトルの時とは比べて数倍も巨大な鳳凰を模した炎の真紅の鳥が飛翔する。
「それじゃあ、俺も必殺技行くぜ!!」
恭弥は焔翔鳳凰穿に対抗すべく如意棒を天に向けてとにかく高く伸ばし、更に如意棒を何十倍にも太くしてそのまま正面に振り下ろした。
「喰らえ!! 必殺、天地一閃!!! どぉりゃぁあああああああああああああっ!!!」
まるで天を支える柱が倒れるかのような迫力の技に驚くが、こっちも負けてはいない!
「いっけええええええええええええっ!!」
「あああああああああああああああっ!!」
俺と恭弥の怒号に似た叫び声と共に焔翔鳳凰穿と天地一閃が見事に激突した。二つの技はすぐに衝撃波を発しながら大爆発した。あっけなく終わってしまったのは二つの技の威力がほぼ互角だったからに違いない。
「くっ、まだまだぁ!!」
「勝負はこれからだ!!」
俺は鳳凰剣零式を構え直し、恭弥は元の大きさにした如意棒を構えた。
さあ、セカンドバトルの始まり――、
「いい加減にしなさぁああああああああい!!!」
「「はいっ!?」」
声が重なって俺と恭弥は同時に声のする方を振り向くと、頭に怒りマークを大量に浮かべた千歳の姿があった。
「あなた達! 緊急事態だというのに何バトルに夢中になっているのよ! 今すぐに終わらせないと爆撃するわよ!!」
「イ、イエス、サー!!」
「了解しました、隊長殿!!」
こんなに怒っている千歳を見るのは久しぶりだ……これは少し冷静にならないと。
「皆さん、気を付けてください。凄いスピードでこちらに向かってきています!」
雫先輩はオカリナでソフィーを呼び出し、愛用の槍を構えていつでも契約執行できる準備を終えていた。
ブォオオオオオオオオン!!
まるで戦闘機が音速を越えたときのような空気を貫く音がこちらまで響いている。そして、青空に小さく輝く流れ星のような黄金に輝く光はだんだん大きくなりながら真っ直ぐ俺の元に向かってきていた。
「天音さん! すぐに退避してください!!」
「は、はい!!」
俺は雫先輩の言葉にすぐに反応してその場から離脱するよう退いた。
ドガァアアアアアアアン!!
光はさっきまで俺が居た場所の地面に激突し、轟音と土煙を辺りに撒き散らした。
「な、何だ……?」
「天音~!!」
「え? どわぁああっ!?」
突然、土煙の中から何かが飛び出して俺に抱きついてきた。反応が遅れた事でバランスを崩してしまい、そのまま後ろに倒れてしまった。
「いてて……」
「ありゃあ?ごめんね、天音。ちょっと勢いつけすぎちゃった?」
可愛らしい声が倒れた俺の上から聞こえた。この声には聞き覚えがあった。
「か、“花音姉さん”……?」
「うん! お久しぶりだね、天音!」
目の前にいる俺と同じ黒髪ロングで、巫女装束を着た美女とも言えるほどの綺麗な女性は俺の姉さんの“蓮宮 花音”。
「はっはっは! 相変わらず天音が大好きだな、花音は!」
豪快な笑いで納まった土煙から出て来たのは花音姉さんと面影が似た男性だった。
「り、“璃音兄さん”!!」
もう一人の黒髪ロングを三つ編みにして、俺と同じ神子装束を着た男性は俺の兄さんの“蓮宮 璃音”。花音姉さんと璃音兄さんは俺よりも五つ年上で、双子の姉弟だ。
二人は世界を股にかけた仕事をしているので普段はなかなか会えず、約一年ぶりの再会だった。
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新キャラ、蓮宮花音と蓮宮璃音のお二人はどうでしたか?
花音は若干天音に対してブラコンでよく抱きついたりします。
ちなみにスタイル抜群で胸もかなり大きめです(笑)
璃音は天音にとっての一番の理解者で、天音の頼れる兄貴です。
さて、璃音は天音の兄でありますが、前話で天音は「蓮宮神社の長男」と言っていました。
これは矛盾でありませんのでご心配なく。
その理由については後々明かされるので待っていて下さい。